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100年後の南部町のために廃棄される剪定枝で燻す。〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉

  • 2020年9月17日
  • コロカル

〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉の根市大樹さん・雪奈さん夫婦

剪定枝をチップに利活用

岩手県と接する青森県南部に位置する南部町。その三戸駅のすぐそばに〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉はあります。

三戸駅そばにあるカフェ COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI 店内風景

人口約1万6千人の小さなまちでカフェを営むのは、「次の世代に誇れる故郷を残す」ことをミッションに、南部町の資源を活用し、魅力発信を行う〈合同会社南部どき〉の代表・根市大樹さんと奥様の雪奈さん。

店ではコーヒーと燻製のエッセンスが入った軽食や商品を販売しています。食品を燻すチップは、南部町で育まれた果物の剪定枝を利活用したものです。

山に囲まれた南部町は、朝晩の寒暖の差が激しく果物栽培に適した土地。多くの果樹農家がありますが、高齢化もあり、剪定枝の処理が問題になっていました。

看板商品のスモークナッツ。左からサクランボ・ブドウ・梅・リンゴの枝で燻したもの。香りは科目(サクランボ・梅・リンゴはバラ科、ブドウはブドウ科)や収穫時期で違いが出るんだそう。

看板商品のスモークナッツ。左からサクランボ・ブドウ・梅・リンゴの枝で燻したもの。香りは科目(サクランボ・梅・リンゴはバラ科、ブドウはブドウ科)や収穫時期で違いが出るんだそう。

果樹による香りの違いを尋ねると、「秋冬に収穫するリンゴは実を成熟させるために栄養が枝に残らないため、クセや香りが少ないんです。夏に収穫する実の小さなサクランボは、枝に樹液が豊富に含まれているので甘味が出ます。ビールやワインにはリンゴやサクランボがおすすめ。ブドウはタンニンの渋みがあり、舌にピリッとくるのでウィスキーと合いますよ」と大樹さん。

サクランボの旬は7月。収穫後、実に栄養を送る役目を終えた枝からは樹液が滴るほど。

サクランボの旬は7月。収穫後、実に栄養を送る役目を終えた枝からは樹液が滴るほど。

ウッドチップではナッツのほか、オイル、コーヒー、しめ鯖や鮭トバなども冷燻。燻したマヨネーズとナッツをはさんだサンドウィッチや、オイル・ナッツ・チーズ・ベーコンを燻してトッピングしたピザなど軽食もテイクアウト可能です。

SMOKED COFFEEのドリップパック。かわいらしいイラストは雪奈さんが描いたもの。

SMOKED COFFEEのドリップパック。かわいらしいイラストは雪奈さんが描いたもの。

「枝集めがなかったら、あと5年続けられる」

剪定枝の処理は、廃棄することももちろんですが、枝を集める作業がそもそも大変。剪定のシーズンは冬。「雪の中、じいちゃんばあちゃんたちが畑を歩きながら切った枝を集めて1か所に持ってきて処分してもらうんですが、高齢の方が広い畑を歩いて集めるのは大変な労働で、それが理由で果樹農家をやめてしまう人もいるんです」

「あるおじいちゃんが、枝を集める作業をしながら『いや〜これ(剪定枝集め)がなかったら、あと5年ぐらいは(農家)できる(続けられる)』って言ったんですよね」

おいしい果実をつくるために剪定が必要な果樹の枝。

おいしい果実をつくるために剪定が必要な果樹の枝。

「そのおじいちゃんはサクランボ農家さんだったんですが、サクランボは収穫が夏場に終わって、一回農作業が止まっているから、冬場体が動きにくくなっているんです。ウォーミングアップがないまま作業するのがすごく大変と言っていて」

当時、200人以上の南部町の農家とともに、果樹生産のサポートや農業体験の実施など、地域活性を行う〈NPO法人青森なんぶの達者村〉にも勤めていた大樹さん。

「同じような課題を抱えている農家さんが南部町にはたくさんいる。剪定枝の問題を、もっとダイナミックに解決できる方法はないだろうか」と考え、生み出したのがウッドチップでした。

地域循環できるように、販売は行わない

枝集めには、地域の障害のある方たちの力も借りています。南部町では「農福連携」を掲げ、農業と障害者の就労とが密接。夏場はニンニクの皮剥きなどで取り合いになるほどですが、冬場は収穫作業がなく仕事が減るため、win―winの関係が成立しています。

集めた枝は、乾燥させて細かいチップに加工していきます。

集めた枝は、乾燥させて細かいチップに加工していきます。

ウッドチップは、店前や公園に敷くクッションとしても活用。歩くときの足への負担が軽減されるほか、ホコリが舞わず、燻した後のチップは木炭になり虫除け効果も。需要がありそうですが、販売は一切行っていないんだそう。

「地域の農家さんがほしい場合は無料で提供しています。なるべく地域循環できればいいなと思っているんです」

地域の農家さんと一緒に

南部町出身の大樹さんは、もともとは新聞記者として地元の農政やまちづくりなどを中心に取材。社会人になった頃は継ぐつもりはなかったと言いますが、農家だったお祖父様が引退する際、転機が訪れます。

「両親は学校の先生だったので後継者がいなかったんです。両親は、畑は売ってしまおうと簡単に言ったんですけど、(売ってしまうのは)なんかちょっと違うんじゃないかという引っかかりがあって」

大樹さんは新聞記者を辞め、農業を学びに1年間オーストラリアへ。帰国後お祖父様の畑を継いで農業を始めました。

オーストラリアではバリスタの資格も取得。〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉で提供される“燻製されていない”ESPRESSO COFFEEもおすすめです。ハニーラテには100%南部町産のサクランボの花からとったはちみつが使用されています。

オーストラリアではバリスタの資格も取得。〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉で提供される“燻製されていない”ESPRESSO COFFEEもおすすめです。ハニーラテには100%南部町産のサクランボの花からとったはちみつが使用されています。

「ひとりで農業をやっているとすごく大変で、近所の農家さんが枝の切り方や水のやり方を教えてくれるんです。農作業しながら話していると『後継ぎがいなくて』とか、『いいものつくっているんだけど売り先がなくて』という声が聞こえてきて」

南部町は青森県内一のサクランボの生産地。桃や梨、ぶどうの栽培なども盛んです。

南部町は青森県内一のサクランボの生産地。桃や梨、ぶどうの栽培なども盛んです。

「それであればレストランをやったらいいんじゃないかと、70歳オーバーの農家さんと4人で始めたんですが、自分たちで育てた素材だけでメニューをつくれるって思っていたら、実際やってみると2割くらいしか地元のものでできなかったんです」

「レストランで提供する食材は100%南部町産にしたいというこだわりはもっていたので、もっとたくさんの地域の農家さんたちと一緒にできないかと話すようになりました。そうしているうちに〈NPO法人青森なんぶの達者村〉が立ち上がって所属することになって……」

導かれるようにいろんなタイミングが重なり、地域のための観光や販売を農家さんと一緒に行うように。〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉は2018年にオープンしました。

当初始めたレストランは、弟の根市拓実さんがオーナーシェフとしてフレンチをベースとした料理をふるまい、大樹さんは南部町の農家さんがつくる野菜を店へ届けています(店名は農風〈Kitchen Yui〉。八戸の繁華街・番町にあります)。

〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉では、南部町産の旬の果物を活用したメニューを開発したり、〈NPO法人青森なんぶの達者村〉での活動を継続し、果物狩りやフルーツパフェづくり体験などの案内も。「南部町のコンシェルジュ」として大活躍です。

沼畑総合ファーム(南部町)のブルーベリーを使用したラッシー。ほかにも桃のラッシーや、剪定をともに行うNPO法人〈三本の木〉がつくる、南部町産のフルーツを使用した焼き菓子などを販売しています。

沼畑総合ファーム(南部町)のブルーベリーを使用したラッシー。ほかにも桃のラッシーや、剪定をともに行うNPO法人〈三本の木〉がつくる、南部町産のフルーツを使用した焼き菓子などを販売しています。

100年後の故郷のために

三戸駅から近い〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉には、電車の待ち時間に立ち寄るお客様も。取材時にも地域のお年寄りが“いつもの”コーヒーを買いに訪れていました。

三戸駅から近い〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉には、電車の待ち時間に立ち寄るお客様も。取材時にも地域のお年寄りが“いつもの”コーヒーを買いに訪れていました。

取材中、店の角に〈珈琲館 ケルン〉の看板が置かれているのが目に入りました。聞くと三戸駅前に昔あった喫茶店のもので、地域の人が集まって麻雀やトランプをしたり、おしゃべりしたりする場所だったのだそう。

店の角に置かれた〈珈琲館 ケルン〉の看板

「ここをオープンするとき、ケルンが入っていた建物のオーナーが『いやなんかうれしいんだよ、なんもできないんだけどこれ持ってって』って言って渡してくれたんです(笑)。看板を見ると地域の人も懐かしんでくれますし、ケルンで出会って結婚したおじいちゃんおばあちゃんが近くに住んでいて、うちに来た時に『いや〜懐かしいな こんなの食べたよな』と昔話になったりして」

コミュニティスペースが少ない三戸駅周辺で、お年寄りから子どもまで幅広い層の拠り所になっています。

三戸駅そばにあるカフェ COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI の看板

店名の〈南部どき〉に込められているのは、「ドキドキワクワク」の「ドキ」と「田舎の時代がこれからくるんじゃないか」という期待をこめた「南部のとき」「いまどき」の「どき」の思い。

自分の1年後、家族の10年後、故郷の100年後を思いながら南部町で生きる根市大樹さん・雪奈さんの活動から、これからの暮らしのヒントをもらえる気がします。

〈COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI〉の商品はオンラインでも購入可能です。

自分と家族と故郷の未来を思いながら、果樹による香りの違いを食べ比べしてみてください!

information

COFFEE STAND & SMOKE NANBUDOKI 南部どき

住所:青森県三戸郡南部町大向泉山道9-54

電話番号:0179-20-0710

営業時間:10:00〜17:00(日曜〜16:00)

定休日:水曜(臨時休業の場合あり)

Web:nanbudoki.com

writer profile

Haruna Sato

佐藤春菜

さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。

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