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北海道三笠市にUターンして 工房を始める。 うつわと暮らしの木工作家、内田悠さん

  • 2020年7月23日
  • コロカル

札幌と旭川の間にある空知地方の南部に位置する三笠市。北海道の石炭と鉄道の発祥の地で、主要都市や新千歳空港にも近く利便性の高いまちだ。木工作家の内田悠さんは、3年前、移住先としても人気のこのまちに家族でUターンして自宅と工房を構えた。一度は故郷を出て、生まれ育ったこのまちに帰ってきた内田さん。あらためて体感する三笠の暮らしと、自身の製作活動の変化について聞いた。

田舎の生活は、忙しくも楽しい

まるで映画に出てきそうな、鬱蒼とした森。どこまでも続く原っぱを、2歳になる朔くんが縦横無尽に駆け回る。

「楽しそうなんですよね、子どもが。今はひたすら庭で石を掘ることにハマっていますけど、車を気にせず遊ばせてあげられるから、もう少し大きくなったらもっと楽しいでしょうね」と、内田さんは目を細めた。

息子の朔くん。

息子の朔くん。

高校を卒業して、岩見沢市役所に入庁した内田さんは6年勤務した後に上京し、イタリアンレストランなどで働いたあと、本格的に木工を学ぶべく、岐阜県高山市の〈森林たくみ塾〉に入塾した。奥様の美帆さんと一緒に暮らし、一度は高山市の雰囲気にも惹かれたが「母親も住んでいるから、三笠に戻ろうか」という話になった。

「地元には同級生がたくさんいるのですが、そのひとりである〈山﨑ワイナリー〉の4代目の山﨑太地に『家と工房を建てたいんだけど、どこかいい場所ない?』って聞いたら『あるよ』って。紹介してくれたのが、ここだったんです」

自宅と周辺には、およそ15ヘクタールの農地が広がっている。

自宅と周辺には、およそ15ヘクタールの農地が広がっている。

それは、もう何十年も使われていなかった広大な農地。周辺も農地が続くため民家はほとんどなく、内田さんは「きっと工房で音を出しても気にならないだろう」と思った。何より惹かれたのは、その自然豊かな環境だ。

「静かで、製作の邪魔をされることもありません。今も作業中、ふっと窓の外の緑を見ると癒されますし、近くに湧き水の池があって、休憩がてら散歩に行ったり山菜を採ったりもしています」

工房の窓から見える緑は、どことなく幻想的だ。

工房の窓から見える緑は、どことなく幻想的だ。

庭には「最近始めたばかり」という、家庭菜園と呼ぶには広すぎる畑がある。主に美帆さんが手入れをし、内田さんも時間を見つけて参加しているそうだ。小松菜、じゃがいも、さつまいも、豆類……、「そのうち鶏を飼いたい」と美帆さんが言えば、「狩猟免許も取りたいな」と内田さんが返し、田舎のほうが忙しいね、と笑い合った。

東京出身の美帆さんは「自然があまりないところで生まれ育ったので、東京とは全然違って、三笠での暮らしはすごく新鮮です」と話してくれた。ご両親も友だちも東京にいるため、たびたび帰省するが三笠から新千歳空港まで、車で1時間程度と近いところも便利に感じている。

奥様の美帆さん。

奥様の美帆さん。

「年に数回、東京でいろいろな情報に触れて、刺激を受けて帰ってくる……という生活が楽しい。三笠を拠点に、ときどき東京、という生活が私には性に合っているようです」

木の個性を生かした木工品づくり

内田さんが木工の道に進もうと思ったのは、市役所に勤めていた頃のこと。ゴミ集積所を視察した際、まだ使えるきれいな家具が山のように捨てられている現状にショックを受けたことがきっかけで「長く使える家具をつくりたい」と思うようになった。でも、最初につくり始めたのは、家具ではなくうつわ。

「家具をつくるためには、かなり大きな機械が必要です。それに、いきなり何もない状態で家具製作を始めるといっても固定客もいない状態では仕事にならないので、まずは小さくて安価なうつわをつくる機械を買って徐々に家具づくりへ移行しようと思っていました。そうこうしているうちに、うつわのおもしろさに目覚めてしまったんですよね」

工房の棚にはいつも、製作中のうつわや家具がぎっしりと並んでいる。

工房の棚にはいつも、製作中のうつわや家具がぎっしりと並んでいる。

家具にはいろいろな形や用途があるから装飾も可能だが、うつわには制約がある。例えば丸いうつわなら「この小さな丸の中で、何を表現するのか」がすべてだ。「それを考えるのは難しいけれど、試行錯誤することで木の持っている個性が出てくるのがおもしろくて」と内田さん。うつわづくりで得た経験をフィードバックすることで、家具も、徐々に納得いくものがつくれるようになってきた。

使っている素材は、ミズナラ、桜、イタヤカエデなど、すべて北海道産の木。道北の中川町で、森を大事にする信念を持った人からきちんと自分の目で確かめて、買いつけている。

朝8時に作業を開始し、17時で一旦仕事を終えて、朔くんの食事や入浴補助を済ませて工房に戻る。週末も、自宅と工房を行き来する充実した日々。

朝8時に作業を開始し、17時で一旦仕事を終えて、朔くんの食事や入浴補助を済ませて工房に戻る。週末も、自宅と工房を行き来する充実した日々。

同じ種類の木でうつわをつくっても、まったく同じ風合いに仕上がることはない。まずは木目を見てどんな形に向いているかを見定めたうえで削るという。木目の表情の変化を細かく観察し、納得いく形ができたら柿渋やログウッドチップを煮出した染料で染めるなどして、さらに木の個性を伸ばす。

「感覚なので、何をどうすればこうなる、とはなかなか説明できないんですけど」実験的ともいえるこの作業を幾度も重ねて、木はようやく内田さんの作品へと姿を変える。

木の中のタンニンと鉄を反応させると、白い木もブロンズのような輝きに。柿渋で染めると、深い茶色になる。

木の中のタンニンと鉄を反応させると、白い木もブロンズのような輝きに。柿渋で染めると、深い茶色になる。

岐阜を出たあと、三笠に帰るまでの間は札幌の会社に就職しながら、自身の製作も続けていたが「三笠に拠点を移して、作風はよりシンプルになりました。無駄なものが、削られていっているような気がします」と語る。

三笠の自然の中で、内田さん自身も、より自然体に近づいているのかもしれない。

工房とお店と自宅をひとつに

内田さんは近い将来、自身の作品を販売するために自宅と工房に、お店となる空間を併設させた。

「うつわや家具は頻繁に買うものでもないし、やっぱり実際に見て、さわって、対面で買ってもらえるとうれしい」という理由からだ。

「僕たちの家と工房に併設しているので、『現実離れしたおしゃれなお店』というよりは『生活のなかにあるお店』を意識しました。日常的に使うものだからこそ、リアルな暮らしと重ね合わせられる場所で、うつわや家具を選んでほしいんです」

そんな思いが、今、ようやくかたちになろうとしている。

自宅にはところどころに季節感と、家族で過ごした記憶の断片がある。

自宅にはところどころに季節感と、家族で過ごした記憶の断片がある。

東京のイタリアンレストランで働いていたのは、いずれお店を構えたときに、カフェを併設させたかったから。オープンしたら、庭に生えている梅を使った手づくりの梅ジュースなどを提供し、まるで内田さんたちの暮らしを実体験できるかのような場所にしたいのだそうだ。

家族だんらん。猫もなかよし。

家族だんらん。猫もなかよし。

東京や札幌のような都市で感性を研ぎ澄まし、岐阜で木工作家としての腕を磨き、生まれ育った三笠で、各都市での経験を集約させる。三笠は単なる故郷ではなく、内田さんにとって新たな人生のスタート地点だ。

お店ができれば、今まで三笠に縁のなかった人が、この地を訪れる機会も増えるだろう。自然の中で家族3人、必要なものを自らの手でつくりながら、地に足をつけて暮らしている。うつわという暮らしの必需品をつくり、使う、そんな姿を見てもらって、伝えたいことはただひとつだけ。

「こんな風に暮らすのも楽しいですよ、って」

内田家の猫、だいず。

内田家の猫、だいず。

information

内田悠

Web:https://www.yu-uchida.com/

information

みかさぐらし(三笠市移住定住情報ウェブサイト)

Web:https://www.city.mikasa.hokkaido.jp/mikasalife/

writer profile

Satoko Nakano

仲野聡子

なかの・さとこ●ライター。生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に北海道喜茂別町に家族と移住。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れている。

photographer

安彦 幸枝

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