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老朽化し、空室が20室以上になった賃貸マンション→オーナー自らDIY!?

  • 2024年3月8日
  • コロカル
omusubi不動産 vol.2

はじめまして。おこめをつくるフドウサン屋〈omusubi不動産〉の落合紗菜(おちあい さな)と申します。

2021年7月にomusubi不動産に入社。賃貸営業と物件のPR担当を経て、現在は広報を担当しています。まだまだ精進中の身です。

私たちomusubi不動産は「自給自足できるまちをつくろう」を合言葉に、毎年、手で植えて手で刈るアナログな田んぼを続けながら、空き家を使ったまちづくりを生業としています。この連載では、omusubi不動産の個性豊かなメンバーが代わる代わる(時には代表の殿塚も)書き手となり、思い入れの深い物件とその物語をご紹介します。

連載2回目は、omusubi不動産はこの物件なしでは語れない!という存在、omusubi不動産が扱った第1号物件の〈あかぎハイツ〉についてご紹介します。

あかぎハイツに入居する、omusubi不動産松戸本店。

あかぎハイツに入居する、omusubi不動産松戸本店。

〈あかぎハイツ〉とは?

あかぎハイツは、千葉県松戸市稔台で50年以上続く賃貸マンション。オーナーの赤城さんご家族が、代々受け継いできたこの建物を大切にメンテナンスしながら、入居者さんと「近すぎず、遠すぎず、だけど何かのときには頼りになる」という距離感で日々運営されています。

赤城家の先代たちは、戦後開拓者としてこの地に入り、養豚業などさまざまな職業を経て、1975年にあかぎハイツを誕生させました。

今から20数年前までは1階で〈あかぎマート〉というスーパーマーケットを営み、近所の個人商店とともに下町の雰囲気があったこのエリアを盛り上げていたそう。近所に大型スーパーができたこともあり、残念ながら2002年頃には惜しまれながら閉店してしまいましたが、長年にわたってまちの人の暮らしの拠点となっていました(当時の写真はあかぎハイツHPにて、ぜひご覧ください)。

かつてスーパーだった1階部分には、現在、美術書店〈smokebooks〉さんやアンティーク店〈North6 antiques〉さん、野菜のレストラン〈亀吉農園別館〉さんなど人気店が軒を連ねています。

そして2020年3月にはomusubi不動産も入居。スタッフが増えて手狭になっていた事務所を拡大すべく、創業の地である松戸市八柱からあかぎハイツ1階に拠点を移しました。

omusubi不動産が入居する前、空室時のテナント。

omusubi不動産が入居する前、空室時のテナント。

あかぎハイツとomusubi不動産との出会い

赤城さんとの出会いは、2012年の12月にさかのぼります。

当時はomusubi不動産の創業前。のちに弊社代表となる殿塚がその頃に携わっていたまちづくりプロジェクト〈MAD City〉のオフィスに、赤城博信(のぶひろ)さん(以下、赤城社長)と息子さんのよっちゃんこと、赤城芳博(よしひろ)さんが訪れました。

「松戸におもしろい不動産があるよ」という商工会議所の方から紹介を受けて、築40年ほどで老朽化が目立ち、空室が20室以上になったあかぎハイツについて相談に来たのです。

担当になった殿塚は、あかぎハイツが抱えるピンチをチャンスに変えるべく、赤城社長に、「改装OK・原状回復不要の『DIY賃貸』という条件で入居者募集をしませんか?」と提案。これが今のあかぎハイツに至るきっかけとなりました。

また、オーナー自らがリノベしている事例として、MAD Cityが手がけるマンション〈ロッコーハイツ〉を見学し、古い物件ならではの魅力のつくり方をオーナー親子とともに模索していきました。

そしてあかぎハイツ初のDIY賃貸として、3部屋を募集。「赤れんがマンション」というキャッチコピーでMAD Cityのウェブサイトに掲載したところ、無事に入居者が決まりました!

その後、2014年4月に殿塚がomusubi不動産を設立し、MAD Cityから仲介業務を引き継ぐかたちに。というわけで、あかぎハイツはomusubi不動産で扱った第1号物件となったのです。そして2024年の現在も、おつき合いが続いています。

(左から)殿塚、赤城社長、よっちゃん。緑豊かなエントランスにて。(撮影:Hajime Kato)

(左から)殿塚、赤城社長、よっちゃん。緑豊かなエントランスにて。(撮影:Hajime Kato)

オーナー家族によるDIYリノベーション

omusubi不動産があかぎハイツをお預かりしてしばらくのこと。赤城社長が旅行で不在時に、よっちゃんが勝手にDIYでセルフリノベーションを開始しました。

きっかけは、前述のロッコーハイツに感化され、「よっちゃんもやっちゃえばいいんだよ!」とロッコーハイツのオーナーから発破をかけられたこと。そもそもよっちゃんは以前からDIY賃貸に興味があったんだとか。

すでに解体された部屋を見て社長はかなり驚いたそうですが、「DIYでつくってみたい!」という熱意は伝わったようで、よっちゃんが責任をとってその部屋に住むことで社長のお許しを得られました。

その後、時間をかけてできあがったお部屋は、初めてDIYをしたとは思えないほどの仕上がりでした!一連のできごとがおもしろかったので、よっちゃんに寄稿を依頼して、omusubi不動産の情報メディア『おむすびマガジン』にて『月刊あかぎハイツ』を連載しています。ご興味のある方はぜひ覗いてみてください。

あかぎハイツ一室のビフォー。丸鋸(まるのこ)とバールを使ってガッツリ解体も行いました。(撮影:akagi heights)

あかぎハイツ一室のビフォー。丸鋸(まるのこ)とバールを使ってガッツリ解体も行いました。(撮影:akagi heights)

よっちゃんが初めて完成させた一部屋。デザインのアイデアを奥様の真樹子さんが出し、施工は見よう見まねでよっちゃんがすべて行った。(撮影:Hajime Kato)

よっちゃんが初めて完成させた一部屋。デザインのアイデアを奥様の真樹子さんが出し、施工は見よう見まねでよっちゃんがすべて行った。(撮影:Hajime Kato)

コンセプトを「ほのぼの」に

その後、2015年頃からお部屋が埋まるスピードが鈍くなり、あかぎハイツの推しポイントを再検討することになりました。

「外観はレトロなかわいさが垣間見える」「ていねいな掃除や季節の飾りつけといった管理の良さ」など、いろいろ挙がりましたが、「やっぱり推しポイントは赤城家の存在じゃない?」という結論に。

あかぎハイツを訪れたり、赤城家のみなさんと会うたびに感じるほのぼのとした雰囲気。それを全面に出していこう! ということで、コンセプトは「ほのぼの」に決定! その後、物件のPRをする際には、ほのぼのとした赤城一家の雰囲気をメッセージの軸として、情報発信するようになりました。

エントランスに至る小道。季節ごとのお花や緑にほっこりします。

エントランスに至る小道。季節ごとのお花や緑にほっこりします。

こちらもよっちゃんによるDIYリノベーションのお部屋。無垢の床であたたかみのある空間。(撮影:akagi heights)

こちらもよっちゃんによるDIYリノベーションのお部屋。無垢の床であたたかみのある空間。(撮影:akagi heights)

コンセプト決定と時を同じくして、千葉県市川市の〈つみき設計施工社〉さんに2部屋のフルリノベーションを依頼しました。それまではよっちゃんが独学で施工するのみでしたが、「プロの方にも一度部屋をつくってもらいたい!」という思いからお願いしたそうです。

つみき設計施工者さんは参加型リノベーションを専門とする工務店さん。omusubiの物件もリノベーションをしてもらったり、一緒にワークショップを行ったり、スタッフが修行をさせてもらったりと、大変お世話になっています。

このときに施工してもらったお部屋は、白を貴重としたすっきりとした雰囲気に仕上げていただき、募集に苦戦した時期もありましたが、今では空室となると即決定! という、とっても人気なお部屋となりました。ちなみに、よっちゃんもこの部屋づくりの作業に参加しています。

つみき設計施工社さんが施工したお部屋。漆喰の壁と無垢材のフローリング、格子窓の黒によるすっきりした素敵な空間に仕上げていただきました。

つみき設計施工社さんが施工したお部屋。漆喰の壁と無垢材のフローリング、格子窓の黒によるすっきりした素敵な空間に仕上げていただきました。

あかぎハイツを中心にまちの雰囲気に変化が

そのほかの空室となったお部屋は、よっちゃんが引き続きDIYでリノベーションを続けていきました。そして時は2016年8月、よっちゃんの奥様が企画した〈akagi heights de market!〉が大きな転機となり、少しずつあかぎハイツを中心にまちの雰囲気が変わっていくことになります。

〈akagi heights de market!〉ナイトマーケットの様子。

〈akagi heights de market!〉ナイトマーケットの様子。

〈akagi heights de market!〉は、地域内外の方々に出店してもらうマーケットです。それと同時に、空室中のお部屋を開放して見学会を実施。あかぎハイツが知られていく機会となりました。今入居されているテナントさんも、このマーケットをきっかけに入居された方ばかりです。

ちなみにこのとき、omusubi不動産はウェブやSNSで告知をお手伝いしたのみ。「オーナーさん自らが企画と運営に挑戦する姿がとてもうれしかった」と、殿塚は当時を振り返ります。

〈akagi heights de market!〉をきっかけに入居された〈smoke books〉さん。

〈akagi heights de market!〉をきっかけに入居された〈smoke books〉さん。

その後は、屋上で鑑賞する花火大会のほか、赤城社長が発案したお餅つき大会も恒例行事となりました。赤城社長が〈akagi heights de market!〉でまちの人たちが交流する姿を見て、スーパーをやっていた頃の風景と重ね合わせたことがきっかけだったといいます。

こうして近所の方が参加できるイベントが増え、徐々にあかぎハイツを中心にまちの雰囲気に変化が見えてきました。

これらの大家さんとしての新しい取り組みがいくつかのメディアに掲載され、あかぎハイツと赤城家が大家業界でも注目されるようになっています。そして近年では、エントランス前にキッチンカーの出店スペースをつくり、さらにまちに変化をもたらしています。

お餅つきに参加する入居者さん。(撮影:akagi heights)

お餅つきに参加する入居者さん。(撮影:akagi heights)

エントランス脇に出店したキッチンカーに、ご近所の方が立ち寄る風景。

エントランス脇に出店したキッチンカーに、ご近所の方が立ち寄る風景。

あかぎハイツのこれから

2020年からはコロナの流行によって、あかぎハイツではお餅つきや花火大会などの恒例行事ができなくなりました。ところが、よっちゃんに状況を聞いたところ「影響は感じなかった」という意外な回答が。

「近すぎず、遠すぎず、だけど何かのときには頼りになる」。そんなスタンスで運営をしていた赤城家にとって、コロナ禍でも大きな変化はなく、ちょうどいい距離感を保ち続けることができたといいます。

リノベの間取りには少し変化があったようで「以前はリビングが広い1LDKが多かったけど、在宅ワークを意識して、壁や仕切りを立てやすい間取りが増えました」とのこと。

2023年12月時点でよっちゃんがリノベーションを進めていたお部屋。これをひとりで進めているなんて本当にすごい。

2023年12月時点でよっちゃんがリノベーションを進めていたお部屋。これをひとりで進めているなんて本当にすごい。

近況についても聞いてみると、「リノベーションをがんばりすぎず、シンプルな状態で賃貸に出して家賃を安くしていこうかなと思ってます。今は建材が高騰しているし、僕らが手をかけたぶん、家賃が上がってしまう。そうなると、本来僕らが入居してほしい方たちが諦めてしまうかもしれないと思って。前々から父(赤城社長)や妻からは『そんなにがんばらなくてもいいよ』と言われていたんです(笑)」

よっちゃん自身がDIYの楽しさを知っているからこそ「入居者さんも自分で工夫することですてきに暮らしてくれるだろう」と、考えるようになったのだとか。

これからのあかぎハイツについてはこう話してくれました。

「現状維持ですかね。僕ら家族はオーナーではあるけど、住人でもある。自分たちを含めた住んでいる人たちが穏やかに過ごすことができれば、それだけで十分です」

大家さんの存在がマンションの価値をつくる

大家さんが自らDIYを手がけたり、新しい企画を立てて地域の人たちを巻き込む運営を行ったり。そんな試行錯誤や取り組みが、あかぎハイツに新しい価値をもたらしてきました。そしてなによりの魅力は、赤城さん一家の存在だと思います。

建物だけでなく、赤城家の雰囲気はまさに「ほのぼの」というコンセプトの通り。まごうことなき推しポイントです。赤城家のみなさま、これからもどうぞよろしくお願いしますね。

information

あかぎハイツ

住所:千葉県松戸市稔台1-21-1

Web:あかぎハイツ

omusubi不動産

おむすびふどうさん●「自給自足できるまちをつくろう」をコンセプトにまちの方々と田んぼや稲刈りをするフドウサン会社。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」をはじめとしたシェアアトリエを運営するほか、松戸市主催のアートフェスティバル「科学と芸術の丘」の実行委員として企画運営を行う。2020年4月下北沢のBONUS TRACKに参画。空き家をつかったまちづくりと田んぼをきっかけにした暮らしづくりに取り組んでいます。https://www.omusubi-estate.com/

credit

編集:中島彩

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