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元居酒屋から地域の人が集まるカフェへ。DIYリノベーションでここまでできる!

  • 2021年4月30日
  • コロカル
野村パターソンかずたか vol.8

北海道旭川市で、リノベーションや不動産事業を営みながら、アーティストインレジデンスなど地域の文化事業を企画・運営する、野村パターソンかずたかさんの連載です。

元ミュージシャンで世界の都市を巡った背景から、地元・旭川市にて多様なコンテンツをしかけています。

最終回の今回は、旭川市の中でもひときわ長い歴史を持つ銀座商店街にあった居酒屋を、地域の人が集えるコミュニティカフェとして蘇らせた〈Cafe Sunao〉さんをご紹介します。

旭川銀座商店街にある店舗。外観ビフォー。

旭川銀座商店街にある店舗。外観ビフォー。

かつては賑やかだった旭川銀座商店街

日本全体で見ると、名前に「銀座」と入る商店街は300を超えるらしい。旭川銀座商店街もそのひとつで、市内では最も古い歴史をもつ商店街のひとつだ。実は自分の先祖のルーツがある場所でもある。

私の曾祖父は、戦後に金沢から北海道に移住し、くず鉄拾いからシイタケ栽培まで、生き抜くためにあらゆる商売をやってきたと聞いている。銀座商店街の一角に店舗を構えていた彼の商店は、その後も場所やかたちを変え、最終的には米菓製造に落ち着くことになる。

〈野村製菓〉という米菓会社は、餅の製造に加えて、江戸揚げを主力製品としていた。江戸揚げは、「かぶきあげ」とも呼ばれ、蒸したもち米をついて、米油で揚げ、粗塩をふりかけただけのシンプルな菓子だ。最盛期には、このお菓子を北海道中で何億円分と販売していたというから驚きだ。

残念ながらこの会社はなくなってしまったが、曾祖父からバトンを譲り受けた祖父に連れられて何度も訪れた旭川銀座商店街の風景は、自分の幼少期の原風景として記憶に残り続けている。活気あふれる野菜市、いつ行っても賑わっていた多くのお客さん。全国どこの商店街も同じかもしれないが、いまとは比較にならない活気に包まれていた。

築51年、元居酒屋の空き店舗

今回紹介する物件の周辺には商店街の顔ともいえる建物が多く存在したが、年を追うごとにどんどん解体されていった。個人商店が多く入っていたRCの建物や、吹けば飛ぶような木造2階建てなど、大通りに近いほうが徐々に潰されていった。

店舗の数には不釣り合いな駐車場だけが目立ち始めていた2019年、元居酒屋の店舗が売りに出された。もとは〈千鶴寿司〉という評判の寿司屋だった店舗が、居酒屋として約10年利用されたあとに閉店して、店舗兼住居として売りに出されていた。放っておけばまた駐車場がひとつ増えるだけだろう。家族のルーツがあるこのエリアの物件の取得に向けて動くことにした。

内見パーティの様子。このあと人数は3倍ほどに膨れ上がる。

内見パーティの様子。このあと人数は3倍ほどに膨れ上がる。

物件の購入に合わせて恒例の内見を兼ねたパーティイベントを開催し、たくさんの人が集まった。2021年のいまとなっては、マスクもせずに何十人も集まり同じ空間で過ごしたあの夜は、もはや昔話のようだ。

テナントが決定。〈Cafe Sunao〉の始動

現在この場所で〈いちにちじゅうあさごはん Cafe Sunao〉を運営する谷越アキさんとは、以前紹介した〈nest co-living〉で開催されたDIYワークショップで出会った。DIYリノベ未経験者が集まり、建物の内部を塗装したり、床を張ったりする勉強会だ。

当時から喫茶店の開業を夢見ていたアキさんは、DIYで内装をリフォームして、自分好みの店をつくる技術を学ぶために、ワークショップに参加していた。

店主のアキさん。最近は本業と同じくらいけん玉にハマっているらしい。

店主のアキさん。最近は本業と同じくらいけん玉にハマっているらしい。

「いい物件が手に入ったらお知らせする」と約束をしていたので、この物件が見つかってすぐに連絡を入れた。取得前から、この場所はアキさんと雰囲気が合いそうだなと思っていた。友人たちが集まれるスポットがほぼない地域だったので、人々の「溜まり場」になる場所が必要だった。

料理を独学したという前の居酒屋の店主。彼の努力の痕跡が、残された本から読み取れた。

料理を独学したという前の居酒屋の店主。彼の努力の痕跡が、残された本から読み取れた。

1階の店舗スペースは、カウンター4席、テーブル2席、小上がり4席と、アキさんがゆったりと営業するにはピッタリのサイズだ。2階へ上がると住居スペースがあり、細長い建物に寝室が4つ、トイレ、お風呂場などがある。2階は傾いている箇所もあるのだが、設備は新設されており悪くない。お風呂場などは我が家よりもきれいなほどだ。

アキさんは入居を快諾してくれた。もともとの雰囲気が居酒屋そのものだったので、一目惚れとは言えないかもしれない。秋頃に取得し、年始の開店に向けて改装プロジェクトが動き出した。

店内ビフォー。昔はここで寿司が握られていたのだろうか。

店内ビフォー。昔はここで寿司が握られていたのだろうか。

そのまま転用できる箇所もあったので、まずは残す部分、残さない部分が見定められた。アキさんがまず手をつけたのが、天井だ。キツめの紫色の天井が喫茶店のイメージとは合わなかったことから、漆喰で覆うことにした。上に手を伸ばす作業は予想以上に疲れたはずだが、一面がしっかりと塗り替えられていた。空が明るくなり、開放感が生まれた。

改修後。天井を漆喰で覆い、レールライトを追加したことで店内が明るくなった。

改修後。天井を漆喰で覆い、レールライトを追加したことで店内が明るくなった。

天井に加えて、左側の壁面も漆喰で覆われ、壁にはおすすめメニューなどを描けるよう黒板塗料が用いられた。右側の青い壁はアクセントとして残されている。小上がりは会議で利用されることもあり、汎用性が高い。もともと畳が敷かれていた部分にはクッションフロアを敷き詰めた。

居酒屋だったときの暗めの照明から、明るいレールライトが追加され、白くなった壁と相まって清潔感のある印象になった。

改修後のカウンター。カウンターの上の壁にも黒板塗料を塗って、メニューなどを手描きできるようになった。

改修後のカウンター。カウンターの上の壁にも黒板塗料を塗って、メニューなどを手描きできるようになった。

アキさんにとっては初めてのDIYリノベ物件だったはずだが、インターネットの情報も参照して、独自にどんどん進めていたのが印象的だった。ひと昔前だと、DIYで家や店舗を改装する人は、ホームセンターなどで何時間も店員さんに話を聞いて作業を進めていたようだが、いまは未経験者がスマホ片手に難しい作業にも挑戦していく時代になった。

漆喰を手で塗りつける店主。

漆喰を手で塗りつける店主。

お店からの情報発信

店内には、地域とのつながりを大事にするアキさんらしいコーナーもある。ほかの飲食店のショップカードや手芸作家さんの商品、地域のアーティストの作品、物々交換の品が入ったバスケットなどが展示されている。

Cafe Sunaoのお客さんが運営する英語塾やマッサージ店などのチラシもあり、どんなお客さんがここを訪れているのかを覗き見できる場所でもある。情報は定期的に更新されており、訪れるたびにこの棚をチェックするのが楽しみになっている。

大きくはない店内だが、スペースを上手に使い、情報発信もしっかり。

大きくはない店内だが、スペースを上手に使い、情報発信もしっかり。

前回紹介した〈アーティストインレジデンスあさひかわ〉のアーティストがCafe Sunaoの2階に滞在することもある。この建物に制作場所はないが、滞在場所として利用され、アーティストたちの「寮母」として、アキさんが旭川の地域紹介をしてくれるのだ。

アキさんが飾ってくれているアーティストたちの情報が、階段沿いの壁に増え始めている。

アキさんが飾ってくれているアーティストたちの情報が、階段沿いの壁に増え始めている。

地域の人に場所を開き、愛されるカフェへ

「いちにちじゅうあさごはん」の名前のとおり、開店中はいつ行っても特製の朝ごはんメニューを楽しむことができる。こだわりの道産食材を使ったごはん目当てのリピーターは多い。個人的には北海道バターとホイップクリームを使ったフレンチトーストがオススメだ。

コーヒー関係の機械はしっかりしたものを入れたい、ということで、普通の喫茶店ではあまり見ない重厚なエスプレッソマシンと豆挽きも併せて設置された。市内で焙煎される新鮮なコーヒー豆でアキさんが淹れてくれるエスプレッソは深い味わい。

市内のイラストレーターの方がデザインした看板が目印。

市内のイラストレーターの方がデザインした看板が目印。

営業時間外のイベントも多い。これまでにCafe Sunaoの主催で、閉店後にタロット占いのイベントや真横の駐車場でのBBQなどが開催され、雪がない時期は店の内も外も盛り上がっている。大通りからすぐ見える場所でも、七輪があれば焼き肉を始めてしまうのはなんとも北海道民らしい。それに文句も言わず、微笑んでくれる地域の方の寛容さにも感謝を忘れられない。

昨年末、カフェに隣接する駐車場で開催されたBBQ。

昨年末、カフェに隣接する駐車場で開催されたBBQ。

Cafe Sunaoがオープンして1年と数か月が経った。アキさんがそう思っているかはわからないが、不運なことに新型コロナウイルスが世界で流行り始めた2020年1月にこのカフェはオープンした。開業と共にウィズコロナ時代が始まり、ニューノーマルと呼ばれる取り組みが飲食業に求められるようになった。

長年の経験を積んだ飲食店ですら苦戦するなかで、Cafe Sunaoは底からのスタートだ。ただ、アキさんはこの状況を悲観せず、地域の人に親しんでもらえるように取り組みを考え続けている。常連さんたちは1日をとおして出たり入ったりしながら世間話をしたり、けん玉をしたりする。

今年の夏は、近所の空き地を活用した小さなお祭りやプランターを使った家庭菜園を検討中だそうだ。活用されない建物や土地が増え続けている地方都市において、こうしたコミュニティを育てていく取り組みは手放しで歓迎したい。

建物のオーナーとなり、閉じたシャッターを開けていく

これまで全8回にわたって、北海道旭川市の空き店舗活用事例を紹介させてもらった。物件の数だけ、それを取り巻くコミュニティやストーリーがあり、3年で取得した約20の物件から与えられた思い出の数は計り知れない。

自分の使命は物件を持ち続けることではなく、閉まったシャッターを開けてくれる人を見つけることだと考えている。不動産仲介業でも同じことができるのかもしれないが、テナントに好条件を提案するには、やはり自分がオーナーになってしまうのが一番早い。

3年経ってこのまちの景色は少しでも変わったのだろうか。自問しない日はない。ただそんな堅苦しいことを考えてなんになる。“野村パターソン”なんていう冗談みたいな名字にしてしまったんだ、戸籍上も。そんな名前の人間に悩みは似合わない。

旭川ゴーズオン。これまで読んでいただきありがとうございました。

information

いちにちじゅうあさごはん Cafe Sunao 

住所:北海道旭川市4条15-823-8

writer profile

Kazutaka Paterson Nomura

野村パターソンかずたか

のむらパターソン・かずたか●1984年北海道生まれ。旭川東高校卒業後に渡米し、 コーニッシュ芸術大学作曲科を卒業。ソロミュージシャンとして全米デビューし、これまでに600本以上の公演を行う。2011年に東京、2015年にニュージーランドへ移住し、IT企業で事業開発・通訳などを務める。2016年に旭川に戻り(株)野村設計に入社。遊休不動産の活用事業を3年で約20件行う。2020年に〈アーティストインレジデンスあさひかわ〉を立ち上げ、芸術家との交流を通した地域活性を開始した。

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