〈商店街サンド〉とは、ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、その土地でしか食べられないサンドイッチをつくってみる企画。必ずといっていいほどおいしいものができ、ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる、一石二鳥の企画なのだ。
私の地元の商店街!今回やってきたのは東京都葛飾区。
葛飾区といえば、舞台となった漫画“こち亀”こと『こちら葛飾区亀有公園前派出所』や、映画『男はつらいよ』からわかるように、人情味あふれる地域である。そのなかでも今回は、立石・四ツ木エリアをぜひ取り上げたい。なにせ私の地元なのである。
呑んべ横丁の看板(立石)。立石駅前は再開発で激変していっているので、今のうちに行っておいてほしい。
どちらかといえば、というかダントツで立石の方が有名で、特に〈呑んべ横丁〉を代表とするいい感じの飲み屋さんが集まる、お酒好きにはたまらないまちとして知られている。
まずは四ツ木から!サッカーブームの火付け役・キャプテン翼がすごいその立石に行く前に、私の実家がある四ツ木も紹介させてほしい。ひと昔前は本当に何もない地味なまちだったのだけど、10年ほど前、かなり大きな変化が起きたのだ。それがキャプテン翼である。
思い切った京成線四ツ木駅! 電車のチャイムは翼君の声だ。「ボールはともだち。こわくないよ!」といつも励ましてくれる。
キャプテン翼の作者である高橋洋一さんがこの辺りの出身ということで、四ツ木駅がキャプ翼だらけに変わったのだ。改札をくぐると天井で翼君がオーバーヘッドキックしていたりする。子どもの頃、翼君に憧れてサッカーを習っていた私にはうれしい変化だ。
脚が長すぎる日向小次郎と(サッカーのレフェリーぽい服装にしてみました)。
前のコンビニには小次郎が蹴ったらしきボールがめりこんでいます。
また、四ツ木から立石まで、あちこちに設置されている銅像もおもしろい。キャプ翼はヨーロッパでも大人気なので、一時はそれらしき外国人がわざわざ銅像巡りしに来る姿がよく見られたくらいだ。
捨て身で喰らいつく「顔面ブロック」が代名詞、石崎了(四ツ木駅近く)。
努力型天才ストライカー、日向小次郎。子どもの頃、真似して肩まで袖まくりしたなあ。(四ツ木公園)
男勝りのヒロイン、中沢早苗(葛飾郵便局前)。余談ですが、高校時代に葛飾郵便局でバイトしていました。
天才ゴールキーパー、若林源三(立石みちひろば)。キャップに憧れたなあ。
立石一丁目児童遊園。このヒールリフト、めちゃくちゃ練習した! できなかったけど。
つばさ公園だけ等身大だ(四つ木つばさ公園)。
翼君の「ボールはともだち」という言葉を信じて小学生時代の私もサッカーの練習後はしっかりボールを磨いていたものだ。あの頃は作者が同じ地元だとは知らずにいたんだよなあ。
そんなキャプ翼推しのエリアでイチオシは地元の洋菓子屋〈パティスリーコトブキ〉さんがつくる〈キャプテン翼サブレ〉である。
お土産にピッタリのキャプテン翼サブレ。キャッチコピーは「シュート!するおいしさ」
生まれ変わっている四ツ木だいたいの所がそうであるように、四ツ木の商店街も時代と共にだいぶ寂れてしまった。はじめて訪れる人には「何もないな」という印象だろう。確かにそうだ。
しかし! 最近はオシャレなカフェや、道路拡幅計画により外観がリニューアルしたお店がちょこちょこでき、少しずつ生まれかわっているのだ。
寂しい感じが漂う商店街。昔は八百屋や魚屋、肉屋さんがあって活気あったんだけど……
そんななか2年前、四ツ木らしからぬオシャレなカフェができて驚いた。大人気の〈SCRATCH COFFEE〉。いろいろイベントもやっていて地元を盛り上げている。
コーヒーとマフィンがおススメです!
熱烈なファンがいる老舗もまだまだ残っている。うなぎの〈魚政〉や大衆酒場〈ゑびす〉、蕎麦〈松のや〉、割烹料理〈玉子家〉などなど。
この商店街サンドの企画の肝であるパンは、1950年開業の〈長楽製パン〉さんで買い求めたい。
人気のため12時でも売り切れのパン多し。
お店の方とサンドにあうパンを相談させてもらう。
このダブルチーズのパンを使おう!
オーラを放つ生食パンも!
無事パンをゲットしました!
お隣の立石へ!続いてサンドにはさむ食材を求めに、歩いて立石に移動。そこでは今回の案内人である松野美帆さんが待っていた。
気合充分で待ち受ける松野さんとガッチリタッグを組む! 立石にある〈まつの接骨院〉をご夫婦で営んでいる。
松野さんがキャプテン翼のセリフをつくってきてくれた!
松野さんはむかし仕事で関わった仲だ。そういえば地元が近所じゃん、と最近になってあらためて仲良くなった。
自ら各地で掘ってきたきれいな石を見せてくれたり、手先が器用なのでこういった変なものをつくってきてくれるので会うのが楽しみな人だ。
「ここは外せないよね」と意見が一致したのは駅を降りて目の前の〈愛知屋〉さんの揚げ物。年季の入ったショーケースがまたおいしそうに見える!
そして、立石で食材といえば仲見世!
立石の駅前商店街にはいくつか筋があって、どこも昭和感ただよういい雰囲気。角にある立ち食い寿司や、もつ焼きで有名な呑み屋はいつも並んでいる。ほかにもグラムで注文するお惣菜屋さんが軒を連ねていて、歩くだけでワクワクする。
この小さなお店がひしめく感じ、たまりません!
四ツ木から消えてしまった八百屋や魚屋さん、お惣菜屋さんが立石には並んでいる。
おでんはサンドに入れられないか……と思ったが、
人気の生姜天をゲット! (お店の人と松野さんはご近所の顔なじみだった)
すぐ近くのお惣菜やさん。全部おいしそう。
なかでも目を奪われたのはこの「新じゃが煮」。この照り……絶対うまいと確信してゲット!
隣の筋の〈立石駅通り商店街〉も歩こう。こちらには100円ショップやおもちゃ屋さん、服屋さんなどが並ぶ。
寅さんのそっくりさんに遭遇。葛飾だわあ。
Tateishiと書かれたTシャツが気になる激安洋品店。やたら色のバリエーションがある。
松野さんによるとこのTateishi Tシャツは有名らしい。運動好きにはうれしい速乾素材だし、1200円と安い。
お店のお姉さんが出てきた。着てる!
私がジムで着ようかな、と悩んでいるとお姉さんが登場。なんでも立石にはジムがめちゃくちゃ増えているらしい。そういえばボクシングの内藤大助さんが所属していた〈宮田ジム〉も立石では有名だ。
八百屋さんにはそもそも野菜を買いに行こうと思っていたのだけど、お姉さんが言うには果物もおススメとのこと。「スイカが安くておいしいのよ〜、私ならフルーツサンドつくるな!」なるほど……!
意見どおりスイカを買った(志村けんのスイカ食いをする松野さん)。
ほかにも色味を考えてレタスなどをゲット!
そして1963年の開業と歴史のあるヨークフーズ(元イトーヨーカドー)でホイップを買った。年季の入ったローカルスーパーといった佇まい。
さすが立石だ、食材の調達にまったく困ることなく買い物完了。
なお、いま周ったのは、駅を降りて南側。線路をわたり、再開発が進んでいる北側にも行ってみよう。
「昭和」が消えていく北側見慣れていた立石一帯の踏切は、高架化していくので無くなる予定だそうだ。隣の青砥駅から電車が急カーブで曲がってくるところが撮り鉄に人気だが、いずれは見られなくなってしまう。
撮り鉄に人気のフォトスポット。見られなくなる前にぜひ!
この雰囲気のいい横丁もなくなってしまうそうだ。
まさに「な…なにィ!?」な気持ち。
なお、立石の飲み屋は「酔ってる人は入店不可」など独自ルールがあるお店もたくさん。こちらは貼り紙に書いてあります。
松野さんがいつも気になっている床屋さん。「王朝ヘアー」って、どんなヘアスタイルにしてくれるのだろう。
中学生の時に男子に混じって入り浸っていたゲーセン。残ってほしい!
だいたいこの辺りまでが取り壊されちゃうみたいですよ、と松野さんが教えてくれるのだが、現実味がない。
若鶏唐揚げで有名な〈鳥房〉は? 私の大好きな焼肉屋〈牛坊〉は? どうなってしまうのだ……。というか既に、跡形もないエリアがあって、ジワジワと昭和が消えて行っているのがわかる。目に焼き付けるように練り歩いた。
私のイチオシの〈焼肉 牛坊〉。おいしくて毎回昇天します。
派手な恰好の人が歩いていたので避けようと思ったら、松野さんのお知り合いだった。アニソンカラオケバー〈居酒屋 クール〉の店長さん。
中をのぞくと昼間からパーティ。いろんなアニソンが流れてカラオケができる。
立石には独自ルールがあって緊張しちゃう居酒屋も多いけど、こうやって気軽に入れるノリのいいお店もたくさんある。今のうちにいろいろのぞいておかなきゃな。
いざ、サンドイッチをつくる!つくる場所を考えていなかった、と伝えると、急遽松野さんのお店の庭を使わせてもらえることに。
松野さんのお店〈まつの接骨院〉。中に入ると妖怪のフィギュアやら掘ってきた石やら、ユニークなものがたくさんある変わった接骨院です。イベントもやるよ。
今回調達してきた食材たち。2種類つくります!
調理器具もそろっていてありがたい!
今回は、洋品店のお姉さんのアイデアも取り入れて2パターンつくってみる。ご飯系は小堺が担当、フルーツサンドは松野さん担当だ。
まずは小堺担当。ダブルチーズパンは大胆に半分にしてみた。さらに横に切れ目を入れる。チーズがたっぷり入っていておいしそう!
そこにレタス、きゅうり、ハムかつをイン!
やばいくらいの照りを放つじゃがいもをイン!
さらに生姜天をイン! この破壊力よ〜……! 中央をがぶりといきたい。
チーズと赤い生姜のおかげで彩り美しくできた。毎度のことながら欲張って盛りだくさんではあるが、おいしさが100%保障されているといっていい見た目だ。
さて、フルーツサンド担当の松野さんのほうはどうだろう?
スイカを薄く切って、
念のため買っておいたミニサイズの食パンにホイップをオンして、(よく見ると立石の文字)
スイカとシャインマスカットをうまいことオンして、
シリーズ初のフルーツサンド、でーきた〜!
フルーツによってはつくっている間に変色していってしまう。それにフルーツは水分たっぷりなので、そのままパンにはさんでしまうと果汁がパンに吸い込まれてなんとも残念な食感になる。でも、ホイップクリームがクッションになってくれて、おいしくいただけるわけだ。
どっちもおいしそうにできました!
実食!
シミジミ…すべてのおいしさがかけ算されちゃってるでしょこれ。
じゃがいものタレの沁み具合を見てほしい。
食べる前から確信していたけど、すごくおいしい……。甘辛いじゃがいもも、チーズも、生姜天のピリッと感も、ハムかつも、野菜たちも、パンも、まるでチームメイトのように協力しあっている。
最高のサッカーチームキャプテン翼で例えるならば、じゃがいもは、キラキラと輝きみんなを魅了する我らがストライカー大空翼。生姜天は、個性が強く好きな人にはたまらないパワー系の日向小次郎。ハムかつは、ほかのメンバーのアシストが上手で安定感のある岬 太郎。生野菜たちは、脇役ではあるものの、なくてはならないチームの盛り上げ役、石崎 了。そして大きいチーズパンは、試合全体を見渡しメンバーをまとめる天才ゴールキーパー、若林 源三といったところか。
(小学校時代にアニメで見たときの印象だけで書きました)
フルーツサンドもかぶりつく。パンがやわらかくてめちゃくちゃ合う!
自分でつくると好きなだけフルーツを入れられるのがたまらない。さらに私はシャインマスカットをいくつかほおばってから食べた。
スイカとマスカットのすっきりとした甘さとホイップの柔らかな甘さ……まるで立花兄弟のように息が合った連携プレーじゃないか。はじめてスカイラブハリケーンを見たときのような感動を覚えた。
長楽製パンで買っていた生食パンもものすごく合う。翼君は事あるごとに「ボールはともだち」と言っているが、この商店街サンド企画においては「パンは友達」と言い張っていこうと思った。今回の案内人、松野さんにも感想をいただいた。
「「せんべろ」「東京の酒都」「モツニーランド」などなど、どうしても外の人からは吞兵衛ワードしか出てこない立石で、こんなにおいしくて映えるサンドができ上がるなんて! 普段当たり前に過ごしていた我がまち。あらためて紹介することで、まち並みの変化やお店の方との他愛ない会話、そして何より地元愛溢れるレシピとの出合い……大切にしたいことの気づきをたくさん得られたと思います。 お声がけありがとうございました! (旧制が若林だったので、親戚一同あだ名が「源三」だった松野より)」
なんと、あだ名が源三だったという松野さん。これからも立石を守ってください。ありがとうございました!
●四つ木〜立石商店街サンドレシピ・長楽のパン(ダブルチーズパン、生食パン) 788円・愛知屋のハムカツ 90円・生姜天 130円・玉起屋の新じゃが煮 100g 160円・ベアー青果のレタス、キュウリ、スイカ、シャインマスカット 2000円・ヨークフーズのホイップ 267円ーーーーーーーーーーーーーーーーー合計 3435円
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Maruko Kozakai
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
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撮影:水野昭子