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〈MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉〉永尾亮店長が考える、ブランドが地域に果たすこれからの役割

  • 2020年9月8日
  • コロカル
鎌倉から考えるローカルの未来

長い歴史と独自の文化を持ち、豊かな自然にも恵まれた日本を代表する観光地・鎌倉。
年間2000万人を超える観光客から、鎌倉生まれ鎌倉育ちの地元民、そして、この土地や人の魅力に惹かれ、移り住んできた人たちが交差するこのまちにじっくり目を向けてみると、ほかのどこにもないユニークなコミュニティや暮らしのカタチが見えてくる。

東京と鎌倉を行き来しながら働き、暮らす人、移動販売からスタートし、自らのお店を構えるに至った飲食店のオーナー、都市生活から田舎暮らしへの中継地点として、この地に居を移す人etc……。

その暮らし方、働き方は千差万別でも、彼らに共通するのは、いまある暮らしや仕事をより豊かなものにするために、あるいは、持続可能なライフスタイルやコミュニティを実現するために、自分たちなりの模索を続ける、貪欲でありマイペースな姿勢だ。

そんな鎌倉の人たちのしなやかなライフスタイル、ワークスタイルにフォーカスし、これからの地域との関わり方を考えるためのヒントを探していく。

今年4月、まちの中心を通る若宮大路沿いに開業した〈ホテルメトロポリタン鎌倉〉。その1階に、鎌倉中心部には初の出店となる〈MUJIcom〉、〈Cafe&Meal MUJI〉がオープンした。

今年4月、まちの中心を通る若宮大路沿いに開業した〈ホテルメトロポリタン鎌倉〉。その1階に、鎌倉中心部には初の出店となる〈MUJIcom〉、〈Cafe&Meal MUJI〉がオープンした。

鎌倉中心部初出店となる〈無印良品〉

新型コロナウイルスの感染拡大によって、鎌倉のまちは一変した。緊急事態宣言に基づく外出自粛要請によって、まちなかから観光客の姿は消え、鎌倉の観光地としての顔は影を潜めた。

こうしたさなか、地域最大規模のホテルとして、オリンピックイヤーに満を持して開業するはずだった〈ホテルメトロポリタン鎌倉〉は予想外のスタートを切ることになり、鎌倉中心部への初出店として、同ホテル1階に入った〈MUJIcom〉、〈Cafe&Meal MUJI〉もまた、不安と緊張を抱えたまま、4月24日のオープンを迎えることになった。

開店にあたり、住民たちとのワークショップなどを事前に重ねたMUJIcomでは、「地域のリビング」をコンセプトに鎌倉の暮らしに必要な日用品を取り揃えるとともに、地域のプレイヤーたちと連携して開催する期間限定マーケット「つながる市」を行うオープンスペースや、住民らが持ち寄った鎌倉関連のガイドブックのレンタルコーナー、オススメの飲食店などをマッピングした市内の地図など、ローカルの魅力を発信するスペースが大きくとられている。

併設するCafe&Meal MUJIにおいても、同店初の試みとなる地域の食材を使ったオリジナルメニューが豊富に揃う。

MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉の店内。エントランス付近のスペースには移動可能な什器が用いられており、今後は地域の人たちによるイベントやポップアップショップなどの開催も見据えているという。

MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉の店内。エントランス付近のスペースには移動可能な什器が用いられており、今後は地域の人たちによるイベントやポップアップショップなどの開催も見据えているという。

同店を展開する〈良品計画〉が近年掲げているキーワード「土着化」を地で行くようなこの鎌倉店において、現場でのさまざまな取り組みを推進しているのが、今回の主人公となるMUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉の永尾亮店長だ。自ら志願してこの店で働くことを選んだ永尾さんは、店長着任を機に鎌倉に移住し、地域の住民や生産者らとつながりながら、鎌倉ならではの店舗づくりに奔走している。

コロナ禍によって地域におけるさまざまな価値観が大きく変わりつつあるなか、これからの企業やブランドが地域に果たすべき役割はどうなっていくのか。地元住民や観光客で賑わいを見せるMUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉に、永尾店長を訪ねた。

自ら志願し、鎌倉店の店長に

MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉で働く永尾さんは、出身地・大阪の店舗勤務からキャリアをスタートし、その後、千葉県内のMUJIcom2店舗で店長を務めてきた。鎌倉店が3店舗目の店長着任となるが、学生時代から福祉の仕事に携わることを志していた永尾さんにとって、良品計画に入社したそもそもの動機は、障がい者や高齢者の生活を整えるための商品づくりをすることだったという。

そんな永尾さんに新たなモチベーションが生まれたのは、良品計画が地域再生のプロジェクトに携わっていた岐阜市柳ヶ瀬で行われた社内研修に参加したことだった。

「地域のプレイヤーや住民の方と話をさせていただくなかで、生活に不自由を抱える人たちを、地域のつながりで支えていくこともできるのだと感じました。むしろ、時間や費用がかかる商品づくりよりも、スピード感を持って困りごとを抱える人たちの暮らしを豊かにできるのかもしれないと」

MUJIcomは、無印良品の商品群の中から、普段の生活に必要なアイテムを中心に取り扱う店舗形態。MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉では、開店前に行った住民へのヒアリングで要望が多かった食に関する商品を多く取り揃え、通常MUJIcomでは扱わない冷凍食品などもラインナップしている。(写真提供:良品計画)

MUJIcomは、無印良品の商品群の中から、普段の生活に必要なアイテムを中心に取り扱う店舗形態。MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉では、開店前に行った住民へのヒアリングで要望が多かった食に関する商品を多く取り揃え、通常MUJIcomでは扱わない冷凍食品などもラインナップしている。(写真提供:良品計画)

それ以来、新たな目標を胸に仕事に臨んできた永尾さんは、自ら志願して鎌倉の地にやって来ることになる。

「鎌倉店がオープンする1年ほど前に、いくつかの店舗の店長らと共に鎌倉のまち歩きをしたんです。それまで鎌倉には来たことがなく、観光地のイメージしかなかったのですが、観光客から地元住民までいろいろな人たちが行き交う場所だと感じました。

その後も個人的に鎌倉に通うようになり、福祉の分野も含めさまざまなプロフェッショナルたちが働いているまちだということがわかり、そういう人たちと直接つながれる機会にあふれたこのまちなら、さまざまなことが学べると思ったんです」

MUJIcomの店内では鎌倉にゆかりのある文化人に関する書籍や、地元の出版社から仕入れた本の販売なども行っている。

MUJIcomの店内では鎌倉にゆかりのある文化人に関する書籍や、地元の出版社から仕入れた本の販売なども行っている。

開店前に重ねたワークショップ

正式に着任が決まった2019年11月に鎌倉に移住した永尾さんは、精力的に地域とのつながりづくりに努めるようになる。そのひとつが、鎌倉の不動産会社や飲食店などの協力を得て開催した、店舗の品揃えやサービスに関する要望を聞くワークショップだった。

「無印良品だから選んでもらうのではなく、顔が見えて信頼できる相手だから買っていただくという関係をつくりたいという思いがありました。住民の方たちの要望を知ることはもちろんですが、まずは地域の中に顔を出し、認知してもらうことが大切だと考えていましたし、実際にここで知り合った個人個人のネットワークから、地域のさまざまな人たちを紹介していただくことができました」

鎌倉を拠点に不動産、建築、まちづくり、空き家再生などに取り組む〈エンジョイワークス〉の協力を得て、鎌倉の暮らしにフィットするコンテンツやサービスなどについて住民とともに話し合うワークショップを複数回開催した。(写真提供:エンジョイワークス)

鎌倉を拠点に不動産、建築、まちづくり、空き家再生などに取り組む〈エンジョイワークス〉の協力を得て、鎌倉の暮らしにフィットするコンテンツやサービスなどについて住民とともに話し合うワークショップを複数回開催した。(写真提供:エンジョイワークス)

こうした取り組みを経て、「地域のリビング」をコンセプトに定めた永尾さんは、開業に向けた準備を一歩一歩進めていった。しかし、奇しくもオープン予定だった4月に、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されることになる。

「正直、この時期に開業することには葛藤がありました。ただ、当時鎌倉の多くのお店からもマスクや消毒液はもちろん、手洗い石けんなどもなくなっていたなかで、私たちが在庫を持っているものもあったんですね。地域の暮らしに欠けているものを届けることが私たちの役割だと考え、予定通り開業することにしたんです」

7月1日から無印良品の各店舗で順次設置されている給水機。プラスチックごみを減らすためにマイボトルの持ち込みを推奨しており、MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉では以前にこの連載で紹介したプロジェクト〈Bring me Shonan〉との連携も見据えているそうだ。

7月1日から無印良品の各店舗で順次設置されている給水機。プラスチックごみを減らすためにマイボトルの持ち込みを推奨しており、MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉では以前にこの連載で紹介したプロジェクト〈Bring me Shonan〉との連携も見据えているそうだ。

住民と観光客の接点をつくる

スタッフたちの協力のもと、予定通りオープンを迎えた同店では、店内の一角に掲げられた鎌倉市内の大きな地図がシンボル的な存在となっており、永尾さんらがオススメする地元の飲食店がマッピングされている。

さらにこの付近には、地域の個店などによる期間限定の出店やワークショップの開催を見据えたスペースも用意されるなど、鎌倉のローカルの魅力を積極的に発信している。限られた店舗の中で、物販以外のスペースをこれだけ広くとっている背景には、鎌倉で暮らし始めたことで見えてきた、永尾さんのひとつの気づきがあった。

鎌倉店のシンボルとなっている「KAMAKURA to GO」マップ。さまざまな店舗のショップカードも置かれているが、永尾さん自らがオススメできるように、つながりがあるショップのものだけを置くようにしており、お店側から要望があった場合は必ず一度その店舗に足を運ぶようにしているという。

鎌倉店のシンボルとなっている「KAMAKURA to GO」マップ。さまざまな店舗のショップカードも置かれているが、永尾さん自らがオススメできるように、つながりがあるショップのものだけを置くようにしており、お店側から要望があった場合は必ず一度その店舗に足を運ぶようにしているという。

「地域の人たちと話しているなかで、住民と旅行者の間に見えない壁を感じるようになりました。例えば、住民の方たちからは観光客に対して、『週末になると人が押し寄せて外出ができない』『観光客はゴミを捨てていく』といった声も聞くのですが、想像だけでネガティブなイメージを抱いている側面も少なからずあると感じていました。

だからこそこのお店を通じて住民が旅行者と触れ合える接点や、旅行者がローカルの暮らしを知る機会を積極的につくることで、お互いに対する目線や行動を少しでも変えていければと思っているんです」

「地域のリビング」を掲げる同店にとって、鎌倉を日帰りで訪れる観光客やホテルの宿泊客もまた、リビングに招き入れ、もてなすべき客人たちだ。いまや誰もが知るブランドとなっている無印良品の発信力を生かし、ローカルの魅力を伝えながら、住民と観光客の相互理解を促していくこともまた、永尾さんが考えるこの店舗の役割のひとつなのだ。

使わなくなった鎌倉のガイドブックを、次に使う人へのメッセージを添えてお店に寄付するプロジェクト「KAMAKURA SHARE BOOK」。開店当初からこの取り組みに興味を持った住民から本の持ち寄りが相次ぎ、住民と旅行者をつなぐひとつの接点になっている。

使わなくなった鎌倉のガイドブックを、次に使う人へのメッセージを添えてお店に寄付するプロジェクト「KAMAKURA SHARE BOOK」。開店当初からこの取り組みに興味を持った住民から本の持ち寄りが相次ぎ、住民と旅行者をつなぐひとつの接点になっている。

鎌倉店に「全国初」が多い理由

一方、MUJIcomに併設されたCafe&Meal MUJIは、地域ならではのメニューが並んでいることが最大の特徴だ。いまや高い認知度を誇る鎌倉野菜や、以前にこの連載でも紹介した〈ヨロッコビール〉、さらには鎌倉の浜辺に打ち上げられた海藻を食べさせて育てた鎌倉初のブランド豚〈鎌倉海藻ポーク〉といった地元の人にさえあまり知られていない地域の食材までが使われている。

「オープンにあたって料理人として経験を積んできたシェフたちと共に地域の生産者とのやり取りを重ねながら、オリジナルメニューを開発しました。このお店にしかない魅力や味を求めて足を運んでもらいたいですし、鎌倉での取り組みが全国の店舗に広がっていくといいなと思っています」

Cafe&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉の看板メニュー「ポークジンジャー」には、鎌倉の海藻で育てた海藻ポークを使用。ほかにも同店ではアクアパッツァやチキンカツレツ、煮込みハンバーグなどのオリジナルメニューが揃う。

Cafe&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉の看板メニュー「ポークジンジャー」には、鎌倉の海藻で育てた海藻ポークを使用。ほかにも同店ではアクアパッツァやチキンカツレツ、煮込みハンバーグなどのオリジナルメニューが揃う。

永尾さんがそう話すように、地域の食材を用いたオリジナルメニューを揃えることは、Cafe&Meal MUJIにとって初めての試みだという。ほかにも地域住民の声を受け、Cafe&Meal MUJIの店長やスタッフと共に考案したという、その日に廃棄せざるを得ない食材のみでつくられる「たべきるプレート」、MUJIcomにおけるガイドブックのレンタルサービスなど、鎌倉店には全店を通じて初となる取り組みが少なくない。

「地域の中でできることを実験的にいろいろやってみることが自分たちのミッションで、会社からかなりの裁量を与えてもらっていることが大きいと感じています。大きな会社では多くの権限が本部にありますが、現場で見ているからこそ決められることもたくさんあります。ある程度の権限が現場にあると、すでに人柄がわかっている地域の人たちを信頼し、一緒にこれを進めていこうという判断がすぐにできるんです」

住民がゆっくりできるお店が少ないという声を受け、銀座店を上回るスペースに144席を配したCafe&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉の店内。(写真提供:良品計画)

住民がゆっくりできるお店が少ないという声を受け、銀座店を上回るスペースに144席を配したCafe&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉の店内。(写真提供:良品計画)

地域の困りごとを解決する店に

これまで全国に店舗を展開するナショナルブランドは、いつ、どこでも同じ商品、同じ味を提供できることにひとつの価値があった。しかし、経済効率のみを追求した出店計画によって、地域の土着性が漂白されてしまった側面が少なからずあるなかで、これからのブランドには、永尾さんの言葉にもあったように、「このお店にしかない魅力」を発信し、地域の独自性創出に寄与することが求められるはずだ。

「近年、無印良品では“土着化”をキーワードに、地域の暮らしに寄り添っていくということに取り組んでいます。ECが普及しているいま、リアルストアが存在する意味については社内でもよく議論されることですし、僕自身が目指してきた、地域で困っている人たちや課題を抱えている場所に入り込んでいくという役割もますます大切になるはずです。すでにスタートしているデリバリーをはじめ、自分たちからお店の外に出ていくような活動にも今後さらに力を入れていきたいですね」

店の外に飛び出し、企業や組織のしがらみを超えて地域の住民や生産者らとフラットにつながることで、地域の生態系に根ざした店づくりを推進する永尾さん率いる鎌倉店。

無印良品という全国区のブランドが持つ発信力・ブランド力と、鎌倉という地域に暮らす人やモノ、ライフスタイルや文化が絡み合うことで、地域内外の人たちを惹きつける独自の魅力が生まれつつある同店の取り組みは、企業やブランドと地域が幸せな関係を築いていくためのひとつのロールモデルになるのかもしれない。

「今後行うイベントの企画などにしても、自分たちだけでアイデアを出して一からつくる気はなく、地域のクリエイターなどに協力を仰ぎながら、一緒にできることを模索していきたいと考えています。また、鎌倉をはじめ湘南地区で暮らすお店のスタッフの意見なども取り入れて、うちらしいお店をつくっていきたいですね」

information

MUJIcom ホテルメトロポリタン鎌倉

住所:神奈川県鎌倉市小町1-8-1 ホテルメトロポリタン鎌倉1F

TEL:0467-22-7851

営業時間:10:00〜19:00

Web:https://www.muji.com/jp/ja/shop/detail/045953

information

Cafe&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉

住所:神奈川県鎌倉市小町1-8-1 ホテルメトロポリタン鎌倉1F

TEL:0467-22-7852

営業時間:6:30〜22:00(L.O.21:30)

*6:30〜10:30(L.O.10:00)はホテル宿泊者のみ利用可

writer profile

Yuki Harada

原田優輝

はらだ・ゆうき●編集者/ライター。千葉県生まれ、神奈川県育ち。『DAZED&CONFUSED JAPAN』『TOKION』編集部、『PUBLIC-IMAGE.ORG』編集長などを経て、2012年よりインタビューサイト『Qonversations』を運営。2016年には、活動拠点である鎌倉とさまざまな地域をつなぐインターローカル・プロジェクト『◯◯と鎌倉』をスタート。

photographer profile

Ryosuke Kikuchi

菊池良助

きくち・りょうすけ●栃木県出身。写真ひとつぼ展入選後、雑誌『STUDIO VOICE』編集部との縁で、INFASパブリケーションズ社内カメラマンを経てフリーランス。雑誌広告を中心に、ジャンル問わず広範囲で撮影中。鎌倉には20代極貧期に友人の家に転がり込んだのが始まり。フリーランス初期には都内に住んだものの鎌倉シックに陥って出戻り。都内との往来生活も通算8年目に。鎌倉の表現者のコレクティブ「全然禅」のメンバー。http://d.hatena.ne.jp/rufuto2007/

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