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対談:スノーピーク山井梨沙×ファーメンステーション酒井里奈 「サステナブルな社会とは」

  • 2022年2月7日
  • コロカル

『FIELDWORKS』は、新潟県を拠点にキャンプを中心としたローカルなライフスタイルを提案する〈スノーピーク〉代表取締役社長の山井梨沙さんが、ローカルでありプラネット的なモノ・コト・ヒトに出会いながら、コロナ後の暮らしのスタンダードを探し求める「フィールドワーク」の記録。

3回目となる今回は、岩手と東京の二拠点で「発酵」をキーワードに未利用資源を再生・循環させる社会づくりを牽引する〈株式会社ファーメンステーション〉代表取締役の酒井里奈さんにお話を聞いた。

社会を発酵させていく

山井梨沙(以下「山井」): 酒井さんと初めてお会いしたのは、衣食住のなかで衣の地産地消を目指す「Local Wear」というプロジェクトの立ち上げ準備で岩手にフィールドワークに出ていたときなので、もう5年前になります。現在の場所に移転する前のラボにお邪魔しました。当時は有機栽培のお米からつくったエタノールを原料にしたアウトドアスプレーや、エタノールの製造過程で出た資源を利用した石鹸などを中心に展開されていたと思うんですけど、今ではお米以外の原料からもエタノールやそれを利用したプロダクトをつくられているんですね。

酒井里奈(以下「酒井」): そうなんです。技術開発が進みお米以外から原料化できるようになって、企業の食品・飲料工場などから出るフードウエイストも利用しています。例えば〈JR東日本〉さんのシードル工場から出たリンゴの搾りかすだったり、〈ANA〉グループが輸入しているバナナの規格外品を原料にしたエタノールでフレグランス商品や除菌用のウエットティッシュをつくっています。さらに、その抽出の過程で出た発酵粕を肥育牛用の飼料として利用したりするような、循環型社会を目指す企業との事業共創事業も始めました。もちろん創業からの中核事業である、オーガニックライス・エタノールやオリジナルのスキンケア商品の開発も続けています。これはラボのある岩手県奥州市の有機米を使って、地域コミュニティと一緒にゴミを出さないサステナブルな循環でつくるもの。OEM事業もやっと軌道に乗ってきて、「FERMENTING a Renewable Society 発酵で楽しい社会を!」という私たちファーメンステーションの企業理念を、やっと事業で具体的に表現できるようになってきたかも。スノーピークさんと比べたら、まだまだひよっこですけど(笑)!

ファーメンステーションが取り組む循環型社会。(画像提供:ファーメンステーション)

ファーメンステーションが取り組む循環型社会。(画像提供:ファーメンステーション)

ゴミから事業をつくる

山井: そもそも、どうして発酵に興味を持ったのですか?

酒井: ちょっと昔話になるんですけど、私は大学時代にやりたいことを見つけられなくて。そこでいろいろな会社と出会うことができる銀行に就職したんです。3年目に、国際交流基金を希望して出向しました。阪神淡路大震災の直後でNPO法案なんかもできた年で、NPO先進国のアメリカに学ぶ仕事を2年間させてもらいました。そのとき、社会課題にビジネスとして取り組む人たちとたくさん出会って、とても刺激を受けたんです。NPOの人たちと交流したり、社会課題にチャレンジしつつおいしいアイスクリームを提供する〈Ben&Jerry’s〉が大ヒットしているのを見て、「こういうビジネスがしたい!」って思うようになっていきました。それで銀行に戻ってすぐ、社会貢献投資をすべきだって提案書を書いたんですけど採用されませんでした。次にヨーロッパの自然エネルギー系の提案をしたら、日本にはそういう案件はないと断られて。だったらそういう仕事ができる会社で働こうと、銀行を辞めました。それにしてもまずはしっかりとビジネスの仕組みを叩き込まなきゃということで、ベンチャーや外資の金融で10年間ガシガシ働きました。そろそろ本格的に社会課題を解決するようなビジネスをしたいと思い始めていたとき、たまたま東京農大の生ゴミをバイオ燃料に変える技術をテレビで見て「これは一攫千金のチャンスだ!」ってなって(笑)。だから発酵ありきではなく、ゴミから事業をつくることにすごく興味を持ったんです。自分にとって事業性と社会性を両立させる手段が発酵でした。まず自分で理解して、さらに一緒に実現できる仲間を見つけようと思い、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科というところに入学しました。

山井: その学部って、日本中の酒蔵とか醤油屋さんなんかの跡取りが入学するところですよね?

酒井: そうそう、まだお酒も飲めない18歳くらいの跡取りたちが、お酒のつくり方とか学ぶところです(笑)!

岩手県奥州市の休耕田跡で栽培しているオーガニックライス・エタノールの原料となる有機米。(写真提供:ファーメンステーション)

岩手県奥州市の休耕田跡で栽培しているオーガニックライス・エタノールの原料となる有機米。(写真提供:ファーメンステーション)

文化があるから、発酵はおもしろい

山井: 今日、あらためてラボを見学して、発酵ってとても人間的だなと感じました。この連載の初回で、文化人類学者の石倉敏明先生から「人間を人間たらしめたのは火だ」というようなお話をうかがったんですけど、有機物の原材料と微生物が出会い、さらに蒸留などを経て意図的にエタノールを精製するプロセスって、自然の摂理に知恵を加えること。それは人間にしかできないことですよね。お酒だったり保存食だったり、日本は発酵文化が高度に発達した国だと思うんですけど、さらにそれをエネルギーに変えるというのは、とても日本的な試みだと思います。

酒井: エネルギーとして実用化できたら本当にすてきなんですけど、まだまだコストの問題で難しいんですよね。東京農大在学時に、奥州市の休耕田にお米を植えてエタノールというエネルギーに変えるというプロジェクトの実証試験に参加して、その経験からコストが高くても通用する商品として、スキンケア用品をつくることにつながっていきました。発酵は、微生物の働きで有機物を別の物質に変化させること。そこに人が介在して人間に有益なものをつくってもらう行為が文化なんだと思います。サイエンスだけれど、文化が入るところがとてもおもしろい。ファーメンステーションという社名は、「ファーメンテーション=発酵」と「ステーション=駅」を合わせた造語なんですけど、発酵を介していろいろな資源を人や地域、社会に役立つもの変えて、新しい価値観を生み出していけるような駅(=場)をつくっていきたいと思っています。

エタノールの精製過程。(写真提供:ファーメンステーション)

エタノールの精製過程。(写真提供:ファーメンステーション)

菌から学ぶ「発酵経営論」

山井: 自分でも何度か発酵食をつくろうとして失敗したことがあるんですけど、うまく発酵させるにはほかの菌が入らないように気をつけたり、温度や湿度などの環境を整えて、しかるべき菌が活躍する場を整えてあげないといけないじゃないですか。そういうプロセスって、なんだか会社の経営に似ているような気もします。

酒井: この間、『フォーブズ ジャパン』Web編集部の編集長にも「あなたのやっていることは人材育成につながる」って言われて、最初はポカーンって感じだったんですけど、よく聞いたらなるほどと思いました。菌って本当に個性が豊かなんですよ。同じ麹でも甘酒用、味噌用があるし、酵母も果物から取ったものは果物ベースで活躍するとか。ぶどうから採取した酵母はワインには向くけれど、米系のお酒には向かない、でもかけ合わせるとおもしろい変化が起こったり。それから生まれ育ったところで活躍しやすく、それぞれベストな温度と湿度の環境がある。菌は群雄割拠なので、ステージによって活躍する種類が変わるんですよね。まずは雑菌に負けないような環境をガーっとつくる菌がいて、でもそれがふわーっと元気がなくなり、一番がんばらなければならない酵母がやっと登場してきて。菌たちがリレーをして最後にベストなものを出していくのは、まさにチームビルディング。梨沙さんがおっしゃるように、確かに経営にも通じるところがあるかもしれませんね。

トレーサビリティのあるオーガニックライス・エタノールは、世界的にも珍しい。(写真提供:ファーメンステーション)

トレーサビリティのあるオーガニックライス・エタノールは、世界的にも珍しい。(写真提供:ファーメンステーション)

サーキュラーエコノミーへの架け橋

山井: ファーメンステーションさんのオーガニックライス・エタノールって、「USDA」とか「エコサートCOSMOS」などのオーガニック認証も取得しているんですね。海外メゾンブランドのコスメの原材料としても採用される可能性ありそう。

酒井: ぜひとも使ってもらいたくて、グローバルブランドにコンタクトを取ったりしています。どなたかお知り合いがいたらぜひ紹介してほしい(笑)。

山井: スノーピークでもバイオエタノールを使った燃料の商品があるんですけど、どちらかというと無機質なんです。酒井さんがつくっているのはなんだか少しお米の香りや独特なしっとり感があったりするような感じがする。

酒井: お米からエタノールをつくるとき、発酵の条件とか、蒸留をするときの装置に工夫などがあっていい香りが残るようにしているんです

山井: 循環って本当に興味深い世界ですね。化学的なものになりがちなエタノールでも、環境やお肌にいいものをつくっているし、背景に文化を感じられる。いわゆるサーキュラーエコノミーを定着させていく架け橋になるような事業をされていますよね。スキンケア用品の原料という点でいうと、オーガニックエタノールとそうではないものって、何か決定的な違いがあるんですか?

酒井: アルコールをつくる意味においては、変わらないと思います。オーガニック野菜だから栄養価が高くおいしいということではないのと一緒で、オーガニック化粧品だから肌にいいというものでもないと思います。それより生物多様性とか環境負荷のような観点を重要視したい。実際に契約農家さんたちも無農薬をやってみたら、以前はいなかったタニシが出てきたとか、カエルが増えたとか。そういうダイレクトな反応をもらってうれしかったですね。例えばCOSMOS認証制度は、環境に配慮した製造を毎年改善し続けなければ取得できない。現状に満足せずに日々向き合い、続けていくことになるので、そういった意味でも取得してよかったと思います。こういう認証は、欧米でビジネスを展開するうえではもう必須になっていますよね。一方、日本はまだまだな状況。異常気象やコロナ禍を経験して少しは意識が変わりつつありますが、本当は一気に変えていきたいんです!

私たちは「地球人コミュニティ」

山井: アメリカのアウトドア用品の小売り業者さんとかも、ここ2年くらいで急激に変わってきました。製造や物流工程などが、サステナブルなものになっているかのチェックがどんどん厳しくなってきている感じがしますね。ユーザーさんにしても、コロナ禍で否応なく家にいる時間が増えたり、キャンプ需要が増えて自然とふれ合う時間が多くなるなかで、環境や循環などに興味を持つ人が増えてきているなという実感はあります。ただ企業は、SDGsとか脱炭素何パーセント達成とか脱プラとか、項目や数値をクリアするだけの社会人的スタンスになりがちだと思うんですよね。それを「地球人」という意識を持って取り組んでいくことが、本質的な実現につながっていくんじゃないかと思います。私たちはみんな自然とともに暮らしているんだということを、実感してもらえるようにしていきたい。

酒井: 地球人っていいですね! 一緒に増やしていきたいです。

山井: 生ものだから難しいかもしれないけれど、スキンケア用品もダイレクトに消費者のフードロスを回収して原材料にできたら、もっと実感がわきやすくなるかもしれないですよね。

酒井: そもそも天然処方を貫いてきて、機能性もほかの商品と比べてまったく遜色ないものがつくれるので、本当は「ゴミからできたスキンケア商品です」とだけ声高に言いたいんです。でも、より多くの人に発酵を通じてサーキュラーエコノミーに参加してもらうためには、スキンケア用品としてのわかりやすさも必要。その効果的な伝え方を模索中なんです。その点で、スノーピークさんの活動はとても参考にさせていただいています。会長さんや梨沙さんの本を読んだり、HPやSNSとかも見まくったり、イベントにも参加したいなとずっと思っています。やっぱりスノーピークさんのように、しっかりとしたコミュニティができるようにしていきたいですね。もちろん、簡単にできることではないのは重々承知しているんですけど。

山井: うちは広告宣伝費はゼロ。その代わりにユーザーさんと直接つながるイベントを定期的に開催してコミュニティを大切にしています。会社としてもフィードバックをダイレクトにもらえてそれを生かせるし、価値観を共有しながらユーザーさんと一緒に成長していくことができる。それがブランド力につながってきたんだと思うんです。コロナ禍でキャンプに興味を持って、スノーピークに触れてくれた新しいユーザーさんたちも多いので、しっかりとコミュニケーションをとっていきたいですね。

「ぷくぷく」と「フィールドワーク」の共通点

酒井: もっと移動やイベントごとが自由にできるようになってきたら、すぐにでもそんなコミュニティづくりに取り組んでいきたいと思っています。以前も何度かここ奥州市で体験型のツアーを開いたことがあるんですけど、スノーピークさんがこの間やられていたLIFE EXPOのようなものにも、いつか挑戦してみたいです。

山井: 酒井さんたちはもちろん、原材料をつくる農家さんや飼料を食べる動物たちにも触れる人がもっと増えていったら、一気にステージが変わっていきそうですよね。何かご一緒していけることが多そうなので、楽しみにしています。ところで、同じことをするにしても、東京でずっと働いているのとこういう自然に近い環境で仕事をするのとでは、やっぱり全然違いますよね。酒井さんはもう10年以上東京と岩手の二拠点での活動を続けてこられて、いかがですか?

酒井: スタートアップってめちゃめちゃ激務なんですけど、月2回くらい強制的にいい景色を見て、おいしい空気を吸って、しかもラボで発酵中のぷくぷくを観察したりしていると「みんな生きてるね!」って元気が出てきます。

山井: 私の場合、新潟と東京の二拠点プラスαで、東京はインプット、新潟はアウトプット、そのほかがフィールドワークという感じ。酒井さんの「ぷくぷく」が私にとってのフィールドワークで、そういうバランスにかなり助けられていると思います。

酒井: そうそう、自分にフィットするバランスを見つけることって重要ですよね。今、東京と岩手にそれぞれスタッフがいるんですけど、これからもっと行き来が自由になったら、場所にこだわらずに働ける人はもっと活発に行き来できるようにしていきたいと思っています。

ファーメンステーションで展開中の自社コスメ商品。いずれも、オーガニックライス・エタノールを精製する過程で出る資源を活用して製造されている。(写真提供:ファーメンステーション)

ファーメンステーションで展開中の自社コスメ商品。オーガニックライス・エタノールと、オーガニックライス・エタノールを精製する過程で出る資源を活用して製造されている。(写真提供:ファーメンステーション)

profile

LINA SAKAI 酒井里奈

ファーメンステーション代表取締役。東京都出身。国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現みずほ銀行)、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、09年3月卒業。同年、株式会社ファーメンステーション設立。好きな微生物は、麹菌。好きな発酵飲料は、ビール。

Web:ファーメンステーション

Web:ファーメンステーション オンラインショップ

profile

LISA YAMAI 山井梨沙

1987年、新潟県三条市生まれ。大自然に広がるキャンプフィールドに本社を構え、独創的なプロダクトを生み続けている〈スノーピーク〉の創業家に生まれ、幼い頃からキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育つ。2014年にスノーピークに入社し、2020年3月より代表取締役社長を務める。これまでスノーピークが培ってきた“ないものはつくるDNA”を受け継ぎ、プロダクトのみならず、プロダクトを通した新たな体験価値を提供している。現在は、人生を構成する5つのテーマ「衣食住働遊」に沿って、現代社会が抱える課題に対して、さまざまな事業に取り組んでいる。

writer profile

Kei Sato

佐藤 啓(射的)

ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。世界スキップ連盟祭り法人 射的編集アシスタント:佐藤稔子

photographer profile

Masaru Tatsuki

田附勝

1974年、富山県生まれ。全国のデコトラとトラックドライバーを撮影し『DECOTORA』を2007年に発表。2012年に『東北』で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞した。そのほか『その血はまだ赤いのか』、『KURAGARI』、『「おわり。」』、『魚人』などがある。社会で見過ごされてしまうものに突き動かされ、写真のテーマとして撮影を続けている。2020年3月新しい写真集『KAKERA』を発表。

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