音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは京都府京都市。
朝はのどかでも、陽が落ちればゴリゴリのレアグルーブコロンボ(以下コロ): 〈Good Morning Record Bar〉って名前からしてよくない?
カルロス(以下カル): レコードではじまる朝なんて、余裕がありそうだし、丁寧な暮らしそう。やっぱりパット・メセニーって感じかな?
コロ: ボクだったらジョージ・ベンソンの『ブリージン』かな。そんな気持ちいい朝はなかなかないけど。
カル: いずれにしてもフュージョン感……、朝に対するイメージが貧困じゃない? 2020年代だよ。
高瀬川沿いに佇むガラス張りのポップな店がまえ。夜ともなると加熱気味なグルーブを発する。
コロ: お店的にはレアグルーブが多いんだって。
カル: 朝から?
コロ: いやいや、賑わってくる日没後だけど。レアグルーブっていえば、カルロスの守備範囲じゃない?
カル: うーむ、レアグルーブ、難しいね。ジャンルでもないし定義が微妙。
コロ: あえて定義するとどうなの? やはりDJ文化というか、ヒップホップ以降というイメージだけど。
カル: サンプリングや元ネタという、人が注目しないところに美学を感じる「レコード掘り師」の文化かな。自分に照らし合わせてみると、レアグルーブは広すぎてコンピレーションやDJミックスで知っていくものだったかも。橋下徹選曲の「FREE SOUL」シリーズとかね。
ソウルの人気レコードバーから着想を得たスタイル。
レアグルーブからヒップホップ、ソウル、ダンスクラシックと上がる系多し。
コロ: このお店、韓国のストリートカルチャーが知れる京都では珍しいお店で、オーナーの全敞一さんはソウルと京都を行き来して、いろいろなタイプの飲食店を展開しているそうだ。
カル: ソウルでもレコードバーはブームなんだよね。DJクルーの360 Soundsがやっている〈KOMPAKT RECORD BAR〉や〈Hills & Europa〉とか、いいお店がいっぱいある。
コロ: 〈KOMPAKT RECORD BAR〉って、渋谷の〈マンハッタン・レコード〉で去年ポップアップをやったショップでしょう。
カル: そうそう、ソンスドンにある人気店。
コロ: どおりで〈Good Morning Record Bar〉では、聴いたことのない韓国の古い曲がかかっていたわけだ。
カル: よくわからない韓国の古い曲が流れるという意味では「レアグルーブ」かもね。日本のシティポップ再評価と同じような流れが韓国にもあるんだろうな。
コロ: The Happy Dollsっていう昔の中尾ミエ風味の5人組の女性ヴォーカルグループをかけてもらったけど、やばかったよ。多分70年代終わりか、80年代初頭あたりにリリースされたカバー集なんだけど、KC&ザ・サンシャイン・バンドのダンスクラシック「シェイク・ユア・ブーティー」なんかをやっていたりして。
カル: そんな一方で、最古のファンクバンドとも呼ばれるバーケイズとかもかかるんでしょう。
コロ: そうなんだよ、『Cold Blooded』がかかっていたかな。
韓国の5人組ヴォーカルグループのハッピー・ドールズ。70s感満載のまさにレアグルーブ。
最古のファンクバンドともいわれるバーケイズの『Cold Blooded』。
カル: 韓国はまだレコードが漁られ過ぎていないから、キャッチーなやつがまだまだ残っているんだろうね。それにしても、深いし、幅が広いね。
コロ: オーナーの全さん、そもそも系統立てて聴いていないだって。「知らないの!」って言われるのがイヤだから、いろいろと詳しい人に来てほしいってことでやっていたら、自然とこうなっちゃったって、言ってたよ。
カル: そのほうが新鮮に感じるよね。初めて聴いた曲はみんな新曲なわけだから。
コロ: ジョージ・ベンソンやグローバー・ワシントンJr.なんかの流行りのフュージョンもかかるけど、全さん、個人的にはスカが好きなんだって。
カル: そもそもなんで〈Good Morning Record Bar〉なの? オープンは11:30なんでしょう。
コロ: 「Record Bar」って言葉を使いたかっただけなんだって(笑)。ただレコードバーがやりたかったらしい。そうはいっても11:30なら朝でよくない? ドーナツやホットサンドとか朝っぽいメニューもあるし。
カル: インテリアや小物のデコレーションなど、ポップなソウルのストリートテイスト満載だから、カフェ的にも使いたくなるけど、とはいえ、夜の盛り上がりも相当なものなんでしょう。
面出しのジャケットもK-ストリート感が。BTSとかNew Jeansはかからないそう。
開店から夕方まではカジュアルなカフェ。2階にはソウルのストリーファッションのセレクトショップもある。
コロ: 高瀬川沿いで気持ちがいいから、天気がいいと外で飲み始め、お店のオレンジのストライプの紙コップを持ったゲストで溢れかえっちゃって、すごいムーブメントに見えちゃうらしい。見えちゃうっていうか、実際、かなりのグルーブが渦巻いている。
カル: そんなとき、DJはどんな感じなの?
コロ: 夜になると自然発生的にかけたい人がかけるって感じ。
カル: しょぼいの持ってくると白い目で見られそう(笑)。BTSとかNew Jeansとかは憚れるね、きっと。
コロ: 選曲は自然発生的っていっても、それなりに厳しいだろうな。無言の圧というか。しかも、レコードオンリーで、データはNGだから、余計かも。
カル: Record Barだし、そりゃ厳しいだろうね(笑)。
コロ: 全さん的にはパリの11区にある〈バンビーノ〉っていうナチュラル系のレストランがあって、そこが目指すところなんだそうだよ。
カル: ナチュラルワインとオーガニック系フードのお店。日本のジャズ喫茶から着想を得たっていう人気店。奥にDJブースがあって、とてもいい音を設えているって聞くけど。
コロ: そう、レコードも3000枚近くあるんだ。全さん世界中のお店のスタイルにとても敏感、さすが6店舗も持っているだけある。
カル: 次のお店の構想とかあるのかな?
コロ: ゆくゆくは横浜の野毛にお店を出したいそうだよ。
カル: ディープなお店になりそう。早く行きたいな。
オーナーの全敞一さん。ゆくゆくは横浜の野毛にお店を出したいそうだ。
information
Good Morning Record Bar
住所:京都府京都市下京区真町90-7
Tel:080-7852-8337
営業時間:11:30〜22:30
定休日:木曜、第3水曜
Instagram:@goodmorningrecordbar
【SOUND SYSTEM】
Speaker:TANNOY INTEGRATED LOUDSPEAKER SYSTEM 70’s Vintage
Turn Table:Technics SL-1200MK5
Integrated Amplifier:SANSUI AU-α907DR
Mixer:Pioneer DJM-600
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多