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「ドキュメント音楽」とは? アーティストと福島の復興公営住宅住民による作品

  • 2022年3月11日
  • コロカル
歌と物語の「ドキュメント音楽」

東日本大震災からちょうど11年となる2022年3月11日、「アサダワタルと下神白(しもかじろ)団地のみなさん」によるCDアルバム『福島ソングスケイプ』がリリースされる。

「下神白団地」とは、東京電力福島第一原子力発電所事故により、富岡町、大熊町、浪江町、双葉町から避難してきた人々が住む、いわき市小名浜にある福島県営復興公営住宅だ。

左側が下神白団地。

左側が下神白団地。

ディレクターを務めるミュージシャンで文化活動家のアサダワタルさんは、この団地で暮らす人々を「住民さん」と呼ぶ。『福島ソングスケイプ』では、住民さんがまちや人生の思い出を語り、当時の懐かしい曲を歌い、ミュージシャンたちで結成した、伴走型ならぬ“伴奏型”支援バンドがバック演奏を行っている。

例えば、嫁いでから苦労を重ねてきたと話す女性は、いまでは「歌ねかったら死んでるの」「ごはんより歌」というほど歌を愛し、高齢とは思えないパンチの効いた歌声で『宗右衛門町ブルース』を歌い上げる。所どころリズムがズレても不思議と辻褄が合う味わい深いボーカルだ。

クリスマス会での“歌声喫茶”では『宗右衛門町ブルース』をみんなで歌った。

クリスマス会での“歌声喫茶”では『宗右衛門町ブルース』をみんなで歌った。

『青い山脈』など、ほかの住民さんが歌う歌も、懐かしく聴く人はもちろん、あるいは曲を知らなくても心に響くはず。

歌が生きる物語を引き出すこのアルバムを「ドキュメント音楽」とアサダさんは名づけた。ドキュメント音楽とは何なのか、どのように生まれたのかを聞いた。

「声」を拾い上げ、歌と語りをレコーディングする

東京在住のアサダさんが、東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業である〈Art Support Tohoku-Tokyo〉の一環として、下神白団地に通い始めたのは2016年12月のこと。

集会所でお茶呑み話をしながらリサーチをすると、団地は出身町ごとに棟が分かれていて6号棟まであり、人々のつながりがなかなか築けないことがわかった。そこから音楽と対話のプロジェクト〈ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ〉が始まった。

地元の一般社団法人〈Teco〉と一緒に、住民さんの家を訪ね、まちのエピソードと思い出の曲をインタビューし、それをラジオ番組風に編集してCDに収め、約200世帯1軒1軒に配布していった。

団地限定でリリースしてきたCD『ラジオ下神白』。

団地限定でリリースしてきたCD『ラジオ下神白』。

「最初は、浪江町など4町の思い出を聞こうと思っていたのですが、歌をきっかけとして、東京に住んでいた頃の話だとか職を転々とした話だとか、みなさんの人生のエピソードがいろいろと出てきたんです」

地域の生活現場にコミットしながら文化活動を行うアサダワタルさん。

地域の生活現場にコミットしながら文化活動を行うアサダワタルさん。

住民さんが話しながら歌を口ずさむのを聞いたアサダさんは、その人自身の声で歌ってもらおうと考えた。2019年には、そのバック演奏を行うバンド〈伴奏型支援バンド(BSB)〉を結成する。

「知人のミュージシャンたちが自分たちも音楽で何かできないかと話してくれて、公募でメンバーを集めました。関東在住のバンドメンバーが現地を訪問してあらためてみなさんの思い出を聞き、12月にはクリスマス会を開いて、住民さんが主役の歌声喫茶風なイベントを行ったんです」

クリスマス歌声喫茶。〈伴奏型支援バンド(BSB)〉と歌う。

クリスマス歌声喫茶。〈伴奏型支援バンド(BSB)〉と歌う。

そんな新たな交流が始まったのも束の間、コロナ禍に突入してしまう。

「訪問できなくなって、さてどうするかと考えた末、2020年夏に都内でバンド演奏をレコーディングし、その音をヘッドフォンで聴いてもらいながらひとりひとりご自宅で歌っていただき、それらの録音を僕がコンピュータ上でミックスすることにしました。zoomを“テレビ電話”と言って、エンジニアの福原悠介さんとTecoの方々にレコーディングを手伝ってもらいました」

Tecoの方々も「みなさん、照れながらも収録を楽しみにしていました。思っていた以上に、ラジオ下神白を聴いていた人同士がつながっていて、続けてきてよかったと感じました」と語っていた。

それぞれの自宅で、録音した演奏をオンラインで流しながら歌を収録する。

それぞれの自宅で、録音した演奏をオンラインで流しながら歌を収録する。

レコーディングしたものを、いつもの住民さんに語りかけるラジオ形式で編集して第8集となるCDを作成し、それとは別に、同じ素材を使いながら編集を変えて一般の方にも聴いてもらえるCDを作成した。それが今回の『福島ソングスケイプ』だ。

『福島ソングスケイプ』では6曲中4曲がその手法で収録され、『愛燦燦』と『君といつまでも』の2曲はクリスマス会で収録したライブ音源。住民さんによる語りと、バック演奏つきの歌の間には、いまの団地の生活音や離れて住めなくなったまちの音、海の音などのサウンドスケイプが散りばめられている。

「今回のプロジェクトのプロセスを知らなくても、音楽体験として感覚的に受け取れるコンセプチュアルアルバムのような作品になっていると思います」

思い出の歌が、ひとりひとりの人生を連れてくる

このように音楽を介したことで「個人の感覚で、自分たちがどう生活しているかを語ってもらうきっかけになった」とアサダさん。

「みなさんは、被災者としてメディアに取材された経験をお持ちなので、僕らから被災した日のことを聞くことはあえてしなかったんです。音楽を介したことで、あの日のことだけではなく、それ以前やその後のひとりひとりの人生や思い出が浮かび上がってきたと思います。

同じまちに住んでいても人生は違いますし、どんなことを感じながら生きてきたか、その時代の歌とともに出てくるんですね。楽しい話もありましたし、嫁ぎ先や戦後に苦労した話とか、いろいろな時間や場所に話が行ったり来たりするんです」

思い出の歌にまつわる話を聞く。

思い出の歌にまつわる話を聞く。

参加者は60代半ば〜90代。アルバムに収録した6名のうち4名は女性だ。

「農作業と子育てで、音楽を聴く暇なんてなかった。そんななかでも、子どもや姑が寝静まったあとにレコードに針を落として、近所にも聞こえないように小さい音で、ちあきなおみの『喝采』を聴いてから寝ていたという話も印象に残りました。“ながら”ではなく、向き合って聴いていたんだなと思いましたね」

また、いろいろな曲の話をするうちに突然、被災当日の話をし始めた人もいたという。

「30代の頃から水戸黄門のテーマ曲『ああ人生に涙あり』が好きだという話をするうちに、『俺、言ったよな、言わなかったっけ?』と言いながら、車ごと流されそうになって乗り捨てて逃げたんだ、というお話をなさって。いろいろあったけれど、『人生楽ありゃ苦もあるさ、涙のあとには虹が出る』で始まるこの曲が応援ソングで、特に2番の『勇気』のくだりが好きだと」

一緒に『ラジオ下神白』を聴きながら。

一緒に『ラジオ下神白』を聴きながら。

現地に行けないコロナ禍での作業には、さまざまな手を尽くした。伴奏型支援バンドのメンバーは、「こんなエピソードを話していたね」とか「あの方はテンポが遅れていくからゆっくり演奏しよう」など、相談しながらリズムを決めてレコーディングをした。

合唱部分は、Tecoとエンジニアの協力を得て、6人の歌をそれぞれの家で録り、6人分をアサダさんがエンジニアの大城真さんと共にミックスしている。『福島ソングスケイプ』は、会えないもどかしさのなかで、息を合わせるためにみんなが歩み寄った結晶でもあるのだ。

コロナ禍を逆手にとって生まれた「ドキュメント音楽」という手法

自由に集まれないなかでも、「録音」という手法を使えば、違う場所と違う時間を集めてまとめることもできる。あらためてレコーディングの意義を考える機会にもなった。

「記録し続けることを大事にするなかで、語りだけでなく音楽全般に広がっていきました。ジャーナリズムは何を語ったかという語りの中身が重要なのだと思いますが、音楽であれば言葉を超えて、その人の姿を全体的に感じられるのではないかと思います」

それには、声をどうつなぎ合わせるか、どのような形式で、どんな順番で聴いてもらうかなど、録音した素材をどう編集するかも大切になる。そこで、『福島ソングスケイプ』と同時期に制作していた〈コロナ禍における緊急アンケートコンサート 声の質問19〉というプロジェクトも併せて紹介したい。

これは足立区のアートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉の一環で、アサダさんが2020年春から始めた新しいコミュニケーション様式のプロジェクトだ。寺山修司の秘書で作曲家の田中未知の著書『質問』(1977年)を発想源としている。

まず、音まちの拠点、北千住の「仲町の家」を訪れた約80人に、「2メートルは遠いですか? 近いですか?」など19の質問に答えてもらい、録音した。

〈コロナ禍における緊急アンケートコンサート 声の質問19〉での「仲町の家」での録音風景。〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のプロジェクトでアサダさんがディレクターを務める〈千住タウンレーベル〉については以前コロカルでも紹介。

〈コロナ禍における緊急アンケートコンサート 声の質問19〉での「仲町の家」での録音風景。〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のプロジェクトでアサダさんがディレクターを務める〈千住タウンレーベル〉については以前コロカルでも紹介。

2021年9月、その音声を用いて、楽曲演奏とともにラジオ形式のコンサートを行った。さらに10月には、そのコンサートを記録した映像作品を上映したのだ。

コンサート風景。

コンサート風景。

コロナ禍でのコンサートもまた、回数を分けて計60名に限られたが、アサダさんがパーソナリティを務めるラジオという演出をとることで、記録映像としてもコンサート記録としても楽しめる作品になっている。

「映像をコンサートの2次的なものにしたくない、コロナ禍を逆手にとって生まれたクリエイションにしたかった」とアサダさんは語る。

〈コロナ禍における緊急アンケートコンサート 声の質問19〉の記録映像より。

〈コロナ禍における緊急アンケートコンサート 声の質問19〉の記録映像より。

筆者は質問への回答に参加し、ライブコンサートと映像を鑑賞したのだが、いつの間にか伝達者の役割にもなった気がしている。そのような反応は『福島ソングスケイプ』で歌い語った人々、それを聴いた人々の間でも起こることではないだろうか。

地域プロジェクトは、参加した人にしかわからない部分がある。参加した人の間では議論できても、外の人には批評されにくい。そこでアサダさんは「現場で課題解決や新しい価値をつくるだけでなく、さらに外にどう伝えるかという問題意識から、作品にすることで一般流通させよう」と決めたのだった。

住民の方と写真を見ながら思い出を聞く。

住民の方と写真を見ながら思い出を聞く。

こんな音楽のつくり方があるのか、こんな地域への関わり方があるのか、こんな「再生」の記録の仕方があるのかなど、いろいろな方向から感じてもらえる、『福島ソングスケイプ』はそんなドキュメント音楽になったのではないだろうか。折に触れ聴きたくなる一枚だ。

profile

アサダワタル Wataru Asada

1979年生まれ。文化活動家/アーティスト、文筆家、博士(学術)。音楽と言葉を独自の方法で用いて演奏や執筆、福祉分野での活動、コミュニティプロジェクトの演出を行う。近年の演出プロジェクトに〈まなざしラジオ in 芸劇〉(東京芸術劇場、2020)、〈千住タウンレーベル〉(東京都足立区、2016年〜2019)など。『住み開き増補版』、『想起の音楽』など著作多数。2013年に、サウンドプロジェクト〈SjQ++〉(ドラム担当)で、アルス・エレクトロニカ デジタルミュージック部門準グランプリ受賞。

https://www.kotoami.org/

information

福島ソングスケイプ

2022年3月11日発売 2530円(税込)

Web:ラジオ下神白(プロジェクト)GrannyRideto BASESHOP(販売元)

writer profile

Yuri Shirasaka

白坂由里

しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。映画館でのバイト経験などから、アート作品体験後の観客の変化に関心がある。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。

credit

写真提供:アサダワタル、アートアクセスあだち 音まち千住の縁

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