音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは京都府京都市。
夜な夜な外国人客でごった返す京都屈指のレコード酒場コロンボ(以下コロ): 今回は〈ビートルmomo〉というレコード酒場。
カルロス(以下カル): 四条、高瀬川沿いという絶好のロケーションだから、桜の季節ともなれば外国人客でごった返しているんだろうね。
コロ: ごった返しているもなにも、いまはお客さんの9割が外国人なんだって。
カル: 桜とも関係なしに?
コロ: 桜の時期は特に。お店の窓から見る高瀬川の夜桜はサイコーだよ。コロナまでは地元のお客さんや日本人の観光客、たまに外国人客って感じのしっとりとしたリスニングバーだったけど、コロナを機に外国人寄りのお店へと振り切ったんだってさ。
カウンター主体のお店から外国人ツーリストを意識してテーブル席などを追加。
カル: 店主の肥田博貴さん、もともとは銀座8丁目の路地裏で〈beatle lane〉っていうイカしたお店をやっていたんでしょう。
コロ: 酔っぱらって行ったら2度と辿りつけない迷路みたいな小径の小さなレコードバー。というか、レコードをかけるバーって感じ。朝6時までやっていたので、入稿明けによく行ったなー。
カル: わー、昭和。不適切にもほどがある。
コロ: そうは言っても2017年閉店だから、平成後期だよ。
カル: その銀座が立ち退きで惜しまれつつ閉店し、京都に?
コロ: そうみたい。外国人のお客さんと日本人のお客さんは音楽の聴き方が違うから、次第に相容れなくなっていったようだよ。
カル: 日本人がレコードバーに求めるものって、外国人にとってのそれとはかなり違うからね。
コロ: 日本スタイルのレコードバーがニューヨークやロンドンで増えてきたっていうけど、まだまだその辺のムードまでは浸透していないみたい。
カル: オープンでフレンドリーなPUB文化というか、おとなしく飲むって意識が少ない外国人が、肥田さんのかける音楽をちゃんと聴いてくれているのだろうか?
コロ: はじめのうちはおとなしく聴いていて、「あなたのかける曲はグレートだ」とか言ってくれるんだけど、そのうちに騒ぎ始める。バーに来た外国人に「静かにしてくれ」っていうのも野暮かなと、最近は意識を改めたんだってさ。
高瀬川沿いにうっすらと灯ったビートルmomoのライトに誘われる。
外国人ツーリストに向けて改装した奥のテーブル席。ここからの夜桜はサイコーらしい。
カル: 肥田さんの選曲が逆に盛り上がるきっかけになっちゃいそう。
コロ: ただ、京都に来る外国人は、日本文化に溶け込もうというなかで楽しむので、盛り上がるといっても品位があるらしいよ。
カル: あとお店の音のよさも新鮮らしく、真空管の灯りに神秘を感じるみたいだってね。
コロ: 京都進出を機に変えたスピーカー、TANNOY〈Eaton〉のまろやかな音にも最初は興味津々。
カル: ピンク・フロイドのライブとかをかけると静かに盛り上がるんでしょう。笑える。外国人にとってピンク・フロイドは盛り上がる側の音楽っていうのも日本人にはおかしいよね。シティポップとかはどうなの?
コロ: これがまた微妙で、大瀧詠一とかは反応が悪くて、やはり鉄板は竹内まりやの「プラスティック・ラブ」。女性ヴォーカルが好きみたいで、ほかにも松原みき、杏里のリクエストが多いそう。
初めて来た外国人はTANNOY EATONのまろやかな音と真空管の灯りに神秘を感じるそう。
楽曲から想起したオリジナルカクテル。カクテルついでのリクエストも多い。
カル: 日本人らしい透明感が外国人の心をくすぐるのかな。リクエストも聞いてくれるんだね。
コロ: リクエストを聞いてあげるとたくさん飲んでくれるんだって(笑)。
カル: そりゃ、聞いてあげないとね。〈PLASTIC LOVE〉っていうジンベースの名曲カクテルもあるんでしょ?
コロ: そうなの。ほかには〈PURPLE RAIN〉、〈HERE COMES THE SUN〉、〈BOHEMIAN RHAPSODY〉と名曲カクテル多数。
カル: カクテルばかりのオーダーだとサーブが忙しくて、レコードをまわすヒマがなくなっちゃいそうだけど。
コロ: そういうときは「ホテル・カリフォルニア」とか「ボヘミアン・ラプソディ」とか長い曲をかけるんだってさ(笑)。シティポップの話に戻るけど、高中正義とかカシオペアあたりの80年代のフュージョン系にやたら食いつきがいいそうだ。
カル: フュージョン人気、根強い。この辺も選べば長い曲ありそう(笑)。肥田さん自身はどんな嗜好なの? 〈ビートルmomo〉ってくらいだから、ビートルズ?
コロ: 店名のビートルは、馴染みのあるワードの方が屋号にふさわしいとのアドバイスからだって。ちなみに「momo」は肥田さんの愛犬ね。とはいえビートルズだと『アビーロード』の「Here Comes The Sun」ではじまるB面。基本ラインはブリティッシュロックで、お気に入りのアルバムはピンク・フロイドの『狂気』、『炎』、フリートウッド・マックの『噂』。
カル: レコードバーのあるべき姿でうれしい! しかも邦題全盛期の名作ばかり。ストロング・スタイルってとっても大事。
コロ: ツェッペリンとかストーンズの王道に加えて、産業ロック的なヒットチューンとかヒップホップをリクエストに応じて。
カル: ヒップホップはどのあたり?
コロ: 80年代ものはアレステッド・デベロップメント。年代を追って、カニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマーかな。
カル: いいねー、潔よし! 銀座の頃は歌謡曲とかもかけていたけど、いまそれほどでもないの?
鉄板アルバムのひとつでもあるフリートウッド・マックの『RUMOURS』。邦題はそのまま『噂』。
90年代のヒップホップの最高到達点ともいえるア・トライブ・コールド・クエストの2枚。
コロ: 客層が変わったから、ほとんどかけないみたい。あっ、そうそう羊文学の『12 hugs (like butterflies)』はよくかけるそうだ。ゆくゆくはもう一軒、昭和歌謡のお店をつくりたいそうだよ。
カル: 肥田さんの蝶ネクタイのバーテンダーキャラ、外国人ウケがいいみたいで、TikTokとかインスタに京都のレコードマスターとしてよく上がっている。
コロ: ニューヨークに日本オリジナルのレコードバーを出してみたいという野望もあるみたい。騒いじゃって、音楽を聴いてくれないという環境にも馴染んできたみたいだし。
カル: グローバルにキャラ立ちしているから楽しみだ。日本オリジナルっていうのはいいよね。いくらリスニングバーが人気といっても、海外のレコードバーって、どうしてもDJバーみたいになっちゃうもんね。
コロ: ねー、お客さんがうるさいと注意するような、キリッとしたお店があってもいいかもしれないね。
肥田さんのキャラは外国人受けがいいみたいで、SNSによく上がるそうだ。
“Have Fun!” 〜レコード酒場での夜はよき思い出に。
information
レコード酒場 ビートルmomo
住所:京都府京都市中京区下樵木町204-4 啓和ビル2F
Tel:075-254-8108
営業時間:19:00〜25:00
定休日:水曜
Instagram:@beatlemomo_kyoto
【SOUND SYSTEM】
Speaker:TANNOY EATON
Turn Table:DENON DP-500M
Power Amplifier:LUXMAN MQ60 Custom
Pre Amplifier:LUXMAN A3032
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多