ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、その土地でしか食べられないサンドイッチをつくってみる企画。必ずといっていいほどおいしいものができ、ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる、一石二鳥の企画なのだ。
江ノ島のお隣、鵠沼海岸でつくる!今回やってきたのは神奈川県の鵠沼海岸(くげぬまかいがん)。一大観光地である江ノ島のお隣にある。
私は年に数回、鎌倉とセットで江ノ島に遊びに行くのだけれど、鵠沼海岸は初めてだ。
鵠沼海岸は、サーフィンやビーチバレーの発祥の地として知られ、多くのビーチスポーツがとても盛んな地域だそうだ。また、芥川龍之介など日本を代表する多くの文人たちにも愛された場所らしい。
あいにくの天気ながら、サーファーがたくさん! 奥に見えるのが江ノ島です。
今回の案内人は地図のプロ!今回の案内人は、「手書き地図推進委員会」を運営する川村行治さん。手書き地図推進委員会とは、いろんなまちを地元の人たちと歩き、あらためて再発見したものを一緒に手書きで地図におこすという活動だ。そして、そんな川村さんのお友だちの牧村正治(マッキー)さんも来てくれた。
真ん中が川村さん、右がマッキーさん。
実は私は手書き地図推進委員会のメンバー。そこで、以前このあたりに会社があった川村さんに声をかけたのだが、前日くらいに「自信がない」と言い出して、超地元のマッキーさんを呼んでくれたのだ。
いい笑顔のアニキたち。同世代に孫ができ始めたらしい。そうはまったく見えない。
鵠沼海岸の「くげ」の漢字がいろいろさて、さっそくマッキーさんが地元の人ならではの情報を教えてくれた。鵠沼の「鵠」の漢字の左側の「告」っぽいところの表記がいろいろあるというのだ。
駅の看板はよくみると「牛」に口。
目の前にあるアパートは「告」。
牛と口がくっついているパターン。
大きい字の方は「牛」と「口」だけど、赤文字は「告」だ!
この統一されていない感、すでにまちの大らかさを感じてたのしいぞ。さてさて、そんなおふたりについていって、食材探しをスタート!
駅前からさわやかです!
駅前から早くも湘南っぽさを感じるお店が並んでいる。雑貨屋さんやカフェなど、つい入りたくなるようなお店だ。マッキーさんは店員さんたちと顔見知りで、さわやかに挨拶していた。そう、さわやかだ!そんなこと感じる駅前ってあまりない気がするぞ。
まずはじめに見つけたのは、お肉屋&果物屋さんのお店。
さっそく、サザエさんに出てきそうな、昭和を感じさせるいいお店をみつけた。昔は奥で魚も売っていたそうだ。なにかサンドイッチに入れられそうなものはないか物色する。すると、ひときわキラキラと輝く子を発掘!
湘南ゴールド! みかんのように簡単にむけて、レモンほどすっぱくはないそうだ。
柑橘好きなので迷わず購入! しぼって食材にかけたらいけるかもしれない。
湘南ゴールドは、お酒になっていたり、最近ではコンビニでグミになっているのも見かけるほど有名ブランドみたいだ。でも実際に見るのは初めて。サンドにする、と店主さんに話すと「湘南ゴールドを(食材に)かけるだけに使うのはすごく贅沢!」と笑っていた。
まちのシンボル〈シネコヤ〉でパンを!歴史は古くないものの、いまやまちのシンボル的存在〈シネコヤ〉さん。
実はここだけは前もって存在を知っていた。企画上、パン屋があるまちにしてほしいと編集部からお達しがあったので調べていたら見つけたのだ。
調べたときシネコヤさんは改装中だったので、その再開をひそかに待ちのぞんでいた。
とても素敵な建物。つい引き寄せられる!
突然の撮影交渉に、代表の竹中翔子さんは快くOK! おだやかですてきな女性だ。
怖いおじいさんが出てきたらどうしよう……とドキドキしたが、やさし気な女性が案内してくれた。2階にある映画館は上映中だったので撮影できなかったものの、1階はどうぞ、と見せていただけた。
1階はブックカフェになっていて、落ち着いて本を楽しめる。
さらに奥にある部屋の本棚を眺めていたら、川村さんが「ア!コレ!」と興奮!
シネコヤさんに入っただけで、その雰囲気のよさにワクワクするのだけれど、本のラインナップがとてもいい。本が大好きな川村さんは特に目がキラキラしていた。
そしてかつて高校生のときに学校をさぼって見に行ったという、思い出の映画のパンフレットを見つけさらに興奮していた。
原田知世さん主演の映画のパンフレットだ。川村さんも持っていたらしい。
原田知世さん、超かわいいな。
私も子どものときに大好きだった『長くつ下のピッピ』の本を見つけてやはり興奮した。また、こちらで上映される映画はなかなかほかで見られないものがあるらしい。特に『人生フルーツ』という映画は配信がないため要望が多く、何度か上映していると言っていた。気になるなあ!しっとりと静かに、映画や本、昔を懐かしみたい人にはおススメの場所です。
企画を忘れてしまうところだった。パンを買いに来たんだった!
お昼頃から販売。人気なのでどんどん売れていきます。
並んでいるパンは〈自家製天然酵母パン デスチャー〉さんという、同じ神奈川でも山のほうの、山北町というところに工場があるパンだそうだ。パンは特に水が大事らしく、山のおいしい水を求めて、人里離れた場所へ。工場がある谷峨駅は無人駅だそう。きっと自然豊かなところでできたパンたちなのだ。
〈玄米ごはんぱん〉、サンドにちょうどいいんじゃないか!
パンを無事ゲット! 川村さん、高校生に戻ったかのようにはしゃいでいる。
サンドに最重要のパンを無事手に入れた。あとはブラブラしながら具材探しだ。
この商店街にはカフェと、美容院と、酒屋さんが多いかも。
お母さんにこの辺りの名産はなにか聞きこむ。
〈石渡源三郎商店〉のひじきが有名で、特別においしいらしい。品質が良いためほかより高値で取り引きされているそうだ。調理しないといけないのでサンドには入れられないけど。
鮮魚店もある! この商店街、コンパクトながらなんでも揃っているな。
この辺りに魚屋さんがなくなったことをきっかけに1年半前にオープンした〈半蔵水産〉さん。でも生ものなのでサンドには入れられず。
こういう金物屋さんもいくつか。
さすが海の近く! サーフィンショップもある。
ふたりのおススメのカフェ。満席だったけど。
こういうすてきなカフェがけっこうある!
店内にはドライフラワーがたくさんあるオシャレなお花屋さん。
犬もオシャレすぎる! マダム感……!
サザエさん的昭和の風情をバリバリ残しつつ、ところどころセンスの良いお店がある商店街だ。スーパーも、マッキーさんが子どもの頃からある地元っぽいスーパーだ。マッキーさんによると、この辺りは高齢者層(マダム系)とファミリー層の二極化しているそうだ。
マッキーさんが子どもの頃の思い出がつまったスーパー。
メインはこれだ! 揚げ物屋さん、その名も〈フライデー〉店名〈フライデー〉のフライはもちろん揚げ物とかかっているのでしょう。
まだ揚げられてない状態で並んでる!
こちらのフライデーさんでは、注文してから揚げるという。サーファーがここで揚げ物を買って、食べながら海に行くのだそうだ。最高だな!
「40年やっているけどまだまだ勉強中だよ」と名言を言ってくれたお父さん。
スーパーで慣れてしまっているのか、こうやって揚げる前の状態で並んでいるのがとても珍しく感じる。そう伝えると、お母さんが「手間がかかるからこんなこと普通はしないのよ」と言っていた。「食品は生きているから」できるだけおいしい状態で提供したいとも。いいなあ、近所に欲しいお店!
揚がるのを楽しみに待つ。たくさん歩いているので少しお疲れのアニキたち。
きた! 牡蠣、スコッチチーズ、キスフライ、アジフライ。おいしそうに揚がっている!
いますぐ食べたいところだが、この企画の特性上、すべて食材を揃えてからサンドにする必要がある。ほかも急いで調達しよう!
ところでこの商店街、車の通りがまあまああるので気をつけよう。
いま歩いている商店街のメイン通りは、だいたい直線600メートルほど。
道幅は広くなく、ちょうど両側のお店がのぞける感じで買い物しやすい。でも車がまあまあ通る。あ、車きたよ、と声をかけあいながらブラブラした。
1畳ほどのかわいいお店〈クゲヌマトリコ〉お店のサイズ感が気になる〈クゲヌマトリコ〉さん。
フライドポテトがある! サンドにちょうどいいんじゃないか。
プレーンとメイプルバターの2種類のポテトをチョイス。そしてとても良い情報をゲットした。
こちらのクゲヌマトリコさんは、おいしい野菜にこだわったカレーやお弁当、スープやサンドイッチを販売している。ヘルシーだけどボリュームがあるのがウリのお店だ。フライドポテトをサンドイッチに入れたいというと、食べやすいようにカットしてくれた。そして近くのお店で「おもしろいタレを出してるところがある」と教えてくれた。行ってみよう!
おもしろいタレを求めて〈鵠沼ぎょうざ〉〈鵠沼ぎょうざ〉さんへ。ということは、餃子のタレがおもしろいのかな?
こちらの〈鵠沼ぎょうざ〉さんでは、生、冷凍、焼きの餃子と、中華麺を販売しているお店だった。外観や餃子のイメージから、定食屋さんかと思いきや、中に入るとまるでカフェのカウンターのよう。
「おもしろいタレがあると聞いたんですが……」と言うといろいろ出してくれた!
「食べるラー油」だ! どれもおいしそう〜。しらすとにんにくメンマをゲット。
神奈川県の逗子のあたりに住んでいる、荒井さんという女性がつくっているというラー油。餃子にちょうど合うそうで、大好評だという。湘南地方らしく、しらすもあってうれしい!ちなみに、ほぼここだけでしか手に入らないらしい。これは買うっきゃないでしょう。
おや、と手書き地図推進委員会の川村さんが反応。店員さんお手製のかわいい手書き地図が貼られている!
商店街への愛がすごく伝わるなあ。
最初のほうに出てきたシネコヤさんのお話や、この辺は実はパン屋の激戦区だという話も聞くことができた。手書きで地図をつくっちゃうくらいだ、いろいろと詳しいのだろう。もしこちらのお店に行くことあれば、餃子やラー油を買うついでに、商店街のお話を聞いてみてもいいかもしれない。
サンドイッチに仕上げる!海に移動してきました!
さてようやく食材がそろった。海辺近くにあった公園で広げて、各々サンドイッチに完成させよう。
今日集まった食材たち。
それぞれサンドしていく。これがたのしいんだ。
シネコヤさんの玄米ごはんパン、よく見ると炊いたご飯が混ざっている!
食べるラー油がおいしそうすぎて全員かけたよね。
川村さん作。フライデーで買っていたタルタルソースを塗った上に、ポテト2種とスコッチチーズのフライを置いてからのラー油。オシャレ!
マッキーさん作。大きくふっくらしたキスフライが突っ込もうとして、パンが「ムリムリ!」と言っているように見える。ラー油に入っているニンニクの塊が見えて超おいしそう。
小堺作(カメラマンの水野さんの分とふたつ)。下はシンプルなバンズ、上は玄米ごはんパンという組み合わせ。手前が牡蠣で奥がアジフライ。
酸っぱい好きな私は隠し味に湘南ゴールドをキュー!
見てわかる通り、湘南ゴールドの黄色が明るく元気で見栄えがとてもいい。キャベツの千切りのやさしい緑もいいクッションになり、揚げ物たちが喜んでいるようだった。
ではいざ、実食!
こんなおいしいサンドあります?!
体と心がおいしいと言っているそれはそれはおいしかった。
揚げ物にこんなにラー油って合うのか。湘南ゴールドはこんなに爽やかなのか。ニンニクも柑橘も、それぞれ私たちを元気にしてくれた。
食材が最高なのはもちろんだけど、2時間ほど歩き回り、まちの様子や人の話を聞いたうえでの、ここでしか食べられない極上サンドなのだ。舌だけでなく、体も心もおいしいと言っていた。
川村さんの感想「まず、サンドを口に近づけると湘南の太陽を集約してできた、湘南ゴールドの甘〜く爽やかな柑橘系の香りが誘います。パンはやけにやわらかく、すぐにフライデーの揚げたてのスコッチチーズフライへ歯がさっくりとあたります。中のチーズはどっしり濃厚! 一旦モグモグすると、ガーリックが効いた辛いパンチのあるソースに今度は突き放されます。がこれは癖になるヤツ。どっさり下に敷いたキャベツとほのかな甘さのメープルシロップ味のお芋がやさしく事態を中和させてくれるー。何という小悪魔なサンド! でしたー」
マッキーさんの感想「地元の食材でサンドイッチをつくって食べることは今までしたことがなかったので、とても新鮮で楽しかったです。冷めてしまった揚げ物なのに、サクサクした食感がおいしかった。パンは、外側はパンで中はおにぎりのようにモチモチとした食感。サクサクしたキスフライとの組み合わせが絶妙でした。揚げ物とラー油の組み合わせは自宅でも試してみたい!」
というわけで今回も大成功!次はどのまちにサンドしにいこうか。
湘南ゴールドだけを食べたときの川村さん。表情でおいしさをお察しください。
●鵠沼海岸商店街サンドレシピ湘南ゴールド (たしか7個くらい)……… 680円シネコヤのパン(玄米ごはんパン3個、バンズ1個) ……… 380円フライデーの揚げ物(牡蠣、スコッチチーズ、アジフライ、キスフライ、ソース) ……836円クゲヌマトリコのポテトフライ(プレーンとメイプルバター) ……… 700円合計(4人前)……2596円
information
鵠沼海岸商店街
アクセス:小田急江ノ島線 鵠沼海岸駅
Web:鵠沼海岸商店街振興組合
writer profile
Maruko Kozakai
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
credit
撮影:水野昭子