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行政と連携し、映像制作。 再発見した移住先の魅力とは?

  • 2018年3月3日
  • コロカル
まちの魅力は「いいかげん」!?

「いいかげん」という言葉には、ご存じの通り「ちょうどよい」と「でたらめ」という相反する意味がある。

文脈や受け取る側の印象によって、どちらにも取ることができてしまうわけだが、三重県いなべ市は大胆にもこの言葉をテーマにプロモーションビデオ(以下、PV)をつくってしまった。

(いなべ市プロモーションムービー『いいかげんな街 いなべ』より)

『いいかげんな街 いなべ』は、いなべの魅力を市内外に広くPRすることを目的に、官民協働で制作されたPVだ。撮影・演出などを担当したビデオグラファーのウラタタカヒデさんは、愛知県弥富市の出身で、いなべに移住してきたのは7年ほど前。それ以前は名古屋や京都にも住んでいたことがあり、いなべにやってきたのもたまたまで、特にこだわりはなかったようだ。

「20代のときはスノーボードに夢中になって、冬場はずっと山にいて、夏はスノーボードの練習施設で働くような生活をしていたのですが、映像に興味を持ったのもスノーボードがきっかけでした。最初は見よう見まねで撮影していたのですが、サラリーマンをしながら知り合いの下で修業させてもらい、3年前に会社をやめて独立したんです」

ビデオグラファーのウラタタカヒデさん。

移住してしばらくの間は、いなべに知り合いがほとんどいなく、遊びも仕事も市外に出かけていて、なかなか地域に入り込む機会がなく、意識も外に向いていたというウラタさん。

「映像の仕事に関しても、いなべには何もつてがなかったので、修業させてもらった四日市界隈や伊勢のほうによく行ってました。それで外の地域のプロモーションに関わらせてもらったとき、ふと思ったんです。せっかくいなべに住んでいるのだから、僕自身ももっと知りたいし、いなべをアピールしなきゃいけないんじゃないかなって」

今ではすっかり、地域と深くコミットしているように見えるが、市民や行政とともに、一体どんなPVをつくったのだろう。そして自分の暮らすまちに対する新たな発見はあったのだろうか。

藤原町古田地区で、田園風景を撮影するウラタさん。(写真提供:いなべ市役所)

「いいかげん」の裏にあるもの

「いいかげん」という言葉に込めた思いを、いなべ市企画部広報秘書課の伊藤淳一さんは、こんなふうに説明してくれた。

「いなべは何もないところだと思われがちですし、実際に田舎なんですけど、都会からもほどよい距離にある。田舎過ぎず、都会過ぎないちょうどよさを打ち出したいと思いました。官民協働というのも今回の大きなテーマで、市民のみなさんに出演していただいていますし、市内唯一の高校であるいなべ総合学園の放送部の生徒さんが、メイキングムービーをつくっているんです」

いなべ市役所の伊藤淳一さん。

たしかにいなべには、全国的に有名な観光スポットもないし、自然は豊富だけれどもそのスケールが突出しているわけでもない。だけど、暮らすうえではその「何もなさ」がむしろちょうどいいのかもしれない。

「『いいかげん』というキーワードを行政の方から聞いたとき、単純におもしろいなと思いました。だけど、それを表現するのって実はすごく難しい。だって住んでいる人たちにしてみれば、『自分たちはいいかげん(でたらめ)に暮らしているわけじゃない』と思うのは当然じゃないですか。どうやって映像にしていくべきか悩んだのですが、市役所の加藤さんを主役にすればいいと思ったんです。まさか本当に、その案が採用されるとは思わなかったけど(笑)」(ウラタさん)

いなべ市職員の加藤雄介さんは、2017年4月に政策課に異動してきて、いなべグリーン・ツーリズム推進地区の担当をしている。これは北勢町川原地区、藤原町鼎地区、藤原町篠立地区、藤原町古田地区がモデルとなって2015年度から取り組んでいる事業で、郷土料理やスイーツなどを一緒につくる「小さなごちそう体験」を定期的に実施したり、農業体験を受け入れたり、空き家を改修して交流拠点をつくったりなど、各地区で特色のある活動を行っている。

PVでは、加藤さんがモデル地区の住民に顔を覚えてもらうために、それぞれの地域に出かけて交流を深めていくのだが、普段の業務も住民とのやり取りがかなり多いそう。

「たとえば鼎地区は年配の方が多くて、平均年齢も60歳を超えているのですが、そんな方たちとLINEグループでいつも連絡を取り合っているんです。住民の方からいただいたメッセージに、スタンプで返したりして(笑)。それが楽しそうに見えたのか、最近、新たにスマートフォンを買った方がふたりいて、今は使い方を教えているところです」(加藤さん)

各モデル地区には、地域おこし協力隊が委嘱されているのだが、加藤さんと同じタイミングで鼎地区の担当になった潜道竜馬さんも、大先輩たちとLINEスタンプを送り合うほど、すっかり溶け込んでいる。

「この辺は半分くらいが空き家だったりするんですけど、住んでいる人たちが下向きかっていうとむしろ逆。月1ペースで集まってバーベキューをするほど、自分たちで楽しむことをつくるのが好きな人たちなんです。いい意味で子どもみたいなところがあって、普段から小学生とか中学生みたいな戯れ方をしています(笑)。加藤さんも、ここに住んでいるんじゃないかってくらいの付き合い方ですしね」(潜道さん)

地域ならではのユニークな魅力も

同地区のおもしろさを象徴している風景が、道端に突如現れる数体のカカシ。聞けば女性陣が景観を賑やかにしようとつくったそうで、大人のカカシや子どものカカシ、なかには自転車に乗っているカカシまでいて、初めてここを通る人は、思わず目が釘付けになってしまうインパクト。

「こないだも道案内の看板をつくろうってことになり、何でもない普通の坂に地元の人たちが勝手に名前をつけたりして、みなさん発想がユニークで、すごく前向きなんです」(加藤さん)

それぞれの地区で住民を交えた撮影を進めていくにつれて、ウラタさんは行政と市民の距離感こそが「いいかげん」で、いなべの魅力なのではないかと感じるように。

「こう言っちゃなんですけど、行政って立場上、どうしても煙たがられるところがあるじゃないですか。だけどどんな人が自分たちのまちのために動いているのか、僕らももっと知るべきだし、地域とこんなふうに関わっているんだっていうことをもっと知ってほしいと思ったんですよね。なんだかんだいって、加藤さんが一番いいかげんだと僕は思っていますから(笑)」(ウラタさん)

暮らしのプロに会いに行きたくなるまち

いなべで人脈が広がることで、ウラタさんの生活スタイルにも変化が生まれてきた。

「もともと興味のあることは、全部自分でやってみたいタイプで、ちょっと前までは自分たちで食べる野菜をほぼ自給していました。いなべには農業をやっている友だちがいるから、わからないことがあったらすぐに聞けるし、薪がほしいと思ったら、林業をやっている友だちにチェーンソーの目立てから、伐採の仕方まで教えてもらえる。暮らしの役に立つことを、たくさん学べる場所なんです」

一方でほかのエリアだけでなく、いなべでも徐々に映像の仕事が増えてきたことで、いわゆるワーク・ライフ・バランスについても考えだした。

「独立して間もないときは、仕事もそれほど多くなかったので、暮らしや子育てにある程度集中できたんです。そもそも会社をやめた理由のひとつに、子育てをしたかったっていうのもあるし、当時はできることはなんでもやって、家庭内で自給率を上げることを楽しんでいた気がします。だけど映像の仕事が忙しくなってくると、どうしても暮らしのことが手薄になってしまう。自分としてはどっちもやりたいけれど、無理をするのはやめようって、あるときふと思えたんです」

肩の力を抜くことができたのは、暮らしのプロが周りにたくさんいることに気がついたから。

「食べたい野菜があったら、それを本業でつくっている友だちから買えばいいし、猟師の友だちもいるから肉だって買える。お金が回るようになると、今度は彼らが僕に動画を頼んでくれたりして、こういうふうに循環していくのがベストだなと思ったんです。甘えられるところは、プロに甘えようって」

ウラタさんも以前は、いなべには何もないと思っていたひとり。暮らす場所はほかでもいいとさえ思っていた。しかし今は暮らすことそのものが、いなべのカルチャーなのだと感じている。

「今回のPV制作もそうですけど、仕事でいなべを回るようになって、最大の観光資源は人なのだと思うようになりました。それぞれの地区におもしろい人がいて、ふらっと会いに行きたくなる。そういうまちなんですよね、いなべって」

一見わかりにくかったりするけれども、知れば知るほど増してくる、いなべの魅力。その控えめな感じもまた、「いいかげん」なのである。

information

三重県いなべ市プロモーションムービー『いいかげんな街 いなべ』

https://www.youtube.com/watch?v=FKKWhBL8ALU

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。http://yayoiarimoto.jp/photo/fashion/

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