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熊本地震を伝えるミュージアム〈記憶の廻廊〉 旧東海大学阿蘇キャンパスを訪れて

  • 2021年4月21日
  • コロカル

熊本県の阿蘇地方は、カルデラや草千里といった自然豊かな大地が広がる。

2016年の4月14日と16日に発生した熊本地震。

28時間以内に2度も震度7を記録する大地震は観測史上初めてのことだった。四季折々の美しい姿を見せてくれる阿蘇も、地震により甚大な被害を受けた地域のひとつだ。

震災から5年。熊本地震の記憶を伝える場所があるということで、南阿蘇村を訪れた。

熊本地震の記憶を未来へつなぐ

熊本市内から車で約1時間、2020年10月に開通した国道57号を北上すると阿蘇の玄関口に差し掛かる。

ここは、「数鹿流(すがる)崩れ」と呼ばれる大規模山腹崩壊や、阿蘇大橋の崩落が起きた場所だ。黒川を挟んだ対岸に残された橋の一部が見える。その生々しい光景に、思わず足がすくんでしまう。

地震によって崩れ落ちた阿蘇大橋。

地震によって崩れ落ちた阿蘇大橋。

未だ災害の爪痕が残るその場に立つと、被害の大きさが肌で伝わってくる。

熊本地震の経験から得られた教訓を後世に伝えるために、熊本県と関係市町村は、さまざまな地域に点在する「震災遺構」と情報発信の「拠点」を広域的に巡る、フィールドミュージアムの取り組みを進めている。

それが、熊本地震 震災ミュージアム〈記憶の廻廊〉だ。

この震災ミュージアムは回廊型である。県内8市町村(熊本市、宇城市、益城町、南阿蘇村、宇土市、御船町、西原村、大津町)が連携し、震災遺構や防災拠点センター、役場庁舎、熊本城などの拠点を広く巡ってもらおうという取り組みである。

この日訪れたのは、その震災ミュージアムの拠点のひとつである〈旧東海大学阿蘇キャンパス〉だ。

南阿蘇村に位置する旧東海大学阿蘇キャンパスは、「地表地震断層」と「1号館建物」が震災遺構として保存されており、県防災センターと並ぶ震災ミュージアムの中核拠点として機能する。

旧東海大学阿蘇キャンパスへ

高台にある白い建物

高台にある白い建物が旧東海大学阿蘇キャンパスの校舎だ。以前はここで農学部の学生たちが集い学んでいた。

実習フィールドを残してキャンパスはすでに移転してしまったが、旧校舎は取り壊されることなく、震災遺構として2020年8月1日から一般公開されている。

「震災遺構」というと重々しく感じてしまうが、校舎の周りののどかな風景は、開放的で清々しい。

「もし自分がこの場所に通えるなら居心地がいいだろうな」と、そんなイメージを膨らませてしまうほど、気分がいい。

この日の案内人である鉄村拓郎さん。

この日の案内人である鉄村拓郎さん。

笑顔で出迎えてくれたガイドの鉄村さんにさっそく案内をしていただく。ガイドは30名ほど在籍しているそう。団体を除いて、多い時に1日で100名前後を案内するという。

時間は30〜40分程度、阿蘇独特の地形から、震災遺構である地表地震断層、1号館建物や地域のことについて丁寧に解説してもらえる。阿蘇は隆起の激しい珍しい地形だとあらためて驚く。

断層が校舎を貫く凄まじさ

地表地震断層と呼ばれる地割れは、校舎裏の広場に当時のままの状態で保存されている。断層は一直線に校舎へ向かっている。

断層の種類や性質など図解でわかりやすい。右横ずれ断層の特徴である雁行(がんこう)についての説明を聞く。

断層の種類や性質など図解でわかりやすい。右横ずれ断層の特徴である雁行(がんこう)についての説明を聞く。

本来一体である校舎の倒壊を防ぐために、1号館建物は4分割にされていた。窓ガラスが割れ、階段や壁に大きく亀裂が伸びている。断ち切られた校舎や波のように割れた地面が痛々しい。

「中央の校舎の被害が左右に比べて大きいのはなぜでしょうか?」と突然クイズが投げかけられた。

来場者が受け身になりすぎず、一緒になって考えることが必要なのだと気づかされる。答えは、ぜひ訪れた際に確認してほしい。

壊れた柱や外壁もそのまま保存されている。

壊れた柱や外壁もそのまま保存されている。

外から見る事務室の中には、散乱した家具やバスの時刻表、カレンダーが当時の日付のまま掲示されていた。

通常、損壊した建物は取り壊されて再建されるのが一般的だ。さらに震度6強の揺れを受けながら倒壊しなかった大規模な建物と断層が一体となって保存されている事例は、国内に例を見ないという。

解説パネルや写真、映像では伝えきれない現実。

リアルな環境だからこそ、目で見ること、声を聞くことで実感となり、「自分にも関わること」として受け止めやすくなる。現地に来なければわからないことだと感じた。

地元に愛された東海大の学生たち

東海大学阿蘇キャンパス

開設から約半年、東海大学の卒業生もたびたび訪れているのだという。

阿蘇大橋が開通したのが1971年。その2年後に、東海大学阿蘇キャンパスが設立された。

先生や学生がこの地へ住むようになったことで、交流が深まり村も活性化したという。孫世代の学生との親交は、地域の高齢者にとってかけがえのない時間だっただろう。

深夜の地震で停電したとき、近所の学生たちが高齢者の自宅までライトを照らして駆けつけ助け合ったこと、高齢者をかついで体育館に避難したこと。地元住民たちと学生とのエピソードを知った。

学生と地域の方の絆を思う。

現東海大学には、先輩からの意志を受け継ぎ、サークル活動などで災害支援活動を行っている学生も少なくないと聞く。熊本地震をきっかけに、若い世代の災害への意識は大きく変わっていっているようだ。

旧東海大学阿蘇キャンパスを訪れて、災害の恐ろしさに加え、地域の交流やつながりを垣間見る時間となった。

8市町村が伝えたい「震災の記憶」を支える 

高岡美菜さん

熊本県観光交流政策課震災ミュージアム班の高岡美菜さんに話をうかがった。

「震災ミュージアムとは、県と県内8市町村が共に連携して進めている取り組みです。熊本地震を経験した私たちの責務として、震災の記憶を後世に伝えたいと考えています。被災した状況も地域で違うため、市町村ごとに『こういうかたちで伝えたい』というテーマを設定し、それに沿って震災遺構の保存や拠点の整備が進んでいます」

地震災害の悲惨さだけではなく、それを知ったうえで自分が次にどう行動するのかを考えるきっかけになってほしいと話す高岡さん。

「まずは自分の命を守ること、そして周りの人たちと助け合うこと。震災ミュージアムを巡って、感じたことを家族に伝えたり、自宅の防災グッズを見直したり、友人に『あなたはどうしている?』と聞いてみる。小さな積み重ねではあるんですけど、それだけですごく違うんじゃないかなと思うんです」

それぞれの「復興」の先に

「復興といっても、すべてが元通りにはならないですし、元の暮らしとは違うんですよね。復興は進んだと思う人もいる一方で、気持ちが追いつけないという人もいるはず。忘れたいという人もいらっしゃると思います。なにをもって復興というのかは難しいなと思います」

しかし、震災を経験した人たちの前向きな姿に、それぞれの「復興」を垣間見ることも。

「それでも震災を経験した人が『伝えていこう』という思いに至って、例えば語り部活動をはじめさまざまなカタチで自ら発信されていくことは、復興のひとつの姿だと思います。伝えようと前向きに考えてくださる方が増えることは、気持ちの面での復興の足がかりなのかなって思っています」

時間と共に風化も進んでしまう。

震災で得られた教訓や体験を、「伝えていく」ことがますます重要になっていくだろう。

震災遺構+体験・展示施設完成イメージ。

震災遺構+体験・展示施設完成イメージ。

2023年度には、中核拠点の旧東海大学阿蘇キャンパス敷地内に、「地震をテーマとした体験・展示施設」が整備される予定だ。

「体験・展示施設では、地震のメカニズムであったり、エネルギー、自然の恩恵といったものを含めて、“私たちはどう自然と一緒に生きていくのか”。そういったことを伝えられれば」と話す高岡さん。

地元の活性化につながるように観光の要素を取り入れたルートの提案や、将来的に県外のみならず国外からも訪れてもらえるように情報発信していきたいという。

新阿蘇大橋が開通! 阿蘇がもっと近くなる

阿蘇のインフラの整備が着実に進んでいる。

肥後大津駅〜阿蘇駅間で不通となっていたJR豊肥本線も、昨年夏、念願の全線開通を迎えた。

2020年8月にはJR豊肥本線が全線開通。手旗で祝う保育園児童。写真提供:南阿蘇村

2020年8月にはJR豊肥本線が全線開通。手旗で祝う保育園児童。写真提供:南阿蘇村

そして2021年3月7日、ついに新阿蘇大橋(国道325号)が開通したことで、阿蘇地域の被災した幹線道路がすべて復旧した。

新阿蘇大橋の開通で南阿蘇へのアクセスが良好に。

新阿蘇大橋の開通で南阿蘇へのアクセスが良好に。

新阿蘇大橋の開通と同時にオープンしたのが、展望所〈ヨ・ミュール〉。

熊本弁で「よく見えるな〜」という意味で名づけられたというヨ・ミュールからは、その名の通り、立野峡谷や轟々と流れる黒川を眼下に一望できる。

ヨ・ミュールでは11種類のジェラートを販売。シングル350円、ダブル450円(税込)。濃厚な「阿蘇ミルク」や、地元で生産された和紅茶を使ったヨ・ミュール限定の「南阿蘇エレガンテ」が人気。そのほかにも阿蘇産のブルーベリーや緑茶を使った地元ならではのジェラートも。

ヨ・ミュールでは11種類のジェラートを販売。シングル350円、ダブル450円(税込)。濃厚な「阿蘇ミルク」や、地元で生産された和紅茶を使ったヨ・ミュール限定の「南阿蘇エレガンテ」が人気。そのほかにも阿蘇産のブルーベリーや緑茶を使った地元ならではのジェラートも。

快晴のこの日、展望所からは美しい風景が見渡せた。平日にも関わらず、ヨ・ミュールは阿蘇を訪れた多くの人で賑わう。

田所豊英さん

ヨ・ミュールを管理運営する〈あそ望の郷みなみあそ〉東事業所長の田所豊英さんは、「ヨ・ミュールを阿蘇の入り口として、ハブ的な情報発信の場所にしたい」と言う。「橋の開通と春の気候のよい時期が重なって阿蘇に多くの人が訪れています。これからもっと阿蘇の魅力を知ってもらいたいですし、足を運んでもらえたらうれしいです」と田所さんはにこやかだ。

ヨ・ミュールを出発点に、これからますます気候のよくなる阿蘇一帯を、ぜひ巡ってみてほしい。

阿蘇の景色

それぞれの「復興」を胸に。人と自然とが一緒に生きること、楽しむこと。阿蘇の大地が「だいじょうぶ!」といわんばかりに、大きく包み込んでいる。

information

熊本地震震災ミュージアム 記憶の廻廊

記憶の廻廊ホームページ

information

旧東海大学阿蘇キャンパス

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽5435

アクセス:県外から来場される場合、JR熊本駅や阿蘇くまもと空港へ到着後、レンタカーなど車を利用するのがおすすめ。熊本市内からは車で約1時間10分ほど。阿蘇ファームランド側のルートのみ通行可能。(2021年4月11日時点)

開館時間:9:00〜17:00 ※11月中旬から2月末までは16:00まで

休館日:火曜(祝日の場合は翌平日休館)

入場料:無料

TEL:096-333-2011(熊本県観光交流政策課)

旧東海大学阿蘇キャンパスWeb

information

展望所 ヨ・ミュール

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽4369-16

営業時間:11:00〜17:00

駐車場:50台(南側27台 北側23台)

TEL:0967-67-1112(南阿蘇村産業観光課)

writer profile

Mayo Hayashi

林 真世

はやし・まよ●福岡県出身。木工デザインや保育職、飲食関係などさまざまな職種を経験し、現在はフリーランスのライターとして活動中。東京から福岡へ帰郷し九州の魅力を発信したいとおもしろい人やモノを探しては、気づくとコーヒーブレイクばかりしている好奇心旺盛な1984年生まれ。実家で暮らす祖母との会話がなによりの栄養源。

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