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デザイナー・皆川明と〈ミナ ペルホネン〉が考える、都市とローカルの関係性

  • 2021年11月5日
  • コロカル
「100年続くブランド」のあり方

かわいい、華やか、やさしい、温かい、繊細、有機的、物語がある、つくりが精巧、長く着続けられる――。そのような言葉で表されるテキスタイルや服で人々を魅了し続けているブランド〈ミナ ペルホネン〉。創設者でデザイナーの皆川明さんがビジュアル・ディレクターを務める〈北アルプス国際芸術祭2020-2021〉のオープニングの機会にインタビューを行った。

「ミナ ペルホネンは自然への好奇心とそこから生まれる空想の世界を描いているんです」と皆川さん。

「僕は京浜工業地帯にある住宅街で育ちました。光化学スモッグの警報で学校が休みになるほどでした。そんな環境のなか、父がよく山登りに連れて行ってくれました。そのときの爽快感が、後に自然への敬愛と好奇心につながったのかもしれません」

多様で、常に変化する自然。その環境に身を置けば、無限に空想が広がる。皆川さんは空想から生まれた物語を絵にし、服の形を纏わせる。

ビジュアル・ディレクターを務める〈北アルプス国際芸術祭2020-2021〉のMilla Vaahtera(ミラ・ヴァーテラ)の作品と一緒に。以前からヴァーテラの作品が好きだったという皆川さん。「彼女の有機性に満ちた作品や、真鍮やモビールを使った表現は、この芸術祭に合っていると思って、総合ディレクターの北川フラムさんに推薦しました」

ビジュアル・ディレクターを務める〈北アルプス国際芸術祭2020-2021〉のMilla Vaahtera(ミラ・ヴァーテラ)の作品と一緒に。以前からヴァーテラの作品が好きだったという皆川さん。「彼女の有機性に満ちた作品や、真鍮やモビールを使った表現は、この芸術祭に合っていると思って、総合ディレクターの北川フラムさんに推薦しました」

〈北アルプス国際芸術祭2020-2021〉では劇団カンパニー〈マームとジプシー〉との公演『Letter』も上演された。劇中のセリフは、2011年からミナ ペルホネンのHPで毎週配信している皆川さんのテキストから、演出の藤田貴大さんが構成。ミナ ペルホネンは衣装用の服やテキスタイルも提供した。

木々に囲まれた野外劇場と、生をめぐる四季の情感にあふれた舞台に、俳優たちが身につけた服は、まるで森の中で息を吹き返した生き物のようだった。

マームとジプシー×ミナ ペルホネン『Letter』は2021年10月2日、3日に森林劇場で上演された。2019〜2020年に東京都現代美術館で開催された展覧会『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』での関連企画に続いてのコラボレーションとなった。衣装はミナ ペルホネンの服をスタイリングの遠藤リカがアレンジ。(Photo:Moe Kurita)

マームとジプシー×ミナ ペルホネン『Letter』は2021年10月2日、3日に森林劇場で上演された。2019〜2020年に東京都現代美術館で開催された展覧会『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』での関連企画に続いてのコラボレーションとなった。衣装はミナ ペルホネンの服をスタイリングの遠藤リカがアレンジ。(Photo:Moe Kurita)

「服も言葉も僕らの手から離れて、原形もないものもあります。でも、目的のために人の手が加わりながら続いているんだったら、それでいいと思うんです。最終的に『皆川明』という痕跡がなくなってもまったく問題ありません。ミナ ペルホネンがいろいろな人と関わりながらつながり、自然発生的に世の中に残っていくほうがいい」

フィンランドの作家ヴァーテラの作品は、国営アルプスあづみの公園内の「杣人(そまびと)の家」の周辺の風景に溶け込んでいる。どこに作品があるのか探しながら散策するのも楽しい。

フィンランドの作家ヴァーテラの作品は、国営アルプスあづみの公園内の「杣人(そまびと)の家」の周辺の風景に溶け込んでいる。どこに作品があるのか探しながら散策するのも楽しい。

皆川さんは「100年続くブランド」というあり方をよく口にする。ひとりの人間が仕事に費やせる時間を30〜40年と考え、その持ち時間を使って人とつながり、新たな可能性を見つけ、何かを実現し、次の人に課題を渡し、組織は理念を深めながら続いていく。

そのスケールは自然界の循環と重なる。自分は確かに種を蒔き、育てた。けれども実をつけて、種を落とし、また芽が吹いて、やがて森になったとき、それはもはや自分ひとりの仕事で成したことを超えている。

「自分ひとりの寿命だけで考えるプランなんてつまらない。次の人に委ねる前提で始めたほうが、自分個人の満足に終わらなくていい」と皆川さんは言う。

都市とローカルは互いに補完する

皆川さんはいま、月に1〜2度、東京都から長野県に通っている。2013年に完成したミナ ペルホネンの保養所〈ホシハナ休寛荘〉に滞在するためだ。浅間山の麓に広がる豊かな森の一角にある建物は、建築家・吉村順三が設計し、その弟子にあたる中村好文さんが改修した。

「金曜の夜に来て、土日を過ごすことが多いです。保養所では、特に何かをするわけでもないんです。自分で朝ごはんをつくったあとは、お昼の下ごしらえをして、お昼を食べて、暖炉を焚いて、本を読んで、夜が来たら晩ごはんをつくって……。今年の夏にミナ ペルホネンの代表の立場を次の人に渡しました。これからは長野の滞在を増やしたり、より自由にデザインをしていきたい」

東京と長野に身を置く皆川さんにとって、都市とローカルは「互いに補完する」ことが必要だという。インフラ、人口、経済指標で区分するのではなく、土地の特性のようなそれぞれが持つ良さを、互いに気づき合うこと。それを通して、「思考や創造の共生」が生まれるのではないか、と。

保養所以外にも皆川さんにはローカルとの接点がある。ひとつは、各地の宿泊施設だ。〈京の温所 釜座二条〉〈京の温所 西陣別邸〉(京都府京都市)や〈ウミトタ〉(香川県小豆郡)、〈COCOON〉(千葉県木更津市〈KURKKU FIELDS〉内、2022年オープン)ではディレクションを手がけた。将来は宿の運営にも関わりたいと皆川さんは言う。

築約150年の小さな京町家が、現代の暮らしに寄り添う「住まい」として生まれ変わった〈京の温所 釜座二条〉。設計は中村好文さん。

築約150年の小さな京町家が、現代の暮らしに寄り添う「住まい」として生まれ変わった〈京の温所 釜座二条〉。設計は中村好文さん。

西陣織の商家として明治後期に建てられた京町家を、こちらも中村さんがリノベーションした〈京の温所 西陣別邸〉。

西陣織の商家として明治後期に建てられた京町家を、こちらも中村さんがリノベーションした〈京の温所 西陣別邸〉。

「旅は自分の知らない暮らしや文化、風景と出合える。なるべくプランを持たず、その場で湧いた感情に素直に反応したり、偶然を取り込んだりする時間からは、新しい気づきを得られます。特にローカルは昔からの方法論が比較的まだ根づいていて、土地の特徴がはっきりしている。そのような土地をもっと知るために、旅をより能動的に長く滞在できる、簡易なユースホステルのような宿を、いずれ運営したいですね」

瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)の一棟貸しの宿〈ウミトタ〉。設計は皆川さんとも親交のある〈SIMPLICITY〉の緒方慎一郎さん。(photo:Hua Wang)

瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)の一棟貸しの宿〈ウミトタ〉。設計は皆川さんとも親交のある〈SIMPLICITY〉の緒方慎一郎さん。(photo:Hua Wang)

ミナ ペルホネンとローカルのもうひとつの接点は、東京・青山のショップ〈call〉や馬喰町の〈elava〉で販売している無農薬や有機栽培の野菜だ。北海道から九州まで、全国から取り寄せた旬の野菜や食材が、店の空間をみずみずしく彩っている。

また、callに併設しているカフェ〈家と庭〉や、elavaに併設する〈puukuu食堂〉では、それらの野菜の鮮度が落ち始める前に食材として使うなど、食品ロスにも取り組んでいる。

「ローカルということで言うと、食のつながりが大きいですね。ミナ ペルホネンは食を通じて東京とローカルのハブになっています。今後も東京にあまり負荷なく、無農薬野菜をささやかな規模ながら流通させる仕組みをつくりたいです」

オーガニックの野菜や果物、調味料など、つくり手の思いのつまったものや、丁寧につくられた器や道具が並ぶ〈elava〉。(photo:Norio Kidera)

オーガニックの野菜や果物、調味料など、つくり手の思いのつまったものや、丁寧につくられた器や道具が並ぶ〈elava〉。(photo:Norio Kidera)

併設する〈puukuu食堂〉では、「良質な材料を無駄のない循環で」という思いで食事を提供。商品として販売するには少し気になるけれど調理して食べる分には問題ないような食材や、新鮮さが少し気になり始めた野菜など、調理して提供することで食品ロスをなくしている。(photo:Hua Wang)

併設する〈puukuu食堂〉では、「良質な材料を無駄のない循環で」という思いで食事を提供。商品として販売するには少し気になるけれど調理して食べる分には問題ないような食材や、新鮮さが少し気になり始めた野菜など、調理して提供することで食品ロスをなくしている。(photo:Hua Wang)

加えて、岩手で農園〈ちいさなたね〉を運営する皆川さんの実姉や、東京の祐天寺にある友人のレストラン〈margo〉などを通じて、固定種や在来種の野菜への関心を持った。長崎の雲仙を訪れた際には固定種・在来種の野菜を育てる農家さんの畑に足を延ばし、「そのようなことを実行、継続されているのは本当にすばらしい」と感じたという。

「好き」「うれしい」「幸せ」と思う状況をつくる

既存の農業の構造では実行や継続が困難な在来種・固定種の野菜を育てる農家。皆川さんのなかでその姿は、既存のファッション界の構造のなかで経営が困難に陥っている、まちの産業の姿と重なるという。

生産者の思いと生業を成立させたい――その思いの出発点は、東京・八王子の繊維工場との関係性だった。ミナ ペルホネンの前身である〈ミナ〉を八王子で立ち上げた当時はバブル経済が崩壊し、ファッション界は海外に生産拠点を移し始めた時代。皆川さんは仕事が激減していくまちの工場の現状を間近に見ていた。

「海外で大量に安くつくり、売れ残れば捨てたりセールしたりする。いまや年間膨大な量の服が捨てられています。そういう大きなサイクルとは真逆の方法論でも成立することを世の中に対して表現できたら、何か意味を持てるんじゃないか。そんなことを、ブランドを始めた頃からよく考えていました」

「真逆の方法論」のアプローチのひとつは、まちの工場の経営を維持させるために彼らに仕事を依頼することだった。ブランドはそのためにも工場の特徴を考慮したデザインをクリエーションしていく。

実際にミナ ペルホネンはこれまで、〈有限会社大原織物〉(東京都八王子市)、〈株式会社神奈川レース〉(神奈川県愛甲郡愛川町)、〈西田染工株式会社〉(京都府京都市)、〈株式会社マルナカ〉(埼玉県飯能市)などにテキスタイルづくりを依頼してきた。

「いまは、繊維を加工するまちの工場だけでなく、繊維の産地も相当難しい状況です。現在、原料はほぼ輸入で、国産はゼロと言ってもいい。だけど例えばコットンなら浜松など、産地は日本各地にあるんです。そうした産地ごとの特性をできるだけ残したい。そういう工場や産地を守るための環境を整え、その価値を伝えるところまでを含めて、『デザイン』だと思うんです」

「sun beams」(大原織物)

「sun beams」(大原織物で制作)

「yula」(神奈川レース)

「yula」(神奈川レースで制作)

「le lac」(西田染工)

「le lac」(西田染工で制作)

 

もうひとつのアプローチは、持続させることだ。例えば長く愛用したくなるような魅力的なものをつくる。たとえその価格が10倍になっても、10年以上使い続けるものになるなら1年あたりの金額としては同等以下となる。

すると、手間や時間をかける分、必然的にある程度の価格になる職人仕事も、世の中に長く存続できるのではないか。またそうすれば、製品の極端な安さを実現するために大変な思いをしている人たちだって減らせるかもしれない。

「『短時間だけ使って、あとはまた買えばいい』と思われないものづくりがあると思うんです。一番の近道は、人が『好き』『うれしい』『幸せ』と思う状況をつくること。そのものが魅力的なら捨てずに大事にしたいと思うし、人も集まる。そうやって人の幸福感を持続・循環させるのも、デザインの役割だと思います」

2022 Spring/Summerコレクションより。(photo:Hua Wang)

2022 Spring/Summerコレクションより。(photo:Hua Wang)

2022 Spring/Summerコレクションより。(photo:Hua Wang)

2022 Spring/Summerコレクションより。(photo:Hua Wang)

 

売り上げや利益という指標ではなく、決して数値化されることのない「幸福感」を追求することは、現代の資本主義が目指すものとは明らかに異なる。つい先日まで経営の最前線に身を置いていた皆川さんは、現代の企業や資本主義のあり方を指して「成長だけを前提とするのは現実と合っていない」と指摘する。

「単に経済的な成長を目指すと、その過程で過剰な競争や格差を生み、人の幸福感のバランスを崩す可能性が大きくなります。大切なのは資本と理性のバランスです。占有率を意味する“シェア”ではなく、分かち合う意味の“シェア”の精神を持ち、他者の幸福も自身の幸福も両方とも満たすのが、理想的な資本主義ではないでしょうか」

ひとりの満足ではなく、できるだけ多くの人々の幸福が満たされ、長く長く続いていくこと。そのヒントはローカルにある――。

皆川さんとミナ ペルホネンの取り組みには、その確信と手ごたえがあるように感じられてならない。

creator profile

Akira Minagawa 皆川明

みながわ・あきら●1967年東京都生まれ。1995年に〈mina perhonen(ミナ ペルホネン)〉 の前身である〈mina(ミナ)〉を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。2019〜2020年に東京都現代美術館で開催された展覧会『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』が、2022年の春に福岡県、夏に青森県で開催される。

https://www.mina-perhonen.jp

information

北アルプス国際芸術祭2021-2022

アート会期:2021年10月2日(土)〜11月21日(日)

開催地:長野県大町市

Web:北アルプス国際芸術祭2020-2021

writer profile

Kotaro Okazawa

岡澤浩太郎

おかざわ・こうたろう●1977年生まれ。編集者、ブックレーベル・八燿堂主宰。『スタジオ・ボイス』編集部などを経て2009年よりフリー。19年、東京から長野に移住。興味=藝術の起源、森との生活。個人の仕事=『murmur magazine for men』、芸術祭のガイドブックなどの編集、『花椿』などへの寄稿。趣味=ボルダリング(V5/1級)。

photographer profile

Norio Kidera

木寺紀雄

きでら・のりお●写真家。神奈川県横須賀市出身。役所勤務、スタジオマンを経て、ホンマタカシ氏に師事。2001年独立しフリーとなる。雑誌広告、CMなどで活動中。

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