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秋田のまちを「森」に見立てた展覧会を開催。「ケズリカケ」という技法に魅了される

  • 2022年12月14日
  • コロカル

秋田の「まち」を「森」に見立てる

秋田市で、美術作家・臼井仁美さんによる展覧会『やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々』が開催されています。

主に「木」を作品の素材とし、「人間の自然への眼差し」に焦点を当てた制作を行っている臼井さん。本展覧会では、秋田の「まち」を「森」に見立て、まちなかの蔵や家屋から借りられる(採集できる)家具や道具を探すところから滞在制作はスタートしました。

明治創業の〈高砂堂 本店〉では、かつてお菓子を入れるために使用していた木箱「番重」を採集。もろこし型とともに展示されています。店舗は大正時代建設で、国の登録有形文化財でもあります。

明治創業の〈高砂堂 本店〉では、かつてお菓子を入れるために使用していた木箱「番重」を採集。もろこし型とともに展示されています。店舗は大正時代建設で、国の登録有形文化財でもあります。

「森」に見立てたまちから採集された家具や道具は、言わば「原木」。展示されている作品には、これら「原木」に、臼井さんによる「ケズリカケ」が施されています。

〈08COFFEE〉で使用されているブックスタンドに施された「ケズリカケ」。この原木の生い立ちも展示のキャプションを読むと知ることができます。

〈08COFFEE〉で使用されているブックスタンドに施された「ケズリカケ」。この原木の生い立ちも展示のキャプションを読むと知ることができます。

木の肌を、薄く細長く削り垂らす「ケズリカケ(削り掛け)」は、古く祭具などに施されてきたもので、展示によれば、アイヌの祭具「イナウ」、彼岸花として供えられる「削り花」、ドイツの工芸品「シュパンバウム」はじめ、台湾、ラオス、ハンガリー、フィンランドなど、世界中に存在しているものなのだそう。

秋田という「森」から採集した木製品にケズリカケを施すことで、家具や道具という役割の下にある立木であった時の姿が浮かび上がってきます。

〈交点〉のマスターの祖父母が暮らした家屋に残されていたというコテアイロンの柄に施された「ケズリカケ」。モノの物語を店主に聞いてみることも楽しみのひとつです。

〈交点〉のマスターの祖父母が暮らした家屋に残されていたというコテアイロンの柄に施されたケズリカケ。モノの物語を店主に聞いてみることも楽しみのひとつです。

こうした作品がひとつの場所ではなく、〈秋田市文化創造館〉、〈交点〉、〈ココラボラトリー〉、〈高砂堂 本店〉、〈08COFFEE〉、〈PLAY+TOYS のはらむら〉と、まちのあちこちに展示されているのが、本展覧会の魅力。まるで森を歩き、立ち上がる木々を巡るようにまちを回遊する楽しさがあります。

カフェやギャラリー、和菓子店、おもちゃと遊びの専門店など、展示場所のジャンルはさまざまですが、それぞれの場所に息づいてきた原木の物語を体感しながらスポットを巡れば、訪れたことのある場所にも新しい風景が見えてくるはずです。

〈PLAY+TOYS のはらむら〉では、店主から提供された曲げわっぱの部材に「ケズリカケ」が施されたモビールが展示されています。

〈PLAY+TOYS のはらむら〉では、店主から提供された曲げわっぱの部材に「ケズリカケ」が施されたモビールが展示されています。

「ケズリカケ」のおかっぱを被り、「人間に化けた」おもちゃ「どんぐりころころ」も探してみてください。

ケズリカケのおかっぱを被り、人間に化けたおもちゃ「どんぐりころころ」も探してみてください。

会場ごとに絵柄が異なるスタンプを押せるスタンプラリーも開催しているので、押印をお忘れなく。写真右下のスタンプは〈秋田市文化創造館〉で押印できる絵柄。

会場ごとに絵柄が異なるスタンプを押せるスタンプラリーも開催しているので、押印をお忘れなく。写真右下のスタンプは秋田市文化創造館で押印できる絵柄。

また、臼井さんは実際に秋田の「原木採取の現場」もリサーチ。秋田の工芸品「樺細工」の材である山桜の樹皮と、「太平箕」の材であるイタヤカエデの採集場所を、職人に案内してもらいました。

国指定の伝統的工芸品「樺細工」の製造販売業〈八柳〉の材料採集に臼井さんが同行した際の様子。「樺はぎ」と呼ばれる山桜の樹皮を剥ぐ作業をリサーチしました。

国指定の伝統的工芸品「樺細工」の製造販売業〈八柳〉の材料採集に臼井さんが同行した際の様子。「樺はぎ」と呼ばれる山桜の樹皮を剥ぐ作業をリサーチしました。

本展覧会の主催である秋田市文化創造館の1階コミュニティスペースでは、「原木採取の現場」を訪問した際の記録が展示されているほか、閉店してしまった店舗や一般の方から寄せられた原木にケズリカケを施した作品を間近に見ることができます。

市民の方々から寄せられた「原木」を使用した作品が展示されている〈秋田市文化創造館〉の展示スペース。

市民の方々から寄せられた「原木」を使用した作品が展示されている〈秋田市文化創造館〉の展示スペース。

2021年に閉店した〈秋田彩画堂〉からは、店内に残る額縁が提供されました。

2021年に閉店した〈秋田彩画堂〉からは、店内に残る額縁が提供されました。

ダイニングチェア、木べら、梯子など種類はさまざま。ケズリカケの作品たちからも、臼井さんが持ち主との対話から書き記した文章からも、見慣れた風景や暮らしに眠るまちの物語が浮かび上がってきます。

借家に残されていたという雪かきスコップの柄にも「ケズリカケ」が施され、枝葉のようにも見えます。提供者の長男は、これを「秋田竿燈まつり」で掲げる竿燈に見立てたのだそう。

借家に残されていたという雪かきスコップの柄にも「ケズリカケ」が施され、枝葉のようにも見えます。提供者の長男は、これを「秋田竿燈まつり」で掲げる竿燈に見立てたのだそう。

秋田市文化創造館では、2階も訪れてみてください。天井には秋田市文化創造館の前身である〈旧秋田県立美術館(平野政吉美術館)〉から残された曲げわっぱの装飾があり、そこにも作品を見ることができます。

天井を見上げれば建物に潜んでいた物語に触れることができます。スタンプラリーのスタンプ台があるのも2Fです。

天井を見上げれば建物に潜んでいた物語に触れることができます。スタンプラリーのスタンプ台があるのも2階です。

会期は残りわずかですが、12月17日(土)にはギャラリートークを予定。また、2023年3月には、記録冊子『やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々』を制作予定です。秋田でのリサーチの記録はもちろん、展覧会後は持ち主の元に帰っていくケズリカケ作品たちの記録が1冊にまとめられます。希望者への郵送も予定されているので、秋田市文化創造館のホームページも引き続きチェックしてみてください。

information

展覧会『やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々』

⽇時:2022年11⽉23⽇(⽔・祝)〜12月18⽇(⽇) ※営業時間・営業日は会場により異なる

会場:秋⽥市⽂化創造館 、交点、ココラボラトリー、⾼砂堂 本店、08COFFEE、PLAY+TOYS のはらむら

観覧料:無料(※会場によってはワンドリンクの注文が必要)

Web:展覧会『やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々』

Web:秋田市文化創造館

Web:記録冊子郵送希望申し込みフォーム ※郵送無料で、2023年3月を予定

*ギャラリートーク

日時:2022年12月17日(土)15:00〜16:30

会場:秋⽥市⽂化創造館 1Fコミュニティスペース(秋⽥県秋⽥市千秋明徳町3-16)

参加料:無料

登壇:臼井仁美さん(美術作家)、⽯倉敏明さん(秋⽥公⽴美術⼤学准教授、芸術⼈類学者、神話学者)

web:ギャラリートーク申し込みフォーム

writer profile

Haruna Sato

佐藤春菜

さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。

credit

撮影:中島悠二

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