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空きビル活用〈ロイヤル40〉から〈サロン・ド マルイチ〉、遊べる道路「yanagase PARK LINE」まで。柳ヶ瀬商店街でのチャレンジ

  • 2020年4月14日
  • コロカル
ミユキデザイン vol.3

岐阜を拠点に建築、まちづくり、シェアアトリエの運営などの活動をする〈ミユキデザイン〉末永三樹さんによる連載。前回ご紹介した月一の定期市〈サンデービルヂングマーケット〉に続き、柳ヶ瀬商店街がテーマです。

まちづくり会社の設立をきっかけに、多方面へ展開されていく柳ヶ瀬商店街の新たな動きとは。小さなチャレンジの集積が、商店街全体と周辺に変化をもたらす、そのプロセスを紹介していきます。

SundayからEverydayへ。2017年にオープンしたロイヤルビル

柳ヶ瀬商店街で〈サンデービルヂングマーケット〉(以下、サンビル)を始めて3年。実験的に活用した「ロイヤル劇場ビル」(詳細はvol.2)の空き区画を借り上げ、投資し、リーシングするフェーズに入っていきました。

募集区画は1階6区画+2階5区画の全部で11区画。入居者先付けで事業スキームを組み、路面は現状引き渡しで、入居者が空間投資を行うことに。路面に比べると集客しづらく使い勝手の悪かった2階に手を加え、テナント候補にはサンビル出店者をイメージして、創業しやすい小割でリーズナブルな家賃設定のシェアショップにリニューアルしました。

ビルの40周年にあたることから、〈ロイヤル40(ヨンマル)プロジェクト〉と名づけ、SNSとフライヤーを使い入居者募集をかけました。店はできるだけ長く続けてほしいし、テナント同士が共同で販促などを行うことも視野に入れ、入居希望者とは面談を行い、出店への思いを聞き、私たちの取り組みやビジョンなどをお伝えしました。

その頃、いろんなタイミングが重なり、アパレルブランド〈BLUEBLUE〉と接点を持つことになり、商店街の雰囲気とフィルム映画を上映するレトロなロイヤル劇場ビルを気に入り、1階の一番大きな区画に出店が決定。

その影響もあり、岐阜で人気の雑貨・洋服屋がその2号店を路面出店することで2区画が決まり、2階のシェアショップではイラストレーターやアーティストがアトリエと兼ねてワークショップなどの体験サービスを提供するという業態で入居し、ほぼ満室状態になりました。

入居者はサンビル出店がきっかけではなく、サンビルを含め柳ヶ瀬の変化を外から見て興味を持った人たちが「いまだ」とタイミングを感じて新規で集まってきたのは、興味深い結果でした。

入居者メンバーと学生が2階への入り口のシャッターの化粧直しをしていると、行き交う人から「お疲れ様」の声が。

入居者メンバーと学生が2階への入り口のシャッターの化粧直しをしていると、行き交う人から「お疲れ様」の声が。

2階のシェアショップでは、入居者同士のコミュニケーションを兼ねて、DIYも取り入れて空間をつくり、グランドオープンしました。

今年で3年目に入り、入居者同士で商品開発をしたり、共同でイベント開催したりするなど、店主それぞれが持つコミュニティがときとして混ざり合い、さまざまな人が出入りしているのがうれしいです。

1〜2階にテナントが入り、グランドオープンしたロイヤル劇場ビル。

1〜2階にテナントが入り、グランドオープンしたロイヤル劇場ビル。

また、卒業する人や2号店を展開する店など、環境に変化が現れています。健全なビル運営を継続するには、入居者や場所に何が起こっているかを察知し、コミュニケーションして入居者同士をつなぎ、ポジティブな空気をつくる、そんなサブリーサーの役割も重要だと感じています。

シェアスタイルの〈ロイヤル40〉2階のリノベーション。共有の大きなワークテーブルを中心に、5つのブースが配置されるプランで、ダイナミックなスケルトンを生かしたデザイン。(撮影kazuhiro tsushima)

シェアスタイルの〈ロイヤル40〉2階のリノベーション。共有の大きなワークテーブルを中心に、5つのブースが配置されるプランで、ダイナミックなスケルトンを生かしたデザイン。(撮影kazuhiro tsushima)

路面の雑貨店は、スタッフが数か月の時間をかけDIYで店づくりを行っていた。

路面の雑貨店は、スタッフが数か月の時間をかけDIYで店づくりを行っていた。

より安定的に広く活動するエンジンとして「会社」をつくる

ロイヤル40のプロジェクトに合わせて、2016年12月、〈柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社〉(以下、まち会社)を設立しました。まとまったお金が必要なことや、リスク分担なども理由でしたが、チームで柳ヶ瀬再生を事業として行い、ノウハウや人材、金、不動産を蓄積し、長期的にまちへ再投資ができるようにするためです。

また「まちづくり」として行政との連携も重要になると考えました。個人的な取り組みから、商店街とはまた別の、パブリックな視点を持った民間事業者という立場をとるために、市町村から指定を受ける法人である「都市再生法人」の認定を目指すことにしました。

まち会社の中心メンバーは、サンビル実行委員会である岡田さや加さん、林亨一さん、ミユキデザインの大前貴裕に、柳ヶ瀬の不動産オーナーで事業も手がけている〈やながせ倉庫〉の上田哲司さん、柳ヶ瀬を興味深くリサーチ・分析している〈美殿町ラボ〉の出村嘉史先生を加え、商店街の方々を中心に出資を募りました。

サンビルの出店料やサブリース賃料など、安定収入が見込めたことで、ようやく専属スタッフという雇用を生むことができました。現在、柳ヶ瀬に魅力を感じて他県から移住してきた奥岡莞司くんと、サンビルのボランティアを経た新卒の土肥彩香さんの2名がスタッフとして働いています。

まち会社の仕事内容やスタッフの役割について聞かれることがありますが、答えるのがとても難しいです。ロールモデルがあるわけでなく、ビジョンをメンバーと共有して、サンビルを運営しながら、まちとの関係を築き、自らの立ち位置をつくっていかないといけない。

立ち上げメンバーはそれぞれが本業を持ちながらやっているので、社会人になって間もないスタッフが、そのなかで事務的な作業をこなしながら、自分がどうなりたいかを意識して進んでもらうしかなく、どうサポートし、一緒に成長していくかは常に試行錯誤しています。ふたりともそれぞれが悩みながらも動いて、新しい世界をみせてくれるので、私たちも負けてはいられません。

老舗喫茶の文化を承継して。〈サロン・ド マルイチ〉始動

ロイヤル40がオープンしてまもなく、まち会社は新たな使命を受けることになりました。サンビルを始めた2014年に、70年以上続く老舗の喫茶店〈マルイチ〉が、店主の高齢化を理由に閉店。ビルオーナーは、芸術・文化を愛する人が集まる社交場としてのマルイチの良さを理解し、ビル1棟を借りる人はいないかと、岡田さんに相談を持ちかけていました。

まち会社の使命は、引き継ぐもの、変わっていくものを見定めて新しい動きをつくること。ロイヤル40をオープンし、次を模索していた私たちは、先代たちの思いと誇りを受け継ぎ、マルイチを柳ヶ瀬の未来をつくるサロンとして継承することを決意します。

オープン前に、オリジナル屋台を使って路面で試作販売を行い、まちの人とコミュニケーション。

オープン前に、オリジナル屋台を使って路面で試作販売を行い、まちの人とコミュニケーション。

新たな店の名前は〈サロン・ド マルイチ〉。もともと看板メニューであったシュークリームやフレッシュジュースのレシピをアップデートし販売。まち会社の奥岡くんが店長となり、店頭では自らの目利きで本屋、ギャラリーを運営し、柳ヶ瀬の文化を発信する社交場を目指し、日々店を開けています。

当時の重厚で文化的な香りを残しながら、若い人も入りたくなるように、引き算のデザインで空間をリノベーションしました。

ショーケースは引き継いだものを真鍮の板で包み、存在感と質感をもたせた。手前にあるオブジェも先代から引き継いたもの。

ショーケースは引き継いだものを真鍮の板で包み、存在感と質感をもたせた。手前にあるオブジェも先代から引き継いたもの。

砂混じりの塗装や磁器タイルなど、硬い質感のものはやわらかい色を選んで使っています。2階はギャラリー・イベントスペース、3階はオフィス、4階は女性限定のシェアハウスとして活用し、柳ヶ瀬に3人の若い女性が暮らすという快挙を成し遂げました(笑)。

飲食店の運営は大変ですが、さまざまな職能を持ったチームだからこそやり切れていると感じています。

アーチの木製ゲートはそのまま生かし、もとの装飾がいきるような単一ではない色と素材使いに配慮した。

アーチの木製ゲートはそのまま生かし、もとの装飾がいきるような単一ではない色と素材使いに配慮した。

カウンター側。砂壁に包まれたミニマムでやさしい空間に、先代から受け継いだフレッシュジュースマシーン、グラス、皿が並ぶ。

カウンター側。砂壁に包まれたミニマムでやさしい空間に、先代から受け継いだフレッシュジュースマシーン、グラス、皿が並ぶ。

柳ヶ瀬で見たい風景をつくる。大きい空き箱の使い方の実験

柳ヶ瀬中心部にはかつて大きなスーパーマーケットがあり、その閉店後も、10数年にわたって大型空き店舗として鎮座し続けていました。その存在感はあまりに大きく、商店街衰退のランドマークのようになっていたのです。

この場所が変われば、まちの風景が大きく変わるという仮説から、オーナーに暫定利用の交渉を行い、いままでにワインイベントを行ったり、サンビルに連動させたりと活用を模索してきました。

掃除やペンキ塗りの様子。大学の学生やサンビルのボランティアスタッフと一緒に。

掃除やペンキ塗りの様子。大学の学生やサンビルのボランティアスタッフと一緒に。

暫定利用のため、お金はかけられません。湿気臭い空気を入れ替え、掃除し、ペンキ塗りを経て、知恵と工夫で空間の飾りつけを行っていると、まちゆく人が何が始まったのかと集まってきたり、話しかけてきたりします。

諦められていた場所に明かりを灯すだけで、景色が一変することを体感し、路面のあり方がまちを形成する大きな要素であることをあらためて認識することができました。そして、あれこれ語るよりも、実際に風景をつくって存在させることの影響力の強さもよくわかりました。

イベント「ヤナガセワインホール」会場風景。酒屋のプラスチックケースをカウンターにワインが提供される。建物に人が出入りすることで、まちに血が通うような感覚をもった。

イベント「ヤナガセワインホール」会場風景。酒屋のプラスチックケースをカウンターにワインが提供される。建物に人が出入りすることで、まちに血が通うような感覚をもった。

シャッターの開いた〈旧長崎屋〉。商店街の行き交う人と、室内の人がガラス越しに交差する。

シャッターの開いた〈旧長崎屋〉。商店街の行き交う人と、室内の人がガラス越しに交差する。

柳ヶ瀬のいまとこれからを発信するタブロイド『WE WANT.』

柳ヶ瀬を創業のまちにしたい。そんな思いで始めたサンビルですが、当初、私たちが抱いていた“まち”への思いはほとんど表現しませんでした。

出店者やお客さんには直接的に関係ないだろうし、まちづくりとか重い話題をふるのはキャッチーじゃない。4年が経過し、若い人の行き来や新しい店が増えるなどの変化が生まれるなかで、私たちの思いを一度ちゃんと伝え、次のステップに入りたいと柳ヶ瀬をテーマにしたタブロイド『WE WANT.』を発行しました。

サンビルだけじゃない柳ヶ瀬の持つ空気を少し引いた目でリアルに表現するために、いままでにないメンバーで編集チームを組み、自分たちがなぜ柳ヶ瀬を創業のまちにしたいと思ったのかをあらためて問い直し、商店街にいる人や店、暮らしと未来のビジョンをていねいに伝えました。

新しい編集チームによる“外の目”は私にいろんな気づきを与えてくれました。タブロイドをきっかけに、メンバーも柳ヶ瀬で新しいトライや仕事をするようになっていて、その広がりもおもしろいな、と思っています。

柳ヶ瀬は、その昔から「映画を観たい」「着飾ってまちを歩きたい」「商売で一旗あげたい」など、ひとりひとりの「WANT」が集まり散ってアップデートされてきた。柳ヶ瀬商店街はどんな「WANT」も受け入れてしまう。そんな魅力をタブロイドで伝えている。

柳ヶ瀬は、その昔から「映画を観たい」「着飾ってまちを歩きたい」「商売で一旗あげたい」など、ひとりひとりの「WANT」が集まり散ってアップデートされてきた。柳ヶ瀬商店街はどんな「WANT」も受け入れてしまう。そんな魅力をタブロイドで伝えている。

行政と踏み出した新たな一歩。遊べる道路「yanagase PARK LINE」

柳ヶ瀬商店街の魅力をつくっているのは、“路上が人のための空間”になっているところだと思います。車が入ってこないので、子どももお年寄りも安心して歩き、立ち話ができるし、店を広げることもできる。アーケードが架かっていて、商店主たちがそれを維持していることもあって、道路は半分自分たちのテリトリーだと思っている。

あらためて考えてみると、自分たちが良いと思うまちには道路や公園といった公共空間を自分たちの場所として使いこなしていて、おもしろくて豊かなシーンが広がっています。

そんな思いを実現するような社会実験を、2019年の11月に行いました。岐阜市が行う道路空間活用事業に関わることになり、「使い切れていない道路を公園のようなみんなの場所にしてみたらどうなるだろう?」と片側4車線の道路を活用した「yanagase PARK LINE」という企画をつくり、運営しました。

まちでくつろぎ、遊んで過ごすことをコンセプトに、会場を「プレイ」「リビング」「アート/ワークショップ」の3つのエリアで構成し、コンテンツを集めました。

プレイエリアでは、柳ヶ瀬でショップを持つスケーターに協力してもらい、スケボーパークを設置。岐阜を中心に、遠方からも、スケートカルチャーを根づかせたい子どもから大人まで仲間たちが集まって交流する新しいシーンが生まれました。

参加者からは「ストリートをステージに遊べる岐阜っていいよね」という声も。

参加者からは「ストリートをステージに遊べる岐阜っていいよね」という声も。

リビングエリアは、人工芝とハンモック、テントなどを設置し、音楽やトークセッションが行われ、路上で親子が寝転んで遊んでいたり、ランチを楽しんだり、けん玉をしたり……まちなかに、思い思いの過ごし方がありました。

柳ヶ瀬商店街付近のアスファルト道路はこんな風景に。

柳ヶ瀬商店街付近のアスファルト道路はこんな風景に。

集客を狙ってサンビルと同日開催したのですが、蓋を開けてみると、いままで見られなかったたくさんの子連れファミリー層が集まり、相乗効果を生んでいました。

ミユキデザイン、大学生ボランティア、公共空間活用で一歩先をゆく東京・池袋の〈IKEBUKURO LIVINGLOOP〉チーム、〈無印良品〉など声をかけさせてもらった人たち、そして岐阜市とのコラボレーションは大きな一歩だったと思います。

柳ヶ瀬商店街の中から、その周辺の道路へと広がりを見せ、会話と笑顔があふれるパブリック空間の可能性を感じることができました。また、気軽にくつろぐことができる気持ちのいい場所が、まちなかに求められていることもあらためてわかりました。

まち会社は“コミュニティディベロッパーに”

こうした公共空間に対する思いに共感してアドバイスをくれるのが、〈まめくらし〉の青木純さんです。青木さんとは、2013年に北九州で行われた、まちづくりを実践的に学ぶ「リノベーションスクール」という場で出会い、まちでつくるビル(vol.1参照)の立ち上げ以降、次の一手を思案するなか、いろんなタイミングで関わってもらっています。

また、美殿町や柳ヶ瀬の一連の活動によって、行政との信頼関係を築くことができ、同じ目線で話せる行政職員がいて、ここ数年で動きがさらに加速している気がします。

地方で同じような価値観で活動している人たちの動きが、SNSなどを通じて知ることができたり、人とのつながりで知り合う機会を持ち、直接意見が交換できることも、とても貴重です。柳ヶ瀬商店街のエリアリノベーションは、まだ道半ばですが、こういった仲間がいないと実現できないと思っています。

タブロイド『WE WANT.』に掲載した、柳ヶ瀬の未来がつまった絵図。(イラスト:鷲尾友宏)

タブロイド『WE WANT.』に掲載した、柳ヶ瀬の未来がつまった絵図。(イラスト:鷲尾友宏)

昨年の夏、柳ヶ瀬商店街の日ノ出町通りの路面に新しい洋服屋〈PHENOM〉ができました。その店主が柳ヶ瀬を選んだ理由は、尊敬する店〈EUREKA〉があるから。こんなふうに魅力的な人が連鎖し、まちが自然に新陳代謝される仕組みをつくり、不動産が人をも動かしていく“コミュニティディベロッパー”こそ、これからまち会社が果たしていくべき役割だと感じています。

最近は、空き店舗の相談だけでなく、相続などの関係でビル購入の相談も受けるようになりました。放置すれば駐車場になったり、空いたまま塩漬けになることを考えると、スピード感を持ってまちの未来を考えた不動産事業が必要だね、と仲間で話しています。

一方で、柳ヶ瀬再生は商業をベースに活動してきましたが、柳ヶ瀬の周辺も含めてこれからのまちのビジョンを考えると「暮らし」「子育て」「教育」も切り口に、複合的に展開していくフェーズに入ってきていると感じています。

柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社の仲間たち。

柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社の仲間たち。

次回は、ミユキデザインが自主事業として始めた複合ビルのプロジェクトを紹介したいと思います。

writer profile

Miki Suenaga

末永三樹

すえなが・みき●1977年岐阜生まれ。一級建築士。明治大学理工学部建築設計卒業。設計事務所勤務を経て2012年に〈ミユキデザイン〉を設立。2016年に〈柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社〉を共同設立、クリエイティブディレクターを務める。「あるものはいかそう、ないものはつくろう」を理念に、建築的な視点を持って「まちをアップデートし、次世代へ手渡す」ことを目指し、建築にとどまらずデザイン、企画・プロモーションなど包括的に考え実践する。一児の母。http://miyukidesign.com

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