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岩手県洋野町をもっと知りたくなる!地域との関わりをつくる『ひろのの栞』を読む

  • 2021年3月24日
  • コロカル

三陸沿岸の北部にあり、青森県に隣接する岩手県洋野町(ひろのちょう)。東に太平洋を望み、内陸の北上山系に囲まれた海と高原の美しいまちだ。しかし、この場所で一般社団法人〈fumoto〉を立ち上げた大原圭太郎さんは言う。

「自然と生活が共存する里山の風景は、日本中にたくさんあります。洋野町は、地域おこし団体や移住者の数がまだまだ少なく、いい意味で、“地方創生”のフロンティアのような状態です」

アパレルから転身した大原圭太郎さん。

アパレルから転身した大原圭太郎さん。

事実、洋野町が国の推進する地域おこし協力隊の受け入れを始めたのは2016年と、第一歩を踏み出してまだ日が浅い。そんな洋野町に移住し、fumotoを立ち上げた大原さんは、洋野町の「地域おこし協力隊」第1号、その人でもある。

アパレル店員から岩手県洋野町「地域おこし協力隊」第1号へ

太平洋を望む洋野町。マリンレジャーから豊かな海産物まで洋野町の暮らしを育む。

太平洋を望む洋野町。マリンレジャーから豊かな海産物まで洋野町の暮らしを育む。

大原圭太郎さんは仙台出身だが、奥さんの出身地である洋野町は第2の故郷のような場所だった。

それまでは仙台や東京で服飾の仕事をしていたが、東日本大震災をきっかけに「より地域に根ざした仕事」、そして「自分が本当にやりたいこと」を見つめ直したとき洋野町の地域おこし協力隊募集の知らせが目に入った。

それまで考えていた、仙台から新しいものを生み出したいという気持ちは、アパレル業界ではなくても、実現できるのではないか、アパレルでやってきたことも実は地域おこしに近く、洋服はあくまで手段だったんだと思うようになった。

それならば洋野町で地域おこしをするのもおもしろいのではないか、という考えにいたった。

「父が気仙沼出身でよく遊びに行っていたということもあり、洋野町の生活圏と自然との距離感や海が見える風景に親しみを感じました」

そして2016年10月、はれて洋野町の地域おこし協力隊として、洋野町の仕事に携わることになった。自治体のHP制作や、移住者誘致のイベントへの出展、近隣地域と協力した取り組みなど洋野町の観光振興推進員として、まちの観光協会の業務などを中心に行ってきた。

fumotoの立ち上げと「ヒロノジン増加プロジェクト」

案内所も兼ねるfumotoのオフィス。現在は7名の地域おこし協力隊が拠点にしている。

案内所も兼ねるfumotoのオフィス。現在は7名の地域おこし協力隊が拠点にしている。

役場は、自分たちの仕事をしながら地域おこし協力隊のサポートや観光事業、移住者誘致と、どうしても手が回らない部分や、担当が分かれて連携が取れていない部分があり、「洋野町には魅力的なものがたくさんあるのに、うまく伝えられていないのはもったいない」と大原さんは当時を振り返る。

「地域おこし協力隊の任期である3年間ではできることも限られてきますし、まだまだやりたいこと、できることはあると、任期を終えたあとのことも考えるようになってきました」

地域おこし協力隊は、どの地域でも任期は一律で最長3年と決まっているが退任後にその地域に残るかは隊員の自由だ。しかし、自治体にとっては任期中の支援だけではなく、その後の隊員の自立に向けたサポートも大きな課題となっている。

地元の学校給食で使われる木工食器を製造する〈大野木工〉。地場の産業が地域に根づいているのが洋野町“らしさ”のひとつだ。

地元の学校給食で使われる木工食器を製造する〈大野木工〉。地場の産業が地域に根づいているのが洋野町“らしさ”のひとつだ。

そこで、任期中に岩手県内の協力隊に呼びかけて、ほか地域のOB・OGの隊員活動を学ぶ視察ツアーなどを行った。

「そこで見えてきたのは、自治体の既存の部署で協力隊が活動している場合、任期が終わると仕事がなくなってしまい退任後の居場所がなくなってしまうこと。それを解決するためには、協力隊主導で動けて、任期後に地域の環境を支援することでした」

視察ツアーから戻ると、大原さんはさっそく行動に移った。岩手県遠野市で協力隊のサポートを行っている一般社団法人〈Next Commons Lab〉を参考に、任期後も地域に関わることができ、地域おこし協力隊の募集やサポート、移住促進や観光誘致のための取り組みなどを行う一般社団法人〈fumoto〉の立ち上げを計画。洋野町の町長や町職員に対してプレゼンを行い、事業への賛同を得た。協力隊の任期も残り1年に差しかかっていた。

2019年9月に誕生した一般社団法人fumoto。「地域でチャレンジする人の土台になる」という意味をこめて山の麓から命名。

2019年9月に誕生した一般社団法人fumoto。「地域でチャレンジする人の土台になる」という意味をこめて山の麓から命名。

fumotoの活動は地域おこし協力隊のサポートがメインだが洋野町とともに、今春動き出したのが関係人口創出を目的とする「ヒロノジン増加プロジェクト」だ。その媒体として、ウェブサイト『ひろのの栞』も立ち上げた。

関係人口とは、“観光以上、移住未満”といわれまちに親戚が住んでいて頻繁に訪れる人や、まちが気に入り2拠点居住者になっている人、観光客のリピーターなど、「定住人口」や「交流人口」ではない、地域に継続した関係をもっている人のこと。

「洋野町出身で地元を離れた方や、地域おこしに興味のある方、移住を検討している方などに、『ひろのの栞』を通して継続的に洋野町の魅力を発信できればと思っています」

サーフツーリズムに、きのこの駅、洋野自慢は地場の魅力

種市海浜公園にあるきのこの形をした休憩所。このほかに海浜公園には洋野町の特徴をとらえたオブジェがたくさんある。

種市海浜公園にあるきのこの形をした休憩所。このほかに海浜公園には洋野町の特徴をとらえたオブジェがたくさんある。

『ひろのの栞』では、まちの観光情報にとどまらず地域を支える人たちの人となりや、洋野町との関わりを物語るストーリーが綴られている。各記事のタイトルから思わず魅かれる、人中心の「読みもの」になっている。まちの自慢はそこで暮らす人と暮らしそのものだ。そこで大原さんに、「ひろの自慢」をしてもらった。

まず紹介してくれたのは、サーフィン。北東北屈指のウェーブスポットである洋野町には計7つのサーフポイントがあり、日本有数の“波のラインナップ”が自慢だ。

「洋野町の波を求めて、種市海浜公園や有家などのサーフスポットに通ってくるサーファーも多く、久慈市でサーフショップ〈BANA SURF〉を経営する立花正憲さんはスクールを開講し、サーフツーリズムに取り組んでいます」

立花さんは、地元で育ち、学生の頃から洋野町のビーチに通うサーフ歴30年近いベテランサーファーだ。(ひろのの栞「思わず裸で駆け出したくなる波」より)

初心者向けの波からベテラン向けの波まで、洋野町のサーフスポットは波のバラエティが豊富。

初心者向けの波からベテラン向けの波まで、洋野町のサーフスポットは波のバラエティが豊富。

海もあれば、山の幸も豊富なのが洋野町。

「〈長根商店〉のきのこ栽培工場では、地元の多種多様なきのこが生産されきのこ寿司やきのこ鍋などさまざまなきのこ料理を振る舞う『きのこの駅』を運営しています。地元の中学ではきのこ栽培から販売まで、6次産業の過程を学べる体験学習を実施し、『天然きのこを中心とした食文化の継承プロジェクト』を推進しています。また、洋野町大野にある〈大野木工〉の普及に努める中家正一さんは早くから地場産業を第一に考え、地域での雇用創出に努めてきた地域活動の先輩です。木工体験やさまざまな工芸体験ができるまちの文化・産業の発信拠点〈おおのキャンパス〉には毎年多くの観光客が訪れています」(ひろのの栞「純粋にきのこを楽しめる そんな場にしたくて」「木工ろくろの響く里」より)

『ひろのの栞』の取材では大原さんも体験を記事に。つい長居してしまうこともあるそう。

『ひろのの栞』の取材では大原さんも体験を記事に。つい長居してしまったこともあるそう。

地場産業のほか、古民家でカフェ〈ヒロノバ〉を営む松田直美さんとイラストレーターの古屋暁(さとる)さんのように、県外からやってきた移住組の活動も積極的に紹介。外からの視点も地域に取り入れている。

ヒロノバでは、サイフォン式コーヒーやマフィン、スコーン、プリンなど〈おおのミルク工房〉の牛乳を使ったお菓子を提供。

ヒロノバでは、サイフォン式コーヒーやマフィン、スコーン、プリンなど〈おおのミルク工房〉の牛乳を使ったお菓子を提供。

松田さんは、大原さんに続く洋野町の地域おこし協力隊の第2号でともに切磋琢磨してきた、いわば戦友だ。2021年1月にオープンしたばかりのヒロノバは、なんと築80年の古民家を岩手県内の大学生の手を借りてDIY。洋野の新しい憩いの場になりそうだ。(ひろのの栞「地域のみんながゆるやかに繋がれる場所を」より)

「移住者の大先輩」と大原さんが紹介してくれたのがイラストレーターの古屋さん。古屋さん夫婦は奥さんが久慈市の出身で、洋野町にはよく遊びに来ていたそう。まだ「2拠点居住」という言葉が定着するはるか前の、2003年から東京と洋野町を行き来する暮らしを始めた。

写真はおおのミルク工房の広大な牧場。海だけでなく高原もまた洋野町の魅力だ。

写真はおおのミルク工房の広大な牧場。海だけでなく高原もまた洋野町の魅力だ。

今でこそ洋野町で落ち着いた生活を送っているが、ジオサイトにも選ばれた広大な丘陵地帯を一望できる「大野海成段丘」の景観に惚れ込み、地図を見ながら移住先の土地を探したという強者だ。東京では漫画雑誌『漫画ゴラク』の表紙イラストを担当するほどの売れっ子だったが、洋野ではすっかり風景を描くことが多くなったそう。(ひろのの栞「自然がつなげる仕事と暮らし」より)

『ひろのの栞』による関係人口創出

こうして、大原さん自身も『ひろのの栞』を介して取材を重ねることで洋野で暮らす人たちのことをより深く理解できるだけでなく、これまで聞こえてこなかった住民の声も届くようになった。

地場の「純和鶏」のからあげを〈たねいち産直ふれあい広場〉で売る〈仕出しのニシヤマ〉は「関係人口創出」という取り組みに興味を持ち、復業的な関わりについても前向きだという。

fumotoではリモートで対応できる事務的な業務は県外の地域おこし協力隊の募集を通じて知り合った仲間に依頼しており、「『東京でのPR人員を関係人口として関わってもらうのはどうか』『まちの地場産業同士の横のつながりを深めていきたい』などの積極的な意見も出てきています」という。

たったひとりで始めたfumotoも、現在は大原さんを中心に地域おこし協力隊メンバーを含めて7人のメンバーが集まっている。自治体から地域おこしの“起爆剤”としての期待値も高い。

たったひとりで始めたfumotoも、現在は大原さんを中心に地域おこし協力隊メンバーを含めて7人のメンバーが集まっている。自治体から地域おこしの“起爆剤”としての期待値も高い。

『ひろのの栞』は、関係人口のコミュニティをつくるうえで、外側への情報発信と同時に内側の声も拾い上げ、「これまでになかった流れをつくりたい」と語る大原さん。

『ひろのの栞』は、洋野町で暮らす人たちの営みや彼らの人生を覗き見しているようで、読みものとしておもしろい。著名人であったり特別な逸話を持っていなくても、地域には「個人が語る話=ナラティブ」があふれている。それをすくい上げているのだ。

通り一辺な観光から一歩先へ進んでみたい人は、『ひろのの栞』で洋野の暮らしを知ってからまちを訪れるのもいいだろう。まちの出身者であれば、きっと知らない一面を知ることができるだろう。地域おこしに興味があれば、「栞」をめくって洋野町との関わりを保つ媒体として活用してもらいたい。

information

ひろのの栞

Web:ひろのの栞

information

一般社団法人fumoto

住所:岩手県九戸郡洋野町種市23-25-68

Tel:0194-66-8870

instagram:fumoto_hirono

twitter:fumoto@洋野町

writer profile

Takuryu Yamada

山田卓立

やまだ・たくりゅう●エディター/ライター。1986年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。海よりも山派。旅雑誌、ネイチャーグラフ誌、メンズライフスタイルメディアを経て、フリーランスに。現在はキャンプ、登山、落語、塊根植物に夢中。

phptpgrapher

Toshiyuki Sugai

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