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ごみまで資源にする〈RISE & WIN〉のクラフトビール。山奥に人が集まる斬新なしかけとは?

  • 2019年1月11日
  • コロカル
自然のなかに突然現れる地域密着クラフトビール工場

徳島県の山奥の上勝町に、突如として現れるユニークな形をした建物。その奇妙さは周囲ののどかな風景にインパクトを与えているが、よく見ると味のある木材が多く使用されていて、マッチしていないこともない。

特徴的な開口部が印象的なショップ兼ブルワリー。〈中村拓志 & NAP建築設計事務所〉による建築設計だ。

特徴的な開口部が印象的なショップ兼ブルワリー。〈中村拓志 & NAP建築設計事務所〉による建築設計だ。

さらに目を凝らしてみると、使われている木材は窓枠や机のリユースなのだ。それらは上勝町にあるごみステーションから集められたもの。まちに沈殿している思い出や歴史を、新しい価値として生まれ変わらせた。

中央の“空き瓶シャンデリア”はもちろん、壁には棚机がそのまま設置されている。

中央の“空き瓶シャンデリア”はもちろん、壁には棚机がそのまま設置されている。

それが〈RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store〉(以下、RISE & WIN)。店名のとおり、クラフトビールを製造販売し、現在4年目を迎えている。主力のビールは〈KAMIKATZ LEUVEN WHITE〉だ。上勝の特産である柚香という柑橘を香りづけに使用している。しかも果汁が搾られたあとの皮を利用。地産地消であり、無駄もない。ほかにも〈KAMIKATZ IPA〉は、上勝の名産である乳酸菌発酵の上勝晩茶を使用するなど、地域性を打ち出したビールを展開している。

〈LEUVEN WHITE〉や〈IPA〉などの定番に加えて、このときに発売していたのは〈Morning Summer〉。

〈LEUVEN WHITE〉や〈IPA〉などの定番に加えて、このときに発売していたのは〈Morning Summer〉。

上勝の野菜や鹿肉、豚肉を練り込んだ自家製ホットドッグのプレートと、ビーフブリスケットサンドプレート。

上勝の野菜や鹿肉、豚肉を練り込んだ自家製ホットドッグのプレートと、ビーフブリスケットサンドプレート。

最近は海外のブルワーが訪れ、ここでビールを仕込んでいくことも多いという。そのなかには、普段は口にすることがないような変わったビールもある。徳島の海水から採った塩を大量に利用するゴーゼビールや、メキシカンチリと上勝の柑橘を使ったビールなど、地域の原材料と外国人ブルワーの感性が出会うラボのようにもなっているのがおもしろい。なかには長い時間かかるビールもあったよう。代表の田中達也さんが教えてくれた。

「上勝晩茶を発酵させる使用済みの桶を譲ってもらい、そこに麦汁を入れて醸すビールをつい先日仕込みました。ただし2年間かかるらしいです(笑)」

火をおこしながらインタビューに答えてくれた代表の田中達也さん。

火をおこしながらインタビューに答えてくれた代表の田中達也さん。

ほかにもユニークなビールをたくさんつくっている。さまざまなものを実験的につくってみる気持ちが強いようだ。そんな遊び心が表れた第2工場も昨年オープンさせた。〈KAMIKATZ STONEWALL HILL CRAFT & SCIENCE〉と名づけられた工場は、ターナー賞を受賞したこともあるイギリスの建築集団〈Assemble Studio〉の手によるものだ。この工場ができて以来、生産能力が飛躍的に増え、卸し業も開始。上勝産のクラフトビールが全国へと広がっていくことになった。

あえて統一されていないひとつひとつの窓枠がいいアクセント。

あえて統一されていないひとつひとつの窓枠がいいアクセント。

すべては「ゼロウェイスト宣言」の活動をアピールするため

実は〈RISE &WIN〉の場所には、かつて〈上勝百貨店〉というお店があった。そもそも上勝町は「ゼロウェイスト宣言」で有名なまち。2020年までに“ごみゼロ”を目指している。まちには、ごみステーションがたったひとつしかなく、町民全員がそこに自らごみを捨てにいく。そしてなんと45種類に分別しなくてはならない。

そうした意思を受け継いで始めたのが、〈RISE & WIN〉の前身である〈上勝百貨店〉なのだ。ごみを出さないという意識向上のためには、過剰包装をやめることが効果的であると考え、量り売りのお店を開始。当時、話題にもなり、一定の評価も得た。しかし、ビジネスの側面で成功とはいえなかった。

〈上勝百貨店〉時代の名残でもある上勝晩茶と鳴門金時のチップス〈おさっち〉の量り売り。

〈上勝百貨店〉時代の名残でもある上勝晩茶と鳴門金時のチップス〈おさっち〉の量り売り。

「上勝百貨店の仕組みでは、このまちの人だけがターゲットになってしまいます。外の人が、何回も醤油や砂糖、お茶の量り売りを買いに来ることはありませんから」という旧〈上勝百貨店〉、現〈RISE & WIN〉の代表・田中さん。

外に向けて発信していかないと、ビジネスとしては成立しないという教訓のもとに、〈RISE & WIN〉はデザインもよく、おいしい食事やビールも楽しめるような場所を目指した。

しかしあくまで「上勝町がすばらしい取り組みをしていることを、もっと広めていきたい。そのきっかけづくりです」と話す。最近では、少しずつその地道な取り組みが知られてきた上勝町。でもまだまだ伝えることはあるという。

「もっと深く、本質的な部分まで理解してほしい。いま地球規模で問題になっていることに対して、人口1500人程度のこんな小さなまちが真剣に取り組んでいるのです。このこと自体が財産だと思っています」

ゼロウェイスト宣言が価値のあるものだと町民自体にも知ってほしい。同時にそれをもっと広めたい。それまで上勝町が持っていなかった発信力と求心力、両方のベクトルを〈RISE & WIN〉がもたらすことができたのだ。

あと1年ほどでごみゼロを目指す。

あと1年ほどでごみゼロを目指す。

「ゼロウェイスト宣言は、まちの人たちにとっては、当たり前の町内活動みたいなもの。つまり誰もそんなものがブランドになり、観光資源として人が訪れるものになるなんて思っていなかったのです。正直いうと、新しいごみステーション〈WHY(仮)〉の計画だって、町民にしても意味がわからないかもしれません」

〈WHY(仮)〉は、現在のごみステーションが改装され、2020年春に開業予定のごみステーション。なんとラーニングセンターや体験宿泊、観光案内所やシェアオフィスまで含まれた複合施設だ。

「別に悪いことをしているわけではないのだと、じっくり見てもらうしかありません。そういうことは、きれいな言葉を並べるよりも、実際に動きながら、時間をかけてていねいに感じてもらうことで、しっかりと伝わると思っています」

“ごみステーションに泊まる”なんて、なんとも斬新な発想で、刺激的な体験になりそうだ。(イメージ図)

“ごみステーションに泊まる”なんて、なんとも斬新な発想で、刺激的な体験になりそうだ。(イメージ図)

上勝に人が増え、“勝手に”コミュニティは広がっている

着実に事業を拡大している〈RISE &WIN〉だが、ここ1年の大きな変化は、人の流れと動きだという。

「一緒に働くスタッフが増えたのがうれしいですね。始めたばかりの頃は、移住してきたスタッフも上勝町に友だちがいないし、どんな場所かわからないから、みんな微妙に“上勝町と徳島市の間”とかに住んでいたんですよ(笑)。でも最近では、みんなすべてを理解してからやってくる。だから進んで上勝町に住んでいますね。するとそこに仲間が集ったりして、コミュニティができあがってきました」

ピカピカのビールタンク。ビールづくりは掃除が大切だという。

ピカピカのビールタンク。ビールづくりは掃除が大切だという。

なかには家族で移住してきて、奥さんが晩茶や柑橘農家のお手伝いに行ったりと、〈RISE & WIN〉を受け皿としつつも、“自由に勝手に”コミュニティは広がっているようだ。

「決して便利とはいえないエリアまでせっかく来てもらっているので、みんなにできるだけ好きなことをしてもらいたい」と田中さんは言う。

また交流人口・関係人口というものも増えてきているという。

「かつては『東京や大阪にいつ来ますか? どのくらいいますか?』と聞かれることが多かったんです。でも最近は『いつ上勝にいますか?』と聞かれることが増えました」

つまり田中さんが東京や大阪に来たタイミングで会うのではなく、上勝で会いたいという話に変わってきたのだ。上勝に興味を持ち、行ってみたいという人が増えたということ。

〈KAMIKATZ STONEWALL HILL CRAFT & SCIENCE〉にあるラボ施設。

〈KAMIKATZ STONEWALL HILL CRAFT & SCIENCE〉にあるラボ施設。

「だからこそ、上勝をもっともっとパワーアップさせたい」と田中さんが言う通り、前述の〈KAMIKATZ STONEWALL HILL CRAFT & SCIENCE〉という第2工場をオープンさせたり、渓流釣りや“サバゲー”などのアクティビティも整えているという。

ウイスキー樽でビールを熟成させている。1樽ごとのオーナー制度を採用。

ウイスキー樽でビールを熟成させている。1樽ごとのオーナー制度を採用。

BBQの定番、プルドポークのグリル。

BBQの定番、プルドポークのグリル。

最近では上勝町の農家民宿を勧めているらしい。取材中、田中さんに農家民宿のすばらしさを熱く語られた。正直に言って、すごく行きたくなった。

「こうやって直接言われると行きたくなるでしょ?」と田中さんは笑う。これもまた、きちんと伝えていきたい上勝町の資源である。もちろんまちに泊まってもらえれば域内経済に少しでも貢献できる。それもまちの人たちの協力があってこそ。ゆっくりと時間をかけて、上勝町の住民とコミュニケーションをとってきた。あんなに“先鋭的な”建物を建てても、やるべきことをしっかりやれば、大丈夫。見た目は派手でも、実は大切なことは、ひとつなのかもしれない。

〈RISE & WIN〉の裏にはトレーラーを設置し、これから宿泊にも対応するという。取材時は屋外にバスタブの設置工事をしていた。

〈RISE & WIN〉の裏にはトレーラーを設置し、これから宿泊にも対応するという。取材時は屋外にバスタブの設置工事をしていた。

〈RISE & WIN〉に行くと、人がすごくわいわいと賑わっている。上勝の“ごみ”を利用した建物や、資源を使ったビール。ごみを利活用したブランディングに、これだけ人が集まることを知った。

information

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store

住所:徳島県勝浦郡上勝町大字正木字平間237-2

TEL:0885-45-0688

営業時間:平日11:00〜17:00(17:00以降予約制) 土日祝10:00〜18:00(18:00以降予約制)

定休日:月曜・火曜定休

http://www.kamikatz.jp/

information

RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM

住所:東京都港区東麻布1-4-2 THE WORKS & CO 1F

TEL:03-6441-3800

営業時間:平日12:00〜15:00(L.O.14:30)、18:00〜23:00(L.O. FOOD22:00 / DRINK22:30) 土日祝 12:00〜20:00(L.O.19:30)

定休日:不定休(土日祝の営業についてはお問い合わせください)

http://www.kamikatz.jp/

information

貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:石阪大輔(hatos)

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