木工製品の産地として知られる神奈川県西部。指物(さしもの)・挽物(ひきもの)・寄木(よせぎ)・木象嵌(もくぞうがん)といったさまざまな木の加工技術を持ったつくり手の姿や想いを世界に伝え、神奈川の木工の価値を上げたいと2022年に立ち上がったブランドが〈手神〉です。
〈手神〉を手がける〈株式会社ジーンワークス〉は、足柄上郡山北町に拠点を置く木工商品のプロデュース会社。代表の池谷賢(いけやまさる)さんは、製品企画の過程で出会ったつくり手たち自身の魅力に感動したといいます。
「なかには、国内で同じ加工技術を持つ人がいない、まさに日本の宝のような方もいます。しかしその魅力は伝わっておらず、適正な価格で取引されない場合や、後継者不足で年々工房が減っている現状があります。
はじめは5人の作品を仕入れて販売していましたが、それぞれのつくり手を知れば知るほどその人自身の技術と魅力を作品と一緒に伝えたいと思うと同時に、つくり手のおかげで得られた利益をどうにかつくり手や神奈川の木工に還元したいと考えました。」
こうして作品だけでなくつくり手のストーリーも“手紙を書くように心を込めて”紹介し、“つくり手・伝え手、全ての手が神奈川の手であることから”〈手神〉と名づけられたブランドが誕生しました。
〈手神〉がお披露目された2022年の表参道の展示会「ててて商談会」にて。
5人のつくり手とデザイナーとの共同作業〈手神〉の作品は、池谷さんとデザイナーの山田佳一朗さん、山内美歩さんが何度もつくり手たちの工房に足を運び、技術をどう表現するか、どんな表現をしたいかを話し合いながら、何度もデザインと試作を繰り返して完成させていきました。
寄木と傾斜のある難易度の高い指物細工を得意とする松本育さんの〈69.1°〉は、全ての辺が69.1度で交わる器。直線だけで構成されていますが、実は木を真っ直ぐに切るのは難しく、デザインの段階ではつくることは難しいと松本さんは思っていました。しかし、樹種選びやパーツの合わせ方に手をかけることで、松本さんだからこそつくれる作品ができあがりました。
松本育さんは2021年に小田原市江之浦でまつもと木工所を開業。
「大切なものを入れてほしい」という松本育さんの〈69.1°〉。
つくり手同士の協力があることも、〈手神〉の良い部分だという池谷さん。小さいろくろ細工を得意とする乾靖史さんの〈きねんの家〉や、小田原唯一、微細なろくろ細工で豆茶器を製造できる斎藤久夫さんの〈豆茶器〉〈豆けん玉〉には、寄木挽物師・小林じゅんのさんの木を見る力と丁寧な加工技術によって生み出された寄木が取り入れられています。
乾靖史さんの〈きねんの家〉。屋根は小林じゅんのさんが唐変木と欅の4ミリ角で寄せた素材を用いています。
斎藤久夫さんの曲鉋と手挽きを駆使してつくった〈豆茶器〉。フタやソーサーは小林じゅんのさんが1ミリ角で寄せた素材を用いています。
小林じゅんのさんの〈寄木芯八角茶筒〉と〈寄木縁八角盆〉。
木工作家として人気の岩宮千尋さんは、木工象嵌や木工ろくろを駆使し、空想的な世界感のアートワークを製作しています。〈手神〉のポップアップ販売では、岩宮さんが小林さん製作の寄木チャームにお客さんのリクエストに答えて焼ごてで絵を描くワークショップもたびたび行っているそうです。
絵本の世界のような風景が愛らしい岩宮千尋さんの〈風計 腕時計 金〉。
神奈川から東京、全国、そして世界へ80歳を超えた斎藤さんははじめ、「私の作品を今さら、東京に持って行っても無駄だろう」とこぼしていたそう。しかし、お客さんの感動を共有することで意識に変化があり、もともとカメラを向けられるのも嫌がっていたのが自ら「私を動画に撮ってYouTubeに上げてほしい」とリクエスト。現在斎藤さんが豆茶器を加工する動画が見られるようになっています。
小田原市成田に構える斎藤久夫さんの斎藤木工所。
〈手神〉は、今後も各地でのポップアップ販売を予定しています。通販の対応エリアも国外へ広げ、海外展開に挑戦するべく準備の最中。繊細でワクワクする手仕事の世界を、ぜひ手にとって覗いてみませんか。
〈手神〉プロデューサーの池谷賢さん。2024年1月、〈代官山蔦屋書店〉で開催したフェアにて。
イベント予定
鎌倉八座
開催場所:鎌倉八座
住所:神奈川県鎌倉市小町1-7-3
期間:2024年2月21日〜3月15日
Web:鎌倉八座
イベント予定
木の香
開催場所:木の香
住所:東京都中央区銀座7-10-5 ランディック第3銀座ビル1F・B1F
期間:2024年4月9日〜4月15日
Web: 木の香
イベント予定
燕三条 工場蚤の市
開催場所:三条ものづくり学校「燕三条 工場蚤の市」
住所:新潟県三条市桜木町12-38
期間:2024年4月20日〜4月21日
Web:三条ものづくり学校「燕三条 工場蚤の市」
information
手神
Web:手神公式サイト
Instagram:手神tegami
writer profile
Mana Saito
齊藤真菜
さいとう・まな●神奈川県横浜市出身・在住。「Arcade Books & Films」として、西区・藤棚商店街のシェアカフェ「藤棚デパートメント」内で本の販売や映画上映会を企画。地域メディアの指針を考えるためのワークショップカード「ローカルメディアコンパス」開発メンバー。