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熊野市〈コウノイエ〉が完成! ローカル新聞の編集室に

  • 2019年8月13日
  • コロカル

撮影:松村康平

多田正治アトリエ vol.4

紀伊半島南東部に位置する熊野エリアには、古代から集落があり、多くの信仰の場が築かれました。熊野三山はその代表格ですが、ぼくたちが空き家を改修した拠点〈コウノイエ〉をつくっていた神川町の近くにも、ガイドブックやWikipediaにも載らない、原始信仰の名残のある神社がたくさんあります。

「丹倉(あかくら)神社」。階段を降りた境内でご神体を見る。

「丹倉(あかくら)神社」。階段を降りた境内でご神体を見る。

例えば、「丹倉(あかくら)神社」。鳥居があり、そこから参道である石積みの階段を降りていきます。階段を上がっていく神社や寺院はたくさんありますが、降りていくものはあまり見かけません。石段を降りた先の平場が境内で、そこには本殿や拝殿といった神社の建築はなく、巨大な石が、ご神体(磐座)として祀られているだけなのです。

とても神聖な雰囲気の場所で、コウノイエ建設の頃から、気分転換を兼ねて通っていました。

「雨滝」。写真ではスケールがわかりにくいですが、高さ約20メートル。

「雨滝」。写真ではスケールがわかりにくいですが、高さ約20メートル。

「雨滝」は、丹倉神社の近くにある滝です。雨乞いの祈りの場だったといわれる滝で、滝の背後の岸壁から滝壺まで、ひとつの岩盤でできているすごさはもちろん、見てのとおりの“THE 滝”という佇まいが美しい。途絶えることなく轟々と履き出される水を眺めているだけで、気分が晴れてきます。

そんな古代から続く神社や自然を愛でながら、コウノイエのリノベーション後編として、仕上げから完成とその後についてお話します。

リノベ後の平面図。

リノベ後の平面図。

空間を彩る仕掛けたち

【ふすま絵】コウノイエのメイン空間のひとつである「ザシキギャラリー」には、この空間を象徴するアート作品がほしいなと思っていました。そこで既存の押入れのふすまを用いて作品がつくれないか、アーティストの町田藻絵子さん(当時は京都在住)に相談しました。

町田さんは鉱石や植物をモチーフに作品を制作する日本画のアーティスト(そしてダンサー)で、熊野やコウノイエにぴったりだと思っていました。

プロジェクトの概要を説明すると、即快諾! さっそくコウノイエや熊野をご案内し、数日間で作品のイメージを膨らませてもらいました。

ところが、このふすまと押入れ、その幅がどうも微妙に不揃いなのです。おそらく、別のところで使用されていたふすまを、移動させてここで使用することにしたのでしょう。

2枚のふすまのバランスを変えてデザインを整える。

2枚のふすまのバランスを変えてデザインを整える。

左右の大きさが少し違う既存のふすま。

左右の大きさが少し違う既存のふすま。

左右均等にするために、ふすまを切り縮めてもらうととてもお金がかかるので、押入れの一部に袖壁(外部へ突出させる幅の狭い壁)をつくり、2枚のふすまのバランスとプロポーションを大きく変えることにしました。

ふすまに日本画用の高知麻紙を張ってもらいました。

ふすまに日本画用の高知麻紙を張ってもらいました。

町田さんのアトリエでの作業風景。(撮影:町田藻絵子)

町田さんのアトリエでの作業風景。(撮影:町田藻絵子)

完成した作品は、2枚のふすまが並んで1枚の作品に。向かって左側のふすまには、隠れている部分があり、そこにはまた違う絵が連続しています。こうしていくつもの表情を持つふすまのアート『山に抱かれる者たち』が完成したのです。

完成した『山に抱かれる者たち』。

完成した『山に抱かれる者たち』。

【鉄板階段】クマノパネルのギャラリーに入るためには、既存の土台や敷居をまたぐための小さな階段をつくる必要がありました。紙を折り曲げたような、軽やかに自立する小階段がここには合うと思ったので、鉄板を加工してつくることにしました。

素材を折り曲げて階段にするイメージ。

素材を折り曲げて階段にするイメージ。

熊野の地は、巨岩以外にも銅や鉄を生み出し、かつては鉱山業でも賑わっていました。鉄工所もいくつもあったようですが、現在ではその多くが廃業してしまっています。そんななか、自動車の板金加工を主に請け負う〈西村鉄工〉さんに鉄板階段を加工してもらいました。最終調整の加工は、西村鉄工の西村秋照さんに現場でやっていただき、最後の塗装と設置を自分たちで行いました。

現場で大きさを調整してもらう。

現場で大きさを調整してもらう。

外壁と屋根にもアイデアを詰め込んで

【外壁工事】外壁と押入れの袖壁を施工します。小さな壁ですが、どちらもコウノイエの顔になる重要な壁です。

木造で壁をつくる場合、間柱を立ててその上から合板などで仕上げをするのが一般的ですが、ここでは少し違った考え方で壁をつくることに。いろいろ検討した結果、コウノイエでは木材を並べてそのまま壁にしてしまおう、ということになりました。

2種類の規格サイズの熊野産ヒノキ材を使って、それを交互に並べることで、そのまま壁としたのです。通風のための小窓や、コンセントの配線用の開口部もつくりました。面ではなく線のデザインで壁をつくることができました。

2種類の寸法のヒノキを並べる。

2種類の寸法のヒノキを並べる。

現場で現物を前にデザインの最終検討。

現場で現物を前にデザインの最終検討。

施工の様子。

施工の様子。

【屋根工事】工事の仕上げに、傷んでいた屋根の張り替え工事を行いました。平屋とはいえ、高所での作業です。技術も工具も知識も不足しているため、コウノイエのお向かいに住む大工さん、上岡和巳さんに工事の手ほどきを受けました。

既存のトタン波板と現在のものとは波の大きさが異なるので、上から新しい板を直接張ることはできず、既存の波板を撤去して、新たにトタン波板を張りました。

古い屋根を撤去して、新しいトタンを葺いていきます。

古い屋根を撤去して、新しいトタンを葺いていきます。

その際、既存の棟飾りとガンギ(vol.3参照)も再塗装。ガンギは1色で塗るのではなく、家のシルエットを感じさせるように三角形で塗り分けました。

ガンギを塗装します。

ガンギを塗装します。

樋を付け替えたり、棟飾りのサビを落として塗装し直したり。

樋を付け替えたり、棟飾りのサビを落として塗装し直したり。

コウノイエの完成!

これでコウノイエはいったん完成です。

コウノイエの正面。(撮影:松村康平)

コウノイエの正面。(撮影:松村康平)

正面の建具は3枚建てで、すべて端によせて全面開放できるようになっています。(撮影:松村康平)

正面の建具は3枚建てで、すべて端によせて全面開放できるようになっています。(撮影:松村康平)

既存土台、敷居をまたぐ「ドマギャラリー」。(撮影:松村康平)

既存土台、敷居をまたぐ「ドマギャラリー」。(撮影:松村康平)

クマノバンの壁面が美しいドマギャラリー。(撮影:松村康平)

クマノバンの壁面が美しいドマギャラリー。(撮影:松村康平)

ドマギャラリーからザシキギャラリーを見る。(撮影:松村康平)

ドマギャラリーからザシキギャラリーを見る。(撮影:松村康平)

奥の部屋へは、角をひょいとまたいで行きます。(撮影:松村康平)

奥の部屋へは、角をひょいとまたいで行きます。(撮影:松村康平)

ガンギに三角形のシルエットを描きました。(撮影:松村康平)

ガンギに三角形のシルエットを描きました。(撮影:松村康平)

夜のコウノイエ。(撮影:松村康平)

夜のコウノイエ。(撮影:松村康平)

完成後が始まり。コウノイエが動き出す

普通の建築の仕事でしたら、完成して建築主に引き渡して業務終了。なのですが、コウノイエはそうではありません。自分たちの拠点です。これからここを使って、活動して、ときどき修理したり改良したりすることもあります。建築を使って、地域に影響を与えていくことで、この建築が完成に近づいていくのです。

ということで、コウノイエの活動の様子をご紹介します。

【内x展】コウノイエ完成前の2016年の春。神川町では毎年開催される「桜まつり」の中で、コウノイエをよく知ってもらうためのイベントを行いました。内覧会と展覧会を同時に行うという企画で、題して『内x展』。

フライヤーをつくりました。

フライヤーをつくりました。

展覧会では大きな模型を展示しました。

展覧会では大きな模型を展示しました。

図面、施行中の写真、作業着を展示しています。

図面、施行中の写真、作業着を展示しています。

旧神上(こうのうえ)中学校内で、コウノイエの模型や写真を中心とした展覧会を、その旧中学校から5分ほど歩いたコウノイエで内覧会を、開催しました。

展覧会では、工事中の臨場感を感じてもらうべく、模型とともに実際に使用した工具や作業着、そして工事中の写真をたくさん展示することに。内覧会では工事に携わった学生たちが自ら案内をすることで、プロジェクトや神川町での経験を生の声としてお届けすることができました。

完成前のコウノイエで内覧会。みんなで桜を見ています。

完成前のコウノイエで内覧会。みんなで桜を見ています。

大学生が案内役となり、いろいろと説明しています。

大学生が案内役となり、いろいろと説明しています。

建具職人、高見優さんも息子さん夫婦、お孫さんを連れて来訪してくださりました。

建具職人、高見優さんも息子さん夫婦、お孫さんを連れて来訪してくださりました。

【くどびらき】熊野では昔ながらのかまどのことを「くど」と呼びます。以前は熊野のどこの家にもあったそうですが、現在では、どんどん失われていってるようです。幸いコウノイエには良い状態でくどが残っていたので、修理・掃除して再び使えるようにしました。

コウノイエのくど、足元に薪を置くスペースがあるモダンなデザイン。

コウノイエのくど、足元に薪を置くスペースがあるモダンなデザイン。

このくどでご飯を炊いて、お味噌汁をつくってみなさんに振舞おうという企画がこの「くどびらき」。羽釜や鍋は、不用品をいただいたりネットで購入したり。調理法は、地元の人に教えてもらったり、YouTubeで勉強したり。ボチボチと地域の人がやってきて、ごはんを食べて、雑談をして、くつろいでいただいて、という、ゆるーい会になりました。

フライヤーをつくりました。

フライヤーをつくりました。

いまでも、ぼくたちがコウノイエに滞在するときは、このくどでカレーや豚汁などをつくっています。毎日だと不便かもしれませんが、ときどきの作業だとイベントのように楽しめます。

お味噌汁とご飯を振る舞いました。

お味噌汁とご飯を振る舞いました。

【KOH no TAYORI】2018年末から新たにスタートしたプロジェクト『KOH no TAYORI(コウノタヨリ)』。学生たちが取材し、地域の月刊新聞をつくるプロジェクトです。建築をつくることとは少し違うアプローチで、地域と関わってみようと企画しました。

普通の新聞とは違い、「壁新聞版」と「小冊子版」の2種類で構成される新聞。A3の紙に印刷した壁新聞版は町内の商店や郵便局、役所の出張所に掲示させていただいています。

『KOH no TAYORI』壁新聞版と小冊子版。

『KOH no TAYORI』壁新聞版と小冊子版。

ポケットに小冊子版を収納。

ポケットに小冊子版を収納。

小冊子版は全戸に配布します。

小冊子版は全戸に配布します。

新聞の一部にポケットがついていて小冊子版を収めることが可能。小冊子版は町内の回覧板にのせてもらうことで全戸に配布しているダイジェスト版です。

毎月の号を揃えるのが楽しくなるように、月ごとにアクセントカラーが違う表紙にしています。A3サイズの紙を折りたたんで、ホッチキスで留めて、1冊の本に。

小冊子版のつくり方。A3片面印刷を折り曲げてつくります。

小冊子版のつくり方。A3片面印刷を折り曲げてつくります。

家で読んだ小冊子版をきっかけに、壁新聞版を読みに外出してもらえたらいいなと、思っています。『KOH no TAYORI』は執筆、編集、印刷、製本や製作をすべて学生たちが行い、コウノイエと大学を編集室にして活動しています。

学生が総出で印刷、製本を大学でやっているところ。

学生が総出で印刷、製本を大学でやっているところ。

【干し柿】コウノイエの前には柿の木が2本あります。毎年実をつけるのですが、収穫しないと落ちて道路を汚してしまいます。気づいたら掃除をしているのですが、住んでいるわけではないので対応しきれません。

そんな事情も知らずに「この柿、勝手に収穫してもいいですか」と声をかけてくださったのが建具職人の高見優さん。ぼくたちにとっては願ったりかなったりで、どうぞ遠慮なくお持ちください! と。この木になるのはすべて渋柿なので、干すととても甘い干し柿になります。毎年、箱いっぱいの干し柿をいただいています。

建具職人の高見さんがつくってくれた干し柿!

建具職人の高見さんがつくってくれた干し柿!

「拠点」とは、いったいなんだろう?

コウノイエは〈梶賀のあぶり場〉(vol.1、vol.2参照)の工事や、さまざまな地域の活動に参加するため、支援するための拠点として活用してきました。

地域における「拠点」といっても、具体的にどんな機能の建築なのかうまく説明することができません。強いて言うなら、「地域と関わらなくてもよい場所」とぼくは表現しています。

旧神上中学校の桜が見えます。絶景!

旧神上中学校の桜が見えます。絶景!

寝泊まりする、ごはんをつくって食べる、道具や資材をストックしておく、そして自分たちの私物も置いておく。おそらく地域の方にお願いをすれば、こころよく寝る場所や布団、食事もお世話してくださるし、ぼくたちの物も大切に預かってくださると思います。

けれど、そうではなくて、「みなさんに気兼ねすることのない」という機能が必要なのです。「地域に関わっていくため」に必要な「地域と関わらなくてもよい場所」、それが拠点なのかもしれません。

「家」とは少しちがった「拠点」を、みなさんもどこかにつくってみてはいかがでしょうか?

次回は旧神上中学校の木造校舎を生かしたリノベーションと、熊野エリアで広がりつつあるイベントや今後の展開についてご紹介します。

writer profile

Masaharu Tada

多田正治

ただ・まさはる●1976年京都生まれ。建築家。〈多田正治アトリエ〉主宰。大阪大学大学院修了後、〈坂本昭・設計工房CASA〉を経て、多田正治アトリエ設立。デザイン事務所〈ENDO SHOJIRO DESIGN〉とシェアするアトリエを京都に構えている。建築、展覧会、家具、書籍、グラフィックなど幅広く手がけ、ENDO SHOJIRO DESIGNと共同でのプロジェクトも行う。2014年から熊野に通い、活動のフィールドを広げ、分野、エリア、共同者を問わず横断的に活動を行っている。近畿大学建築学部非常勤講師。主な受賞歴に京都建築賞奨励賞(2017)など。

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