撮影:佐々木育弥
25組中、5組が初参加。懐かしの焼き菓子やこだわりサンド一昨年から、近隣にある閉校した中学校を活用して、地域のつくり手の作品を展示販売する『みる・とーぶ展』というイベントを行っている。北海道岩見沢市の山あいは東部丘陵地域と呼ばれていて、そのなかに私が住む美流渡地区をはじめ、朝日、毛陽(もうよう)、万字(まんじ)など多彩なエリアがある。「みる・とーぶ」という名前は、「東部」を「見る」という意味と、「美流渡」をかけてつけたもので、私はこのイベントの主催団体の代表を務めている。
4年前に閉校になった旧美流渡中学校。地域に住む画家・MAYA MAXXさんの絵や立体物が学校を彩る。
2021年は秋に1回、2022年は春夏秋と季節ごとに3回、『みる・とーぶ展』を行ってきた。開催期間はそれぞれ約2週間で、これまでのべ5000人が来場した。美流渡地区は過疎化が進み、人口わずか330人の集落。ここに予想を超える人々が足を運んでくれたことは、イベントを企画した私たちにとって大きな喜びとなった。
昨年の『みる・とーぶ展』の様子。雑貨や工芸作品などが並ぶ。(撮影:佐々木育弥)
陶芸家・こむろしずかさんの作品。(撮影:佐々木育弥)
画家・MAYA MAXXさんはサロペットやTシャツに手描きした一点ものを出品した。(撮影:佐々木育弥)
薪窯のピザ〈Calm pizza〉。今年も出店する。
そして今年は春と秋、2回の『みる・とーぶ展』を企画している。春はゴールデンウィークに合わせて開催。いよいよ準備も大詰めとなっている。今回は全体で25組が参加。地域の木工作家や陶芸家、ハーブティーのお店、ピザやカレーなど、お馴染みの顔ぶれに加えて、5組が初参加となる。ここでは初参加のみなさんにスポットを当てて紹介してみたい。
展覧会のチラシ。
フード系では〈グランマヨシエ〉。辻村淑恵さんは、岩見沢市の図書館勤務を経て定年退職後に焼き菓子工房を始めた。昭和のお母さんが手づくりしていたような素朴なお菓子で、地元素材にこだわった安心安全なものを提供しようとメニューを開発。また、こうした活動を通じて、岩見沢の歴史や地域の魅力も伝えられたらと辻村さんは考えている。
かつて暮らしていた築100年超えの古家に厨房を設える辻村さん。
ネーミングにもこだわって。美流渡と名づけられた焼き菓子は、イタリアの「ミルト」というリキュールが入っている。
もう1軒の初参加は〈きなり〉。〈きなり〉は2017年に吉成厚人さんが始めた岩見沢の繁華街にある小さな居酒屋さん。北海道産木炭で焼鳥や焼肉を楽しめるだけでなく、自家農園野菜や支笏湖産姫鱒が食べられる時期も。素材にこだわり丁寧に仕上げた料理を提供している。『みる・とーぶ展』では、北海道産全粒粉の手づくりチャパティに道産鶏肉と有機野菜、オリジナルソースをのせた無添加ナチュラルサンドを販売予定だ。
〈きなり〉のチキンと野菜のサンド。このほか「八雲ソマチット水よもぎ茶」も提供予定。
レコードに化石、バルーンアートなど、自分のやりたいことを極めてこのほか展示期間中の新しいイベントとなるのは、レコードと珈琲〈夕焼け音楽室〉。※4月29日(土)、5月6日(土)、5月13日(土)の13:00〜15:00。岩見沢在住のレコードコレクター・青山晴次さんが所有する、ジャズからロック、昭和歌謡、アニメソングまで幅広いジャンルのレコードを、リクエストに応じてかけるというイベント。校舎の音楽室に自宅からオーディオを持ち込み、迫力ある音の世界をつくろうとしている。また近年、庭に焙煎小屋をつくって珈琲も研究しており、イベントで振る舞う予定。
青山晴次さん。自宅にはシングル・アルバム含め3000枚を所有。
毎日2時間はレコードを聴き込んでいるそう。
懐かしのアニメソングが壁に無数に飾ってあった。
もうひとつの新しいイベントは「化石とあそぼう!」。※4月29日(土)、5月6日(土)、5月13日(土)、5月14日(日)の10:00〜16:00。
企画したのは日端義美さん。以前に私は岩見沢に山を買っており、場所の候補を見つけてくれたり買い方を教えてくれたりしたのが日端さんだ(vol.018)。日端さんは現在、東部丘陵地域に山を3つ所有している。
沢が流れる山が欲しかったという日端さん。3つ目の山で念願が叶った。
ひとつ目は、会社員として働いていた57歳のときに購入。もうひとつは60歳で退職した翌年に、同じエリアに手に入れた。2022年には3つ目を取得。「山に毎日出勤しているんだよ」と語り、珍しい山野草や樹木を育てながら、山の整備を欠かさず行っている。
そして、3つ目の山で大小さまざまなノジュール(アンモナイトなどの太古の生き物を核として、その周りに炭酸カルシウムなどが付着してできた石の塊のこと)を発見。たくさんの化石を見つけたことから展示を企画。子どもたちに実際に化石を触ってもらい、太古の世界を想像する機会になったらと考えている。
山で見つけた巨大なノジュール。サイズを測っている日端さん。
沢で収集した石を自宅に持ち帰って選別。パズルのように組み合わさるものもあるそう。
ノジュールを割って中から出てきた貝の化石。
さらに5月5日(13:00〜15:00)のこどもの日の企画として、岩見沢を拠点に子どもの施設や病院などでバルーンアートを披露したり、クラウン(道化師)として活動するベラさんによる「風船とあそぼう!」というワークショップも行われる。
ベラの名前の由来は、おしゃべり大好きベラベラの「ベラ」から。お孫さんに「自慢のばぁーちゃん」と言われるようになりたくてバルーンアートを習ったそう。
世代やジャンルの垣根がないのが田舎のいいところ!今回の初参加の顔ぶれを見て私がとてもうれしかったのは、人生の先輩のみなさんが集まってきてくれたこと。〈グランマヨシエ〉の辻村さんや山で活動する日端さんは、定年退職後に新しい生き方を始めており、またレコードコレクターの青山さんも仕事をしつつ、今年からはより音楽や珈琲といった自分が探求する世界に軸足を置いていこうと考えているのだという。
55歳でバルーンアートを始めたベラさんは、「60歳からどう生きていくかを模索するなかで」、病院の患者さんたちに笑顔を届ける「ホスピタルクラウン」の活動も始めたそうだ。
ホスピタルクラウン姿のベラさん。
参加メンバーのなかで日端さんが最年長の80歳!私は知り合って8年になるけれど、化石を見つけた昨年ごろより、目の輝きが増していて、今がいちばん元気なんじゃないだろうかと思えてくるのだ。
リュックに気になる石を詰め込み(これは重たい!)、軽快な足取りで歩く日端さん。私はついていくのがやっと!
これまで『みる・とーぶ展』のメンバーは、子育て世代が一番多かったので、今回、さまざまな世代が交わる機会が生まれていることで、新たな可能性が広がっているように思う。
東京にいたときは、仕事や趣味によって人づき合いが細分化されていた。例えばアートといっても、現代美術系なのかファインアート系なのかで分かれていて、さらに世代というレイヤーでも分かれていたように思う。北海道の田舎にきてみると、細分化できるほど人口が多くないおかげで、ジャンルや世代の垣根が低くなって、ダイナミックにみんなが交わっているように感じられる。
地域の仲間がメンバーとなっているアフリカ太鼓のバンド〈みるとばぶ〉。ここでも職業も年齢もさまざまな人々が音を合わせる。
そして『みる・とーぶ展』が、さまざまな人生を経てたどり着いた“本当にやりたいこと”が実現できる場になっていることが、とてもうれしい。その本気度は来場者にもきっと伝わり、充実した空間が生まれるに違いないと思う。展覧会は4月29日から。会場で、みなさんとお会いできることを楽しみにしています!!!
information
みる・とーぶ展
会期:4月29日(土)〜5月14日(日)※5月2日、9日、10日は休み
会場:旧美流渡中学校
住所:北海道岩見沢市栗沢町美流渡栄町58
営業時間:10:00〜16:00
料金:無料
Web:Facebook
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru