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倉庫の中に家を建てた!? 古いものに囲まれる暮らしを実現した骨董屋とは?

  • 2022年8月25日
  • コロカル

硫黄山の麓にある骨董屋〈温古知新〉に惹かれるのは、なぜ?

日本最大の屈斜路カルデラの中にあり、屈斜路湖と摩周湖の中間に位置する活火山。アイヌ語では、「アトサヌプリ(裸の山の意)」と呼ばれる。

日本最大の屈斜路カルデラの中にあり、屈斜路湖と摩周湖の中間に位置する活火山。アイヌ語では、「アトサヌプリ(裸の山の意)」と呼ばれる。

森と湖と火山があるまち、弟子屈には有名な観光地として、摩周湖と屈斜路湖に加え、硫黄山がある。毎日噴煙を上げている活火山は、ネオンイエローの噴気孔を間近で眺めることができる、ダイナミックな場所だ。

明治時代には硫黄の採掘が行われ、輸送のために北海道で2番目に鉄道が敷かれた。その後のJR釧網本線や釧路の繁栄につながったといわれる。

明治時代には硫黄の採掘が行われ、輸送のために北海道で2番目に鉄道が敷かれた。その後のJR釧網本線や釧路の繁栄につながったといわれる。

ここから徒歩で約20分。車ならほんの数分のところに、週末だけ営業する骨董屋がある。店の名前は〈温古知新〉。「温故」ではなく、「温古」。経営者のひとり、池上典古(のりこ)さんの名前に由来する。「名前に『古』という字を使ってくれた。親には本当に感謝しています」とうれしそうに話す。

ブロック塀の壁を白くペイントした大きな倉庫の広さは、約180平方メートル。この建物が、〈温古知新〉のショップ兼、池上さんの住居である。

ブロック塀の壁を白くペイントした大きな倉庫の広さは、約180平方メートル。この建物が、〈温古知新〉のショップ兼、池上さんの住居である。

というのも、典古さんは骨董屋の仕事が大好き。訪ねるたびに、「楽しくてしょうがないの」と言いながらいきいきと働く姿に、弟子屈町民はたくさんの元気をもらっている。「古いものを当たり前に使っていた家に育ったので、大人になっても古道具に囲まれた生活がしたい、これが私の夢だったんです」

昭和5年に開業した川湯温泉駅(当時は川湯駅)は、赤い三角屋根のノスタルジックな建物。天皇陛下のための貴賓室も残されている。

昭和5年に開業した川湯温泉駅(当時は川湯駅)は、赤い三角屋根のノスタルジックな建物。天皇陛下のための貴賓室も残されている。

大阪出身の典古さんは、23歳のとき硫黄山の麓のまち、弟子屈町川湯にやって来た。1990年代、日本全国を巡りながら、行く先々で働いて、お金を貯めては次の目的地へ。そんな旅人になろうと、まずは北海道を目指したのだそう。

「当時好きでたまらなかった真っ赤なランクルを買って、実家の駐車場に停めて眺めながら、毎日教習所に通ったの。いま考えると、すごいよね。免許取る前に、車を買っちゃった(笑)」

釧路から網走まで。道東エリアを南北に走る、JR釧網本線は路線距離約166キロ。弟子屈町内の川湯温泉駅は、そのほぼ中間にある。

釧路から網走まで。道東エリアを南北に走る、JR釧網本線は路線距離約166キロ。弟子屈町内の川湯温泉駅は、そのほぼ中間にある。

知人の紹介で住み込みのアルバイトを始めたのが、川湯のクリスチャンセンターだった。

「夏休みになると都会の小学生がやって来て、2週間のキャンプ生活。釣りをしたり、硫黄山に登ったり。そのお手伝いが楽しくて……」

旅のスタート地点だったはずなのに、すっかり定住してしまった。4月に免許を取って、6月からアルバイトを始めて、12月には結納(!)を交わしていたというから驚き!!

釧網本線に沿うように走る国道391号線から駅に向かう道に入ると、温古知新の看板が立っている。駅前にはほかに、ケーキ屋、雑貨店、酒屋が並ぶ。

釧網本線に沿うように走る国道391号線から駅に向かう道に入ると、温古知新の看板が立っている。駅前にはほかに、ケーキ屋、雑貨店、酒屋が並ぶ。

典古さんを川湯に留まらせたのはもちろんご主人の忠昭さんの功績だけど、川湯の力も大きかった。

「本州とは何もかもが違う。車で走っても気持ちがいいし、星空はすごくきれいだし、見るものすべてに感動していた。こんな場所で生活できるなんて、本当に幸せ」

その思いは、30年近く経ったいまも変わらない。

夢の実現を予感させた、大きな倉庫

「都会の骨董屋に比べると『安い』と言ってもらうことが多いけれど、家賃は必要ないし、店の外に商品を並べていても誰も持って行かないし(笑)、恵まれた立地です」

「都会の骨董屋に比べると『安い』と言ってもらうことが多いけれど、家賃は必要ないし、店の外に商品を並べていても誰も持って行かないし(笑)、恵まれた立地です」

温古知新は、JR釧網本線川湯温泉駅から徒歩3分。池上夫妻は結婚してまもなく、駅前の元農協の倉庫を購入した。

「ガランとしたブロック造りの倉庫だけど、とにかく大きくて中に何でも造れると思ったの。それが魅力だった」

そして忠昭さんが、廃材を使って3年かけて、倉庫の中に家を建てた。古いものにぐるりと囲まれる、典古さんにとって理想の暮らしの第一歩が始まったのである。

東に中標津や根室、西には北見、南に釧路、北には知床や網走。道東の真ん中に位置する、弟子屈町。「近郊の常連さんが多くて、みなさん2時間くらいかけて来てくれるんです」

東に中標津や根室、西には北見、南に釧路、北には知床や網走。道東の真ん中に位置する、弟子屈町。「近郊の常連さんが多くて、みなさん2時間くらいかけて来てくれるんです」

骨董は出合い。だから「いま買わないと二度と手に入らない」が信条。結婚以来ずっと、「これいい」と感じたものを集め続けてきた。

「大きな倉庫の中に、拾ったものやもらったものを、どんどん溜めていった。それでも、いざ店を始めるとなると足りなくて、競り場にも出かけるようになりました。これがまた楽しくて……」と典古さん、また顔をほころばせる。夫妻は3人の息子を育て、9年前、結婚20年の節目に店を始めた。

「この倉庫を手に入れた頃は、町内に建て替える建物が多かった時代。解体されると聞くと駆けつけては、気になるモノをもらって溜めていました」

「この倉庫を手に入れた頃は、町内に建て替える建物が多かった時代。解体されると聞くと駆けつけては、気になるモノをもらって溜めていました」

「この倉庫を手に入れた頃は、町内に建て替える建物が多かった時代。解体されると聞くと駆けつけては、気になるモノをもらって溜めていました」

「この倉庫を手に入れた頃は、町内に建て替える建物が多かった時代。解体されると聞くと駆けつけては、気になるモノをもらって溜めていました」

 

店内には、家具、着物、食器、農具……ミルク缶など、いろんな時代のいろんなモノが、所狭しと積み上げられている。何時間でも眺めていたくなる、楽しいセレクト。

その基準を尋ねると少し考えて、「“使える”ということが大切かもしれない。椅子、テーブル、棚……新たな家に行ってもなじむモノ。今日も年配のご夫婦が来て、『これうちにあったよな』とか、『おばあちゃん家にあったね』なんて、ひとつのモノで盛り上がって、時間をかけて見てくれる。そんなときいつも“よかった”って思います」と教えてくれた。

いろんな人の暮らしが詰まった、博物館のような骨董屋。こんな空間ができることも、広大な北海道の自然豊かなまち、弟子屈ならではの利点だろう。

子育ても、定年後も、川湯だから楽しくなる

川湯温泉駅前と硫黄山を結ぶ、青葉トンネル。「郵便局に勤めて10年になるけど、ここ数年は元旦の朝、出勤前にあのトンネルで写真を撮ることが恒例になっているんです」

川湯温泉駅前と硫黄山を結ぶ、青葉トンネル。「郵便局に勤めて10年になるけど、ここ数年は元旦の朝、出勤前にあのトンネルで写真を撮ることが恒例になっているんです」

典古さんが一昨年の元旦に撮影した写真。

典古さんが一昨年の元旦に撮影した写真。

 

「ここ(川湯)だったから、夢が実現できた」

そう語る典古さんが感じている、川湯の魅力は尽きない。たとえば、川湯温泉駅と硫黄山を結ぶ道、“青葉トンネル”。

「雨の日も、雪の日も、若葉の頃も最高。四季を通してすばらしい」

青葉トンネルを抜けたら、硫黄山を眺めながら、東に斜里岳、北に藻琴山を望むこともできる。平日は郵便局で働く典古さんの通勤路は、絶景を貫いているのだ。

川湯温泉から車で約15分のところに、摩周湖を望む展望台がある。湖の美しさに感動し、後ろを振り向くと、硫黄山や屈斜路湖が広がる大地に感動する。日没時は、刻々と変化する空の色が、よりドラマティックな景観を演出してくれる。

川湯温泉から車で約15分のところに、摩周湖を望む展望台がある。湖の美しさに感動し、後ろを振り向くと、硫黄山や屈斜路湖が広がる大地に感動する。日没時は、刻々と変化する空の色が、よりドラマティックな景観を演出してくれる。

川湯温泉から車で約15分のところに、摩周湖を望む展望台がある。湖の美しさに感動し、後ろを振り向くと、硫黄山や屈斜路湖が広がる大地に感動する。日没時は、刻々と変化する空の色が、よりドラマティックな景観を演出してくれる。

川湯温泉から車で約15分のところに、摩周湖を望む展望台がある。湖の美しさに感動し、後ろを振り向くと、硫黄山や屈斜路湖が広がる大地に感動する。日没時は、刻々と変化する空の色が、よりドラマティックな景観を演出してくれる。

 

そして「子どもをここで育てられたことが、本当によかったと思う」と続ける。毎週土曜日の午後は、お散歩が習慣だった。

「保育園がお昼までだから、青葉トンネルを通って硫黄山に行って、レストハウスでソフトクリームやいも団子を食べて、同じ道を帰ってくる」

夕焼けがきれいな平日は、保育園のお迎えに行った帰りに車で15分ほどの展望台まで寄り道。

「保育園のカバンを下げたまま摩周湖の夕焼けに感動して、帰ってきたらお腹がペコペコ。慌てて夕飯の支度をしていました」

そんな日々は子どもたちに、どれほどの影響を与えてきたことだろう。

3人の息子は、みんな15歳まで川湯で育った。「その後はそれぞれの人生を歩んでいるけれど、『離れたからこそ、川湯がすごくいい場所だったって思う』って話しています。それもヨカッタ!」

3人の息子は、みんな15歳まで川湯で育った。「その後はそれぞれの人生を歩んでいるけれど、『離れたからこそ、川湯がすごくいい場所だったって思う』って話しています。それもヨカッタ!」

「郵便局が定年になったら、週末だけでなく毎日、この店をずっと続けていたい。庭の緑が見えるから、窓際に席をつくって、本とか置いて、お茶が飲めるようにしたいの。和菓子もいいね」とさらなる夢を次々と、楽しそうに語る典古さん。

噴煙を上げ続ける硫黄山の麓にある骨董屋〈温古知新〉。大地のエネルギーは人間をポジティブにするのかな、そんな風に感じた。

information

温古知新

住所:北海道川上郡弟子屈町川湯駅前2丁目6−12

TEL:015-483-3351

営業時間:12:00〜17:00

定休日:月〜金曜

Instagram:@onkochisin2013

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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