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“2年で卒業”が条件。不動産屋が運営する、曜日ごとに店主が変わるチャレンジカフェ

  • 2024年6月14日
  • コロカル

撮影:Hajime Kato

omusubi不動産 vol.4

こんにちは。おこめをつくるフドウサン屋〈omusubi不動産〉の庄司友理佳(しょうじ ゆりか)です。

私たちomusubi不動産は「自給自足できるまちをつくろう」を合言葉に、毎年、手で植えて手で刈るアナログな田んぼを続けながら、空き家を使ったまちづくりを生業としています。

この連載では、omusubi不動産の個性豊かなメンバーが代わる代わる(ときには代表の殿塚も)書き手となり、思い入れの深い物件とその物語をご紹介します。

4回目は、千葉県松戸市にある“曜日で店主が変わるカフェ”〈One Table〉がテーマです。

飲食店の外観

私は当初、omusubi不動産で不動産事務のパートスタッフとして働いていました。ところが、私がカフェ好きであることが当時の上司である市川(通称いっちーさん)に知られ、ある日「カフェ好きだよね? 一緒にツアーやってみない?」と声をかけられまして、カフェ開業を予定している方に向けた「カフェ物件ツアー」を開催しました。

このツアーをひとつのきっかけに、まちの方々とコミュニケーションをとる機会の多いポジションに異動することとなり、現在はシェアカフェOne Tableや、古民家レンタルスペース〈隠居屋〉など、場の運営やイベントの企画運営を担当しています。

今回はOne Tableの成り立ちや運営の仕組み、この場所に込める想いをお届けしたいと思います。

窓際にコーヒーポット

「One Table」とは?

千葉県松戸市のJR武蔵野線「新八柱駅」、新京成電鉄「八柱駅」から歩くこと4分。日本の道百選にも選ばれている「さくら通り」を進んでいくと、商店街の一角に曜日替わりのシェアカフェOne Tableがあります。

One Tableでは、複数の店主がそれぞれの曜日に週1回、自分の屋号でお店をオープンします。例えば、月曜日はコーヒーショップ、火曜日は焼き菓子店、水曜日はスパイス料理店というように、曜日ごとにお店が替わりながら営業するスタイルです。

シェアカフェやシェアキッチンがまだ一般的ではなかった2016年から始まり、7年間で約30組の方が営業されてきました。その後、One Tableから独立して、人気店を営む卒業生も数多く輩出しています。

現在は、1日のなかで日中営業、夜営業と、2部制で別々の店主がお店を開けています。会社員の方でもチャレンジできるように、土曜日は月1回から営業できる枠も用意しており、現在、総勢13組の個性豊かな店主が営業を行っています。

スイーツとコーヒーのお店をはじめ、スパイスカレーのお店や、蕎麦とお酒のお店、フレンチビストロなど幅広いメニューを提供し、いつ訪れても楽しめるカフェとして地域の方々から親しまれています。

お好み焼き屋さんの閉店をきっかけに

閉店したお好み焼き屋さん

One Tableの前に営業されていたお好み焼き屋さん。

そんなOne Tableの物件と出合ったのは、2014年のこと。omusubi不動産の創業当時、初めて構えた事務所が現在のOne Tableの隣だったのです。

八柱駅近くのさくら通り沿いにあるこの商店街は、当時、シャッターの下りた空きテナントが目立つ場所でしたが、omusubi不動産の入居を皮切りに、〈大畠稜司建築設計事務所〉さん、アンティークショップ、てんぷら旬菜〈天つね〉さんが次々と入居し、にぎわいを取り戻していきました。

そんななか、omusubi不動産の事務所の隣にあったお好み焼き屋さんが閉店し、1部屋が空き店舗に。そこで「みんなが気軽に集まれるカフェをつくりたい!」という話が持ち上がり、通りにお店を構えるメンバーが中心となってOne Table プロジェクトが始動しました。

街並み

右の赤い庇(ひさし)が当時のomusubi不動産の事務所(2024年現在は移転)で、その左隣がOne Table。計画時、プロジェクトのメンバーで何度も話し合いを重ねました。

地元のチームと多くの人の手によって

何度も打ち合わせをして運営方法や資金について検討し、大家さんへの交渉を重ねて、ようやく本格的にプロジェクトが始動していきました。

同じ商店街の入居者である大畠稜司建築設計事務所の大畠稜司(おおはた りょうじ)さんが店舗空間の設計とデザインを手がけ、omusubi不動産が物件契約を進め、松戸市に拠点をかまえるフードユニット〈Teshigoto〉さんが食をプロデュースしながら、店舗をディレクションするという、地元の三者が中心となって進めていきました。

パテ塗り、漆喰塗り

パテ塗りワークショップや漆喰塗りワークショップを開催。

DIY

たくさんの方の手を借りた店舗づくり。

費用を抑えるために、什器や機材は閉店するレストランから譲っていただいたものをみんなで運びこみ、内装はワークショップを開催して、DIYを中心に改装していきました。

建築家の大畠さんを講師として、パテ塗りや漆喰塗りなどのワークショップを実施。中心メンバーだけでなく、興味を持ってくださった多くの方にもご参加いただき、さまざまな人の手を借りながら徐々にかたちになっていきました。

イベント

どんなカフェができるかを伝えるキックオフイベント。

キックオフイベント〈1DAY One Table coffee〉では、コーヒーやお酒、サンドイッチを販売したほか、これからOne Tableでどんなことをやりたいかを話し合うトークイベントを開催しました。その後プレオープンイベントを経て、ついに2016年8月にグランドオープン!

こうして地元の有志である三者と、多くの人々の手によって、One Tableが誕生しました。

店舗の前に看板

2016年8月グランドオープン!

日替わりのシェアキッチンとしてスタート

コンセプトは「いろんな食文化や生産者がひとつのテーブルに集まって、つながる食卓」。

オープン当初の客席は、ひとつの大きなテーブルを囲むかたちでした。いまでは客席のレイアウトこそ変わりましたが、7年経ってもその想いは受け継がれています。

グランドオープン後、まずはTeshigotoさんによる週2日の営業から始まり、空いている日は友人や、自分でお店をやってみたい人に声をかけてお店をオープンしてもらっていました。少しずつ新しい店主さんが加わることで営業日が増えていき、段々とシェアキッチンになっていったOne Table。気軽にはじめられる場所として、飲食のスタートアップの方々が挑戦できる場となりました。

おしゃれな店内

2022年、One Tableの店内。 (撮影: Hajime Kato)

キッチンの設備や調理器具

キッチンの設備や調理器具が揃ったチャレンジしやすい環境。(撮影: Hajime Kato)

独立支援の場として“2年で卒業”

2016年のグランドオープン以降、コロナ禍を経てさまざまな変化を遂げていくなかで、新たなルールとして“2年制度”が導入されました。店主のみなさんの独立をより具体的にサポートしていくための仕組みです。One Tableで間借り営業を始めるために、2年後に卒業することを前提とした入居審査を受けていただくことにしました。

まず、ビジョンを持って有意義な活動をしてもらうべく、どんなお店にしたいか、卒業後にどうなりたいかなどを企画書にして提出いただき、面談の機会を設けてお話をうかがいます。その後、実際に厨房を使って調理をしていただく試飲試食会などを経て、晴れて店主としての活動をスタートしていただきます。

オープンしたての頃は来店客数が少ないお店も、最初に掲げた自分のお店のコンセプトを発信したり、毎週営業を続けたりすることで認知が広がり、徐々にたくさんの方に来ていただけるお店になっていきます。季節や天候、近隣のイベントなどによってもお客さんが増減するなかで、試行錯誤しながらさまざまな経験を積んで自信をつけていく店主さんの姿は、そばで見ていてたくましく感じます。

なかには、店主を続けながら同時進行で実店舗開業のため物件探しを始める方もいらっしゃいます。そのような場合は、不動産屋として物件探しのお手伝いをすることもあります。自分のお店を持つことを目標に掲げる店主のみなさんにとって、2年という区切りが今後を考えるひとつの節目になればと考えています。

カフェスイーツ

入居審査では、企画書の提出、面談を経て、提供予定のメニューを実際につくっていただき試飲試食会を実施。

シェアすることで育まれるコミュニティ

店主のなかには、自分の屋号で活動するのは初めてという方が多くいらっしゃるので、困ったときには運営スタッフに気軽に相談できたり、店主同士でわからないことを聞き合えたり、情報交換ができるような環境づくりを心がけています。そのために、定期的に運営スタッフと店主全員が集まるミーティングを行ったり、LINEグループを活用したり、日常的なコミュニケーションを大切にしています。

また年に1度、さくら通りで開催される大きなお祭り〈常盤平さくらまつり・八柱さくらまつり〉に合わせてOne Tableでもイベントを開催しています。いつもは別々の曜日に店に立つ店主たちが一堂に会し、マルシェ形式でお客様をお迎えする〈One Table さくらマルシェ〉。お客さまにとっては、普段なかなか行けない曜日の店主さんに会える機会として喜んでいただき、店主同士もお互いのドリンクやフードを買って楽しんだり、接客の合間に会話をしたりと、新しい交流が生まれています。

さくらマルシェ

毎年開催しているイベント、さくらマルシェの様子。

さくらマルシェ以外にも、自主的に店主同士でコラボレーション営業をする日があったり、One Tableの卒業生からコーヒー豆を卸している店主さんがいたりと、さまざまな交流が自然と起きていて、One Tableから生まれたつながりが広がっています。

「やりたい」を実践できる場として

ここまでOne Tableについてご紹介してきましたが、最後に運営担当の私が日々思っていることを書き添えたいと思います。裏方に徹することを大前提として運営をしているので、本当はあまり表に出すものではないと思いますが、少しだけ……。私たちがOne Tableでしていることといえば、自分の屋号で活動したい方がチャレンジできる場を提供することだけ。One Tableというお店をつくっているのは私たちではなく、店主のみなさんなのです。

もちろん何か困ったことがあれば、できる限りサポートをしたいと思っています。設備や備品のメンテナンスをはじめ、何か問題が起きた際はすぐに駆けつけて解決に向けて動いたり、メニューやお店のオペレーションについて一緒に悩んだり、今後の活動について相談にのることもあります。しかしそれも、店主さんの「やりたい」を叶えるための、環境を整えるお手伝いに過ぎません。私たちの意見にかかわらず、自分の思うようにとにかくやってみて、店主さんのカラーが存分に発揮されたお店になることが、私たちにとっての1番の喜びです。2016年のオープンから、これまで約30組の店主さんがOne Tableを利用してくださり、たくさんのお客様に訪れていただける場所になりました。

「ここは曜日替わりのシェアカフェでね……」と、客席からは、お客さまからお連れの方へOne Tableについて説明する声が聞こえてくるほど、地域に根づき、愛されるカフェになっていると感じます。

店舗外観イメージ

卒業後に向けて、omusubi不動産屋ならではのあと押しを

店主のみなさんがOne Tableを卒業されたあとは、松戸で店舗をオープンされる方、菓子工房を構える方、イベントをメインに活動する方、松戸市外の地元に戻ってカフェ営業を続ける方など、進む道はさまざまです。「やりたい」という気持ちをカタチにするだけでなく、継続して営業を続ける大変さを乗り越えた店主のみなさんは、確実に次のステップに進む力を蓄えています。

私たちは、One Tableでの営業に関するサポートだけでなく、omusubi不動産屋ならではの強みを生かして、卒業後に向けて事業計画の相談にのったり、物件を探すお手伝いをしたり、運営や経営についての勉強会を開催したり、私たちだからこそできることを模索していきたいと思います。店主さんの卒業は、何度経験してもうれしくて、この先もずっと応援したいという気持ちでいっぱいになります。

これからも「やりたい」を叶える場所であり、「やってよかった!」と言ってもらえる場所であるように。これからもOne Tableが続いていき、One Tableの卒業生がどんどん増えていくことを願っています。

information

One Table 

住所:千葉県松戸市常盤平陣屋前1−13

Web:One Table

omusubi不動産

おむすびふどうさん●「自給自足できるまちをつくろう」をコンセプトにまちの方々と田んぼや稲刈りをするフドウサン会社。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」をはじめとしたシェアアトリエを運営するほか、松戸市主催のアートフェスティバル「科学と芸術の丘」の実行委員として企画運営を行う。2020年4月下北沢のBONUS TRACKに参画。空き家をつかったまちづくりと田んぼをきっかけにした暮らしづくりに取り組んでいます。https://www.omusubi-estate.com/

credit

編集:中島彩

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