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地域のみんなで本をつくるには…? 〈ローカルブックス〉プロジェクト

  • 2021年5月6日
  • コロカル

島牧村に暮らす吉澤俊輔さんとの本づくり

2017年に山を買った体験をまとめたイラストエッセイ『山を買う』という小さな本を刊行して以来、1年に1冊のペースで本づくりを行ってきた。この出版活動を〈森の出版社ミチクル〉と名づけ、SNSで告知をしながら細々と本の販売を続けるなかで、知り合いのみなさんから、ミチクルで本を出したいという相談を受けることが増えてきた。

これまでは、うちで本を出しても、書店流通に必要なISBNというコードをとっているわけでもないし、大手ネット通販で販売しているわけでもないので、それほど広がらないと思うと消極的なお返事をしてきた。

しかし、何人かに声をかけてもらうなかで、自分の消極的な姿勢に息苦しさを覚えるようになった。この小さな出版活動に、わざわざ興味を持ってくれる人がいるのだから、その気持ちに答えたい。そんなふうに思うようになっていった。

新しい本づくりの大きなきっかけをくれたのは、道南の日本海に面した人口1400人ほどの島牧村に暮らす吉澤俊輔さんだ。

吉澤さんは、ご両親が〈島牧ユースホステル〉を営み、自身は木工作家として活動をしながら、「さくらの咲くところ」という屋号で、島牧の豊かな自然の恵みを生かした自給自足の暮らしを探求している。毎年秋に「小さな町の小さなマルシェ」と題したイベントも開催。昨年、このイベントを私が訪ね、吉澤さんと知り合うこととなった。

島牧で毎年開催される「小さな町の小さなマルシェ」。オーガニックな農法で作物を育てる生産者をはじめ、素材にこだわった料理やスイーツなどのお店が並ぶ。

島牧で毎年開催される「小さな町の小さなマルシェ」。オーガニックな農法で作物を育てる生産者をはじめ、素材にこだわった料理やスイーツなどのお店が並ぶ。

マルシェの開催から数か月後、吉澤さんから本をつくりたいという相談を受けた。4年間、北海道新聞のコラムでほぼ毎月連載を続けており、それが終わるタイミングで、これらをまとめたいと考えていたのだ。

原稿を読み、島牧の開放的な自然の景色と同じような心地よさを感じた。仲間と一緒に田んぼを再生させ昔ながらの米づくりを行ったり、海水をくんでそこから塩をつくったり、豊かなブナの森で山菜やキノコをとったり。暮らしのあらゆることに手間をいとわず、しかもそれを心の底から楽しんでいることが、文章の端々から伝わってきた。

時折り、環境問題に鋭く切り込む原稿もあるが、未来に希望は必ずあると思わせてくれるところも、心を明るくしてくれるものだった。

島牧はブナ林の北限。私が訪ねた秋は葉が色づき、キラキラと輝いて見えた。

島牧はブナ林の北限。私が訪ねた秋は葉が色づき、キラキラと輝いて見えた。

よし、吉澤さんと一緒に本をつくってみよう!そう私も自然に思え、ここから新たな本づくりのプロジェクトが始まった。

仲間が集まって、本づくりのチームが生まれて

本づくりを始めるにあたっての最初の難関は資金集めなのではないかと思う。レイアウトをデザイナーに依頼し、印刷会社である程度まとまった部数を制作するとなると、100万円を超えてしまうケースも少なくない。これまで私の本の場合はデザインも自分で行い、ネット印刷を利用することで、かなりのコストダウンを図ってきた。

ただ、写真を印刷で美しく再現するのが難しかったり、サイズや紙の仕様を自由に選べなかったりという不都合な点もあった。やはり信頼のおけるデザイナーや印刷所と組んだほうが確実にいいものができる。そのためには資金が必要……。吉澤さんは資金集めの方法として、クラウドファンディングを行うことを考えてくれた。

計画を一緒に進めてくれたのは、同じ島牧に拠点を持つ宍戸慈さん。宍戸さんは「女性のための、ライフスタイル活動家」という肩書きを持ち、個人が自立をし自分の人生を切り開いていけるように、独自のコンサルティングなどを行っている。福島県福島市出身で、東日本大震災をきっかけに北海道に移住し、吉澤さんらの島牧での暮らしに感銘を受け、現在札幌との2拠点で生活を送っている。

宍戸さんにとって、吉澤さんは持続可能な暮らしの先輩であり、ともに子育てや未来のあり方を考える家族のような存在だという。そこで、宍戸さんが吉澤さんを応援するというかたちで、北海道新聞によるクラウドファンディング〈ファインド・エイチ〉で資金を募ることとなった。

宍戸慈さん。島牧村でふたりの子どもを育てながら持続可能な未来の暮らしのあり方を模索している。

宍戸慈さん。島牧村でふたりの子どもを育てながら持続可能な未来の暮らしのあり方を模索している。

私は本づくりに関わってくれるデザイナーと印刷会社を探すことになった。今回デザインをお願いしたのは、〈ナカムラグラフ〉の中村圭介さん。先日、私と北海道教育大学岩見沢校の学生とでつくった本『いなかのほんね』のアートディレクションを担当してくれた人物だ。

中村さんのデザインがすばらしいのは、地域で起こる小さな出来事を題材とした本をつくるときに、その内容を、都会に住んでいてまったく異なる生活をしている人でも興味が持てるようにするための的確なアドバイスをくれるところだ。

私がぼんやりと考えていたプランに対し、「ミチクルがどんな本を出していくのか」や「レーベル名は何か」を具体的に考えていくことを勧めてくれた。これをきっかけに、本づくりの方向性がしっかりと固まっていくこととなった。

中村圭介さん(左上)は稚内出身。現在は渋谷に事務所を構えている。打ち合わせはオンラインで行い、事務所のスタッフの伊藤永祐さんが実際のデザインを組んでくれた。

中村圭介さん(左上)は稚内出身。現在は渋谷に事務所を構えている。打ち合わせはオンラインで行い、事務所のスタッフの伊藤永祐さんが実際のデザインを組んでくれた。

レーベル名として考えたのは〈ローカルブックス〉。地方新聞やミニコミのことをローカルメディアというように、本も地域に根ざしたものがあってもいいのではないか、そんなところから考えた。

また、ミチクルの本づくりの仕組みも明確にした。そのポイントは3つ。ひとつは、著者に手を動かしてもらって、まず自分で本のサンプルをつくってもらうこと。原稿を書くだけでなく、本というかたちにまとめることで、何を大切にしたいのかが自然と浮かび上がってくるように感じられたからだ。

吉澤さんが自らつくったページのサンプル。新聞のコラム原稿に合わせて、どんな写真を入れるのかを検討。これをもとに中村さんがデザインを進めた。

吉澤さんが自らつくったページのサンプル。新聞のコラム原稿に合わせて、どんな写真を入れるのかを検討。これをもとに中村さんがデザインを進めた。

もうひとつは、ミチクルで本を出してくれた著者に、ローカルブックスのすべてのラインナップをイベントなどで販売してもらえたらと考えた。ミチクルは私がひとりで行ってきた活動ということもあり、いままで営業まで手が回らなかったけれど、この仕組みがあれば、著者が増えるごとに販路が広がっていく可能性がある。

そして3つ目は、本づくりを続けてもらうこと。1冊目ですべて満足するものになるわけではないし、本をつくったことでさらなるアイデアもわいてくるはず。何回も取り組みを続けていくなかで、本づくりの可能性は大きく広がっていくのではないか。この3つによって、持続可能なサイクルを生み出したいと考えた。

ローカルブックスの仕組みを書いた図。

ローカルブックスの仕組みを書いた図。

さて、あとは協力してくれる印刷所を探すこと。真っ先に相談をしたのは、『いなかのほんね』を刷ってくれた、札幌にある〈中西印刷〉の営業担当の岸上祐史さんだ。

岸上さんは、紙や加工にこだわった本づくりに積極的に取り組んでいて、これまでも親身になって対応してくれた。また中西印刷は、出版社も営んでおり、ローカルでの本づくりの可能性を模索している会社でもある。岸上さんに、持続可能な取り組みにするためにできるだけ印刷にかかるコストを抑えられないかと相談をしたところ、紙選びや判型などに工夫した、さまざまな提案をしてくれた。

さらに、ローカルブックスのラインナップを中西出版の電子書籍として刊行する可能性なども検討してくれた。

吉澤さんが撮影した写真より。自ら小麦を育て製粉して、薪ストーブでパンを焼く。

吉澤さんが撮影した写真より。自ら小麦を育て製粉して、薪ストーブでパンを焼く。

小さな村の未来的取り組みを伝えたい

こうしてローカルブックスのベースが固まり、ついにクラウドファンディングも始まった。

吉澤俊輔初書籍『さくらの咲くところ』をひとりでも多くの人に届けたい。そして、小さな村でこんなにも未来的で、持続可能な暮らしが営まれていることを伝えたい。

クラウドファンディングのページでは、そんな宍戸さんの思いが詰まった言葉で、書籍と吉澤さんの暮らしについてが語られた。書名となった「さくらの咲くところ」は、アイヌの人たちが、この地域を「カリンパ・ウシ」、さくらの咲くところと呼んだことに由来する。

そして、本の刊行にあたり吉澤さんの友人からたくさんの応援メッセージも寄せられた。

応援メッセージを寄せた人たちの顔写真を集めたクラウドファンディングのトップ画面。

応援メッセージを寄せた人たちの顔写真を集めたクラウドファンディングのトップ画面。

2009年に吉澤さんと一緒に小樽から沖縄まで歩き、植樹の旅をしたという環境活動家の中渓宏一さん。吉澤さんの半焼した住まいのリノベーションをともに行った建築家の冨樫雅行さん。そして、エネルギーを自給するために風力発電機とソーラーパネルの設置をサポートした早川寿保さんなど、11組がコメントを寄せた。

私はこれらの応援メッセージを見て、吉澤さんの暮らしは、自分の足元から未来をつくっていこうとする人々のつながりのなかで、より一層豊かなものとなっていると実感した。そして、本づくりも、この輪の中にあるのだなあとしみじみ思った。

吉澤さんが撮影した写真より。エゾヤマザクラが開花。

吉澤さんが撮影した写真より。エゾヤマザクラが開花。

クラウドファンディングが始まった5月5日は、ちょうど北海道で桜が咲く季節。その多くはヤマザクラで、まだ新芽が硬い木々の間に、ポツポツとやわらかな彩りを見せてくれる。

「自然と共に生きたアイヌの人たちが見ていた風景と変わらない景色を未来につなぎたい」

吉澤さんの願いが詰まった一冊は、現在デザインを進めていて、6月刊行予定となっている。

吉澤さんが撮影した写真より。細やかな彫り跡のある豆皿は吉澤さんらしさを感じさせる。丁寧で、手間を惜しまない心は暮らしのすべてに生かされている。

吉澤さんが撮影した写真より。細やかな彫り跡のある豆皿は吉澤さんらしさを感じさせる。丁寧で、手間を惜しまない心は暮らしのすべてに生かされている。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/

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