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廃校での年3回の展覧会がついにフィナーレ!「本物」が集まった40日間を振り返る

  • 2022年10月5日
  • コロカル

撮影:佐々木育弥

年3回の開催で4300人が来場!

岩見沢市の山あいにある、3年前に閉校した旧美流渡(みると)中学校にて、私が代表を務める地域PR団体が、今年は年3回、ふたつの展覧会を同時開催してきた。地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』と美流渡に移住した画家・MAYA MAXXさんによる『みんなとMAYA MAXX展』。春、夏、秋で合計40日間開催した展覧会が、先日ついに閉幕した。

校舎のひさしには、MAYA MAXXさんが制作した赤いクマの立体「Amiちゃん」が設置され、来場者を出迎えた。

校舎のひさしには、MAYA MAXXさんが制作した赤いクマの立体「Amiちゃん」が設置され、来場者を出迎えた。

美流渡地区は過疎化が進んでおり、人口わずか330人。告知も会場設営も、参加メンバーが知恵を出し合い手づくりだったけれど、札幌や空知(そらち)管内などから多くの人が足を運んでくれ、トータルで約4300人の来場者があった。秋の開催で実施したアンケートによるとリピーターが約半数。徐々にこの展覧会が定着していることが実感できた。

MAYA MAXXさんが筒状の段ボールに絵を描いた作品。「どうくつ」というタイトルで、子どもがくぐって遊べるようになっている。(撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXXさんが筒状の段ボールに絵を描いた作品。「どうくつ」というタイトルで、子どもがくぐって遊べるようになっている。(撮影:佐々木育弥)

地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』。アクセサリーや陶芸などさまざまな作品が並んだ。(撮影:佐々木育弥)

土日祝日を中心に、屋外ではソフトクリームやパスタ、ピザ、季節のケーキ、カレーなどの店舗が登場した。(撮影:佐々木育弥)

 

秋のみる・とーぶ展では、作品発表とともに、土日祝日はイベントが目白押しだった。特に人気だったのは、MAYAさんによる『自画像を描こう』。

「鏡で自分の顔をよーく見てください」

そんなMAYAさんの呼びかけから始まり、目、まつげ、まゆ、鼻と顔のパーツを順番に描き、パーツが全部描けたあとに輪郭を描いていった。

撮影:佐々木育弥

撮影:佐々木育弥

 

MAYAさんによると、最初に輪郭を決めてしまうと、そこに収めなければならないという意識が働き、のびのびとした気持ちで描くことができなくなってしまうそうだ。また、描いたのは紙でなくキャンバス。一度はキャンバスに絵を描いてほしいという思いと、子どもが描いた絵は、年月が経つと整理してしまうことが多いが、キャンバスであれば大切に保管してもらえるのではないかという思いからだ。

「子どもが描いた自画像は、リビングなど、よく見える場所にかけておいてほしいです」

年齢ごとの自分の顔を残しておくのは大切なことだとMAYAさんは語った。

自画像を描いた参加者と記念撮影。(撮影:佐々木育弥)

自画像を描いた参加者と記念撮影。(撮影:佐々木育弥)

ほかにも、東京から駆けつけてくれた、ニードル作家の岩切エミさんによる、使われなくなったカシミアのセーターをよみがえらせる花形のアクセサリーづくりをはじめ、ガラスアクセサリーづくりや、木のスプーンづくり、アフリカ太鼓の演奏体験、ハーブティーの試飲会、ソバの脱穀体験、坐禅会など、本当にさまざまなワークショップが行われた。

〈E.I〉という名で活動する岩切エミさん。使われなくなったカシミアのセーターやスカーフなどを素材に、カラフルなアクセサリーを制作。

カシミアのセーターを素材に花のブローチをつくるワークショップ。

上志文(かみしぶん)地区にある〈すずかぜcafe〉によるガラスアクセサリーのワークショップ。

アフリカ太鼓のワークショップ。子どもたちがたくさん参加。

土日祝でハーブティーの試飲会を開催した〈麻の実堂〉。月1回のワークショップ『魔女のお茶会』では、今回はハーブを使ったお香づくりを体験。

 

また、岩見沢市内や美唄、栗山などでこれまで活動をしていた〈岩見沢友の会〉による、必要な方へ子ども服を提供する『おさがりひろば』や〈日本ホスピタル・クラウン協会〉による『ウクライナ・ロシア・ベラルーシの小児病棟で出会った笑顔』展なども行われた。いずれも、春や夏の展覧会の際に校舎を訪れてくれた市民のみなさんの提案による企画。こんなふうに展覧会は多様な広がりを見せている。

体育館は、子どもが自由に遊べる場『ぼうけん遊び場』として開放。(撮影:佐々木育弥)

体育館に設けられた『おさがりひろば』。サイズ別に洋服が並べられている。

『ウクライナ・ロシア・ベラルーシの小児病棟で出会った笑顔』展では、3か国の病棟を訪ねたクラウンとの触れ合いの様子を紹介した。

 

さらに、今年の夏からは音楽イベントも盛り上がるようになっていて、ペルーの民族音楽を演奏する〈ワイラジャパン〉や、ギニア出身のアフリカ太鼓の名手・ソロケイタさんのライブが行われた。

きっかけは、近隣の万字(まんじ)地区に住むアフリカ太鼓の奏者・岡林利樹さんと『みる・とーぶ展』に参加するみんなでつくっているアフリカ太鼓のバンド〈みるとばぶ〉。ここに関わるメンバーとミュージシャンらが知り合いだったことがライブの実現につながった。

秋には、札幌で活躍する三味線奏者と視覚に障がいのあるギタリストのデュオ〈テクニカルフィンガーズ〉がオープニングを飾るライブを行ってくれた。

札幌を拠点に活動する〈テクニカルフィンガーズ〉。生まれつき視覚に障がいのある”ギターのてっちゃん”と、心を合わせるため瞳を閉じて演奏する”三味線のしんちゃん”によるデュオ。

札幌を拠点に活動する〈テクニカルフィンガーズ〉。生まれつき視覚に障がいのある”ギターのてっちゃん”と、心を合わせるため瞳を閉じて演奏する”三味線のしんちゃん”によるデュオ。

本物の演奏と、本物の作品に出合える場

そして9月25日。展覧会最終日には3本のライブが行われた。札幌が拠点のジャムセッションバンド〈ALAR〉。「ニッポン全国市町村公演」を掲げ、地方に生の音楽を届けたいと活動する〈北海道歌旅座〉。フィナーレの恒例となった地域のアフリカ太鼓バンド〈みるとばぶ〉。

〈ALAR〉の演奏。4年前に結成してからコツコツと練習を続け、今回が初ライブとなった。

〈ALAR〉の演奏。4年前に結成してからコツコツと練習を続け、今回が初ライブとなった。

私は朝から体育館で椅子を並べるなど準備を行っていた。そのとき、いつもライブに来てくれる男性に声をかけられた。

「毎回、豪華な演奏者を呼んでいて、すべて無料で行われているのはどうしてですか?」

私は主催者のひとりではあるけれども、その質問にはっきりと答えることができなかった。〈北海道歌旅座〉は、近隣にある〈栗沢仏教会〉がチャリティー公演として旧美流渡中学校を会場に選んでくれた。それ以外のミュージシャンは、こちらから出演料をお支払いしているわけではなく、いずれも「投げ銭」形式。にもかかわらず出演してくれるということは、みる・とーぶを応援したいという気持ちを持ってくださったり、この山あいの地域に何かしらの可能性のようなものを感じてくださったりしているのかなと思うと返事をすると……。

「まちなかより、ここには本物があるね」

そう男性は話してくれた。この言葉は、本当にうれしかった。音楽ライブも、MAYAさんの作品も、地域のつくり手の作品も、本物であると私も思う。それは、自分の全身全霊を傾けて生み出した表現であると言い換えることができるのかもしれない。

MAYA MAXX「親しみのある愛情」1〜8  北海道で手に入れた板にクマなどの動物の姿を描いた作品(撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXX「親しみのある愛情」1〜8  北海道で手に入れた板にクマなどの動物の姿を描いた作品(撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXX「Seven Indians」1〜7  (撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXX「Seven Indians」1〜7  (撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXX「10 supporters」 20年以上前、〈ラフォーレ原宿〉で個展を開催していた頃に制作。自分を無条件で応援してくれるものたちがいたらどんなにいいだろう、そんな思いから生まれた。(撮影:佐々木育弥)

MAYA MAXX「10 supporters」 20年以上前、〈ラフォーレ原宿〉で個展を開催していた頃に制作。自分を無条件で応援してくれるものたちがいたらどんなにいいだろう、そんな思いから生まれた。(撮影:佐々木育弥)

〈北海道歌旅座〉のライブには、地域のシニアのみなさんが大勢詰めかけた。2009年に旗揚げし、夕張でのコンサートからスタート。炭鉱で活況を呈した時代に思いを馳せる夕張をテーマにした曲や、昭和の名曲が歌われた。

美流渡地区ではコロナ禍となって、恒例の盆踊りや、地域のホールで開催されていた生バンドの演奏やカラオケ大会といった秋祭りのイベントもすべて中止となっていたので、地元で生の演奏を聞く機会は、本当に久しぶりのこと。そんな場が美流渡に戻ってきて、心の底からよかったと感じ、思わず目が潤んだ。

北海道歌旅座のメンバー。北海道180市町村すべてでコンサートを開こうと活動をはじめ、現在では「ニッポン全国市町村公演」を行うべく旅を続ける。

北海道歌旅座のメンバー。北海道180市町村すべてでコンサートを開こうと活動をはじめ、現在では「ニッポン全国市町村公演」を行うべく旅を続ける。

そのあとに〈みるとばぶ〉の演奏。これで最後だという気持ちを込めて、太鼓を叩いた。春、夏、秋と開催した、さまざまなことが頭のなかを駆け巡った。

振り返れば、雪解けの3月から準備を始めて4月末に展覧会がスタート。春の開催のあと、夏までの準備期間は2か月と少し。さらに夏と秋との開催の間は、わずか1か月半。終わった途端に次の準備を始めなければならないような状態で、つねに前のめりで制作や事務作業に追われてきた。

参加メンバーとは毎日のように顔を合わせて、まるで文化祭のような賑わいの日々。そんな日々がなくなるのかと思うと、風景が色褪せて見えるような感覚があった。しかも9月中旬を過ぎれば、北海道は日を追うごとに冷え込んでくる。短い秋の後に訪れる圧倒的な冬。冬の足音がリアルに感じられる季節であったことも、寂しさに拍車をかけていたのかもしれない。

「みるとばぶ」の演奏。

クラウンたちがサプライズでやってきてくれて、会場を賑わせた。

 

すべてが終わって、メンバーへMAYAさんがこんな言葉を投げかけた。

「寂しいなんて言ってられないよ。また、来年がすぐに始まるよ!」

この言葉でハッと我にかえった。確かに少し期間はあくけれど、来年の開催まで準備期間は約半年。長いようであっという間に春は巡ってくるに違いない。しかも、よくよく考えれば10 月も旧美流渡中学校ではイベントが満載。文化祭のような日々は、まだまだ続くのだった。

10月ワークショップの予定。このほかに10月15日には、蕎麦の製粉体験を行う『畑の声を聞こう』と、ハーブの収穫体験やブレンドが味わえる『魔女のお茶会』も開催。

10月ワークショップの予定。このほかに10月15日には、蕎麦の製粉体験を行う『畑の声を聞こう』と、ハーブの収穫体験やブレンドが味わえる『魔女のお茶会』も開催。

とにかく、すべての日程が、大きなトラブルもなく終わることができたことに感謝したい。そして、旧美流渡中学校に想いを寄せ、たくさんの協力をしてくださったみなさん、この場を借りてお礼を申し上げます。

本当にありがとうございました!!!

秋の展覧会期間中に栗沢小学校の児童が展覧会を訪ね、MAYAさんと大きな絵を描くワークショップも行った。

秋の展覧会期間中に栗沢小学校の児童が展覧会を訪ね、MAYAさんと大きな絵を描くワークショップも行った。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/

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