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釧路川源流域は別世界! ひときわ透明度の高い水が湛えられた「鏡の間」とは?

  • 2022年7月25日
  • コロカル
屈斜路湖畔で異彩を放つ〈ぢぢカヌー〉とは?

第1回の自然ガイド、片瀬志誠さんに続き、今回はカヌーガイドの祖父江健一さんに、日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖から釧路川の源流を案内してもらった。

湖畔の道を車で走っていると、目に飛び込んでくる看板がある。〈ぢぢ〉。手づくりの木工にペンキの塗装。かなりいい味を出している。

「祖父江」の最初の2文字からついたあだ名が「じじ」。が、なかには「じじぃ」と呼ぶ人もいて、屋号を決めるときに「ぢぢ」にした。

「祖父江」の最初の2文字からついたあだ名が「じじ」。が、なかには「じじぃ」と呼ぶ人もいて、屋号を決めるときに「ぢぢ」にした。

ここは、カヌーガイドと喫茶の店。いまから1年前、私が弟子屈に移住したばかりの頃、カヌーはまちを代表するアクティビティだと知って、初めて「釧路川源流ツアー」を体験した。そのとき案内してくれたのが、「ぢぢ」こと祖父江健一さん。

カヌーツアーの集合場所であり、おいしいピザとコーヒーが味わえる喫茶店(不定休)でもある。古民家を自分たちで改装した。

カヌーツアーの集合場所であり、おいしいピザとコーヒーが味わえる喫茶店(不定休)でもある。古民家を自分たちで改装した。

取材を兼ねてもう一度、ガイドをお願いすることにした。訪ねたのは7月初旬。気温30度近い真夏日が、突然弟子屈町にやってきたとき(7月の平均気温は16.4度)。「どうぞ座ってください。ツアーの内容を説明しますね」祖父江さんはそう言って、1冊の本を取り出す。

妻・直子さんがつくった、ぢぢカヌー虎の巻。店内には、木彫りカヌーのストラップなど、夫婦合作の手づくりアイテムも並ぶ。

妻・直子さんがつくった、ぢぢカヌー虎の巻。店内には、木彫りカヌーのストラップなど、夫婦合作の手づくりアイテムも並ぶ。

中を開くと、これから向かう屈斜路湖の絵が描かれていて、その上に、小さな木彫りのカヌーを置き、「井出さんがいて……」とリラックマを、「私がいて……」と子ブタを、それぞれ乗せて巧みに動かし、約2時間の行程と見るべきポイントを教えてくれる。

全24ページ。人形劇のように展開する絵本(絵と文・直子さん)を見ながら説明を聞いていると、童心になってワクワクする。

全24ページ。人形劇のように展開する絵本(絵と文・直子さん)を見ながら説明を聞いていると、童心になってワクワクする。

説明が終わると、長靴に履き替えて、ライフジャケットを羽織って、いざ出発!店の外に出ると、真っ青な夏の空が広がっていた。「新緑もいいけれど、6月、7月……と葉っぱが出揃ってきてうわ〜って緑が増える時期も、すごく好きです」今日は絶好の“ぢぢカヌー日和”だ。

店から150メートルほど歩いたところが出発地点。ふたり乗りのカナディアンカヌーに、出前用の岡持ち(詳細はのちほど)を積んで。

店から150メートルほど歩いたところが出発地点。ふたり乗りのカナディアンカヌーに、出前用の岡持ち(詳細はのちほど)を積んで。

カヌーには、背もたれつきの椅子とパドルが2本積んである。いずれも手づくりだ。祖父江さんの特技(ときに仕事)は木工で、パドルは19年前からつくり始めた。

「ジャパニーズアッシュやヤチダモを使うから、やわらかくてしなるし、長さやグリップを体に合わせてあるから、使いやすい。漕いでみると全然違う。自作のパドルは、やさしいんです」

風速は約1メートル、湖の状態は凪(なぎ)。「水の上にちょっと出ただけで、向こうに藻琴山が見えて、空も広〜く感じられます」

風速は約1メートル、湖の状態は凪(なぎ)。「水の上にちょっと出ただけで、向こうに藻琴山が見えて、空も広〜く感じられます」

私が前に乗り、祖父江さんは後ろで漕ぐ。これが〈おまかせツアー〉。湖に出ると、ひんやりとした風が吹いて、とても気持ちいい。

「あの木の下に、カワアイサの親子がいますよ」

そう言われて目を向けると、水鳥が列をつくって泳いでいる。しかもヒナが何羽も!

お母さんの後ろを追いかけていく、10羽以上のカワアイサのヒナたち。早い!「今年はここら辺に、3家族もいるんです」

お母さんの後ろを追いかけていく、10羽以上のカワアイサのヒナたち。早い!「今年はここら辺に、3家族もいるんです」

チャプチャプと水がカヌーに当たる音を聞きながら、のんびりと漂うように湖の上を進んでいく。

「あれがバイカモ(梅花藻)。切ってしまわないように、できるだけ流されながら近寄りましょう」

そして目の前に、水草の花畑が広がった。

約80平方キロメートルの屈斜路湖に現れる、直径10メートル程度の群落。「毎年必ず、この場所だけに咲くんです。なんでだろう?」

約80平方キロメートルの屈斜路湖に現れる、直径10メートル程度の群落。「毎年必ず、この場所だけに咲くんです。なんでだろう?」

カワガラスのように、ここでしっかり暮らしたい

釧路川の入り口に架かる眺湖橋(ちょうこばし)。「上でカメラを構えているのが、うちの写真係(直子さん)。ここで屈斜路湖とはお別れです」

釧路川の入り口に架かる眺湖橋(ちょうこばし)。「上でカメラを構えているのが、うちの写真係(直子さん)。ここで屈斜路湖とはお別れです」

ほどなく橋が見えてくる。ここが154キロ先の太平洋につながる、釧路川のスタート地点。橋の下をくぐったら、また別の世界が広がった。今日の川岸はワイルドで、ジャングルクルーズのような気分。

「季節と時間、あとは水量でも印象が変わります。今年は6月の雨が多かったので、水量が増していますね」

昨年、釧路川源流ツアーを体験してから、友だちが来るたびに、川下りをするようになった。合計すると10回くらいになるだろうか。それでも橋をくぐるこの瞬間は、毎回感動してしまう。

川に入ると、カヌーの動きが少し大きくなる。たくさんの魚の群れが泳いでいる。「いまはウグイがいちばん多い時期です」

川に入ると、カヌーの動きが少し大きくなる。たくさんの魚の群れが泳いでいる。「いまはウグイがいちばん多い時期です」

釧路川源流を別世界に感じさせてくれるもう一つの立役者は、たくさんの野鳥。いくつもの鳥の鳴き声が、辺り一面に響いている。

「正面の木にカワセミがいますよ。あ、飛びました」と教えてくれるのだけど、私はなかなか見つけられない。

「あ、また飛びました……あぁ、行っちゃいました……」

こんなやり取りをする度に、祖父江さんはきっと野生動物に近いんだな、と思う。それは本人も望むところで、「オジロワシみたいに派手じゃなくていい。地味だけど、ここでしっかり暮らしているカワガラスのように自然の一部になれたら幸せかな」なんて言う。

キラキラと鏡のように輝く水面。湧き水により一年中水温が変わらない「鏡の間」は、みんなが大切に守っている特別な場所。

キラキラと鏡のように輝く水面。湧き水により一年中水温が変わらない「鏡の間」は、みんなが大切に守っている特別な場所。

「もうすぐ鏡の間ですよ」さまざまな草木が生い茂り、水の精でも現れてきそうなここは、あちこちから湧き水があふれ、ひときわ透明度が高い水が湛えられた、神聖な場所。多くのガイドはカヌーを停めて、豊かな自然とその美しさを眺めこの地のすばらしさを再認識する。

出発前にリクエストを訊いて、コーヒー、紅茶、ジュースから選んでもらう。「好きなものは人それぞれ。決めつけないようにしています」

出発前にリクエストを訊いて、コーヒー、紅茶、ジュースから選んでもらう。「好きなものは人それぞれ。決めつけないようにしています」

中盤を過ぎると、浅瀬にカヌーを停めて、コーヒータイム。岡持ちの中から、祖父江さんがまず取り出すのは、コーヒーミル。豆を挽いて、お湯を沸かして……ひとつひとつの動作が、とても丁寧だ。釧路川源流域の川下りという特別な体験が、よりすてきな時間に感じられる。そしてつかの間、世間話に花が咲く。

自作のパドルでコーヒーを運んでくれる。シュガーとミルクを載せている台も、祖父江さんの手づくり。アイス用もある。なんでもつくる。

自作のパドルでコーヒーを運んでくれる。シュガーとミルクを載せている台も、祖父江さんの手づくり。アイス用もある。なんでもつくる。

コーヒーのいい香りがしてくる。

「では、テーブルをつくってください」

私が借りているパドルをカヌーにかけ渡し、テーブル代わりにしてからコーヒーを受け取る。続けてお茶請けが運ばれてくる。今日は、越冬じゃがいも『インカのめざめ』を蒸したもの。これが驚くほど甘くておいしい。

「地元のもので、素朴なもの、そしてちょっと意外なものを出しています」

お芋に添えられていたのは、岩塩とおろし金。この工程が加わるだけで、コーヒータイムの特別感が増す。もちろんおいしさもUP。

お芋に添えられていたのは、岩塩とおろし金。この工程が加わるだけで、コーヒータイムの特別感が増す。もちろんおいしさもUP。

ゴールでは、妻・直子さんが車を回して待っている。最後に記念撮影をパチリ!スタート時に湖畔と橋の上から撮った写真と一緒に後日郵便で送ってくれる。しかも少し忘れた頃に……だから余計に感激する。これも〈ぢぢカヌー〉の楽しいひと工夫。

「おまかせツアー・2時間コース」の終点、みどり橋にて撮影。さらに1時間乗る「びるわ橋コース」や、釧路湿原まで行くコースも。

「おまかせツアー・2時間コース」の終点、みどり橋にて撮影。さらに1時間乗る「びるわ橋コース」や、釧路湿原まで行くコースも。

祖父江さんは、カヌーを漕ぐときの心得として「一番うまく流れに乗れるようなところを狙って、できるだけ漕がないように漕ぐ。それが、より長い時間を楽しむことができる方法かな」と教えてくれた。

「釧路川源流では、自然を見て、溶け込んでほしい。だからできるだけ邪魔をしないように、“ちょっと後ろにいるガイド”が信条です」

「釧路川源流では、自然を見て、溶け込んでほしい。だからできるだけ邪魔をしないように、“ちょっと後ろにいるガイド”が信条です」

絵本による説明、手づくりのパドル、岡持ちに入った休憩セット……たくさんのこだわりを持って、それらひとつひとつを大切にしている。漕がないことは頑張らないことではなく、知恵を働かせている証。祖父江さんは、やっぱり野生動物に近いな、と思った。

profile

KENICHI SOBUE 祖父江健一

そぶえ・けんいち●カヌーの案内人。1974年11月26日(いい風呂の日)、愛知県生まれ。北海道の礼文島や知床を経て、2001年に弟子屈町に移住。2007年に独立して、〈ぢぢ〉をスタート。「ぢぢ」と呼ばれる二児の父。湖に向かってサックスを演奏するのが好き。

information

ぢぢ

住所:北海道川上郡弟子屈町屈斜路市街3条通り11-1

TEL:015-484-2808

Web:ぢぢ

※〈おまかせツアー〉は2時間コース(8000円/1名〜)から。詳細はHPにて。

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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