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Uターン、Iターンの移住夫婦が営む下田の温泉民宿〈勝五郎〉。「武器」を持って暮らしをつくる

  • 2019年2月7日
  • コロカル
移住して民宿開業。津留崎家、先を越された!?

伊豆下田の白浜が見えるすばらしいロケーションにある温泉民宿。Uターンして実家の民宿を受け継いだ土屋尊司さん夫婦が営んでいます。昔ながらの雰囲気を残しつつも、現代的にリニューアル。でも3部屋のみで、経営は果たして成り立つの……? と思いきや土屋さんには、ある「武器」がありました。下田に移住した津留崎家が、同じ移住者夫婦を訪ねます。

移住者が営む民宿に興味津々

わが家が移住してきた下田は、スーパーが数軒あるしホームセンターや家電量販店もある、けれどスターバックスはない、というくらいのまちです。普段不便は感じていませんが、たまに物足りなく感じるのは映画館がないこと。

最寄りの映画館は伊豆半島の付け根の地方都市、三島、沼津にあります。伊豆半島南部の下田からは車で1時間半ほど。とはいっても、東京で暮らしていたときにも映画館に行くのは半年に1回程度で、しかもいわゆる単館上映のドキュメンタリー映画がほとんど。そもそも沼津、三島の映画館ではやっていません。

やってないならドキュメンタリー映画の上映会を下田でやってしまおうか? という話を移住当初、僕と同じくドキュメンタリー映画好きの妻と話をしていました。

そんな頃、移住者が開業準備中の民宿でドキュメンタリー映画の上映会をしたことを知りました。

伊豆新聞の紙面

伊豆新聞平成30年1月23日付。ローカル新聞には身近な話題、人が載っていて読みだすと結構おもしろいのです。

移住者が上映会? しかも民宿を開業準備中?? なんだか先を越された感じでした(移住当初は民泊をやりたい! と考えていたのです)。やっぱり思いついたらすぐに行動しなけれだめだなと反省。そして、移住夫婦と開業準備中の民宿に興味がわいてきました。

民宿〈勝五郎〉は昨年の2018年6月にリニューアルオープン。その頃、ご主人の土屋尊司(たかし)さんとFacebookでつながってやり取りをするようになっていました。もともとデザイナーとして活躍されていた尊司さんが設計したといいます。元リノベ屋の自分としては、どんなことになっているのか気になって仕方ありません。

どんななのか行ってみたい……。でも、暮らしている土地の宿ってなかなか行く機会がない……。と思っていた頃、尊司さんからこんな連絡をもらいました。

「コロカルの連載を読んでいる移住希望の方が泊まりに来ています。都合がつけばお話しに来ませんか?」

うれしいお誘い! 願ってもないチャンス! ですが、その日は都合がつかず断念。でも、それがきっかけで別日に訪ねる約束をこぎつけ、先日、本当にお邪魔し、根ほり葉ほり話を聞いてきました。

白浜大浜海岸

夏には海水浴客で賑わう白浜大浜海岸近くに民宿〈勝五郎〉はあります。この時期でも気合の入ったサーファーがちらほら。

かつての雰囲気も残しつつリノベーション!

勝五郎を営むのは土屋尊司さん、昌代さんご夫婦。尊司さんは下田で生まれ育ったUターン移住者、昌代さんは愛知県出身の移住者です。

尊司さんの生まれ育ったのはこの民宿、勝五郎。高校までをこの地で過ごし、大学卒業後は大手の店舗・空間デザイン会社に就職。デザイナーとして数々の物件を手がけてきました。

昌代さんは愛知県に生まれ、大学卒業後、地元の会社に就職。学生時代に知り合っていた尊司さんと結婚後は、尊司さんの勤務先である福岡、大阪へ共に移り住み、それぞれの地で勤務先を変えながら忙しく過ごしていたそうです。

移住前に住んでいたのは大阪。同じ屋根の下に暮らしていても顔を合わせないほどの忙しい時期もあったとか。お互いの仕事にやり甲斐は感じていたものの、こんな暮らしをいつまで続けていくのか? という疑問を持ち始め、「いつかは夫婦ふたりで何かをやりたい」と人生の目標を話すことが多くなっていったそうです。

その頃、尊司さんの実家の勝五郎は担い手がおらず休業中でした。

リニューアル前の温泉民宿勝五郎

尊司さんのお祖父さんとお祖母さんが始めた温泉民宿勝五郎。

これは「いつか」と考えていた夫婦ふたりで何かをやるタイミングなのでは? と、民宿を継ぐことを考え始めたそうです。このことを尊司さんのお父さんに告げたとき、こう反対されました。

「一部上場企業勤務という地位を捨て、先の見えない民宿経営という道をとることはリスクが大きすぎる」

でも、尊司さん、昌代さんにとって大切なことは一部上場企業に勤めることではなく、ふたりで暮らしをつくりあげること。

お父さんを説得して、10年ほど勤めた会社を退職。尊司さんの生まれ故郷の下田に夫婦で移住しました。

そして、尊司さんのデザイナーとしての経験を生かし、いわゆる「昔ながらの普通の民宿」だった勝五郎をリノベーションし生まれ変わらせたのです。

こちらがビフォー……

リノベーション前の建物

この雰囲気、個人的には好きなのですが、どの観光地にもあると言えなくもない。(写真提供:土屋尊司)

そして、アフター!

リノベーション後の温泉民宿勝五郎

オンリーワンな民宿にリノベーション。デザイナーだった尊司さんと元リノベ屋の僕、ついつい話はマニアックなほうへ。

手書きのスケッチや図面

なんと図面やスケッチはすべて手描き! 見ているだけでワクワクしてしまいます。僕は長い間、建築業界にいますが、なかなかこうした図面やスケッチには出会えません。この図面をもとに地元の大工さんに施工をしてもらったそうです。

こうした図面のワクワク感はつくり手にも伝わるもの。図面もプレゼンもCADやCGで行うことがあたり前のいま、こうしたスケッチや味のある図面を描ける人は本当に希少な存在です(あとで述べますが、これは彼の「武器」でもあります)。

そして、上映会を開催した広間がこちら。

上映会を開催した広間

開業準備中に行った上映会ではまだスクリーンがなくシーツで代用。それも手づくり感あってよさそうです。上映したのは昌代さんが地域の人にも見てもらいたいというドキュメンタリー映画『うまれる』。

日当たりの良い広間

居心地のよさにすっかりくつろぐわが家のふたり。

別々にやってきた宿泊客の交流の場になることもあるそうです。居心地のよさが自然と人を集めるのでしょう。

そして、こちらが宿泊部屋。

宿泊部屋

「昔ながらの普通の民宿」の雰囲気を残しつつリノベーション。懐かしくも新しい、そんな空間です。

窓からは下田の、いや伊豆のビーチを代表する白浜の海が見えます。勝五郎は白浜大浜海岸まで徒歩3分という立地です。

窓から見える白浜の海

宿泊部屋は3部屋のみ。尊司さん昌代さんご夫婦が引き継ぐ前はもっと多くあったそうですが、自分たちの手が届く範囲で商売をしたいという思いから3部屋のみにしたそうです。

また、お客さんとのコミュニケーションの時間を大切に考えた結果、夕食の提供はしないことにしました。下田は多くの飲食店があるのでそちらを利用してもらうか、持ち込み食材を広間で食べてもらうかというスタイルをとっています。

3部屋のみで、夕食の提供もなし。いまのところ宿泊サイトへの登録もしていないので、口コミのお客さんがほとんど。随分あっさりとした経営に思えます。

「まだ始めたばかり。焦ってもしょうがない」と尊司さんは言います。「子どもも手がかかりますし」と昌代さん。

それはその通りですが、ある程度はお金を稼がなければ暮らしていけません。移住して収入が激減した自分が言うのもおかしな話ですが、心配になってしまいます。

広間は子どもの遊び場にも

2017年春に移住して間もない頃に第一子誕生。広間が遊び場です。

でも、土屋夫妻に焦る様子は見えません。どうしてこんな余裕があるのか? その答えは僕も試みている働き方「二足のわらじ」(vol.30参照)にありました。

「武器」を持っている人は強い!

実は、尊司さんがお父さんに勝五郎を受け継ぐことを反対されたとき、納得してもらう材料として、いままでの経験を生かした副業を持つことを約束したそうです。お父さんは観光業で繁忙期と閑散期の差が激しい民宿経営だけでは、うまくやっても暮らしを安定させることは難しいと身をもって感じていたのでしょう。

同じ苦労を息子夫婦にさせたくないという思いもあったから、先に書いたように一部上場企業を辞めて民宿を継ぐことを反対したのかもしれません(子を育てる親として、その気持ちも痛いほどわかります)。

そして、その副業というのが尊司さんの「武器」ともいえる「絵」なのです。尊司さんは民宿業務と子育ての空いた時間には「絵」の仕事もしています。

そんな「絵」の仕事のメインは、店舗や施設のスケッチやパースといった移住前の人脈からの仕事ですが、最近では下田での依頼も増えてきているそうです。

〈下田時計台フロント〉の絵

下田駅前のシンボル的なお土産屋〈下田時計台フロント〉の絵。お店のFacebookページのカバー写真として使われています。

「下田みんなの町内ふるさと化計画」のためのスケッチ

こちらは下田のまち活性化プロジェクト「下田みんなの町内ふるさと化計画」のためのスケッチ。こちらのプロジェクトはただいま、クラウドファンディングに挑戦中。彼の絵を見ていると本当にワクワクします。そんな絵の効果もあってか、ぐんぐんと支援を伸ばしています。

スケッチがローカル新聞に掲載

スケッチがローカル新聞に掲載。若きUターン移住者の尊司さんの絵が下田の人に受け入れられ、大切に思われていると感じます。(伊豆新聞2019年2月1日付)

あらためて感じること。「武器」を持っている人は強い。そんな「武器」があるからこそ、焦らずに楽しみながら勝五郎を営むことができているのでしょう。

そんな勝五郎には尊司さんのデザイナーとしての強いこだわりも感じます。

モノトーンでデザインされた手洗いスペース

「個室と水回りの清潔さには宿泊時の快適さに直結しますから」とつくり込んだ手洗いスペース。とても民宿には見えません。

真っ赤な定番スリッパ

でも、この空間に「ザ・民宿トイレスリッパ」。こうした新旧の混ざり具合が楽しい。

勝五郎のWebサイト

尊司さんが自ら手がけたホームページも遊び心とこだわりが詰まっています。

「勝五郎はじいちゃんとばあちゃんが始めた民宿です。古い建物ですが、思い出や歴史がたくさん残っています。いいところを残しながら、私たちらしくリニューアルしました。生まれ変わった勝五郎でみなさんの楽しい旅の話を聞かせてください。

あの頃と変わらない、海の見える丘の上で、2018年6月から営業再開」

(ホームページより)

勝五郎を営む土屋尊司さん、昌代さんご夫婦

尊司さん、昌代さんによる勝五郎はまだまだ始まったばかり。

これからどう進化していくのか?楽しみでなりません。

information

温泉民宿 勝五郎

住所:静岡県下田市白浜2189-1

TEL:0558-22-1937

Web:http://katsugoro.com

お問い合わせ:info@katsugoro.com

宿泊料:素泊まり5000円〜/人(税別・入湯税別)

チェックイン:15:00〜20:00

チェックアウト:10:00

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram

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