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日光の知られざる“秘境”!? ダムツアーやシカ革のハンドメイド体験も

  • 2019年1月30日
  • コロカル
日光の最奥部・栗山地域の知られざる魅力

日光の観光地といえば、世界遺産にもなっている日光東照宮を真っ先に思い浮かべる人は多いだろう。しかしながら日光はとても広く、市としての面積は関東で最大(全国では第3位)。それだけ魅力も多彩なのだが、観光目的で訪れる人の多くは、東照宮周辺までしか足を延ばさないのが現状といえる。

光の加減で幻想的な色合いになるやしお湖畔。栗山らしいゆったりとした風景。

光の加減で幻想的な色合いになる、やしお湖畔。栗山らしいゆったりとした風景。

そんな広い日光でも最奥部といわれる栗山地域で、地域おこし協力隊として知られざる魅力を発信しているのが、疋野吾一さん、倉持みふさん夫妻だ。

静岡市出身の疋野さんが、日光市の地域おこし協力隊に着任したのは、2015年4月のこと。

「もともと飲食店で働いていたのですが、キッチンにこもっているとお客さんの顔を見る機会がどうしても限られてしまうんです。もう少しいろんな人と関わったり、自分がやったことの成果が目に見えるような仕事をしたいと思っていました」

栗山の隠れた名所「蛇王の滝」を案内する疋野さん。地元の人には「そうめんの滝」と呼ばれていたそうで、なぜ現在の名前になったのか、そのエピソードも興味深い。

栗山の隠れた名所「蛇王の滝」を案内する疋野さん。地元の人には「そうめんの滝」と呼ばれていたそうで、なぜ現在の名前になったのか、そのエピソードも興味深い。

「まちおこし」や「村おこし」というキーワードでインターネット検索をしていたところ、地域おこし協力隊の制度を知り、タイミングよく募集をしていた日光市に応募。といっても疋野さんも多くの人と同じように、「日光といえば東照宮」というイメージしかなかったようだ。

「東照宮近辺で働くのかなと思っていたのですが、採用が決まって本庁でどこへ行けばいいか尋ねたら、『車であと1時間くらい走ったところです』と言われてびっくりした記憶があります(笑)。でも先入観のない地域に行きたいと思っていたので、そういう意味ではむしろ楽しみでしたね」

鉄橋の架かるダム湖は、撮影スポットとしても人気。

鉄橋の架かるダム湖は、撮影スポットとしても人気。

日光市の最北西に位置し、「栗山郷(くりやまごう)」と呼ばれるこのエリアは、温泉好き・秘湯好きにはかねてから注目されてきた地域でもあり、周囲を山々に守られるようにして手つかずの自然が数多く残っている。こうした雄大な自然を貴重な観光資源と捉え、疋野さんは先輩隊員とともに主に外国人観光客を栗山に呼ぶ活動を始める。 

「自分自身も海外旅行が好きでしたし、得意な語学を生かして何かできることはないか模索していました。僕より1年遅れて現在の妻が地域おこし協力隊として栗山にやってきたのですが、彼女は前職で旅行会社に勤めていて、総合旅行業務取扱管理者という国家資格を持っていたんです。だったら旅行業ができる! と思ったんですよね」

シカを害獣から山の恵みに転換する

倉持さんは千葉県柏市の出身。旅行関係の専門学校を卒業後、東京の旅行会社で働き、転職を考えていたときに地域おこし協力隊の制度を知人に教えてもらう。

「私も彼と同じで、『日光は観光地のイメージだけど、いろんな人が訪れるような場所で暮らすのはどんな感じなんだろう』と興味を持って応募しました。採用が決まって2016年3月に初めて栗山に来たのですが、車で霧降(きりふり)高原道路を走っていたら、名前の通り霧がすごくて、付き添ってくれた友人のほうが『本当にこんなところで生活できるの?』と不安になっていました(笑)」

興味の赴くままに、いろんなことに挑戦したいと考えていた倉持さん。地域のことを知るためにさまざまな場所へ足を運んでいたところ、害獣として捕獲されるシカの有効活用を目指す〈日光MOMIJIKA〉という団体と出会う。

期間限定の産直施設〈栗山郷くろべ茶屋〉で売られていた立派な鹿の角。これらを利用してキーホルダーなどの小物をつくる人たちも。

期間限定の産直施設〈栗山郷くろべ茶屋〉で売られていた立派な鹿の角。これらを利用してキーホルダーなどの小物をつくる人たちも。

「栗山の公民館で開催されたイベントで、地域のみなさんと一緒にシカ革を使って、リボンの形をしたヘアアクセサリーをつくったんです。私の作品を見た女の子が、それを欲しいと言ってくれたらしくて、それならみんなが欲しがるようなアクセサリーを手づくりしてみようと思いました」

もともと趣味でアクセサリーづくりをしていて、すべて見よう見まねで学んだそう。

もともと趣味でアクセサリーづくりをしていて、すべて見よう見まねで学んだそう。

里山に暮らす人たちは、シカやイノシシ、サルなどの被害に日常的に悩まされている。環境の変化によって増えすぎてしまったシカは、食料を求めて山から下りてきて畑などを荒らしたり、森林の希少な植物を減少させて生態系のバランスを崩すことが問題視されているのだ。

日光市では、年間2000頭ほどのシカを捕獲して個体数を調整しているが、その多くは廃棄処分されているため、食用以外の用途として皮革を資源化しようというのが、MOMIJIKAの取り組みだ。

倉持さんはMOMIJIKAのメンバーとして活動しながら、〈Nikko deer〉というブランドを立ち上げ、シカ革でつくったブレスレットやピアスなどのアクセサリー販売のほか、初心者でも手軽にアクセサリーや小物をつくることのできるハンドメイド体験を行っている。

倉持さんが制作したピアスやキーホルダー。

倉持さんが制作したピアスやキーホルダー。

〈Nikko deer〉のハンドメイド体験ではこんな小物も。

〈Nikko deer〉のハンドメイド体験ではこんな小物も。

「シカ革は牛革などよりもやわらかくて、アクセサリーをつくるのに向いていると思います。ハンドメイド体験は、小学生から高齢の方まで幅広く参加していただいているのですが、簡単なものでも自分でつくるとやっぱり愛着がわくみたいですね」

初めてシカ革を触る人は、しっとりとしたやわらかさに驚くそう。

初めてシカ革を触る人は、しっとりとしたやわらかさに驚くそう。

ここでしかできない生業をつくる

これまで外国人を対象としたモニターツアーを開催したり、栗山の新たな魅力を発見できるツアーを企画してきた疋野さんは、2018年5月に旅行会社〈Kuriyama Go Travel〉を設立する。栗山の自然や伝統文化、風習などに触れられるツアーは、地元の人の協力なしでは成り立たないものばかりだが、なかでも特にレアな体験ができると人気なのが「栗山ハンター体験」だ。

現役の猟師たちと一緒にかんじきを履いて雪山に入り、シカ猟の様子を至近距離で見学するこのツアーは、雪原に獣たちの足跡を発見したり、鉄砲の音を間近で聞いたり、運がよければ獲物を仕留める瞬間にも立ち会うことが。さらにはシカの解体作業を体験し、夜は夜で地元の食材とお酒を囲んで、猟師の武勇伝を聞きながら大宴会が繰り広げられる。

2018年のハンター体験も好評。(写真提供:Kuriyama Go Travel)

2018年のハンター体験も好評。(写真提供:Kuriyama Go Travel)

ほかにも、観光地としての知名度はやや低いものの、ダム好きのマニア心をくすぐるポイントが満載の黒部ダム(富山県の同名ダムのほうが有名だが、こちらは日本一古い発電用重力式コンクリートダム!)や、紅葉の名所として知られる日光いろは坂に負けずとも劣らない、栗山の景勝地・蛇王の滝などのツアーも好評だ。

大正元年(1912年)の竣工当時、発電専用のダムとしては日本最大の規模を誇っていた黒部ダム。ダム好きの間では「黒部といえばこっち」だとか。栃木県の土木遺産にも認定されている。

大正元年(1912年)の竣工当時、発電専用のダムとしては日本最大の規模を誇っていた黒部ダム。ダム好きの間では「黒部といえばこっち」だとか。栃木県の土木遺産にも認定されている。

「黒部ダムも蛇王の滝も、正直、ガイドがいなくても個人で行けるような場所ですが、軽く流して見てしまうのが、僕からするとちょっともったいないなと思っていて。

長年住んでいる地元の人に話を聞くと、ガイドブックやインターネットには載っていないような、土地にまつわる興味深いエピソードがたくさん出てくるんです。そういうことを伝えるのが僕らの役目なのだろうし、地元の人との交流など大手旅行会社ができないようなこともツアーにできるのが、定住している者の強みなのかなと思っています」

ダムのツアーのガイドを担当する地域おこし協力隊の石川充汰さんと。石川さんは写真を通して栗山の魅力発信もしている。

ダムのツアーのガイドを担当する地域おこし協力隊の石川充汰さんと。石川さんは写真を通して栗山の魅力発信もしている。

こうしたツアープログラムには、Nikko deerのハンドメイド体験が組み込まれることも。

「天候に左右されるプログラムも多いので、天候はもちろん季節を問わずできるハンドメイド体験は、意外と喜んでもらえるんです。以前、ヨルダンの方が栗山にいらっしゃって、シカ革の小物づくりを体験してもらったのですが、女性だけでなく男性も楽しんでくれて、シカ革を直接売ってほしいというリクエストもあったほどです」

疋野さんは栗山を舞台にしたツアーを充実させる一方で、ツアー客が訪れる地元の飲食店や宿泊施設に写真つきの英語メニューを用意するなど、翻訳業務にも力を入れている。

たしかに海外のレストランで、理解不能な文字が並ぶメニューを前に途方に暮れてしまった経験のある人は多いはず。魅力的なプログラムを企画するだけでなく、訪れた人が快適に過ごせるような環境を整えることも、観光客を増やすには無視できないポイントだろう。

疋野さんの地域おこし協力隊としての任務は2019年3月で終了予定だが、今後もKuriyama Go Travelとして地域を盛り上げていくつもりだ。

「実を言うと、移住して1年目にはここに定住することを周りの人に宣言していたんです。というのも、自分がやろうとしていることは、3年や4年という地域おこし協力隊の任務期間で成し遂げられることではないと思っていたので。定住するとあえて宣言することで、逃げられない状態を自分でつくり、腰を据えて取り組みたかったんですよね。だから、まだまだ始まったばかりです」

おもに外国人向けに日光の魅力を楽しんでもらうツアーも企画。(写真提供:Kuriyama Go Travel)

おもに外国人向けに日光の魅力を楽しんでもらうツアーも企画。(写真提供:Kuriyama Go Travel)

倉持さんは、引き続き地域おこし協力隊として活動しながら、日光産のシカ革の魅力と、その背景にある問題をより多くの人に知ってほしいと思っている。

「いまはどちらかというと、自分でコツコツつくって販売するよりも、アクセサリーづくりをより多くの人に教えるほうに力を入れていきたいです。昨年から、商品として販売できるクオリティのシカ革製品をつくることを目指して、地元の主婦の方などを中心に興味のある人を募り、定期的に教室を開いています。つくり手をひとりでも多く増やして、私が取りまとめるかたちで市内外のマルシェなどで販売する機会をつくっていければいいですね」

最後に気になる暮らしについて。休みの日は、基本的に家でのんびり過ごすのが好きなふたり。日光の最奥部での生活に、不便さは特に感じていないそう。

「買い物は車でふらっと行けばいいだけですし、いまはネットでもだいたいのものが買えるので。アクセサリーづくりに使う道具や部品なども、ほとんどネットで購入しています。宅配便も受け取れないときは、『いつもの場所に置いといてください』といえるのが、田舎のよさですよね(笑)」(倉持さん)

「僕は電子ドラムを持っていて、まちに住んでいた頃は騒音を常に気にしながら叩いていたのですが、ここだとヘッドホンをしていると逆に『なんで音出さないの?』と言われるんです(笑)。そういう大らかさが好きですね」(疋野さん)

まったく縁のなかった土地でやりたいことを見つけて、根を張ることを選んだふたり。力みすぎず自然体で暮らしながら、外から来た人ならではの柔軟な視点で生業をつくっていこうとする姿が印象的だった。

日光市移住定住ポータルサイト

日光市では起業・創業をする人のためさまざまな支援をしています。くわしくはこちら。

information

Kuriyama Go Travel 

住所:栃木県日光市黒部23-4

https://kuri-go.com

information

Nikko deer 

https://nikkodeer.thebase.in

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

credit

撮影:石井孝典

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