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東京の林業集団〈東京チェンソーズ〉って? 森と都会をつなぐ林業のカタチ

  • 2022年4月26日
  • コロカル

「林業」と聞くと、木を切って市場に流通させるハードワークなイメージがある。逆に言えば、それ以上のことは何も知らないというのが一般的な感覚ではないだろうか?〈東京チェンソーズ〉が生業としているのは、東京の森に木を植え、育てて伐採したものを生かし、まちに届けること。異業種から林業に飛び込んだ、4人の熱き“林業マン”たちから始まった〈東京チェンソーズ〉は次世代に林業の可能性を届けること、そして、林業をあらゆるかたちに事業展開し、“小さくて強い、顔の見える林業”の実現で、東京の森と暮らしの共生を目指している。

〈東京チェンソーズ〉の創業は2006年。4人からスタートし現在は若手を中心に30数名の社員・スタッフがいる。

〈東京チェンソーズ〉の創業は2006年。4人からスタートし現在は若手を中心に30数名の社員・スタッフがいる。

何も知らないまま林業の世界に飛び込んだ

〈東京チェンソーズ〉のある檜原村(ひのはらむら)は、都心からクルマで西へ約90分。東京都の島しょ地域以外で唯一の「村」でありながら、3番目に広い面積を有している。村内の約9割が山林であり、約6割が秩父多摩甲斐国立公園の指定地域という自然豊かなエリアだ。

葉つきの枝から根っこまでを部位ごとに販売する「1本まるごと販売」。子どもたちに木の心地良さを伝えるためのワークショップ「森デリバリー」。「ウッドデザイン賞」を受賞した、木製の雑貨やおもちゃをカプセルに封じた「山男のガチャ」など、〈東京チェンソーズ〉は林業界でイノベーティブな活動を次々と展開している。

しかし、同社の主軸となる「林業」となると、木を伐って市場で売ること以外はわからない、想像がつかない世界でもある。そこで今回は、創業メンバーのひとりであるコミュニケーション事業部の木田正人さんに、各種取り組みについてお話を聞いた。

「私も林業のことはまったく知らなかったんです。近年は担い手が少なく、山が荒れたことで土砂災害が増えているというニュースを耳にしていたくらい。自分がやるとは思ってもいませんでした。そもそも転職してなるような職業だと思っていませんでしたから(笑)」

木田さんは田舎町をあてもなくドライブすることが趣味だったという。その際、過疎の村や放置された自然の風景も目にしていた。林業に興味を持ったきっかけは、山の仕事が特集された雑誌を読んだこと。現代の木こりには転職組もいることを知り、さらに調べるようになった。

木田さんは〈東京チェンソーズ〉創業メンバーであり最年長。半分以上が20、30代の若手メンバーだ。

木田さんは〈東京チェンソーズ〉創業メンバーであり最年長。半分以上が20、30代の若手メンバーだ。

「林業には、木を切ったりする作業面と、自然の状態を整える環境面のふたつがあるんです。私は環境面に興味を持ったタイプですね。旅するなかで見た美しい景色を守るため、自分も何か役に立つかもしれないと思ったわけです」

そこで見つけたのが東京都森林組合の募集だった。森林組合は、山の所有者が組合員となって共同で山を管理・整備する組織。組合員(所有者)のほかに作業を担当する者がいる。当時の森林組合の仕事は、木がまだ大きく育ってないこともあり、間伐や枝打ちなど育林と呼ばれる作業がほとんどだった。

「実際にやってみると、林業ってすごく楽しい仕事なんです。間伐するとこれまで手つかずだった山がパッと明るくなって、風が通ってすごく気持ちいい環境になるんです」

そのまま長く続けたいと思っていたが、森林組合の稼ぎは決していいといえるものではなかった。

「結婚して子どもができるとなると、なかなか厳しいものがあるのが実情です。そのことは森林組合の方々もわかっているわけですが、年金を受給しながら働いている方なども多いなか、若手の給料だけを上げるわけにもいかない。そんななか、今後は作業の外注化も増やしていくことを聞き、日本の森に対する考え方が近いメンバー4人で独立しようとなったんです」

独立して8年。初めて持った自分たちの山でまず行なったのが作業道づくり。

独立して8年。初めて持った自分たちの山でまず行なったのが作業道づくり。

“小さくて強い林業”と“顔の見える林業”

現在も〈東京チェンソーズ〉の主な収益は、檜原村や東京都などから受託する間伐や枝打ちといった環境を整える作業だ。日本は国土の約7割が森林であり、そのなかで人工林の割合は4割程度。東京都は6割と比重が高い。木材の収穫タイミングは約50〜60年といわれ、現在は戦後に植えられた木々の収穫期でもあるのだ。

「戦時中に大量伐採がありその後植林を進めたわけですが、成長するのを待っている間に輸入木材が増えて価格が下がり、林業を辞める人や山を手放す人が増えたわけです」

独立にあたり、〈東京チェンソーズ〉はよりお客さんのニーズにあった仕事を目指したという。

木材乾燥施設に置かれたプラタナス。本来、木材として使われることの少ないプラタナスのような街路樹も〈東京チェンソーズ〉が仕入れ、ニーズのあるところに届けている。

木材乾燥施設に置かれたプラタナス。本来、木材として使われることの少ないプラタナスのような街路樹も〈東京チェンソーズ〉が仕入れ、ニーズのあるところに届けている。

「山を持っている人のなかには、こういう木を育てたい、こんな風景にしたい、気持ちのいい場所にしたいという要望もあるんです。そういった意見を直接聞ける立場になったので、もっとお客さんに寄り添うような活動をしていきたいと思うようになりました」

新たな活動を進めるうえで生まれたのが、“小さくて強い林業”というコンセプト。大規模な設備を導入した薄利多売な木の販売ではなく、少ない量の木に付加価値を与えて収益を上げていくという考え方だ。

「“小さい”という意味には人間関係も含まれます。創業当初から“顔の見える林業”を掲げていて、お客さんや製材屋さんなどと一緒に、こういう木があるけどどんなふうに製材しようとか、あのお客さんはこういうのが好きだからなど、小さい輪の中で仕事をしていく関係性を築ければ、強さにつながると思ったんです」

具現化できるようになったのは、〈東京チェンソーズ〉として山を所有するようになった2014年から。そこから加速的にさまざまな企画が立ち上がっていく。

〈東京チェンソーズ〉の事務所。山仕事の先輩から借り、創業まもなくから使用している。

〈東京チェンソーズ〉の事務所。山仕事の先輩から借り、創業まもなくから使用している。

林業を超えた〈東京チェンソーズ〉の取り組み

最初にスタートしたのは、〈東京美林倶楽部〉という取り組みです。通常は木を切った場所はすぐに植林をしていきます。そのとき一般の方に会員になっていただき、3本の苗木を植えていただきます。下草刈りなどの山の仕事を体験するなどして山で過ごす時間を楽しみながら、自身で植えた苗木を30年間かけて一緒に育てていくというものです」

育てた苗木のうち2本は間伐して家具や玩具として会員が自由に使うことができ、1本は森に残し次世代へと継承していく。木を育てる「30年の物語」を会員自らが体験できるのだ。

「また、市場に木材を売るときは丸太の状態にするのですが、その過程で枝や曲がった部分など木の約50%が廃材になってしまいます。製材屋さんの加工でそこからさらに50%と、最終的には一本の木の25%しか使われていない。

一方、曲がっている木が欲しい方や、ディスプレイ用途などで葉付きの枝、根っこなどを求めている人もいらっしゃる。でも、みなさんどこで買えばいいのかわからないわけです。そこで、木材の「1本まるごと販売」をスタートしました」

そして、「1本まるごと販売」の派生として生まれたのが、枝や細い幹を利用してつくられたバードコールやキーチェーン、箸置きなどをカプセルに封入した「山男のガチャ」である。

「1本まるごと販売」のカタログ『1本まるごとカタログ』。板材だけでなく、丸太や枝、根っこなど、さまざまな樹木の木材が掲載されている。

「1本まるごと販売」のカタログ『1本まるごとカタログ』。板材だけでなく、丸太や枝、根っこなど、さまざまな樹木の木材が掲載されている。

檜原村をはじめ都内30か所に設置されている「山男のガチャ」。バードコールやコースター、マグネットなどすべて檜原村の山で伐採した木からつくられている。

檜原村をはじめ都内を中心に40か所に設置されている「山男のガチャ」。バードコールやコースター、マグネットなどすべて檜原村の山で伐採した木からつくられている。

ひとつ500円。設置場所は〈東京チェンソーズ〉のHPで確認できる。

ひとつ500円。設置場所は〈東京チェンソーズ〉のHPで確認できる。

そして、「1本まるごと販売」の派生として生まれたのが、枝や細い幹を利用して作られたバードコールやキーチェーン、箸置きなどをカプセルに封入した「山男のガチャ」である。

「当初はいろいろなイベントに出店することで、つながりを増やしていきました。というのも、山や森、林業のことをまず知ってもらいたいという気持ちがあるんです。知ってもらうことで、何かしら山に関わってほしいですし、関わる人が増えれば林業がどんどん元気になっていくはずです。

そして、山や森林が暮らしと結びつき、山が整備させていることで川にきれいな水が流れていくなど、まちの暮らしと山は関連があることを知っていただきたい。そうでないと、いずれ林業は廃れてしまうと思うんです」

子どもたちを対象に日常雑貨やおもちゃをつくるワークショップ「森デリバリー」はまさにその一環といえる。小さなことでも、暮らしのなかに森が入っていくことで、林業がおもしろいと思ってもらえれば、それは次世代の森への興味・関心へとつながっていく。

〈東京美林倶楽部〉で植樹された花粉の少ない杉。1本ごとにシカ除けのネットを張って保護している。

〈東京美林倶楽部〉で植樹された花粉の少ない杉。1本ごとにシカ除けのネットを張って保護している。

全国に広がる林業の可能性

〈東京チェンソーズ〉の新しい取り組みのひとつに、〈MOKKI NO MORI〉という会員制アウトドア森林フィールドがある。年会費を払えば、いつでも森の空間を利用してキャンプや焚き火、薪割りなどを自由に行うことができるというものだ。

「将来的には、弊社所有ではない山でも始めようと考えています。世代が変わり、山を持っていてもいいことはないという山主さんも多いのですが、こういうカタチで収益化できることによって、今ある姿のまま活用できるということを示していきたい。最終的には、山を持っていて良かったよね、となればいいなと思っています」

“小さくて強い林業”という新たな視点の取り組みは、全国に広がる可能性を秘めているのだろうか?

「林業って地域ごと木の種類も違いますし、事情もいろいろです。北海道で環境保全型の林道づくりを行なっている〈outwood〉さんや、長野県で林業からブランドづくり、担い手の育成プログラムまで一貫して行なっている〈やまとわ〉さんなど、各地域で新しいスタイルが生まれていますし、それが自然だと思います。全国各地でその土地にあった林業がもっと元気になる取り組みが広がっていけばうれしいなと思っています」

林業マンの商売道具はチェンソー。〈東京チェンソーズ〉が切り拓くのは森だけではなさそうだ。

林業マンの商売道具はチェンソー。〈東京チェンソーズ〉が切り拓くのは森だけではなさそうだ。

少子高齢化する社会のなか、魅力的な職場づくりはどの業界でも喫緊の課題となっている。そのなかでも林業はとくにその活動が知られていない職種でもある。〈東京チェンソーズ〉の取り組みは、これまでの林業のイメージを一新させ、SDGsなど環境への意識が高まるなか、さらに注目度が高まっていくことが予想される。彼らのワークショップに参加した子どもたちが大きくなる頃、日本の森林はもっと身近なものになっていくだろう。

information

東京チェンソーズ

住所:東京都西多摩郡檜原村654

WEB:https://tokyo-chainsaws.jp/

イベント情報

WOOD WORK SHOP 〜木のスプーン作り〜

開催:5月1日〜3日

場所:モリパークアウトドアヴィレッジ(昭島市)

WEB:https://outdoorvillage.tokyo/event/2712/

WOOD WORK SHOP 〜木の箸置き作り〜

開催:5月6日〜8日

場所:モリパークアウトドアヴィレッジ(昭島市)

WEB:https://outdoorvillage.tokyo/event/2715/a>

ヒノキのスプーンづくりワークショップ

開催:5月8日

場所:MOCTION(新宿区)

WEB:https://www.chainsaws-store.jp/items/60771782

writer profile

Eizaburo Tomiyama

富山英三郎

とみやま・えいざぶろう●エディター/ライター。横浜生まれ横浜育ち、東京在住。出版社で約10年モノ系雑誌の編集職を経て2005年に独立。生活に欠かせないプロダクトからカルチャー、最新テクノロジーに至るまで、毎日を楽しく、美しく、スマートにしてくれるモノやコトを独自の切り口で紹介している。

writer profile

Kazuya Sasaka

佐坂和也

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