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金沢市〈本多町コーポ〉築50年の空室マンションが、店舗複合の人気物件へ

  • 2021年4月16日
  • コロカル
SWAY DESIGN vol.7

石川県を拠点に、住宅・オフィス・店舗のリノベーション、不動産事業などを展開する、〈SWAY DESIGN〉永井菜緒さんの連載です。

今回は金沢市本多町にある築約50年の3階建てRCマンションの改修事例をご紹介。

改修前の稼働率は12戸中6戸で、建物の残存価値はなく、ほぼ土地値に近い価格で販売されていました。

そんな収益性の低い物件はなかなか買い手がつかず、家賃を下げても入居者は集まりません。しかし、いまでは満室稼働の人気物件に。その経緯を振り返ります。

オーナーとの出会い

〈SWAY DESIGN〉を立ち上げて3年を過ぎた頃、東京・石川の2拠点生活をしていた時期がありました。石川で仕事を続けることに迷いが生まれ、独立前に東京でお世話になっていた会社を手伝いながら、石川と行き来する日々。

そんななか、東京で担当していた案件で施工をしていた建設会社の会長さんと出会います。それがその数年後に本物件のオーナーとなるYさんです。

当時Yさんには、東京の現場の合間に、事業を継続していくことの難しさや技術面での悩みなどを聞いていただき、ときには叱られながら、自分に足りない知識と意識を叩き込まれる日々でした。

東京からUターンして個人事業主になったものの、少しだけ弱気になり「石川の事務所を引き払って、また東京で正社員として勤め先を探そうかな」と考えていた時期でしたが、このYさんとの出会いがSWAY DESIGNにとっての大きな転機を生むことになりました。

物件との出会い。難しい課題へと挑む

東京の仕事が竣工し、石川へ一時帰省していたとき、Yさんから久しぶりに連絡をいただきました。「知人から金沢のマンション売買の相談を受けて金沢に行くから、一緒に物件を見てほしい」とのこと。

金沢駅近くの高層分譲マンションでしたが、劣化が激しく、その物件の話は中止に。でもせっかく金沢に来たのだからと、地域を案内しながら話していると、首都圏と地方都市の物件価格の違いや不動産市場がどうあるべきかの議論で盛り上がります。

そして「再生できる可能性があるのに、前例がないために動き出さない建物の利活用事例をつくろう」と、新たな物件探しにのりだしたのでした。

複数の内見を経て見つけたのが、〈本多町コーポ〉です。

売却時の状態。塗装が剥がれ、手すりには錆が浮き、舗装はガタガタで草が生えている。

売却時の状態。塗装が剥がれ、手すりには錆が浮き、舗装はガタガタで草が生えている。

金沢市本多町にある昭和47年築のRC3階建て、全12室の賃貸マンション。諸事情で不動産会社が買い取り、投資物件として一棟売りされていました。

古いうえに長い間修繕されておらず、雨漏りがあり、水道からは錆水が出る始末。一部の居室は空室のまま賃貸にすら出ておらず、それ以外は倉庫としての賃貸。実際に人が住んでいるのは、3室のみでした。

当時の室内の状態。和室2室の2DK。

当時の室内の状態。和室2室の2DK。

投資物件として売却されていましたが、劣化が激しく、改修費を概算するのも難しい建物。

駐車場が不足しているエリアなので、解体して月極駐車場にする選択肢もありましたが、土地の形状的に効率よい配置計画ができません。解体費用を考えると、超長期的な回収計画になります。

購入してもそのまま使えず、解体しても収益が出にくく、誰も手が出せず放置されている物件。ほかの物件と比較検討した結果、前例のない空き物件の活用事例をつくるため「難易度が高いからこそ、ここに決めよう!」と、自ら苦労を買うような道のりを歩み始めたのでした。

オーナーはYさんであり、私は建築士という役割分担。Yさんは所有権の移転手続きを無事に終え、私は契約前に調べていた物件の状況をより綿密に調査。

建設会社の代表でもあるYさんは自ら現場監督を担い、ふたりで協力して調査、計画から工事へと進むことになりました。

計画を立てる。1階はテナント、2〜3階は住居に

中心街からも近い本物件。全体を店舗や事務所にする案も考えたり、古い印象の内部を取り払い、住居をスケルトン状態で賃貸しようかなど、それぞれの需要の有無や収支計画など、長期的な視点から検討を進めます。

Yさんに都度プレゼン資料を提示しては却下されてを繰り返し、最終的に決まったのが、2〜3階は住居に、1階はフルスケルトン状態のテナントとして貸し出すという計画でした。

2〜3階の住居部分は、壁を取り払って2DKを1LDKに変更し、設備をすべて入れ替え、内装も一新する計画です。

1階はスケルトンでの賃貸ですが、外部はバルコニーを一部撤去して各店舗へ直接出入りできる屋外階段を計画。新設する出入り口には、スチール製の造作サッシを取り付けることに。

外観の工事中の様子。足場をかけて調査。給排水管の劣化状況、躯体の強度、雨水の侵入経路などのハード面と、現在の建物が法的に問題がないかと同時に、用途変更の可能性などのソフト面の調査をしていく。ひび割れ箇所には、防水処理を行った。

外観の工事中の様子。足場をかけて調査。給排水管の劣化状況、躯体の強度、雨水の侵入経路などのハード面と、現在の建物が法的に問題がないかと同時に、用途変更の可能性などのソフト面の調査をしていく。ひび割れ箇所には、防水処理を行った。

公団のような懐かしさを感じる外観はそのまま生かし、塗装色を変更するのみ。敷地内通路の劣化したアスファルトは撤去して、新たに舗装し直します。

バルコニーを撤去して、それぞれのテナントへ入る階段をつくっているところ。

バルコニーを撤去して、それぞれのテナントへ入る階段をつくっているところ。

工事に入る前に、現入居者さんへの立退き交渉も進めました。

建物のグレードが上がり賃料も上がる旨を伝え、再度入居いただけるか転居されるかをご相談。倉庫として使っていた方には、同等の価格帯・面積の物件を探してご提案し、最終的にはおひとりのみ、工事後もこの建物に残ってくれることに決まりました。

着工から1年にわたる工事

行政対応、工事予算なども固まり、いよいよ工事着工です。まずは解体工事から。大変だったのが、電気配線と給排水の工事でした。

ブカブカだった床下地のやりかえ。給排水管も新規施工。

ブカブカだった床下地のやりかえ。給排水管も新規施工。

既存の図面がなく、電気配線と給排水は壁や床に隠蔽された状態。すべてのルートが把握できず、どこまで既存利用が可能でどこを撤去するか、改修ならではの調整が発生。着工から竣工まで1年の期間を要しました。

1階は床下空間が広い。この高さを利用して101号室はスキップフロアを計画することに。

1階は床下空間が広い。この高さを利用して101号室はスキップフロアを計画することに。

入居者を募集する

工事の目処がつき、入居者募集を開始。

一般的に大型の新築分譲マンションでは、土地の開発時点で入居者の需要想定があります。ところが、本物件では購入後に計画を開始した実験的な取り組みであり、入居者募集のタイミングはかなり遅めでした。

完成した住戸の内部。内装も設備も一新。

完成した住戸の内部。内装も設備も一新。

物件購入の際に仲介してくれた不動産会社さんに協力いただき、内見案内を進めます。このときに面積や立地条件から契約に至らなかった1階の出店希望の方たちから、数年後にSWAY DESIGNに店舗設計の依頼がくることが続き、意図せずありがたいご縁につながっています。

窮屈な2DKだった間取りをゆったりとした1LDKに変更した。

窮屈な2DKだった間取りをゆったりとした1LDKに変更した。

SWAY DESIGNも入居することに

物件購入から工事の約1年間、設計施工でガッツリ現場に関わっていたので「東京で正社員に戻ろうか……」という気持ちはすっかり消え、「石川に根づいて再びがんばろう! 法人化して社員を雇用しよう!」という意識に変わっていました。

建物名と看板はあえて、当時のまま残す。

建物名と看板はあえて、当時のまま残す。

「今後、こうした不動産再生を自社で展開していきたい」と、工事中の現場で話していると、「この物件が何よりも実績になるではないか」とYさんから提案を受け、1階の一室にSWAY DESIGNの事務所を構えることになりました。

入居しながら管理する

いち入居者として事務所を構えていると、遠方のオーナーであるYさんに代わり、ほかの入居者さんからの不具合の問い合わせなどに対応する機会が増えてきました。

設計から施工まで携わり、物件の状況を理解していること。また日中は誰かが事務所に常駐しているため、急な不具合にも対応可能。そんな理由から、入居して半年が経った頃、この物件の管理を委託されることになりました。

自社にとっても、打ち合わせに来られた顧客に対して、物件の再生事例として紹介できたり、上の住居の一室を社員宅として借りたりと、何かと都合がよい環境。管理費をいただき、賃料を支払い、それらが相殺されて、ほかで事務所を借りるより負担額もとても軽い状況でした。

個性豊かなテナントで風景が変わる

満室稼働まで少し時間がかかりましたが、いまでは空きがなく、定期的に問い合わせがくる建物となっています。

1階のテナントには鍼灸院、ヨガスタジオ、雑貨店と個性的な店舗が並び、連日人が訪れる場所になりました。

新たに設けた外部階段とスチールサッシ。

新たに設けた外部階段とスチールサッシ。

SWAY DESIGNは人員が増え、2020年の冬にここから引っ越しましたが、さっそく次のテナントが決まり、現在は飲食店として稼働し始めています。

SWAY DESIGNが入居していた101号室。広い床下空間を活用してスキップフロアに。

SWAY DESIGNが入居していた101号室。広い床下空間を活用してスキップフロアに。

SWAY DESIGN事務所。各テナントごとに内装はそれぞれ異なる。

SWAY DESIGN事務所。各テナントごとに内装はそれぞれ異なる。

テナントのトイレと洗面も、設備と内装をやりかえた。

テナントのトイレと洗面も、設備と内装をやりかえた。

設計事務所が不動産事業にどう関わっていくのか

小さな古いビルや、長い間借り手がつかない空きテナント。素材としてはおもしろそうなのに、投資額が見通しにくい、またそれが回収できる保証がない。そんな理由でさらに放置され、劣化が進んでしまうのはよくある話。

思いきって事業計画を立てて金融機関に相談しても、築年数が古ければ建物に価値がないと評価され、融資が出にくいのが現状です。そして資金調達できなければ実績自体をつくることができない。中古物件の活用には、まだまだ大きな壁が立ちはだかります。

今回は物件の購入から工事までをオーナーが負担するかたちでしたが、物件の選定や建物の調査、工事費の算出などは、本来、設計事務所の得意領域です。

土地や建物の開発・分譲と聞くと不動産会社の仕事、と思われがちですが、建物の専門家である設計事務所が事業の主体となることで、また違う展開が見込めるのでは、と感じています。

ただし、設計事務所のビジネスモデルは受託仕事がメインです。いまでこそSWAY DESIGNは実績を積み、金融機関から理解が得られるようになりましたが、立ち上げ時はなぜ設計事務所に多額の融資が必要なのかと、スタート地点にも立てない状態でした。

実績を積んだ現時点でも、今回のような大型物件で、なおかつ収益がマイナスの物件では、自社事業の投資は難しいだろうと感じます。

次回はこのあたりの課題も含め、SWAY DESIGNが考える不動産事業についてお話ししたいと思います。

information

本多町コーポ

住所:石川県金沢市本多町1-5-5

writer profile

Nao Nagai

永井菜緒

ながい・なお●株式会社SWAY DESIGN代表取締役。1985年石川県生まれ。住宅・オフィス・店舗のリノベーションを手がける傍ら、設計者の視点から物件の価値や課題を整理し、不動産の有効活用を提案する不動産事業を運営。解体コンサルティングサービス「賛否、解体」、中古物件買取再販サービス「よいチョイス」の事業を展開。

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