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“ポップごと売る本屋さん”八戸市〈木村書店〉が描く地方の書店の未来とは?

  • 2018年11月5日
  • コロカル

「本のまち」として活性化を目指す、青森県八戸市。2016年に開業した市営書店〈八戸ブックセンター〉を皮切りに、本をテーマにした店が続々オープンし、盛り上がりを見せています。

なかでも、SNSを中心に今話題となっているのが、“ポップごと売っている本屋さん”〈木村書店〉。市内にある老舗書店ですが、Twitter上でほぼ毎日更新している「ポップ担当日記」が人気となり、開始から約1年で1万8000フォロワーを突破。

出版不況が叫ばれる昨今において、地方の書店が注目されているのは本当にすごいことです。もしかしたら、地方で小さな商店が生き残るためのヒントがあるのでは……?

八戸出身の筆者が、ポップ担当さんに取材してきました。

創業90年、港町にある小さな書店。

看板は「K・I・M・U・R・A」というアルファベット表記。

看板は「K・I・M・U・R・A」というアルファベット表記。

〈木村書店〉があるのは、八戸市小中野地区。町から港へ向かう道路沿いにある、創業90年の小さな書店です。

〈木村書店〉がある八戸市小中野地区

日中もあまり人通りはない。

明治期には遊郭の集まる花街として栄えたエリア。十数年前までは、近所に映画館やスーパーもありましたが、今では、商店や銀行がパラパラとあるくらいです。

そんな、決して恵まれた立地とはいえない場所にある〈木村書店〉が今あらためて注目されているのは、“ポップごと本を売る”という、これまでにありそうでなかったサービスを行っているから。

ポップ付き本コーナー

ポップ付き本コーナー。

店内に入ってすぐの左手側には、ポップ付きの本が並んでいるコーナーが。これらは、〈木村書店〉の“ポップ担当”こと及川晴香さんが独自にセレクトした本について、イラスト付きで紹介しているものです。

入社8年目の中堅書店員である及川さんが、ポップごと本を売っている理由とは? お話を伺いました。

〈木村書店〉の及川晴香さん

〈木村書店〉の及川晴香さん。

—— イラスト付きのポップを描き始めたのは、いつ頃からですか?

及川さん:2017年の夏からです。2年くらい独学でイラストの勉強をして、ようやく「お店に出してもいいかな」というレベルに達したのが、昨年のこと。それと同時にTwitterも始めました。

—— このために絵を勉強されたんですね! 何かきっかけがあったのでしょうか。

及川さん:書店員になって数年経ったころ、年配のお客様に「おすすめの本を教えてほしい」と言われ、ベストセラーの本をおすすめしました。すると、「売れている本を教えてくれるのは嬉しいけれど、あなたがこれまでに読んで面白かったものを紹介してほしい」と。そのときに、書店員の個人の好みも、需要があるのかな? と思ったんです。

服屋さんみたいに話しながらおすすめすることもできるけれど、書店というお店柄、話しかけられたいお客様ってあまりいない。そこで、目を引くポップなら、必要としている方に届くかもしれないと思いました。

〈木村書店〉の創業当時の看板

〈木村書店〉の創業当時の看板も店内の奥に。

—— そのときから、ポップごと売るという展開を考えていたのですか?

及川さん:もともとはお店に飾るだけだったのですが、「どうしてもこのポップごと本が欲しい」と言ってくださるお客様がいて、戸惑いつつも差し上げました。その方は自宅の本棚にポップごと飾ってくださったようなんですが、後日、「遊びに来たお客さんがポップを見て、同じ本をほしいと言っている。一冊注文してください」とお越しくださって。

そのときに、本と一緒にポップを持ち帰れるのって、面白いかもしれないなと思いました。最初はイラストレーターさんに外注しようと思ったんですが、本を実際に読んでいただかなくてはならなくなります。それなら自分で勉強して、自分のおすすめしたい本を紹介しようと思いました。

ポップにより、これまで動きのなかった本が売れるように。

ポップに彩られて賑やかなコーナー

このコーナーは、ポップに彩られて賑やかな印象。

—— 書籍に限らず、雑誌や絵本など、ジャンルレスに並んでいますが、選考基準はあるのでしょうか。

及川さん:本の売り上げのうち、書店に入る利益ってだいたい2割程度なんです。店の利益を重視するなら、高い本、大きい本、利率がいい本が売れるとありがたい。

でも、このコーナーに関しては利益ではなく、私が心から面白いと思える、おすすめしたい本と決めています。本に興味のなかったお客様で、好きなイラストで本を選ぶという方もいらっしゃいます。

—— 「ポップ目当てに本を買う」というのは逆転の発想ですが、本の選び方なんて、本来は自由でいいはずのものですもんね。実際に、ポップを付けてから売り上げがアップした本などもありますか?

手書きのポップで、本に付加価値が

本に付加価値をつけ売っているので、出版社にも喜ばれているという。

及川さん:例えば、『ジキルとハイド』は古典なので、うちの店では今さら手にとられる本ではなかったのですが、時代に合わせてポップを描いたら動くようになりました。二重人格を題材にしているので、「SNSの裏アカウントでグチを言う」ような、二面性をポップで表現しました。

〈木村書店〉店内

〈木村書店〉店内。入って正面手前には雑誌コーナーがある。

—— Twitterによる反響はいかがですか?

及川さん:東京や北海道など、わざわざ遠くから足を運んでくださった方もいて、本当にありがたいです。街中にある書店のように、「ついで買い」できる立地ではないので、〈木村書店〉を目的地にしていただかなくてはなりません。「行きたいと思ってもらえるお店にしよう」というのは、Twitterを始めるときに、自分に課したテーマでもあります。

—— 及川さんの日常を漫画にした「ポップ担当日記」を楽しみにしているフォロワーも多そうです。

及川さん:当初は本を紹介するだけのアカウントだったのですが、本のタグを検索する人にしか見つけてもらえないので、もともと本に興味のない人にも間口を広げたいと思いました。

「ポップ担当日記」をきっかけにフォローしてくださった中で、「本に興味が出ました」という声もあり、とても嬉しいです。「木村書店に行けなくて申し訳ないけど、近くの書店で買いました」と言ってくださる方もいます。

店内にファイリングされている、これまでの「ポップ担当日記」原本

これまでの「ポップ担当日記」原本は、店内にファイリングされている。

—— Twitterで発信するというのは、いかにも現代的ですよね。老舗ゆえに、慣例を大切にしそうなものですが、とても柔軟な印象を持ちます。社内での反対はなかったのでしょうか。

及川さん:社長に相談したら、「やっていいよ」と即答してくれました。企業アカウントとしてはアウトなんじゃないか、という過激なネタをTwitterで発信しても、「どんどんやって」と言ってくれるのは心強いです(笑)。

ファイリングされている「ポップ担当日記」

どんどん過激(!?)になるポップ担当日記。Twitterに上がっているのはカラーの3コマで、下の余白に描かれたイラストは、お店に足を運ぶと見ることができる。

—— 店内に原本がありますが、Twitterでいつも見ていたので、「アイドル(実物)に会えた!」みたいな感動があります。

及川さん:デジタルイラストが主流の時代なので、逆にアナログイラストの「手描きだからここにしかない」価値は、もしかしたらあるかもしれません。Twitterを見てお越しくださった方は、裏移りを見て「ほんとに原本なんだ」って言ってくださることもあります。

「健康診断の注射を頑張った後に看護師さんが褒めてくれるサービスがあったら3000円までなら出します!」と、及川さん。先日無事に注射を終えたそうで、続編がTwitterにアップされていた。

ポップ担当さんが思い描く、地方書店の未来。

無料配布しているオリジナルマンガ

「学生さんがバス代をかけてわざわざ来てくれることもあるので、欲しい本がなかったときにも満足してもらえるように」と、オリジナルマンガを無料配布している。

—— 及川さんが今後、イラストを本業にする……なんてことは?

及川さん:お客様から「イラストを描いてほしい」と言われたときは、無理のない範囲でやっています。社長は「兼業でもOK」と言ってくれているのですが、本業は書店員の仕事なので、それを越えるつもりはありません。

万が一、木村書店が潰れたら……ということを考えないこともないですが、もし他の書店で「同じことをして」って言われても、やらないと思います。ここに愛着があるから、していることなので。

初期のポップ担当日記は店内に直接貼っていた

初期のポップ担当日記は店内に直接貼っていたという。剥がしそびれたものが残っている。

—— 確かに、地方の小さな書店がどんどん減っているという話もよく耳にします。

及川さん:小さい書店は取次からの搬入も少なくて、ひどいときだと出荷自体ないこともあるんです。そうすると悪循環で、「小さい書店に買いに来ても売っていないから」と、お客様は、大きい書店やインターネットへ流れてしまう。

“ポップごと売る”のは、私なりの悪あがきです。ポップを無料でつけているという側面もあり、売り上げが一気に上がるわけではないんですが。

—— 実際に、紙の本を買う層が減ったのでは……と思ってしまうのですが、現場の肌感覚ではいかがですか?

及川さん:そうですね。ミニマル志向の時代なので、避けようのないことだと思います。

実際に、「アナログの本を読む勢」と「電子書籍勢」がSNS上で言い合いになっているのを見かけることもありますが、私個人としては、電子書籍を毛嫌いせずに、デジタル関係の発信もできればいいなと思っています。デジタルイラストの勉強をしようと思って、液晶タブレットを注文しました。

「イラストを買いたい」というお客さんの要望から、メッセージカードを販売するように。オリジナルキャラクターの「キムネコ」は、〈木村書店〉が昭和2年2月2日に創業したので「222=ニャンニャンニャン」からきているとのこと。

「イラストを買いたい」というお客さんの要望から、メッセージカードを販売するように。オリジナルキャラクターの「キムネコ」は、〈木村書店〉が昭和2年2月2日に創業したので「222=ニャンニャンニャン」からきているとのこと。

—— これで完成ではなく、挑戦は続くわけですね。電子書籍にポップをつけるとか、ですか?

及川さん:今の時点で具体的に考えているのは、LINEスタンプなどですね。手間はかかるけれど、在庫を抱えることはないのは利点だと思います。

あとは「キーホルダーが欲しい」と言ってくださるお客様もいるので、大量生産じゃなくてもグッズ展開とか。書店をブランド化する、というと言いすぎですが、キャラクター化して売り出すのが、地方のアナログ書店が生き残る手段なのかなと思います。

デジタルで知ってくれた人たちが、アナログ書店の面白さに気づいて、戻ってきてくれれば大成功ですね。

及川さんの最近のおすすめ本。

及川さんの最近のおすすめ本。

—— これまでのお話しを通じて、及川さんの愛社精神の強さをとても感じました。

及川さん:私は入社後、体調を崩していた時期がありました。そんなときに社長は「仕事にならないなら何もしなくてもいいから、まず会社においで」って言ってくれました。だから、とても感謝しているんです。

これからもポップや日記を綴ることで、会社へ少しずつでも恩返しできたらと思います。

まとめ。

ひとつひとつの質問に対して、丁寧に言葉を選びながら答えてくれた及川さん。電子書籍やウェブの発展を否定するのではなく、共存する方法を、なんとか探ろうとしているのが印象的でした。

何より、「欲しいポップで本を選ぶ」という逆転の発想がとても自由で、「こうあるべき」という固定概念から解き放ってくれるようでした。

「古いものと新しいものが否定し合うより、手を取り合って歩む世界の方が楽しそうじゃない?」

〈木村書店〉のポップ担当さんは、今日もSNSで、そう問いかけ続けています。

information

木村書店

住所:青森県八戸市小中野8-12-29

TEL:0178-24-3366

営業時間:9:00〜18:00、日曜・祝日10:00〜18:00

定休日:第2、第4日曜

Twitter:@kimurasyotenn1

writer profile

Chihiro Kurimoto

栗本千尋

くりもと・ちひろ●青森県八戸市出身。旅行会社勤務→編集プロダクション→映像会社のOLを経て2011年よりフリーライターに。主な執筆媒体はマガジンハウス『BRUTUS』『CasaBRUTUS』『Hanako』など。東京在住ですが2020年に地元へUターン予定。Twitter

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