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「カメラマンときどきパン屋」そんな働き方は可能? 移住一家の1カ月の収支から考えてみると…

  • 2018年2月1日
  • コロカル
「二足のわらじ」はどうしたら実現できる?

伊豆下田に移住したカメラマンの津留崎徹花さん。パン好きが高じてパンづくりに熱中し、周囲にも好評の手づくりのパンを販売してみよう! ということに。2日間のイベント販売は盛況に終わり、これからも本業の傍ら、ときどきパン屋をやりたいと考える徹花さんですが、どうしたらそれが可能? そもそも、それで家計は成り立つの??移住者が今後の働き方を考える、実践的なストーリーです。

初めてのイベント販売「てつパン食堂」

昨年の12月、人生で初めて「パンを売る」という経験をしました。友人が営む店〈Table TOMATO〉で、パンの販売と、彼女の料理と合わせたランチの提供をするという2日間のイベント「てつパン食堂」です。

パンを販売してみたいけれど本当に自分にできるのか、続けられるのかわからない。ならば、一度経験してみようということで、友人の協力を得てお試しパン屋をやらせてもらったのです。今回は、その経験を経て感じたことを書きたいと思います。

娘と夫がつくってくれたチラシ。このほか「てつパン」の判子入り紙袋も夫がよなべしてつくってくれました。家族が同じ目的に向かって一丸となるあの感覚は、なんだか心地よかったな。

〈Table TOMATO〉店主の山田真由美さん(右)。河津出身の料理家、大塩あゆみさん(左)も手伝いに来てくれました。

実際やってみてどうだったかというと、まず真っ先に「楽しかった!」のひと言です。たくさんの方が来てくれて、みなさんとても喜んでくれました。パンの評判もよく、2日間続けて買いに来てくれた方もいたほどでした。

「こんなおいしいパン初めて食べた」

「やさしい味がするパン」

なんて言葉をいただき、それはそれはうれしかった。自分がつくるものでこんなに人を喜ばせることができるんだ。それを直に感じることで、自分もいいエネルギーをたくさんもらうことができる。そんなことを体で実感した2日間でした。

今後もパンの販売をやっていきたい、そう気持ちは固まりました。けれどどういうカタチでやっていくか、そこは慎重に考える必要があります。

地元の友人や、娘の保育園のお友だちも来てくれました。

イベントは前述どおりとても楽しかったのですが、すごく大変だったのも正直なところです。大量のパンを連日焼くという経験はとてもエキサイティングで新しい発見もたくさんありました。けれどこの方法は私には向いていない、そのことにも気づいたのです。

どういう方法なら可能なのか?

私がつくるパンはいまのところ機械を使わず手でこねるため、仕込める数に限りがあります。使っているのは玄米と麹から起こした自家製玄米酵母。深い味わいを得るためにはこの玄米酵母が欠かせないのですが、繊細な生き物で扱いにくく、発酵時間を安定させるのがなかなか難しい。さらに、風味を引き出すために12時間以上寝かせているので、その分時間がかかります。

販売用とランチの分、2日間で150個のパン。その数を焼き上げるために、開催日の前々日から仕込み始めて3日間、睡眠時間ほぼゼロの状態。朦朧としながらひたすらパンを焼き続け、開店時間の11時から15時はお店に立ち接客。初日の営業が終わってほっとする間もなく、まだまだ焼き続けなくてはというプレッシャーが押し寄せてきます。

深夜焼きながら不安に押しつぶされそうになり、気分転換に外に出ると満点の星空。それを見たらふいに涙がこぼれ落ちる……という、笑えるくらいに普通じゃない精神状態でした。もともとメンタルが弱い私。情けないですが、体力的にも精神的にもくじけそうになってしまいました。

数をこなすことに気が取られて、もともと楽しいから始めたパンづくりを楽しむ余裕がない。さらに娘には「パン屋さんヤダ! ママと一緒に寝れないからヤダ!」と泣かれる始末。楽しく焼けない。家族にも負担がかかってしまう。それではパンを焼く意味がないのです。

イベントが終わってから、今後どういう方法でやっていくのがよいか夫と相談しました。私も、家族も楽しみながらできる方法。私の場合はカメラマンの仕事を軸として、ときどきパン屋というやり方を考えています。その「ときどきパン屋」を、どのようなカタチでやっていくのか。

2日間の連続営業はどうやら私には厳しいようですが、1日のイベントならできそうです。娘もひと晩くらいなら我慢してくれると思います。

そのほか、ネット販売はどうなのか。

「テツは自分のペースじゃないと無理だから、ネット販売いいんじゃない?」

夫は、私が忙しくなるとテンパるのをよくわかっています。月に何度か販売する程度なら、この人でも楽しくやっていけるのではないか。そう考えたようです。

実際にネット販売をしているパン屋さんは、全国にあります。宅急便で送って味は大丈夫なの? というのが気になるところ。実際にいままでいろんな友人に送っていますが、問題ないようです。日にちが経つにつれて味が落ち着き、さらにおいしくなるという感想もありました。

新潟の友人に送ったパンセット。下田から新潟も、翌日指定で届けられるんですね。すごいな〜、日本の物流。夫が働く〈高橋養蜂〉の〈みかん蜂蜜〉も一緒に。

もちろん、月に数回のパン屋で生計を立てることはできません。カメラマンの収入があるので、それでバランスをとろうと考えています。とは言え、下田に移住してから我が家の世帯収入は半分以下に減りました。本当にやっていけるのか? という漠然とした不安に襲われることもあります。

その漠然としたものを一度はっきりさせてみようと、わが家の収支を計算してみました。そもそも我が家はいくらあれば暮らしていけるのか。

1か月にいくらあれば暮らせる?

まずは固定費。

家賃・光熱費・通信費・保険料(健康保険や年金も含めて)・車両費(ガソリン、保険など)・幼稚園→17万円(年金と保険料が高い〜)。

食費・日用品→6万円として合計23万円。

そのほか衣料品や雑費→4万円を含めて30万円あれば家族1か月暮らせる計算となります。

「これくらいなら稼げるでしょ!」と夫は明るい顔。サラリーマン時代に比べると、夫の収入は激減しました。「収入減っても下田に来てよかったと思う?」と聞くと、「当たり前じゃん! 東京ではできない経験をたくさんしてるもん」と即答する夫は、人生を楽しんでいます。

夫が仕事をしている高橋養蜂。「ミツバチの楽園」をつくるべく、高橋鉄兵さん(左)と山を開拓しています。その様子は前回の連載にて。

下田で暮らし始めてから収入は減りましたが、その分出ていくお金も減りました。

例えば衣料品。

仕事に行くときのために、ちょこっとだけきちんとした服を2セット持っています。それ以外の普段の格好にはあまりお金をかけていません。海とか山が近いせい(?)なのか、気持ちが緩んで服装もゆるみ、あまり着飾る気にならない。着飾るシチュエーションも特にない。

そして、東京にいるとき我が家の出費のかなりの割合を占めていたのが交際費。いわゆる飲み代です。夫婦揃って飲んべえなので、代わる代わる飲みに行っては何軒もはしご。いま思えばかなり出費がかさんでいたはずです(ちゃんと計算したこともないずぼら夫婦)。

下田では仕事終わりにふらりと飲みに行く環境でもないので、すっかりイエノミ派になりました。友人と飲むのも、家だとじっくりゆっくり過ごせるのでとても心地よいのです。もちろん居酒屋も大好きなので、ときどき家族で出かけます。

自分に無理なく、家族に無理なく暮らしたい

カメラマンの仕事は月に1、2度東京に出かけ、ときどき下田での撮影もさせてもらう、というペースです(先日この連載で書いた『伊豆下田100景』の記事がアップされました。写真・文を担当しています)

ときどきパン屋をやったとしても、夫婦合わせて30万という壁はクリアできそうです。なるべく好きなことに時間を使って(好きな仕事をするということも含め)、自分に無理なく、家族に無理なく暮らしたい。

無理なくといえば、先日あるママ友がこんなことを話してくれました。「私たち家族は必死に働くつもりはないんです。できればラクに稼いで自由に暮らしたいんです」

彼女の言う自由というのは、家族と過ごす自由な時間を持てるという意味。それにしても、ラクとか自由にとか、なかなかそう言い切る人も少ないですよね。「仕事がんばってます!」とか、「真剣に働いてます!」というスタンスがよしとされている空気がなぜか世の中に流れていて。そんななか、彼女のそのストレートな言葉はとても印象的でした。

作家、灰谷健次郎さんの著書『天の瞳』では、主人公の祖父がこんなことを話しています。

「仕事は深ければ深いほど、いい仕事であればあるほど、人の心に満足と豊かさを与える。人を愛するのと同じことじゃ。ひとりの人間が愛する相手は限りがあるが、仕事を通して人を愛すると、その愛は無限に広がる。そうして生きてはじめて、人は、神さまからもろうた命を、生き切った、といえるのじゃ」

パンのイベントを通じて、あらためて働くということを考え始めています。東京の友人に「仕事って、働くって、どういうことなんだろうね」と投げかけると、「テツカが定義したら、それが正解なんじゃない」と返されました。

今年の4月から娘は小学校に上がります。娘の通う小学校に学童はなく、14時には帰宅します。私は働くということをどう定義するのか。答えをまだまだ探しているところです。

information

Table TOMATO

住所:静岡県下田市1-11-18

Web:https://facebook.com/TableTOMATO/

文 津留崎徹花

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。

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