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移住者が案内! ガイドブックにはない、暮らしと人を訪ねる旅

  • 2018年5月24日
  • コロカル
ガイドブックにはない、人を訪ねるツアーを企画

ゴールデンウィークになると桜が咲き、北海道は春本番を迎える。雪もすっかりとけて運転もしやすくなるこの時期になると、わが家にはさまざまなお客さんが訪ねてくるようになる。

わたしが住む岩見沢の山あいは、札幌から車で1時間ほどとアクセスは悪くないが、道内にある名だたる観光スポットと比べると、かなり地味な場所。地元に長年住む人は、「なんもない」と口を揃えるが、5月初旬にふたりの友人がやってくることになり、自分なりの地域のめぐり方を考えてみることにした。

岩見沢の山あいのエリアは「東部丘陵地域」と呼ばれているが、もっとかわいらしい愛称があったらいいなあと考えたのが、「東部」を「見る」で〈みる・とーぶ〉。この名前でイベントやワークショップ開催など、さまざまな活動を地域の仲間と続けている。

岩見沢の山あいのエリアは「東部丘陵地域」と呼ばれているが、もっとかわいらしい愛称があったらいいなあと考えたのが、「東部」を「見る」で〈みる・とーぶ〉。この名前でイベントやワークショップ開催など、さまざまな活動を地域の仲間と続けている。

やってきた友人のひとりは、札幌で〈Life on the table〉という「食」と「生」とをテーマに活動をする宮浦宜子さん。もうひとりは、南幌在住で陶芸家のこむろしずかさんだ。

宮浦さんの〈Life on the table〉では、たったひとりのための食卓をつくったり、「おかゆのしあわせ」というワークショップを企画したりと、食にまつわるさまざまな提案を行っている。(写真提供:NPO法人こえとことばとこころの部屋[ココルーム])

宮浦さんの〈Life on the table〉では、たったひとりのための食卓をつくったり、「おかゆのしあわせ」というワークショップを企画したりと、食にまつわるさまざまな提案を行っている。(写真提供:NPO法人こえとことばとこころの部屋[ココルーム])

こむろさんの陶芸作品『雫の森』。陶板で絵本を描くというシリーズを制作している。(写真提供:こむろしずか)

こむろさんの陶芸作品『雫の森』。陶板で絵本を描くというシリーズを制作している。(写真提供:こむろしずか)

宮浦さんは6年ほど前からの知り合いだが、岩見沢へ来るのは初めて。また、こむろさんは、つい先日、よく行くカフェで会ったばかりの方。そのとき、制作場所が確保できる移住先を探していて、岩見沢の山あいにも興味を持っているという話を聞いていた。ちょうどふたりともゴールデンウィーク中に時間がとれたので、山あいのツアーをやってみることにした。

宮浦さんとこむろさん。ふたりは初対面だったが、すぐに打ち解け、おしゃべりしながらのツアーとなった。

宮浦さんとこむろさん。ふたりは初対面だったが、すぐに打ち解け、おしゃべりしながらのツアーとなった。

5月4日、わが家のある美流渡(みると)地区に朝からふたりに集まってもらい、車で5分ほどの上美流渡にある窯焼きパン工房〈ミルトコッペ〉をまずは訪ねることにした。おそらく地元以外の人たちに、一番知られているのがこのパン工房だと思う。

パンを焼くご主人の中川達也さんはこだわりの人。薄利多売よりもパンのおいしさを追求しており、厳選した薪を使ってレンガ窯で焼き上げるパンは香ばしく、もっちりとしたやわらかい焼き上がりが特徴だ。周りには商店などない森の中だが、市外からも買いに来る人がいて、お店を開けると行列ができ、パンがすぐに売り切れとなってしまうこともある。

〈ミルトコッペ〉。開店早々に訪ねたが、ゴールデンウィーク中ということもありすでに行列ができていた。

コッペパンや食パンなどをたっぷり買い込んで、いい香りいっぱいの車で次に向かったのは〈栗沢工芸館〉。山あいのこの地域には、陶芸家や木工作家が多く住んでおり、みなさんの作品をここで見ることができる。

また、陶芸の工房も完備されていて、予約をすれば地元の陶芸家にアドバイスを受けながら焼きものをつくることも可能。もともと東京に住んでいたわたしからすると、素人でも、いつでも気軽に陶芸ができる環境がすぐそばにあるなんて、とても贅沢だと感じる場所だ。

〈栗沢工芸館〉。予約をすれば、誰でも気軽に陶芸制作を楽しめる。設備も充実している。

さらに上美流渡には、ふたつの展示スペースもある。ひとつは陶芸家、故・塚本竜玄さんの自宅兼工房を利用した記念館。ここには焼きものがところせましと並べられている。初めて見たとき、その作品の風合いに私は引き込まれた(専門が美術なので!)。

南宋でつくられた「窯変天目茶碗」という、世界でたった3つしかないお宝があるのだが、その技法を現代に再現しようとしたのが塚本さんだ。

膨大な器のほとんどは、黒い釉薬がかかった茶碗。ひとつひとつ見ていると、銀色の点々があったり、青味を帯びていたりと、さまざまな表情があって、暗黒の宇宙を見るような窯変天目の独特の輝きをなんとか表現したいと試行錯誤していた様子が伝わってくるのだった。

続いて訪れたのが、M.ババッチさんが、デザイン業をしながら40年以上もつくり続けているという、廃材を使ったオブジェが展示されている〈スクラップアート美術館〉。ババッチさんは、この美術館とともに塚本さんの記念館も管理運営していて、住まいのある札幌から上美流渡までやってきて、冬期以外の週末にスペースを開けてくれている。

ババッチさんの話を聞きながらオブジェを見ていると、捨てられたものにやさしい眼差しを向けて、それを再生させたいという気持ちが伝わってきて、作品がいっそう表情豊かなものに感じられる。

〈スクラップアート美術館〉。ババッチさんのオブジェは、美術の教科書にもたびたび取りあげられたおり、目にしたことのある方もいるのではないかと思う。美術館には多数の作品が並ぶ。

新たな人の流れが生まれそうな上美流渡地区

さて、そろそろお昼の時間にさしかかり、向かった先はミルトコッペの近くにある山荘。ここはミルトコッペの女将、中川文江さんのサロンがある場所。

以前にこの連載でも紹介したように、彼女は女将でありながら、リンパの流れをよくするリンパドレナージュセラピストとしても活動している。この日に、市外からわたしの友人が来ることを伝えたら「子どもの日も近いから、みんなで笹の葉で包んだお寿司をつくってはどうか」という提案が。

20年前に札幌から上美流渡に移住しパン工房を開いた中川さんは、現在、東京にもサロンを持っており、二拠点暮らしを続けている。そうしたなかで知り合った道外の人たちを山荘に招いたり、コンサートや映画上映などを企画したりするなかで、この地のよさを多くの人に知ってほしいと中川さんは考えている。

初対面の私の友人にも「美流渡はいいところよ〜」とニッコリ話しかけながら、庭にある笹の葉で包むお寿司づくりが始まった。この山荘は、いつもこんな感じでにぎわっている。お寿司パーティーと聞いて近隣の人々も集まり、楽しいランチタイムとなった。

ここまで紹介したのは、上美流渡地区の中のわずか500メートル圏内にある場所だ。いまここに、さらに新しいスペースをつくろうと、自ら改修を手がけている人たちがいる。

今年の春に、地域おこし推進員(協力隊)を卒業した吉崎祐季さんと、現在推進員の上井雄太さんが手がける物件は、築60年以上の古家。元料亭として使われていたようで、丸い窓が取りつけられていることから〈マルマド舎〉と呼んでいる。

ふたりはDIYの経験はあるものの、大工作業は初めてということで、長沼の大工〈yomogiya〉さんと協力して、この場所で月に1回ほどのペースで〈セルフビルドの学校〉というワークショップも行っている。ゆくゆくはこのスペースを、イベントスペースとして使ったり、カフェやゲストハウスとしても利用できないかと、改修をするなかで構想を練っているところだ。

上美流渡のこのエリアには、ほかにも横浜から移住した花屋さん〈Kangaroo Factory〉があるし、ミルトコッペも来春には新店舗での営業予定ということもあり、いま新しい人の流れが生まれそうな場所となっている。

中川さんのサロンがある山荘の1階には〈Kangaroo Factory〉という花屋さんのアトリエ兼ショップも。

個性あふれる移住者の暮らしぶりに刺激を受けて

次に向かったのは上美流渡から車を10分ほど走らせた毛陽地区。ここは田畑が広がり、山あいということもあってさくらんぼやブルーベリー、りんごなどの果樹園が多い場所だ。

このエリアでわたしが特に紹介したいと思っていたのは、1月に連載で取り上げ、大きな反響のあったフィリピン生まれの移住者、阿部恵(さとし)さんだ。通称トシくんと呼ばれる彼は、森をたったひとりで開墾して農業を始め、コンテナを改修した小さな家に住んでいる。

「行者ニンニクがちょうど生えているので、取っていきませんか?」トシくんはやさしく声をかけてくれ、山菜好きのふたりは大喜び。しかも、トシくんがひとりで作業を続ける山あいの畑の様子を見て、大きな感銘を受けており、話はつきないようだった。

そして、このツアーの締めくくりとなったのは、わたしが友人と一緒に2016年に取得した、宮村地区にある山の散策だ。総面積は約8ヘクタール(東京ドーム1個分が4.7ヘクタール)で、ぐるっとめぐって小一時間という広さの場所。

この山は木が伐採されたあとの荒れ地なので、たいして見るようなものはないのだが、わたしの息子と娘が思いっきり遊ぶ姿を見つつ散策を終えると、宮浦さんとこむろさんの表情は、朝とは明らかに違っているように感じられた。もしかしたら夕方の日差しのせいなのかもしれないが、瞳がキラキラ輝いていた、そんなふうに思えたのだ。

「自分のなかで今日はたくさんの発見があったから、札幌に戻ってじっくり考えたいと思う」

宮浦さんはとびっきりの笑顔とともに、そう語ってくれた。

そして、移住先を探していたこむろさんは、「森がすてきだったし、高いお金を出して家を買わなくても、住んでいけるという勇気がわいた」と話してくれた。

そしてふたりが口を揃えて語ってくれたのは、「人が魅力的」ということだった。この地で自分らしくのびやかに暮らす人々の姿に心打たれるものがあったようだ。

このツアーのあと宮浦さんとは、岩見沢の山あいで、食に関するイベントができないかと相談を始めている。たとえば、この地域の畑で1日だけのレストランを開いてはどうかなど、ワクワクするようなアイデアが生まれている。

こむろさんは、実際に訪ねたことで移住地の候補のひとつとなったようで、いい物件にめぐりあえたらと夢をふくらませてくれている。

この地域一帯は豪雪地帯だし、お店も少なく買い物にも不便な場所なことから、市の中心部へと移り住む人は少なくない。日に日に過疎化が進んでいる状況ではあるが、そんななかでも、中川さんをはじめ、吉崎さんや上井さん、トシくんなどおもしろい顔ぶれの移住者が集まっており、新しいコミュニティも生まれつつある。

この地を訪ねた人たちにスポットを案内するのではなく、こうした人たちの暮らしぶりを紹介することによって、ここであれば何かおもしろいことができそうと感じてもらえるんじゃないか、そんなふうに私は思っている。

しかも、今回のツアーは、実は、このエリアの一部分でしかない。夏に近くなったらさくらんぼがたわわに実る果樹園で暮らしを営む人々も紹介したいし、5月末にスタート予定の小さなカフェのオーナーにも会ってもらいたい。また、つい先日、改装を終えたばかりの〈ログホテルメープルロッジ〉には、美人の湯といわれる温泉もあるし……。

きっと、宮浦さん、こむろさんは、またこの地を訪れてくれるに違いない。そうしたら、さらなるディープなツアーを組むなかで、この地で一緒にできることを探っていけたらいいなあと思った。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/

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