少しずつ気温も下がり、あったかい食べ物が欲しくなる季節がやってきました。冬のあたたかメニューといえば、そう「鍋」です。
今回は全国にお住まいのみなさんに地元で食べられている「鍋」について紹介してもらいました。
知っている具材や鍋料理も地域によって呼び名が違ったり、みんなが知っているあの名物が地元ならではのつくり方で食べられています。晩ごはんの参考にしてみてください。
さてさて、今月のテーマはそれぞれの地域の「鍋」。
山形県には芋煮があるし、秋田県にはきりたんぽ鍋がありますが、あらためて考えてみると「新潟ならではの鍋ってなんだろう……」と、悩んでおりました。
ところがバイパスを運転中に突如閃いたのです!
「そうだ! 実家のある南魚沼市では鍋のお供に神楽(かぐら)南蛮※と麹でつくった辛味調味料が、食卓に登場しているではないか」と。※夏に採れるピーマンのような形のコロッと太った唐辛子。
実家で食べるこの「神楽南蛮の辛いやつ(正式名称不明)」は、義妹のおばあちゃんお手製の逸品。ただ辛いだけじゃないんです。神楽南蛮のフルーティーなさわやかさと麹のまろやかさが、鍋のうま味をググンと引き上げてくれる、そんな鍋の名脇役。
調べてみると神楽南蛮は南魚沼市の伝統野菜なのだそう。もしかしたら地元で脈々と受け継がれてきた神楽南蛮を常備するために考えられたのが、この辛味調味料なのかもしれません。
義妹撮影「神楽南蛮の辛いやつ」。
ただこの辛味調味料、実家には大切に保管されていたとしても、我が家にはございません。ましてやおばあちゃんと同じように手づくりすることもできません。
代わりに、新潟県内であれば比較的どこでも手に入りやすい妙高市(新潟と長野の県境)の名物、かんずりで鍋をいただくことにしました。
〈越後妙高かんずり〉。
上から見てもかわいい。
かんずりは唐辛子が原材料ですが、神楽南蛮の辛味調味料と同じくフルーティーさを感じられます。
せっかくなので、ほかの具材もいくつか新潟の食材を選んでみました。
南魚沼市の名産〈八色しいたけ〉と阿賀野市の〈川上どうふ〉。
調理を進めて気がついたことが。「そうだ、そうだ。このキュートな土鍋も三条市でつくられたお鍋なんだよね」
株式会社クリヤマの〈耐熱セラミック土鍋〉。めちゃくちゃキュートで、そして軽い。ちなみに我が家は米もクリヤマさんの〈かまどご飯釜〉で焚いています。
「新潟の鍋ってどんなのだろう」と、考えあぐねていましたが食材も豊富でキッチンツールのメーカーもたくさんある新潟県だったら、食材も調味料も調理器具も「すべて新潟産の鍋」がつくれそうです。
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齋藤悦子 さいとう・えつこ
新潟在住のフリーライター。しばらく勤め人でしたが、ひょんなことからライターの道へ。南魚沼市→新潟市→阿賀町→新潟市と県内を転居する生活をしています。寝るのが大好き、朝が苦手、スノーボードとたまに登山、ラジオとエッセイとレモンチューハイが好き。Instagram:@suzuki_epi/
秋田の鍋といえばきりたんぽ鍋が有名。でも、実は秋田市では「だまっこ鍋」の方が人気を博しています。(「だまこ」と、呼んだりもします)
だまっことは、炊いた米を半殺し※にしてひと口大に丸めた「おにぎり以上、お餅以下」のような状態のものです。もっちもちで子どもも大好きなんですよ。市販のだまっこも販売されています。※すり鉢で米を半粒状態まですりつぶして練ったもののこと。
子どもたちは自分のだまっこがわかるように形を変えて楽しみます。
きりたんぽは、棒に巻きつけてから焼く作業があるのですが、だまっこはそのまま鍋に投入するので手間要らず。「何が違うの?」と、思うかもしれませんが、鍋に入ると大変身!味の染み込み方や崩れ方、食感も違ってくるんです。
鍋の味はなんでもOKで、味噌やちゃんこ鍋に投入してもおいしいですよ。今回、私は秋田定番の比内地鶏スープでつくってみました。
比内地鶏スープで一緒に入れる外せないものが、ごぼうとせり、舞茸、鶏肉です。
ポイントは、ふたつ。その1、 せりは根っこまで全部入れること。シャキシャキしておいしいんですよ。その2、 ごぼうはスライスして水に浸して入れること。こんなにおいしいごぼうの食べ方はほかに知りません。
だまっことせりは最後に入れますが、そのほかはクタクタになるまで煮込みます。
翌日におうどんにリメイクするのもおいしいです。何度でも楽しめるだまっこ鍋。ぜひ試してみてくださいね。
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重久 愛 しげひさ・いつみ
「死ぬまでには一度は行きたい場所」で知られる鹿児島県与論島出身。2019年に縁あって秋田県秋田市にIターン。よそ者から見た秋田市の魅力や移住に至る経験を生かして、秋田市の地域おこし協力隊に着任。現在は、OGとして秋田市に定住し、秋田県のヨガ連盟の立ち上げ、スタジオ ヨガの秘密基地を主宰している。
家庭の味として親しまれ、若い世代にも馴染み深い郷土料理「はっと」。
一度に具材いっぱいに大きな鍋で煮込みます。
いわゆる「すいとん」のことを言い、私にとっては「鍋料理」と同じ感覚で寒い時期に食べたくなります。
つるつるモチモチとした食感が特徴で、水餃子の皮やワンタンを思わせます。
ひと口食べれば病みつきな食感!
一説には米が不作の時代に代わりに食べられるものを……、ということで「はっと」がつくられるようになったそうです。 東北地方に広く伝わり、「ひっつみ」、「とってなげ」、「つめり」、「きりばっと」、など地域によって呼び方もさまざま。 奥州市では「奥州はっと」という名前で地元の食としてもPRされているんですよ。
はっとの語源は諸説ありますが、奥州エリアの小麦製粉方法の「八斗」に由来するとも言われています。
コロナ前には、民泊体験をした海外の方々もはっとづくりに挑戦(2019年の様子)。
つくり方は小麦粉と水を練り合わせて寝かせた生地を薄く伸ばしながらちぎって鍋に入れて煮込みます。
生地はこんなにも伸び〜〜〜る!
具材やだしは季節や家庭でそれぞれ。地元のマダムたちの間では粉や生地の熟成具合などにも独自のこだわりがあるそうです。
スーパーに並ぶすいとん粉の種類も豊富。
食卓はもちろん、地域行事など人が集まった際に大きな鍋で煮込まれて参加者全員に振る舞われます。また汁物だけではなく、ずんだやあんこ、カボチャを絡めたスイーツ感覚の食べ方もあり、なかなか奥深い「はっと」です。
市内には「はっと」が食べられるお店も。メニューがたくさんあって悩んでしまいます。
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小川ちひろ おがわ・ちひろ
遊軍スタイルフリーコーディネーター。東京出身。オーストラリアや台湾での海外生活も経験する放浪人間。異なる文化や感覚を持つ「人」に興味を抱く。 転職を機に〈地域おこし協力隊〉の制度を活用して岩手へ移住。現在は遊軍スタイルのフリーコーディネーターとして、旅するように東北の暮らしを堪能中。フットワークの軽さとコミュニティの広さをいかして、人をつなげてケミカルな反応が起こる「場」や「間」を創り出すことを楽しんでいる。
休日や冬場は行列が絶えない〈塚田水産〉。 東京の鍋といえばちゃんこ鍋や柳川鍋などが思いつくのですが、武蔵野市ならではの鍋がないので、吉祥寺の商店街「ダイヤ街」にある〈塚田水産〉のおでん種(だね)を、武蔵野市のお鍋として紹介します。
〈塚田水産〉は、創業70年になる老舗蒲鉾店です。職人による手づくりの練り物は保存料不使用。昔ながらの商店街の店先に、常時40種類以上のさつま揚げが店頭に並びます。定番の商品のほかに、餃子巻やしゅうまい巻などの変わり種もあり、その品質の良さから、「農林水産大臣賞」と「東京都都知事賞」を受賞しています。夏はさっと炙ってビールと共に、そして冬はおでんと日本酒で!1年を通して地元民に愛されている練り物なんです。
そして、今回お題となったお鍋は、同店の練り物を使っておでんをつくりました。あれもこれも選んだら、とても賑やかなおでんが完成!(笑)
魚のすり身を小さく揚げた「ちぎり」やおつまみ玉ねぎ、おつまみごぼう、そしてすり身にパン粉をまぶして揚げた吉祥寺揚げも吉祥寺名物になっています。
おすすめは「タマネギ天」。おでんのだしにも合いますが、コンソメとの相性もよく、ポトフの具などにも最適です。
吉祥寺にお越しの際は〈塚田水産〉で、おでん種選びを楽しんでみてくださいね!
information
塚田水産
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-8
TEL:0422-22-4829
営業時間:10:00〜18:30
定休日:1月1日〜1月3日
Web:塚田水産
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Momo*Kinari きなり・もも
ライター・エディター。東京在住。Webや雑誌、旅行ガイドブックで撮影・執筆。 国内外でグルメや観光スポットを取材。たまに料理やモノづくり、イラストの仕事もしています。 Twitter:@Momo_kinari
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齋藤悦子/重久愛/小川ちひろ/Momo*Kinari
Etsuko Saito, Itsumi Shigehisa, Chihiro Ogawa, Momo*Kinari