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レストラン〈CONTE〉と雑誌『CONTE MAGAZINE』。沖縄・首里から発信されるふたつの物語

  • 2021年4月26日
  • コロカル

首里へ移住し、雑誌『CONTE MAGAZINE』をつくる

都心の大型書店やセレクト書店などで購入できる雑誌のなかに、最近ではローカル発信の雑誌が増えてきた。それらはパッと見では、横に並んでいる都市部発信の雑誌とそう変わらぬ顔をしている。しかしよくよく読んでみると、地域性が滲みでている。

それら「ローカルインディーズ」とでもいえる雑誌の多くは、地域情報だけを伝えるのではなく、その土地に住んでいるからこそ感じることができる社会性や文化を誌面に込めて編集されているようだ。

そのひとつに『CONTE MAGAZINE』がある。沖縄の首里から発信されているこの雑誌、vol.01の巻頭特集にはいきなり笑福亭鶴瓶さんが登場。特集テーマには「生きるためには、物語が必要です。」とある。この雑誌の編集長である川口美保さんに話を聞いていくと、沖縄とは関係のないように思える鶴瓶さんに取材を行った意味がわかってきた。

発売中の『CONTE MAGAZINE』第1号。2200円。

発売中の『CONTE MAGAZINE』第1号。2200円。

ということで、まずは沖縄で『CONTE MAGAZINE』と〈CONTE〉というレストランを手がける川口美保さんの「物語」から始める。

川口さんは、大学在学中からインタビュー&カルチャーマガジンの『SWITCH』編集部で働き始め、副編集長を務めるなど約20年間勤めた。仕事も順調ではあったが、当時から「この先ずっと東京で暮らしていくイメージは持てなかった」という。

「故郷の福岡に帰るという選択肢ももちろんありました。だけど、もうひとつ故郷みたいな場所をつくれるのではないか、という思いも持っていました」

移住してすぐは、近所の首里の郷土料理店でアルバイト。高齢の店主夫婦に首里の歴史や食文化を教えてもらったという。

移住してすぐは、近所の首里の郷土料理店でアルバイト。高齢の店主夫婦に首里の歴史や食文化を教えてもらったという。

その思いをぐっと引き寄せたのが沖縄だった。ミュージシャンの取材をすることが多かった川口さんは、あるとき沖縄のバンド〈ビギン〉が主催する「うたの日コンサート」を取材した。

「その会場には、3世代で来ているお客さんがたくさんいました。ひとつの音楽で3世代が歌って踊っている光景にとても感動しました。そしてビギンのメンバーが『その上の世代も喜んでるよ』って言うんです。ご先祖など、目に見えない存在にも近いという感覚。それに衝撃を受けて、沖縄の音楽や暮らしを知りたいと思いました」

こうして沖縄に通う機会も増え、ついには2014年に移住することになる。

「約20年間、SWITCHにいたので、やり切った感じもありました。縁はどこでもつながるはずだから、東京で知り合った人たちでも、そう簡単には切れないだろうし、一度、違う場所で暮らしてみようと思いました」

〈CONTE〉は大きな窓でゆったりとした空間。

〈CONTE〉は大きな窓でゆったりとした空間。

夫婦でレストラン〈CONTE〉オープン

沖縄に移住した当初は観光気分もあったというが、近くの飲食店などでアルバイトをし、2015年には、料理人である夫の五十嵐亮さんとレストラン&カフェ〈CONTE(コント)〉をオープンした。当然、五十嵐さんが料理担当だが、川口さんが得意なことを組み合わせて、イベントやライブなども積極的に行っている。

ランチは常時4種類。煮込み料理が必ず1種類入る。

ランチは常時4種類。煮込み料理が必ず1種類入る。

お客さんの多くは、地元の人だという。お店という場所を通して文化を発信すべく、ミュージシャンを呼んでライブイベントを開催したり、近くの沖縄県立芸術大学の作陶展を開催したり。表現したい人と地元がつながって、好循環を生み出している。

飲食店という場を始めて感じたことは、これまでも理屈では当たり前に思っていた“ある関係性”について。その「納得」と「再認識」だった。

「東京にいた頃から、“顔が見える関係”という言葉はよく使われていましたけど、本当によく見える。食材はもちろん、使っているうつわ作家もみんな顔が見える関係です。小さな輪がたくさんあることは、健全だなと思いました」

お店ではうつわやグラスなどのほか、やんばるの食材なども販売している。

お店ではうつわやグラスなどのほか、やんばるの食材なども販売している。

かつて川口さんが属していた雑誌業界は、書店でのイベントでもない限り、読者と直接ふれあうことは少なく顔がわからない。書店担当も別にいるため、編集者が書店員とやりとりすることもほとんどない。沖縄で川口さんは、「顔が見える」という意味を実感をともなって理解できた。

「顔が見える人から食材を買い、顔が見えるお客様からお金をいただく。そのお金でまた顔が見える人から食材を買う。お金の流れが明快で、気持ちいいですね」

お店として、ここに存在し続ける意義を感じたできごとがあった。2019年に起こった首里城火災のときだ。そのとき首里のまちは騒然となり、まち全体の気持ちが落ち込んだという。そんなときにお店を開けるかどうか、川口さんたちは迷った。

「報道陣やヘリコプターもたくさん来ていて、迷いましたがお店を開けたら、こんなときなのに、お客さんも来てくれました。そのひとりから『こういうときに開けてくれてありがとう。いつもあるものがなくなってしまった今、こうして変わらずこの場にあってくれるとホッとする』という声をかけていただいたんです」

当たり前に存在していた首里城が、当たり前ではなくなった。そんな騒ぎのなかだからこそ「日常」に安心するのかもしれない。

「そのとき、これがお店が持つ役割だなあと思いました。やりたいことも、中身もどんどん変わっていくけれど、いつ来てもちゃんとここにあって、扉が開いているというお店でありたい。それが“地域にある”という意味なんですよね」

音楽ライブのために、ピアノをはじめ、少しずつ機材を購入しているという。

音楽ライブのために、ピアノをはじめ、少しずつ機材を購入しているという。

コロナ禍である現在は、やはり観光客は少ないという。その分、地域との結びつきが強まる1年だった。2020年春の緊急事態宣言のときは、テイクアウトのみで営業していた期間もあった。外に出るのが不安な高齢者、小さな子どもを育てている世代などにテイクアウトは重宝されるものだ。

「店内で食べるということは場所を合わせて体験してもらうことですけど、お持ち帰りして家族で食べてもらうということにも新しい光を感じました。子どもからお年寄りまで安心して食べられるものをつくっているつもりなので、家族みんなで食べてもらえるのはうれしいです」

CONTEのガルビュール(県産豚と島野菜の煮込み)[ランチには、本日のスープ、沖縄野菜を使った数種のデリ、七分づきライス付き]。1400円。

CONTEのガルビュール(県産豚と島野菜の煮込み)[ランチには、本日のスープ、沖縄野菜を使った数種のデリ、七分づきライス付き]。1400円。

物語を紡ぐ雑誌『CONTE MAGAZINE』

『CONTE MAGAZINE』の構想は、お店のオープン当時からあった。ただそれは、お店がリリースする小冊子のようなイメージ。しかし気がついたら月日も経ち、190ページを超える立派な雑誌になっていた。

沖縄に住んでいて、お店と同じ名前を冠するならば、沖縄の情報を伝える雑誌になりそうなところ、『CONTE MAGAZINE』はそうはならない。

「沖縄に住んでまだ間もない人間が、沖縄のことを語っていいのだろうかという葛藤がずっとありました。ではどんなことだったらできるか。私が沖縄に来て実感したのは“つながり”です。沖縄のことを伝えるというよりは、沖縄に暮らしながら感じるつながりをかたちにすることだったらできるかも。そう思ったんです」

お店でもつくることと食べることのつながりはあるし、周囲を囲む豊かな自然ともつながりを感じる。また沖縄には「御嶽(うたき)」などの祈りを捧げる聖なる場所も多く、精神性のあるつながりも色濃く残っている。人間には本来、必要な「つながり」が、都市部よりもまだたくさん残っていることを川口さんは知った。

飾られていたのは、CONTEで開催された沖縄のフォトグラファー・G-KENさんと画家・BEBICHINさんによる二人展『¡Paseo Soñado!』の作品。

飾られていたのは、CONTEで開催された沖縄のフォトグラファー・G-KENさんと画家・BEBICHINさんによる二人展『¡Paseo Soñado!』の作品。

自分のなかで沖縄に対する編集方針が腑に落ちてから、やっと制作を開始。沖縄での暮らしを通して思いを醸成することは、必要な時間だったのだ。自費出版にしたのも、目に見える範囲でつくりたかったから。

雑誌の前書きに掲げられている編集コンセプトは、「目に見えないものが見えるように、声にならない声が聴こえるように」。

沖縄とは一見、関係ないように思える鶴瓶さんや作家の角田光代さんなどのインタビューが掲載されているが、それも沖縄に暮らしているからこそ見えてきた「つながり」をかたちにする作業のひとつだ。

「東京に暮らしていても、いろいろなつながりはあります。ただし沖縄はもっと見えやすい。それをかたちにしていきたい」と語る川口さん。

オープンキッチンなので、調理の様子を見ることができて安心。

オープンキッチンなので、調理の様子を見ることができて安心。

東京につながりがないわけではない。それがないと社会は成り立たない。しかし文明の進化、効率性の追求などに隠れて見えづらくなっているのも事実。

「本当はあるのに見えなくなっているものを、もう一度見えるように開いていく」こと。それに必要なものが「物語」だ。

巻頭特集は9つのお話で構成されている。つながりに意味を持たせるのが物語。人が人に伝えるときに必要なものが物語。自分のなかに貯めるために必要なことが物語。

インタビューには、物語を引きだすプロ、物語を書く作家、物語を治療に生かす医師、さらには音楽家、料理家、画家などがそれぞれ物語について語っている。

「見えにくくなっているつながり。それを感じとれる感性や想像力を養っていかなくてはなりません」

そうした感覚を取り戻すことができるように、川口さんが沖縄で感じたつながりと、そこから紡がれる物語をテーマに置いたのだ。

たとえ取材対象が同じでも、東京の編集者・川口美保さんと、沖縄の編集者・川口美保さんとでは、きっと切り口も捉え方も変わってくるだろう。それが沖縄発信の雑誌という意味だ。

季節のものを中心にした野菜のデリ。

季節のものを中心にした野菜のデリ。

暮らしのなかで見えてくるつながり

『CONTE MAGAZINE』の次号はコロナ禍の影響もあって、特集の地理的な範囲を限定的にした。沖縄本島の北部に自然が広がる「やんばる」エリアだ。これもつながりをテーマに紡いでいく。

「森と海のつながり。その間に人の暮らしがあるわけです。人間は単独で生きているわけではありません」

森と海はつながっている。森からの恵みでものづくくりし、海からの恵みを食べる。わざわざ言うまでもないが、俯瞰して見ることで「やんばるという地域のなかに、人が生きるための普遍性があるのではないか」と川口さんは期待する。それを見つけられれば、沖縄で雑誌をつくっている意味が増すだろう。

地方の現場では、課題解決のためにスクラップ&ビルドしたり、よそからまったく新しい何かを持ってくるというよりは、「結び直す」という視点を持っている人が多い。おかしくなっているのは、モノやコト自体ではなく、それをつないでいるもの、もしくは結び方なのだ。だから「すべてにおいて、結び直すこと、そのつながりを見つめることが必要だと思っています」と川口さんも言う。

「場所は思い出に残る」という川口さん。場所が持つ意味を考える。

「場所は思い出に残る」という川口さん。場所が持つ意味を考える。

お店と編集。両方を大切に、そこに「つながり」をもたせながら暮らす川口さん。仕事に忙しい生活なのかと思いきや、「一番大切なのは自分たちの暮らしです」と言う。

「暮らしの比重のほうが重いです。もっと制作に時間をかけていたら、もっと早く雑誌もできていますね。夜は自分たちの時間にしようと思って、昼営業にしています。お店が終わったら買い出しして、家でごはん食べて、お酒飲んで」

こうして着実に地元に根ざしていく。冒頭で「もうひとつの故郷をつくりたい」と話していたが、果たしてこの地はふたつめの故郷になったのだろうか。

「7年経って、この場所は絶対に大切なものとして、ずっとあるだろうなというのはわかります」

レストラン〈CONTE〉も、雑誌『CONTE MAGAZINE』も、川口さんと私たちを結ぶつながりであり、川口さんが語る物語だ。私たちもそこからつながりを見つける感性を学んで、次の物語へとつなげていきたい。

お店を始めてから地元との交流が深まった。“扉はいつも開けていたい”という。

お店を始めてから地元との交流が深まった。“扉はいつも開けていたい”という。

information

CONTE_ コント

住所:沖縄県那覇市首里赤田町1-17

Tel:098-943-6239

営業時間:11:00〜17:00(L.O.16:00)

定休日:月・水曜

Web:CONTE_

Mail:conteokinawa@gmail.com

Facebook:conteokinawa

Instagram:conte_okinawa

CONTE MAGAZINE

Web:CONTE MAGAZINE

*価格はすべて税込です。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

石阪大輔(HATOS)

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