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ところてんってどうやってつくる? 原料のつくられ方から家庭でもできる簡単レシピまで

  • 2021年9月9日
  • コロカル

下田に移住して知った、ところてんができるまで

下田で暮らす津留崎家のこの夏のブームが、ところてん。ところてんというと酢醤油で食べるイメージですがところてんの原料、天草の産地である下田では家庭によってさまざまな食べ方があるそう。意外と簡単につくれるところてんのレシピやところてんが食卓に運ばれるまでの道のりをご紹介します。

甘いところてん、おいしい!

娘の長い夏休みも終わり、小学校では新学期が始まりました。今年の夏休みは予定していた旅行や東京の姉家族との再会もキャンセル。娘にとっては寂しい夏休みとなってしまいましたが、それでも車をちょっと走らせれば美しい海に飛び込めるし、清々しい山々に囲まれている。

これからもまだ不安な日々が続きますが、恵まれた環境を生かしながら工夫していけたらと思います。

シュノーケリングを楽しむ様子

娘も下田で暮らし始めてから海が大好きになりました。「魚が指先をチョンチョンと突いてきたんだよ!」とうれしそうでした。

さて、最近わが家でちょっとしたブームが起こっているのですが、それは何かというと「ところてん」です。

小さい頃から夏になるとよく母がところてんを買ってきてくれたのですが、実は私は苦手でした。いわゆる突き出した長細いところてんが酢醤油に浸っていて、練りからしや青海苔やゴマがトッピングされているもの。

2歳上の姉は好んで食べていましたが、私はツンとくる酸味とグニュッとした食感がどうも好きになれなかったのです。

ところが、先日夫が仕事先でところてんを購入してきて、それには黒蜜ときなこがトッピングされていました。試しにひと口食べてみると、「ん……!? おいしい!」40歳も後半になって初めて食べた、甘い味つけのところてん。そのおいしさに、夫も私もすっかりハマってしまったのです。

西林商店のところてん

夫が購入してきたところてんは、下田須崎の天草を使用した〈西林商店〉さんのもの。スタンダードな三杯酢や、黒蜜ときな粉など、ラインナップはおよそ7種類ほど。味つけに応じて突き出しや角切りにカットされています。お取り寄せも可能です。

「沖縄黒みつときな粉」のところてん

私のところてん人生を変えてくれた、西林商店さんの「沖縄黒みつときな粉」。

下田で見られる天草の光景

知っている方も多いと思いますが、念のためところてんについて少々説明を。

ところてんの原料となるのは天草(てんぐさ)という海藻ですが、世界中におよそ80種類ほど生息しているそうです。そのうち日本では最も生産量が多く良質とされているのがテングサ科のマクサで、そのほかオニクサやヒラクサなどの数種類が採取されています。

水揚げされた赤褐色の天草

採取されたときは赤褐色の天草ですが、それを水に晒して天日干しにする作業を繰り返すと、白く脱色されていきます。それが晒し天草と呼ばれるものです。晒し天草を水で煮出し、抽出液を冷やして固めたものがところてん。

ところてんの歴史は古く、平安京の市場では心太(こころぶと)という名称で売られていたといいます。当時の名残から、いまでもところてんを漢字で「心太」と表記するのだそうです。

ちなみに、ところてんを凍結乾燥させたものが寒天となります(現在は凍結させず圧縮するつくり方もありますが、そもそもは寒い地域に放置しておいたところてんが凍ったのが発祥だそう)。

晒し天草

海女さんにいただいた晒し天草。自分でも晒してみたのですが、こんなに美しい黄金色にはなりませんでした。干す時期や晒す加減によって色が違ってくるとか。

天草は比較的暖かい海域に生息しています。下田でも天草の漁が盛んに行われていて、春から夏にかけて漁をする姿や、天草納屋で作業をする海女さんの姿を見ることができます。東京生まれの私にとってそうした光景はとても新鮮で、移住してからこの4年間でいろんな写真を撮影させてもらいました。

ところがです、実は私は天草を煮たことがほとんどなかったのです。

天草納屋で作業をする海女さんたち

移住してまもない頃、たまたま出会った天草納屋での作業風景。初めて見る光景に興奮したのを覚えています。

海女さん

昨年、漁師さんにいただいた天草を一度は煮てみたのですが、あまりにも経験値がないため正解がわからず、そのまま冷蔵庫にしまい込んでいました。それを再び引っ張り出して煮てみることに(通常ならば常温保存できるのですが、わが家は湿気が多いので念のため冷蔵保存)。

海女さんや漁師さんなど地元の方につくり方をうかがってみると、その時々の天草によって違うからなんとも言えないと。

天草は品質によって、粘り気の出方にかなり差があるのだそうです。ドロドロになりすぎるときは水を足したり、出にくいときは茹で時間を長くしたりお酢を少し足したり。お酢を入れると粘り気が出やすくなるのですが、食感が少しかたくなるので(地元の方はよくポキポキした食感と表現します)、それを好まない方はお酢を使わない。

さらに、1度煮出した天草に新しい草を少し足せば、二番液がとれるとのこと。なかには二番液は好きじゃないから1度しか煮ないという方もいるし、3度煮出す方もいる。などなど、地元の方は長年の経験から煮加減を熟知していて、それぞれの家庭によって好みのところてんの味わいがあるようです。

材料はふたつだけ! ところてんのつくり方

私は素人すぎて分量すら検討がつかず、まずはネットで調べてみました。すると、想像していたよりも簡単で、何しろおいしい!つるんとした舌触りと、喉を通るときのひんやりとした清涼感。暑い日のほてった体をすっと冷やしてくれます。

わが家でやってみたつくり方をご紹介します。

晒し天草を鍋で浸水

50グラムの晒し天草を3リットルの水にひと晩浸水しておきます(地元の方はあまり浸水しないようです)。

強火にかける

浸水しておいた水のまま強火にかけ、沸騰したら中火強で20分、その後少し火を弱くして20分。

ザルでこす

ザルでこします(この天草を使って二番液をとるので捨てずに)。

晒やキッチンペーパーでこす

細かいゴミなどを除くために、さらに晒やキッチンペーパーでこします。

一番液

保存容器に移して冷まし、粗熱がとれたら冷蔵庫へ。

一番液を抽出したあと、煮出した天草を鍋に戻して、2リットルの水と新しい天草をひとつかみ入れて20分くらい煮ると、二番液がとれます。一番液よりもやわらかくてゼリーのような食感に。かたいのもおいしいし、やわらかいのもおいしい。

ある海女さんによると、一番と二番を混ぜて均一にして固めるのだそう。本当にみなさん、それぞれのやり方があるようです。

さいの目に切ったところてんに黒蜜ときな粉を

黒蜜は波照間島の黒糖に水を加えて煮詰めたもの。これがまた濃厚でおいしい。私は突き出したものより、この角切りのほうが食感が好みです。

ところてんの材料は天草と水、それだけ。つまりその味わいは、ふたつの材料にかかっています。私が使用しているのは須崎の良質な天草(漁師さん海女さん、ありがとう!)、そして夫が日々汲みに行ってくれる山の湧き水です。そりゃおいしいはずだ。

下田の湧き水

車に積んだポリタンク

下田には湧き水を汲める場所がいくつかあるのですが、夫の職場近くにもおいしい水汲み場があります。毎日せっせと汲んで来てくれる夫に感謝です。

一度煮てみたらあまりにもおいしくできたので、その後もあれこれと試しています。

小さい頃から大好物の水羊羹。よく見かけるレシピだと粉寒天を使用しているのですが、せっかくなので天草でつくってみました。海藻の匂いとあんこの香りが混在するのでは? という心配もありましたが、海藻の匂いはまったくせず、これ最高においしい!

天草でつくった水羊羹

こしあん250グラムと天草を煮出した液300cc、お湯30ccと塩ひとつまみを鍋で少し煮る。分離しないように、ときどきかき混ぜながら冷ます。粗熱がとれたら冷蔵庫で冷やし固める。

地元の方に好みの味つけをうかがうと、酢醤油が多く、そのほか黒蜜やきなこ。そして「須崎だけかもしれないけど、太い棒状に切ったのを砂糖にまぶして食べる」と漁師さんと海女さんが教えてくれました。さっそくやってみると、うーん、きなこと黒蜜のほうが私は好みです。

天草漁から出荷されるまで

天草の天日干し

私が撮影をさせていただいているのは、下田の須崎地区での天草漁です。漁には口開けという解禁の時期があり、天草漁は例年5月から6月にかけて数回ほど行われます。漁の仕方はいろいろで、磯で箱メガネを使い潜らずに採る方法(岡磯と呼ばれる)もあれば、潜って採る方法もあり、そのほか沖に船を出して素潜りで採るなどさまざまです。

天草を船で港まで運ぶ

この日は磯から少し離れたところで天草を採取していました。スカリという網状の袋に天草を入れ、船で港まで運びます。

重量を計測中

スカリには名札がついていて、それぞれが採った天草の重量を計測していきます。

天草を運搬中

水を含んでいる天草はかなり重い。

須崎の天草はほかの海藻の漁とは少し違う点があります。例えばわかめやひじきの場合は個人で採取して加工するのですが、天草は共同作業で行われるのです。

まず採取した天草を港近くの溜池に集めて、真水で塩を洗い流します。そこで自分が採った天草の量が計測され、その後は共同の干場で一斉に天日干しにします。天気によって2、3時間ほど干した天草を裏返してさらに乾かすのですが、集合時間を決めてみんなで作業するのです。

天日干しの準備

一面に広げられた天草

広範囲に薄く広げる

なるべく早く乾くようにバサバサと振りながら広範囲に薄く広げます。途中で雨が降って濡れないよう、天気を常に気にしながらの作業です。

天日干しのあとは、天草納屋という作業小屋でゴミや余計な海藻を取り除きます。さらに、草の種類によっておよそ6つくらいに分類されます(良質な種類とそうでないものと、値段や使い道が異なるのだそうです)。

この一連の作業を「砂ふり」というのですが、真夏の暑いさなかにひとつずつ手先で選り分けていくのは容易ではありません。

砂ふりが終わると、今後は機械で圧縮して25キロの俵(ポンと呼ばれています)に成形します。ポンになったところでようやく漁協に出荷されるのです。

出荷された天草は、年に数回行われる競りにかけられ、全国の業者さんに買い取られていきます。その後ところてんや寒天として加工されたり、和菓子の材料になったり。須崎地区の天草は粘り気がよく出るため、全国的に見てもとても良質なものなのだそうです。都内のある有名和菓子店の羊羹に使われているという話も聞きます。

機械で俵にまとめていく

昔は大きな樽に天草を入れて海女さんたちが踏み固めてポンをつくっていたそうです。その様子がダンスをしているように見えることから、通称「樽ダンス」と呼ばれていたのですが、高齢化により人員が減ったために、機械を使うようになったそうです。

ずらりと並んだポン

これが俵型の「ポン」。ひとつ25キロあります。

作業中の海女さんたち

夏の暑い時期、納屋の中もかなり高温になります。この日の海女さんたち、海風の通る日陰に避難して作業をしていました。

子どもの頃、よく母と姉が食べていたところてん。実はこんな道をたどってきているだなんて、下田に住むまで考えてみたこともありませんでした。

そして苦手だったところてんを、この歳になってせっせとつくるようになるなんて、まったく想像していなかった。目の前で漁師さんや海女さんがとってきた天草を煮てつくったところてんは、ひと味もふた味も違って感じらます。

まだまだところてん初心者。地元の方につくり方をうかがいながら、あれこれ試してみようと思います。わが家のところてんを導き出せるまで。

パッケージングされたさらし天草

須崎の天草に興味のある方は、〈伊豆下田須崎 温泉民宿 浜屋〉さんにご連絡を。在庫状況によりますが、地方発送可能です。

文 津留崎徹花

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。

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