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移住でなく「延住」? 地域密着型デザインで、仕事が切れない三好市のデザイナー肴倉由佳さん

  • 2018年3月13日
  • コロカル
地域おこし協力隊で、想定外の場所へ

2013年7月に三好市の地域おこし協力隊として東京からやってきた肴倉由佳さんは、2年9か月の協力隊の任期終了後も、デザインをなりわいにして三好に住み続けている。

肴倉さんは神戸市出身で、山を愛する両親に、自然との共存をベースに育てられたという。週末には郊外で借りていた畑に通い、長い休みには家族全員で信州の山々へ、山登りに出かけるような家族だった。ずっと山を愛し、しょっちゅう山に登りにいっていた肴倉さんは、将来、両親の出身地である青森に近い、北のほうで田舎暮らしをすることを望んでいた。

京都の美大を卒業後、大阪にある会社のデザイン室で働き、その後神戸を経て東京へ移り住む。肴倉さんは、自分のやりたいことと、環境を寄り添わせるのに苦悩した時期だと振り返る。30歳のときに、住み慣れた関西から東京に移ったのは、「将来を見据え、少しでも北のほうへ移りたかったから」と話す。東京で2年間の編集の仕事を終え、次の方向性を模索していた時、三好市の地域おこし協力隊の説明会があることを知った。

「実は、四国へ行くことはまったく考えていませんでした。でも、これ以上東京暮らしをするのは無理かなと思ったので、話を聞きに行ったんです」肴倉さんに、東京暮らしのどのあたりが無理だと思ったのか聞いてみると、こんな答えが戻ってきた。

「私、山歩きが好きなんです。東京でさあ山に行こうと出かけると休日の高尾山などは、渋谷の通勤ラッシュよりも人が多くて驚きました。また、信州などの遠方の高い山に行こうとすると交通費もネックで、契約社員で働く自分は頻繁に行くことはできず、山登りや自然と触れ合うことにもお金がかかるということに、疑問を感じてしまったんです」

人間の根本にあるべき自然が、都会では贅沢品になってしまう。一度抱いた違和感は拭えず、その違和感が肴倉さんの背中を押した。

協力隊時代から現在にいたるまで密にやりとりをしている山崎正さん。過疎集落の再生に日々取り組む山崎さんたち先住の人たちに学ぶことは多いという肴倉さんは、現在でもイベントの手伝いをしており、現地の人たちにかわいがられている。「ここの土地で何かやりたいことがある人が来てくれると、応援しがいがある」と山崎さん。

道の駅や地元のホテルなどで販売されている肴倉さんがデザインを手がけた地域密着型の商品。右の手ぬぐいは肴倉さんの屋号「さかなやデザイン」のオリジナル商品だ。

“移住”ではなく“延住”のスタンスで

地域おこし協力隊では、過疎地域の集落に住む人たちと一緒に棚田で米づくり体験の年間プログラムを行い、地元の人たちと地に足のついたコミュニケーションをすることができたという。取材中もいろんな人からイベントの誘いや、仕事の相談の電話がかかってきており、地に足のついた暮らしが営めていることが感じられた。

現在、肴倉さんはそのまま三好に住んでいるが、そのスタンスは完全移住ではなく、延長して住み続ける「延住」だという。「三好の暮らしは気に入っている」と肴倉さんは話すが、現在、新潟に住む両親のことや、結婚などを考えると完全移住と断言できないそうだ。

「結果的に三好にずっと住んでいたら、それでいいなと思いますが、先のことは、あまり決めてはいません」もし、仮に別の場所に住んだとしても、三好の人たちとはなんらかの関係を持っていられるはずだ、と肴倉さんは言う。地域おこし協力隊時代から育んできた関係性は、簡単に壊れるものではないという自信がある。

2016年3月に地域おこし協力隊の任期を終えて丸2年。当初不安だった収入の面も、デザインやイラストの仕事で「なんとかですが(笑)」食べていけているという。「ここでは、自分がしたいと思ったことが実現しやすく、そのための努力ができる土壌があります」

仕事の面では、意外にもフリーランスになってから、一度も飛び込み営業をしたことなく、2年間切らさずに仕事がある状態だ。

「気軽に、肴倉さんじゃろ? って、電話をかけてきてくれますね。チラシのデザインやパンフレットのイラストなどを頼まれることが多く、商店街のおばちゃんなどがなんの抵抗もなくいろいろな仕事を出してくれます。単価は高くないかもしれないけど、ちゃんと仕事がつながっている実感はあります」

また、三好の人はやりとりするときに、彼女が聞くまでもなく「生活するにはこのくらいのお金が必要では」と具体的な数字や内容が割に合うかなどちゃんと示してくれるのだそう。

自然に囲まれ、山や川とともに生きているせいかブナ林の色が信州のものに比べて濃いなど、自然の色調を知っている人が多く、イラストを描けば微細なところまで指摘されるという。そういった彼女の求める本質的なところで尊敬できる人たちに出会えたのも、土地への信頼感につながっていった。

唯一の問題は、場所柄、欲しい画材がすぐに買えないこと。現在の仕事はイラスト描きとデザインがほとんど。今の仕事を見せてもらうと、いつかは絵本作家になりたいと思っていたという彼女の、今までの職業のなかでも最も夢に近い仕事ができているのではないだろうか。

『ちいさいおうち』で知られる絵本作家のバージニア・リー・バートン、マーシャ・ブラウンやグリム童話のフェリクス・ホフマンの画風が好きだったという肴倉さん。彼女の手がけた三好の魅力発信マガジン『みよしの肴』のイラストは、自然の中にある複雑な色彩の変化を精密な筆致で捉えており、まるで絵本のようだった。

高校時代、家族で三好へ剣山登山に来た思い出は豪雨に降られたこともあり、あまり印象が良くなかった。それは地域おこし協力隊の面接でここに来ることになって初めてあの場所がここだったのか、と思い出すくらい、記憶の奥にしまわれていた。そのときは、今では大変魅力を感じている吉野川も、なんの魅力も感じられなかったとか。

それが、再訪し、ぐるり地域を回ったときに、平家の落人の歴史や山暮らしの成り立ちを知り、急に土地に興味を抱くこととなったから不思議である。人は身をおく環境や成熟の度合いに従って変わっていくもの。自身の生き方を模索し、実践してきた肴倉さんが今、“移住”を断言しないのも、そういったことを実感しているからかもしれない。

「朝ウグイスの声で目がさめ、初夏にかけてはアカショウビンの鳴き声がするんですよ。そんな贅沢な!というようなシーンが日々のなかにあります。大人になるにつれ、少しずつ人生のグラフが右肩上がりになってきたと思っていたんですが、三好に来たらグンとその角度が上がりました」

と、目を輝かせて話す肴倉さん。自分の居場所を探し求めてたどり着いた場所で、さらに自分なりの幸せのかたちを更新し続けていく。

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さかなやデザイン 

https://peraichi.com/landing_pages/view/sakanayadesign

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三好市移住コーディネーターを募集します

三好市では、人口減少抑制と持続可能なまちの実現に向け、移住促進に取り組んでいます。そこで、移住相談のワンストップ窓口である「移住交流支援センター」の支援体制の強化を図るため、市職員と共に、移住促進の各事業に取り組んでいただける方を募集します。

【募集情報】

https://www.miyoshi.i-tokushima.jp/docs/175904.html

【お問い合せ】

三好市役所 地方創生推進課

TEL:0883-72-7607

Mail:chihousouseisuisin@city.tokushima-miyoshi.lg.jp

writer profile

Chizuru Asahina

朝比奈千鶴

あさひな・ちづる●トラベルライター。“暮らしの延長線の旅”をテーマに、食の生産地、ハーブ、おいしい民宿、エコツーリズム、コミュニティなどを多角的に取材。ふだんの暮らしに新しい扉が開くような、わくわくする場所や事柄に出会う旅のかたちに興味があります。 Holistic Travel

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

ありもと・やよい●フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。http://yayoiarimoto.jp

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