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建築家が事業運営にチャレンジ。〈西日暮里のシェアハウス〉

  • 2020年6月30日
  • コロカル

撮影:千葉正人

勝亦丸山建築計画 vol.5

静岡・東京の2拠点で、建築設計、自治体や大学との取り組み、都内のシェアハウスの運営などの活動をする〈勝亦丸山建築計画〉の勝亦優祐さんの連載です。今回は自ら場の運営も手がける西日暮里のシェアハウスとその界隈をテーマにお届けします。

2拠点化を目指し、東京に拠点をつくる。UターンからO(オー)ループへ

東京に住んでいた頃は、東京以外で生きていくイメージができなかった。しかし起業当時の僕にとって、東京はコストが高く、自由度がなく、すでに多くの先輩たちによるすばらしい取り組みが行われていた。

一方で、地方には無数の課題や満たされないニーズがある。自分の能力やモチベーションを使って、それらに取り組んでみようとUターンを決めた。

都内での設計の依頼が増えてきたのに伴い、都内に住む丸山裕貴と仕事をするうえで東京に拠点が必要になった。僕らはただ事務所を借りるのではおもしろくないので、戸建住宅をリノベーションして「賃貸住宅+ワークスペース+滞在場所」を複合一体化したような拠点を企画した。

富士と東京駅は新幹線、東海道本線、高速バス、東名高速道路、新東名高速道路で結ばれている。

富士と東京駅は新幹線、東海道本線、高速バス、東名高速道路、新東名高速道路で結ばれている。

物件の狙いは富士からのアクセスのいい場所で、何種類かの交通で結ばれているエリア。東京駅から20分圏内で、建築的な問題解決が求められる古い建築が多いエリアで絞り込むと、東京北東部の木造住宅密集地域が浮かび上がってきた。

東京都には築古の木造住宅密集地域が多く存在しており、地震や火災時の危険性など、建築的な課題が多いと言われている。

東京都には築古の木造住宅密集地域が多く存在しており、地震や火災時の危険性など、建築的な課題が多いと言われている。

さらに、地方と都市それぞれにコミュニティを育む「界隈性」つくり、ネットワーキングして行ったり来たり循環するイメージで、Uターンならぬ、O(オー)ループをつくることを思い描いている。

例えば、富士から東京への目線では、東京に拠点があれば訪れやすくなるし、東京の大学に通う場合も、富士とのつながりを断絶することがなくなる。就活では、きっとたくさんのキャリアパスが見えるだろう。都内で就職しながら、月の半分は富士でテレワーク。僕のように起業をして自由に行き来するなど、いろんな生き方が可能になる。

東京から富士の目線では、たとえ縁がなくとも、富士にはアウトドアのスポットや、小さな町工場がたくさんある。これらを楽しむにはきっと想像力が必要だが、誰かに用意されたサービスでは満足できない人を僕はたくさん知っている。

そのような人々の窓口に僕はなれたらいいと思っている。都内に比べたら圧倒的に地価が安く、行政サービスは安定しているので、2拠点生活の軸足を置くにはおすすめだ。

富士東京ネットワーク図。

富士東京ネットワーク図。

築約40年の木造一戸建て住宅との出会い

2017年に開催された日本建築学会のイベント「パラレル・プロジェクションズ」で出会った〈創造系不動産〉の佐竹雄太a.k.aカタチトナカミに相談し、約20軒の物件を一緒にひたすら見て回った。

当初は、賃貸ではなく自分たちで改修できる物件を購入しようと考えていたが、予算も少なく、出てくる物件は、空間のねじれている物件、猫が自由に出入りする穴だらけの物件、隣の家のほうに寄りかかってしまっている物件など、ほとんどが半壊状態で再建築不可の物件ばかり。

倒壊を防ぐために、仮設の補強がなされた再建築不可の木造住宅もあった……。

倒壊を防ぐために、仮設の補強がなされた再建築不可の木造住宅もあった……。

諦めかけたそのとき、創造系不動産代表の高橋寿太郎さんに西日暮里駅徒歩9分のところにある築約40年の木造2階建ての賃貸物件を紹介いただき、事前に設計図面で改修案を見せ、オーナーに承認を取ることを条件に、原状回復義務なしで借りられることになった。自社で図面を描きプレゼンができる設計事務所ならではの強みに気がついた瞬間だった。

西日暮里のシェアハウスビフォー。借りたときは改装されていたが、新築当時の1階は家具工場であったらしい。

〈西日暮里のシェアハウス〉ビフォー。借りたときは改装されていたが、新築当時の1階は家具工場であったらしい。

建築家が建築を運営する

僕は企画(ソフト)とかたち(ハード)が呼応関係にあり続けることが建築設計のおもしろさだと思っている。「商店街占拠」や〈マルイチビル〉など、これまで関わってきたプロジェクトでは、その建築の存在によって、どのようにまちや周囲の人に、日常に生まれる豊かさや安心感、驚き、習慣などを提供できるか、ということを重視してきた。

それはその建築が他者からどのように認識されるかを意識することであり、それがプロジェクトのブランディングや土地へ定着していくことに回り回ってつながると考えている。

さらに建築は完成したあとに適切に運営されないと、当初の計画も意味を失ってしまう。言うは易く、行うは難し。クライアントの心理も理解したいし、アイデアは世の中に存在させなければならない。それであれば、すべてをやってみようと、企画・設計・運営をこの〈西日暮里のシェアハウス〉で実験することにした。

解体工事は丸山とふたりで行った。

解体工事は丸山とふたりで行った。

始めてみると、企画→設計→運営のフローは次のように細分化された。

事業の企画、物件の条件交渉、設計、事業費の見積もり、遵法性チェック、収支計算、賃貸借契約、銀行借入れ、行政への申請、工事の発注、解体工事、工事監理、仕上げ工事、オープン準備、リーシング、入居メンバーの審査、契約業務。

これらの業務を自社で一気に行うことで、建物を運営しながら当初の計画にフィードバックを与え、アップデートし続けることを試行している。

解体は早い段階から自分たちで行い、設計へフィードバック。

解体は早い段階から自分たちで行い、設計へフィードバック。(撮影:千葉正人)

このプロジェクトでは、小規模な設計事務所の売り上げの安定化も目標としている。クライアントワークのみでは経営の長期計画が立てづらい。銀行から融資を受けてプロジェクトの当事者になることで、売り上げを安定化させ、見通しを立てることができるのではないか、という思いもあった。

室内にテントを張り、現場に住みながら施工を行った。

室内にテントを張り、現場に住みながら施工を行った。

未完の竣工・アップデートされる建築。デザイン・オペレーションという場づくり手法

建築家という立場で設計(デザイン)と運営(オペレーション)を行い、場をつくることを「デザイン・オペレーション」という造語で表現している。

新築され数十年が経過した建築は、その歴史を風景としてまとっている。リノベーションでは、そんな状態の建築の部分を引き継いで、これから必要なプログラムに変え、空間の使い手と結んでいく。

さらにデザイン・オペーレーションでは、建物を運営しながら事業計画にフィードバックを与え続け、定期的に設計/投資を行うことで、空間をアップデートし続けることができる。人が思いを持って使っている状態を生み、それを維持することが最も大事だと考えている。

デザイン・オペーレーションの概念図。

デザイン・オペーレーションの概念図。

初期コスト(建築の改修コストが大部分を占める)が低いと、新たな空間の担い手はリスクを低減でき、賃料も低くできる。賃料を抑えることで、学生や駆け出しのクリエイターなどが住みやすい状況をつくり、新たなプロジェクトが生まれやすくなり、運営のなかでの気づきや住人の声を取り入れながら、工夫し改善できる枠組みを試行していきたいと思っている。

〈西日暮里のシェアハウス〉が完成

こうして2017年8月に、西日暮里のシェアハウスが完成した。

1階の共有部は通り土間と掃き出し窓によって、内外境界にグラデーションをつけている。シェアハウスの共用部として「フラット」な場になり、住まい手と客人が違和感なく利用できることを考えた。

1階の共有部は通り土間と掃き出し窓によって、内外境界にグラデーションをつけている。シェアハウスの共用部として「フラット」な場になり、住まい手と客人が違和感なく利用できることを考えた。(撮影:千葉正人)

内壁には路地側向かいの住宅と同様の外壁色を用いている。向かいの住宅は現在が建て替えられている。

内壁には路地側向かいの住宅と同様の外壁色を用いている。向かいの住宅は現在は建て替えられている。(撮影:千葉正人)

2階のプライベートルーム。このほか4室ある。

2階のプライベートルーム。このほか4室ある。(撮影:千葉正人)

完成後は、設計事務所や不動産会社、IT起業で働くメンバーが住人となり、その後、住人は入れ替わりながらも、順調に運営を行っている。ときにはリビングで住人同士やその友だちが集まり、交流が行われることも。

2階のプライベートルーム。小さなスペースだが住まい手の工夫で居心地が良さそうな仕上り。

2階のプライベートルーム。小さなスペースだが住まい手の工夫で居心地が良さそうな仕上がり。

ときどきメンバーの誰かが企画する食事会、友だちの友だちとはすぐに打ち解けられる。

ときどきメンバーの誰かが企画する食事会、友だちの友だちとはすぐに打ち解けられる。

シェアハウスでは、これからもクリエイターやアーティスト、起業家など、何かをつくりだす人々や、つくりたいという意思を持つ人に住んでほしいと思っている。

この9月で丸3年が経過する。目立った空き室もなく、当初の事業計画よりも少し早いペースで初期投資回収が見込めそうだ。

ワークスペースやコーヒー屋など、周囲に生まれた変化。徒歩圏でつくる界隈性

西日暮里のシェアハウスの向かいに、約10平方メートル程度の元飲食店の小さな賃貸物件があった。西日暮里のシェアハウスの完成後、飲食店の移転に伴い空き店舗になったところを賃貸し、シェアハウス内に置いていたワークスペースの機能をここに移転した。

地域のエントランスにするというコンセプトで〈エント〉と命名。月〜土曜日はワークスペースとして使い、2019年3月には、日曜日限定の〈須貝珈琲〉がオープンした。

毎週日曜に営業するスタートアップの〈須貝珈琲〉。

毎週日曜に営業するスタートアップの〈須貝珈琲〉。

〈エント〉は、ワークショップやミーティング、ワークスペースとして使われている。シェアハウスメンバーなど関係者によって使われることも。

〈エント〉は、ワークショップやミーティング、ワークスペースとして使われている。シェアハウスメンバーなど関係者によって使われることも。

さらにもうひとつ、西日暮里のシェアハウスから徒歩5分の築45年の戸建住宅を借りた。エントのワークスペースを移転し、コワーキングスペースとシェアハウス、ゲストルームが融合した「ニュータバタ邸(仮)」の計画が進行中だ。

徒歩10分圏内に、各拠点(西日暮里のシェアハウス、エント、ニュータバタ邸)のメンバーが使える共有スペースを持った場所をつくる。シェアハウスの個室のような専有領域と、共有部やエントのように自由に出入りできる場所を持つことで、各個人は独立的な存在であり続けながら、日常生活のなかに人や機会と出会う可能性を高めることができる。

このようにして、新たな暮らし方をつくっていきたいと考えている。

進行中のニュータバタ邸(仮)。住宅街の中に残された傾斜地の林の中に立つ住宅、庭には大きな池も。

進行中のニュータバタ邸(仮)。住宅街の中に残された傾斜地の林の中に立つ住宅、庭には大きな池も。

丸山とプロジェクトを振り返る

雑談の風景。丸山(左)は東京、勝亦(右)は富士のマルイチビル。起業当時から遠隔で仕事をしている。

雑談の風景。丸山(左)は東京、勝亦(右)は富士のマルイチビル。起業当時から遠隔で仕事をしている。

丸山: そもそも運営までやろうとしたのは、場づくりの主体になるためだったよね。

勝亦: そうそう。富士の吉原商店街の活動で、遊休不動産に魂の入った活用をしていい雰囲気の界隈をつくりたかったんだよね。でもいまの商店街の雰囲気だとビジネスとして成立しづらいから、一般的には事業者は多くは出てこない。そこで建築家として、活用案をつくるだけじゃなくて、自分たちが場の運営者になる選択肢を持ちたいと思った。

丸山: 前職ではさまざまな規模の設計をしていたけど、自分でお金を銀行から借りて事業をするなんて思ってなかった。個人的にはリアクションを取り込みながらつくる、「時間」を扱えるようになることには興味があるな。

勝亦: 竣工したらその建築と関係なくなってしまうのは、寂しく思うときもあるしね。

丸山: 僕と勝亦って、デザイン・オペレーションのなかでも興味の分野が違うよね。僕は空間の成り立ち方や構成原理にどう影響を与えるのかに興味がある。

勝亦: 僕は、敷地を超えて、周辺のストーリーや関係性とつなげながら、プロジェクトを超能動的に進めていくことに関心がある。創造して実現化するところに固執したい。

丸山: 勝亦らしいな(笑)。あと、連作的に近距離でデザイン・オペレーションをすると、人やモノの関係性が豊かになっていく実感がある。それは周辺(カフェや事務所、銭湯、スーパーとかコンビニ、駅)との距離はもちろん、関係性の質が可視化されることが価値だと思う。

勝亦: その関係性が界隈に蓄積されて、他者と共有可能な状態を維持したいね。「あのコーヒー屋で何時にコーヒーを買って、あのベンチで飲むとあの人が通るから少し挨拶して、家の中でパソコンを開くといい感じの光が入って、夕方のあの時間に銭湯に行くと湯の温度がちょうどいい。夜はあそことあそこの窓を開けると風が抜けて気持ちがいい」みたいに、生活のなかの愛する部分をメンバーとシェアできている気がする。

シェアハウスから徒歩1分のところにある銭湯。

シェアハウスから徒歩1分のところにある銭湯。

丸山: 最近、シェアハウスのメンバーが千葉のほうで大家になるらしいね。あれすごくいいよね。シェアハウスなどの施設の共有部には、ほかのメンバーやその友だちなどの他者が入り込める。自由に出入りできる空間が多いことってワクワクするよね。

勝亦: そうだね、そのワクワク感ってなんだろう。近距離の例だと、西日暮里のシェアハウスとエント、この2点が向かい合わせにあることで拠点と拠点の「間」ができて、そこが公道というパブリック空間だとしても、少しだけプライベート空間に近づく感じがあるよね。

丸山: そうだね。自分の体を安心して置ける場が多いことはやっぱり豊かなことだよね。

シェアハウスの前にはベンチを作成。向かいのコーヒースタンドがオープンする日には、お客さんがここに座ってコーヒーを飲むこともできる。

シェアハウスの前にはベンチを作成。向かいのコーヒースタンドがオープンする日には、お客さんがここに座ってコーヒーを飲むこともできる。

建築とまちをひとつながりに表現する建築ラップ

最後に、西日暮里のシェアハウスの仲介を担当してくれた創造系不動産の佐竹雄太a.k.aカタチトナカミは、西日暮里のシェアハウスと西日暮里駅周辺のまちのラップと映像を制作。弊社では制作費の一部を負担し、撮影協力などをした。

その後、彼は住人1号となり、約1年半生活をした。不動産屋、建築ができる過程、住人としてなど、ひとつのプロジェクトにマルチな関わり方をする様子や建築家の新しい生き様が、この作品に込められている。

次回は、シェアハウスプロジェクトの第2弾、〈今川のシェアハウス〉をご紹介します。

information

西日暮里のシェアハウス

事業主・企画・設計・運営:勝亦丸山建築計画

施工:I-SPACE(解体・仕上げ工事は勝亦丸山建築計画とサポーターの皆さん)

Web:http://katsumaru-arc.com/02_works/sharehouse.html

writer profile

Yusuke Katsumata

勝亦優祐

かつまた・ゆうすけ●〈勝亦丸山建築計画〉代表取締役。1987年静岡県富士市生まれ。工学院大学大学院工学研究科(木下庸子研究室)修了。静岡県富士市と東京都北区の2拠点で、建築、インテリア、家具、プロダクトデザイン、都市リサーチ、地域資源を生かした事業開発等の活動を行っている。http://katsumaru-arc.com/

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