移住してから自給用の米をつくるようになった津留崎さん、今年も多くの人の協力のもと手作業での田植えで米づくりをスタート。その後の様子を、リアルタイムでSNSに投稿しています。投稿には、日々の喜びや感謝、苦労、悩みなど、米づくりに対する本音が垣間見られました。
今年は春に田んぼの引っ越しをして、下田で最も山深い地域「稲梓(いなずさ)」で米づくりをしています。5月末にみなさまの協力をいただき田植えをしました。(田植えの様子はコチラ)
その後、少なからずのトラブルはありましたが、この原稿を書いている8月初旬まで無事に育ってきています。稲刈りは順調に行けば10月末頃の予定です。
今回は、田植えをした後に稲がどう育っていくのか? 意外と知られていないその様子をお伝えしたいと思い、日々、SNSにあげていた「稲梓の田んぼ記録」シリーズ(?)を見返してみました。いつかこんな記事を書くの日のために、作業中や作業を終えて気持ちがフレッシュなうちに、書き綴っていたのです。
それを見返して、あらためて思ったこと。変にこれをまとめるのではなく、そのまま転載したほうが「移住のリアル」をモットーとするこの連載にあっているのではないか?ということで、SNS(Facebook、Instagram)への投稿を、補足を入れつつ転載します。
ちなみに、自分が取り組むのは「ナリワイ」としての米づくりではなく、あくまで「自給用」です。「ナリワイ」と「自給用」ではかなりその様子が違います。その点、ご容赦ください。稲がどう育つのか? ということに興味がある方や、自分たちのつくる米をつくってみたい! という方の参考になったらうれしく思います。
2022年6月2日 稲梓の田んぼ記録 5日目「補植」田植えした後に流れてしまったところと、植え切れていなかった端っこのほうの補植をする。先日植えた苗は随分と根が伸びていて、成長を感じる。しっかりと水が行きわたるように少し水を増やす。
“朝活、気持ちいい〜。さあ、鉄兵ちゃんが山からたっぷりハチミツの巣枠を持ってくる時間だ。今日もおいしいハチミツしぼるぞ〜。”
「鉄兵ちゃん」とは自分が働く養蜂場〈高橋養蜂〉の高橋鉄兵さんのこと。平日午前中は高橋養蜂で仕事をしているので、その前後に田んぼに行くようにしています。
田んぼの作業は毎日たくさんするものではなく、水の具合をみて、日々ちょっと調整したりというのが多い。そんなこともあり、仕事場か自宅の近くで米づくりをしたいということで、結果、高橋養蜂の近くに、田んぼの引っ越しをした経緯があります。この時期は、高橋鉄兵さんが山から巣枠を持って帰ってきて、自分がその巣枠からハチミツをしぼる作業をしていました。(ハチミツをしぼる過程についてはコチラを。)
2022年6月7日 稲梓の田んぼ記録 10日目「梅雨入りの水管理」“関東は梅雨入り。東海は来週くらいとか遅れてるらしい。下田は一応東海だけど、まあ、関東寄りなので梅雨入りと考えたほうがいいのか。水管理、気をつけねば。稲、無事に育ってます。今のところ、雑草も出てきてない。ありがたや。”
米づくりの肝ともいえるのが「水管理」。適正な水量にすることで、雑草を抑えて、稲を健全に育てます。田んぼに水を入れる配管が詰まったり、大雨の前には水を絞ったりしなければならないので、日々の水管理が欠かせないのです。
“早いもので田植えから半月。あんなにヒョロヒョロだった苗が、だいぶたくましくなってきた。今日は田んぼのある地域の人たちと、水路まわりの草刈り共同作業の日。川から田んぼへの水をひくトコまでの500メートルくらいを草刈りする。
なかなか大変な作業だけど、こんなキレイな川からひいた水で米をつくれるというのは、本当にありがたいことと感謝しながら作業。「水がいいから、うまい米できるぞ〜」と、隣の田んぼの人。どんな米が出来るか?楽しみ。田んぼの端っこのほうに、補植用に置いてた余りの稲もお役御免の時期。とはいっても、捨てるのも忍びない。ので、自宅に持って帰り、バケツ稲ならぬ植木鉢稲にしてみた。花の世話が好きな母に任せてみよう。母は最近、カラダが思うように動かなくなってきているようで、家にこもりがち。日々、外に出る楽しみになってくれたらいいのだが。植木鉢稲、うまく育つかな?こちらも楽しみ。”
田んぼによってどこからどう水をひいているか? さまざまなようです。特に、ナリワイとしての稲作が盛んな平野と、自給用の稲作を行うような山間地域でかなり違うのかと。自分が米づくりを行うのは典型的な自給用の稲作を行う山間地域です。山から近いので、純粋な山の水で米づくりをさせていただいています。贅沢なことなのでしょうが、こうした草刈りなどの負担もそれなりにあるのが現実です。
“朝、隣の田んぼの人から電話がはいる。「昨晩の大雨で田んぼへの水路が氾濫して、水浸しになってる家とか道路があって……。いつもならオレが行くんだけど、今日どうしても行けない。水量の調整のやり方教えたからわかるよね? 行けるかな?」と。
そんなん断れませんっ!!ということで、行ってきました。よく、大雨のときに田んぼの水路を見に行って流される人をニュースで聞く。流されたらまさにそれじゃんか……なんて感じてしまうほどのすごい水量。ビビりながら、水路へ流れる水量を減らすことができた。
近所のおばさまたちも集まってきて、えらく感謝されてしまった。お礼にとれたてキュウリもらったり。お役に立ててうれしいす。
つい最近まで田んぼの水路なんてさわったことすらなかったのに、なんだか不思議な感じ。でも、「すごく助かったけど、絶対に危険なことはしなくていいからね!」とも言ってくれた。そりゃそうです。くれぐれも気をつけます。くれぐれも気をつけましょ。でも、大雨のときに水路にいかなければいけない人がいる、ということもよくわかった。
25日目の稲は、分けつがどんどん進んで随分とたくましくなってきた。すごい生命力。ありがたや。そして、随分と雑草の生えない田んぼだなあと思ってたけど、さすがに生えてきた。これはちと時間をつくって草取りせねば。田んぼに足を突っ込みながら、黙々とする草取り。結構気持ちいいんすよ。どなたか体験したいという人がいれば、いつでも、是非に……。”
植えた苗が育ってくると、その苗の根元から新しい茎が生える。これを分けつといい、一株で茎が20本ぐらいになるまで分けつをさせます。田植えのときは1株3〜5本くらいの苗で植えているので、日に日に分けつが進んでいることが写真を見返すとよくわかります。
“6月?という強い日差し。でも、田んぼを抜ける風が気持ちいい。おたまじゃくしとカエルも気持ちよさそうに田んぼを泳いでる。青空、稲の緑、水の向こうに見える田んぼの土。そのコントラストがとても綺麗〜先日、ねばってやった草取りの成果で、雑草はだいぶ落ち着いた。もう一回、草取りすれば大丈夫そう。そろそろ中干し(事項で説明)。前の田んぼはなかなか水がきれなかったけど、ここはどうだろか。”
“娘と妻は田植え以来の田んぼ。妻と娘、草取り。自分は畦の草刈り。良き時間。ひとりでやるより断然進みが早くありがたい。妻と娘は久々の田んぼというこで、1か月の稲の成長に驚いてた。確かに驚くほどの成長。
でも、そんな成長を止めるべく中干しを始めた。田んぼをやってない人は、中干しってなんぞや? なぜ成長を止める? と思うでしょう。田植えから1か月くらいして田んぼに入る水を止めて、水を切る。それが中干し。いろいろと効果が言われていて、ざっというと…・茎が増えていく分けつをとめて、1本1本を強くする。・土のガスを抜き、土壌環境を健全に。・土の中に酸素をいれて、根を健全にする。などなど。
中干しを終える頃、1本1本がさらにたくましくなってることを期待しつつ、水路の水を止める。子どもも稲も、成長を間近で感じることができるって、きっととっても幸せなことなのだろう。ありがたや。じっくり見守りたい。”
“中干しをはじめて1週間。水が切れて土が割れてきた。
土の中に空気が入って根に酸素がいってる感じ。よしよし。
乾き始めた土の上に足を踏み入れ、取り切れてなかったコナギを抜き取る。3時間やって腰に限界がきたので、残りは来週にしましょ。コナギは8月には花が咲き、種を落とし始める。それまでにはこの田んぼからお引き取り願いたい。ちなみに1株あたり1000粒の種を落とすらしい。恐ろしや。しかしまあ、稲が健全に育つためにどれだけの苦労をしてるのだろうか。
『サピエンス全史』を書いた湯ヴァル・ノア・ハラリさんはヒトは小麦から見たら奴隷だ、なんて表現してたけど、まあ、本当にその通り。わたしゃ稲の奴隷です。
お稲さま、奴隷めが頑張りますので健全に育ってくださいませ。こうして、視点を変えて、視点を広げて世界を見る大切さをあらためて感じている週末でございます。”
“中干しを始めて2週間、稲に迫力が出てきた。大賀茂の田んぼで米づくりを教えてもらっていた先生、大ちゃん(中村大軌さん)は中干しは稲がオトナになるための儀式、と言ってたが、ホントにそんな感じがする。
隣の田んぼの方には、しっかりしてきたなあ〜、色もいいし、いい稲だ!と、お褒めをいただいてしまったよ(うれしい……)。雨が落ち着いたらまた水を入れよう。
オトナになった稲、ぐんぐんおいしい水を吸いこんで花を咲かせて、種籾をたくさんつけてくださいな。はやく雨、落ち着きますように。
昨日は下田市主催の、海について学び行動していくワーキンググループに声をかけていただき参加した。海のスペシャリストが揃うなか、何も海に対しての知識も経験もない自分……。
誘っていただいたのはとても光栄だったのだけど、この場に自分が参加して何ができるのだろうか? どんな意味があるのだろうか? 結構、悩ましかった。でもメンバーを見る限り、海のプロフェッショナルはたくさんいても、下田の山奥で耕作放棄地を開拓して養蜂場をつくったり、休耕田で米づくりをしたり、そんなコトをやってる人はいなそうだった。
『森は海の恋人』そんな本やNPOが有名になり、今ではあたり前の考え方になっているけど、山と海。田んぼと海。は、とても強くつながっている。
その現場、第一線で見て動いて感じたことを、その場で活かせばいいのだ、と、自分なりのスタンスで参加させてもらった。
海のプロフェッショナルに囲まれて、とりあえず自分なりの海との関わり方について話をしてみた。とても有意義な集まりになりそうな感じ。お声かけていただき感謝です。”
“今朝、田んぼに行くと、何やら人間のものでない足跡を発見……。これはもしや……鹿???と、恐る恐るその足跡を辿ると、稲がごっそり食べられてるではないですか。おそらく、こっちからは入らないだろうと電気柵をしなかった崖から入ったようだ。いやいや、すごい運動能力。ナメてました。そして、すごい食欲。ナメてました。と、感心してる場合でない。
ホントはがっつり対策をしなきゃいけないんだろうけど、もろもろ事情があり、今日はあまり時間がない。今日できる範囲の対応、応急処置をして週末に託す。あとは、願うくらいしかできない。
この春、田んぼの引っ越しを経て稲梓の田んぼで5年目の米づくりをしているのだけど、いろんなコトがうまくいきすぎていた、気がする。そんなに人生うまくはいきませんね。教訓教訓。”
昨年まで米づくりをしていた地域は鹿は出ないが猪が出るということで、低い電気柵を田んぼの周りに設置していた(それでも何度か入られたけど……)。
ここは鹿が多いと知っていたので、高い電気柵をまわして、それなりに対策をしたつもりだったのです。電気柵は安くないですが、ありがたいことに自治体と農協から補助金が出るので、利用して設置しました。
2022年7月23日 稲梓の田んぼ記録 56日目「鹿への挑戦状」“鹿よ、我らヒトにはこの崖を駆け登る運動能力はない。そう、ひとりひとりを見たら、何もできない弱い生き物だ。でも、先人たちの知恵を受け継いで受け継いで、太陽光パネルで電気をつくったり、その電気を通す電線をつくったり、その電線でキミらが入ってこれないように柵をつくることができるようになったのだ。
駆け登って、電気ビリビリな痛い目にあいたくなかったら、もうオイラの田んぼに近づくでねえぞ!ちなみにオイラ、さっきビリビリ体験したけどなかなかの痛さだったぞ!!(その衝撃でだいぶ脳細胞お亡くなりになった気がする)以上!もう、入らないでくださいっ !!”
“鹿に入られ食べられたことが発覚して、崖側も電気柵をまわして数日。今のところ、入られていない。やっぱり崖を登ったのか。想像以上の運動能力と考えて対策せねば、と実感。みなさまもご注意を。
ということで、このまま「鹿との闘い」の終結を願う!!で、そんな電気柵をつくったり、田んぼからの排水パイプを直したりで、しばらく水をとめた中干しのままだった。もろもろ段取りついたので、再び水を入れ始める。
ここ数日の日差しでカラッカラになっていた稲たち。久々に入ってきた水に喜び、見る見るうちにシャキーン!となっていった気がする。
鹿に食べられた稲も、どんどん元気に。この勢いで復活したら穂をつけるのだろうか?どう育っていくのか、ちと興味深い。写真は今朝のものなんだけど、夕方からはまたもや強い雨。なかなか安定しない天気。実は、何日間か下田を離れてキャンプに行く予定をたてていたのだけど、あまりに行き先方面の天気予報が悪いので、キャンセルして下田にいることにした。夏、お預け〜。今は田んぼを離れるな、と言われているのかもしれん。はい。もうしばし、成長を見守ります。”
“先日、鹿に入られたとSNSで投稿したあとに、田んぼで柵をつくっていたときのこと。田んぼの近くで、「ホーリーバジル」というハーブを育てている方がその投稿を見たようで、心配そうに様子を見に来てくれた。
ホーリーバジルは、インドの伝統医学・アーユルヴェーダで「不老不死の霊薬」ともいわれるハーブ。そんな貴重なハーブをたくさんいただいてしまった。帰りの車内がホーリーバジルの香りで満たされて、鹿に稲を食べられて凹んでいたというのになんだか幸せだった。
今日は、暑くならないうちに作業をしようと朝から草刈りやら草取りやらをしていた。腰が悲鳴をあげだした頃に、隣の田んぼの人が、スイカが冷えてるから一服しようと声をかけてくれて、一緒に一服した。
その方の奥さまが育てた自家栽培のスイカは甘くてみずみずしくて、最高においしかった。腰は痛いし、全身泥だらけで滝のように汗をかいていたのに、なんだかとても幸せだった。
米づくりは、大変だし、うまくいかないこともある。でも、こんな「なんだか幸せ」があるので、やめられないのよね。多謝。”
今回の“稲梓の田んぼ記録”はここまでです。稲がこうして、だんだんと大きくたくましくなる様子はなかなか普段目にすることはないのではないでしょうか?引き続き、“#稲梓の田んぼ記録”とハッシュタグをつけて、投稿していきます。興味があれば覗いてみてください!(もうひとつ、「#古民家リノベ記録」シリーズもちょくちょく投稿してます。これもいつか記事にまとめたいなあ……)
文 津留崎鎮生
text & photograph
Shizuo Tsurusaki
津留崎鎮生
つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram