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〈山里カフェ Mui〉猟師である女性オーナーが自ら猟をするジビエカフェ

  • 2019年9月27日
  • コロカル
年間100頭以上を狩猟し、自ら解体してカフェで提供

木の陰で息をひそめる、その女性が見つめる先には獣道が続く。

「勢子(せこ)と呼ばれる別働隊と猟犬が、追い込んでくる獲物をこうやって待ち伏せて、通りかかった瞬間に銃で撃つんです」と教えてくれた。

いわゆる「巻き狩り」という伝統的な狩猟法で、愛知県豊田市の山間部にある足助(あすけ)地区では、多いときで10数人のハンターが集まり、この猟を行っている。捕獲した山の恵みは、参加者全員で山分けするのが、昔からの習わしだ。

清水潤子さんは、猟師歴5年目。散弾銃が使える第一種銃猟免許に加えて、わな猟、網猟免許も持ち、巻き狩りだけでなく単独でも猟を行い、年間100頭以上の鳥獣を狩猟。自ら解体、調理を行い、豊田市内の足助地区で営む〈山里カフェMui〉で、ジビエ料理のランチとして提供している。

この秋から猟に出ることを目指し、現在訓練中の猟犬・ベリー(メス・4か月)と一緒に山へ。

この秋から猟に出ることを目指し、現在訓練中の猟犬・ベリー(メス・4か月)と一緒に山へ。

「イノシシ 捕る 資格」と、検索したのが始まり

「実は、結婚直後に、末期がんと診断されて。私は新潟県長岡市の田舎育ちなので、主人が『自然豊かなところで過ごせば、少しでも良くなるのでは』と考え、間伐体験や米づくり体験など、いろいろな場所へ連れて行ってくれたんです」

最初は、横になって見学しているだけだったが、徐々に病状が回復。

「本当に、奇跡的に良くなったんです! 当時を知る人からは、久しぶりに会うと『しぶといな〜(笑)』ってからかわれます」

この足助地区を訪れたのも、米づくり体験がきっかけだった。参加するたびに、地元農家の人たちからは、イノシシによる農業被害について話を聞いていた。昼食に登場するのも、イノシシ料理が中心。そんなある日の昼休みに、目の前をイノシシが走り抜けた。

「それを見た農家の方が、『誰かとってくれ!』って口走ったんです。しかしそこにいたのは、地域外からの参加者ばかり。私たちのような“よそ者”にまで頼まなければならないほど、深刻な問題なんだと痛感して。スマホで、『イノシシ 捕る 資格』と検索したら、狩猟免許のことが出てきて、すぐに主人と、もうひとりの参加者と3人で申し込んだんです」

木の陰などで待ち伏せ、猟犬に追われ獲物が逃げてきたら、銃を構える。

木の陰などで待ち伏せ、猟犬に追われ獲物が逃げてきたら、銃を構える。

こうして、わな猟の免許を取得したのは2014年。そのことを足助の農家の人たちに伝えると、すぐに「今、罠にイノシシがかかっているけど来ないか?」という誘いの電話が。1時間ほど車を走らせ、山の中に到着すると、大きなイノシシがかかっていた。

「最後に、ヤリを喉に突き刺してしとめるのですが、ワイヤーが切れてこっちに突進してくるんじゃないかという恐怖心と、返り血を浴びたときの罪悪感は、今でも忘れられません。大切な命をいただいているのだからこそ、『無駄にしてはいけない』と強く思うのです」

駆除されたイノシシやシカの約9割が、埋設されている

猟友会に参加し、狩猟の現場に出るようになり、あらためて感じた問題がふたつある。ひとつは、いわゆる鳥獣による農作物被害の深刻さだ。豊田市では、イノシシやシカなどによる鳥獣被害が、年間約1.2億円(豊田市産業部農政課「平成29年豊田市鳥獣被害状況調査結果」)に及び、農家の人たちを悩ませている。

一方で、そういった有害鳥獣として駆除されたイノシシやシカは、全国平均で約9割も、利用されることなく埋設されている。ハクビシンやアライグマなどの小動物にいたっては、ほとんどが廃棄されているという。

緑色の大きな屋根の古民家が山里カフェMui。

緑色の大きな屋根の古民家が山里カフェMui。

「有害鳥獣といえど、命の重みに違いはありません。せめて、最後までおいしく食べてあげたいと、ちょうど募集中だった『三河の山里起業実践者』という制度に、ジビエ料理を出すカフェのプランを提出したんです」

「三河の山里起業実践者」とは、愛知県の三河山間地域で起業に挑戦する人を支援し、移住・定住を促進する県の事業。清水さんのプランは見事採用となり、当時暮らしていた愛知県刈谷市から足助地区への移住を決意。すでに足助で購入してあった築150年の古民家を改装してジビエカフェを開く夢が、現実のものとして動き出した。

猟師の先輩にもらった、20年前のシカの剥製。角が左右に広がっているのは、山がきれいに手入れされていた証。現在のシカは、角が上に真っ直ぐ伸びているそう。

猟師の先輩にもらった、20年前のシカの剥製。角が左右に広がっているのは、山がきれいに手入れされていた証。現在のシカは、角が上に真っ直ぐ伸びているそう。

気軽に味わえ、家庭でも真似できるメニューを

日本では、狩猟鳥獣として、鳥類28種類、獣類20種類が選定されている。清水さんはジビエカフェを開くにあたり、まずは自分で、あらゆる狩猟鳥獣をとって味わってみることに。カフェを改装しながら、さまざまな狩猟鳥獣を試してきた(現在までに34種類)。

そうやって、カフェのメニューを考えるなかで、何よりも大切にしたのは「気軽さ」だ。

「農業被害や狩猟の現状を知ってもらうためにも、まずは食べてもらうのが一番! そこで、高価なフレンチなどではなく、“カフェのランチ感覚”で味わえるメニューをコンセプトに考えました」

右手前から、イノシシのカムジャタン、シカのグラタン、シカの南蛮漬けが盛られた、月替りの「ジビエプレート」(1300円・税込)。

右手前から、イノシシのカムジャタン、シカのグラタン、シカの南蛮漬けが盛られた、月替りの「ジビエプレート」(1300円・税込)。

もうひとつ、重視したのは、「自宅でも真似して、つくれること」。シカやイノシシのハンバーグをはじめ、グラタン、カツなど、カフェでおいしいと感じてもらえたら、その料理を家庭でもつくってもらいたい。それが、ジビエ肉の消費拡大につながると考え、清水さんはカフェやホームページなどを通じて、おいしい食べ方を伝えることにも力を入れている。

自家製ジャムを生地に練り込んで焼く「季節のパウンドケーキ」(400円・税込)。写真は、夏みかんのパウンドケーキ。

自家製ジャムを生地に練り込んで焼く「季節のパウンドケーキ」(400円・税込)。写真は、夏みかんのパウンドケーキ。

人気メニューのひとつ「鹿カレー」(1000円・税込)。こちらも月ごとに、「鹿ビビンバ丼」や「イノシシスタミナ丼」など、メニューが替わる。

人気メニューのひとつ「鹿カレー」(1000円・税込)。こちらも月ごとに、「鹿ビビンバ丼」や「イノシシスタミナ丼」など、メニューが替わる。

実は、清水さん自身も、地元の人たちから多くのジビエ料理を教わった。なかでも、Muiから車で数分の距離にある加工施設〈猪鹿工房 山恵(やまけい)〉で働くみなさんには、助けられたという。

「みなさん、あたたかい方ばかりで。『鹿肉は、南蛮漬けにすれば1週間は大丈夫だぞ!』などと、何でも惜しみなく教えてくれて、本当にありがたいです」

山恵の事務所で、店長の鈴木良秋さんと。敷地内には、ジビエ肉や加工品を販売する直売所もある。

山恵の事務所で、店長の鈴木良秋さんと。敷地内には、ジビエ肉や加工品を販売する直売所もある。

クラウドファンディングを活用し、自前の解体施設を

2017年12月に、山里カフェMuiをオープンしてからも、清水さんは新たな挑戦を続けてきた。最初に取り組んだのは、自前の解体処理施設を、カフェの隣に設けることだ。

Muiの近くには、山恵があるといっても、すべての個体を受け入れられるわけではない。なかでも、アライグマやハクビシンなどの小動物は、歩留まりが悪く(解体処理を行っても、とれる肉が少なく)、うまく流通させる仕組みができていなかった。

とれた獲物は、すぐに自前の解体施設で加工する。

とれた獲物は、すぐに自前の解体施設で加工する。

店舗横に、解体処理施設ができれば、こうした小動物もより多く活用することができる。しかも、捕獲後、なるべく素早く解体することで、肉に臭みがつくことも防げ、よりおいしく食材を生かすことができる。

清水さんは、クラウドファンディングを活用し、資金の3分の1を集め、2018年秋に、解体処理施設を設置。今では、シカからアライグマ、ハクビシンなどの小動物まで、自分でとった動物は自ら解体を行い、名古屋をはじめ、県内外のレストランや居酒屋に出荷している。

出荷のために、真空パックしたハトの肉にラベルを貼る。

出荷のために、真空パックしたハトの肉にラベルを貼る。

新たにペット向けの商品も開発。加工は、豊田市の障がい者総合支援センター〈けやきワークス〉のみなさんが手がけている。

新たにペット向けの商品も開発。加工は、豊田市の障がい者総合支援センター〈けやきワークス〉のみなさんが手がけている。

伝えること、育てること

カフェをオープンして以降、地元の小学校や高校の環境授業で、駆除した動物たちの有効利用について話したり、県内外からさまざまな講演の依頼を受けたりと、人と直接会って伝える機会が増えてきた。

また、カフェでも、「親子狩猟体験」やジビエ肉を使った「ピザづくり体験」など、さまざまなイベントを開催。実際に食べること、体験することを通じて、伝えることを大切にしている。

それと同時に、今後、力を入れていきたいと考えているのが、「育てること」だ。猟師の現場に入り、もうひとつ実感した問題が、狩猟者の高齢化だ。

「今、巻き狩りで重要な『勢子』の役割を務めているのは、78歳のベテラン猟師。この方が引退してしまったら、足助地区では巻き狩りができなくなってしまう。その下の世代も、60代後半の人ばかり。次の世代を育てていく重要性を痛感しています」

薬きょうを並べた看板が、店内に。

薬きょうを並べた看板が、店内に。

そこで、昨年11月に、狩猟の魅力をさまざまな角度から発信するイベント「狩猟の魅力まるかじりFES IN TOYOTA」を開催したところ、県内外から200人以上が参加してくれた。この取り組みがきっかけとなり、清水さんは仲間のハンターたちと、NPO法人〈愛猟(あいりょう)〉を設立。狩猟者の育成に、力を入れていこうとしている。

「鳥獣による農業被害を減らしたい」、「いただいた命を無駄にしたくない」という根本にある思いは、変わることはない。これからも猟師として、ジビエカフェの店主として、思いを共有する人たちの輪を少しでも広げていきたいと、清水さんは願っている。

information

山里カフェMui

住所:愛知県豊田市北小田町伯母平26

電話:090-5037-5199(圏外の場合、つながらないことがあります)

営業時間:11:00〜16:00(ランチ〜14:00)

※ランチは完全予約制。当日予約は行っておりません。

※冬季(12月25日〜3月15日)は休業

定休日:不定休

https://www.mui3cafe.com/

writer profile

Masahiro Sugiyama

杉山正博

すぎやま まさひろ●編集者・ライター。金沢の出版社、東京にある雑誌『自休自足』の編集部を経て、2009年独立。2016年秋から、地元・愛知にUターン。著書に『ふだんの金沢に出会う旅へ』、『レトロカーと。』(ともに主婦の友社)などがある。名古屋は、何かと魅力がないと言われがちですが、海も山も意外と近く、素敵な人も多い。名古屋を含め東海地区の魅力を、発信していけたらと模索中!https://12sugiyama.hatenablog.com/

credit

撮影:Publista(パブリスタ)

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