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地方での起業を応援する、新たな仕組みとは。Next Commons Lab ファウンダー・林 篤志さんインタビュー

  • 2017年8月21日
  • コロカル
日本の地方から、ポスト資本主義社会を具現化する

「3年間のベーシック・インカム付き起業家募集」これは、社会インフラ先進国・フィンランドのお話ではない。2016年に、柳田國男の『遠野物語』の舞台として知られる岩手県遠野市で立ち上がったプロジェクトメンバーの募集広告だ。応募条件は、

「遠野市に住民票を移すこと」

「地元の資源を生かして起業すること」のふたつ。

採用された起業家には、総務省の「地域おこし協力隊」の制度を活用して月額16万円程度の所得補償を受けられる。この遠野市の募集には83名がエントリーし、14名が採用された。

「ローカルブルワリー」「発酵」「テクノロジー」「限界集落」「産前産後ケア」「超低コスト住宅開発」「デザイン」「食」など、地元のニーズや地域課題から生まれたテーマで、〈ロート製薬〉〈キリン〉などの企業もプロジェクト・パートナーとして迎えながら、メンバーたちは着々と活動を始めている。

〈Next Commons Lab〉遠野のメンバーたち。(写真提供:Next Commons Lab)

このプロジェクトの中心を担うのは〈Next Commons Lab〉(以下NCL)というプラットフォームだ。発案者である林 篤志さんは、自らも遠野市に移住し、リサーチを重ねながらそのプランニングを行った。遠野市で始まったNCLは、現在奈良県の奥大和地域や石川県の加賀市、宮城県の南三陸町など、日本各地のさまざまな地域でプロジェクトを進めている。

そもそもNCLとは何ぞや?

革新的な地方活性の試みや地方創生の文脈で注目を集めているが、単なるイカした名前の地域づくりの会社ではない。

「僕たちの目的は、あくまで『ポスト資本主義社会』を具現化していくこと。NCLというプラットフォームを使って、異分野で活躍するクリエイターや起業家、最先端の技術と知見を持った企業、地域の資源や人材をつなぎ合わせ、新しい働き方や暮らし方を実践するための場所です。

『ポスト資本主義社会』とは、現在の国家や資本主義市場をひっくり返すとか、否定するということではなく、新たな社会構造=オペレーティング・システムを持つこと。

そのシステムでは、各地のNCL拠点に共通の価値観を持つ人々が集まり、小さな拡張家族的コミュニティがつながって、人材・情報・知見が自由に行き来することができる。

現在、各地でNCLが行っている活動は、そんな新しい社会インフラをつくるための実験の場です。今後は、段階的に既存の貨幣システムだけに頼らない新たな通貨システムなども導入したいと思っています」

「NCLを機能させるためには、3つの機能が必要です。

1つ目は、インキュベーション。既存の『地域おこし協力隊』制度を活用した『ローカルベンチャースクール』の展開、民間企業との積極的なコラボレーションによって、起業家の能力開発や事業創出サポートを行います。

2つ目は、人と人のマッチングを促すためのコミュニケーション。テクノロジーを用いた地域資源の可視化と、NCLメンバーを中心とする人々のニーズやスキルのマッチング・プラットフォームの開発を行います。

3つ目は、インフラの整備。使われなくなった学校などの遊休施設や、空き家をリノベーションして、暮らしと仕事の拠点として整備します。誰でも自由に滞在することができるハード面の整備を行っていきます。

現在、NCL全体のネットワークに関わる、東京をベースにして働くメンバーが7名くらい、あとは各地に運営事務局となる現地法人をつくって、3名の常駐スタッフが各プロジェクトを進めています。地域によって、現地法人を立ち上げることもありますし、現地の地域団体などと協働する場合もあります」

遠野市中央通りにあるNCLの拠点〈Commons cafe〉。大正時代に建てられた時計店をリノベしたもので、1階は地元の人をはじめ誰でも気軽に立ち寄ることのできるカフェ・スペース。2階はメンバーが使うコワーキング・スペース。遊休物件のリノベ&サブリースは、NCL各現地法人の事業として行う。(写真提供:Next Commons Lab)

「ポスト資本主義」「拡張家族的コミュニティ」「実験」……。一見すると、NCLは非常に理想主義的で実用性を伴わない活動をしているように思えるかもしれない。しかし、その立ち上げまでの林さんの活動を知ると、それが地に足のついた、一般市民である私たちにとっても共感できる取り組みであることが実感できる。

家具メーカーの〈IDEE〉創業者の黒崎輝男さんと林さんが中心となって立ち上げた〈自由大学〉。「大きく学び、自由に生きる」をテーマに、知的生命力がよみがえるユニークな学びの場を展開する。

“自由大学”発、“土佐山アカデミー”経由“NCL”行き

NCLの立ち上げは2016年だが、構想のきっかけは遡ること2009年。誰もが教授・学生になれる、新しい教育の場〈自由大学〉の創立に関わったことだった。

それまで都内の大手IT企業でサラリーマンとして働いていた林さんは、週末に上司や同僚とゴルフに行くような生活にどうしても馴染めず、当時はまだ浸透していなかった“サード・プレイス”をつくりたくて会社を辞め、価値観を共有していた数少ない仲間と自由大学のプロジェクトを企画、その運営に関わっていった。

「仕事のうえでは尊敬できる人でも、やっぱり週末までずっと一緒にいたいという気にはなれなかった。価値観を共有できる人たちに会ったり、そんな場を提供していくことで、今に至る活動を漠然と考え始めました」

その後、「食」に興味を持ち、農作物の在来種や固定種の保存・伝承事業や、各地に広がるオーガニックの取り組みを広げる事業を行う会社を立ち上げた。その活動の中で、日本各地を訪れる機会が増えていった。

「僕は名古屋の北にある一宮市出身で、それまで過疎地と呼ばれる地域に実際に行ったことはなかった。もちろん、情報としては知っていましたけど。実際に訪れて感じたのは、単純におもしろい場所だなということ。

悲観的に見ると、人口減少や耕作放棄地の増加など課題だらけに見えるかもしれないけれど、僕には可能性のある『余白』に思えた。そんな場所で、東京で一緒に仕事をしてきたフリーランスのクリエイターたちを巻き込んで、なにかおもしろいことをやりたいと思うようになっていったんです」

そんな折に、2011年の東日本大震災が発生する。そこで林さんは、以前、仕事で訪れた高知県の土佐山に移住することを決め、〈土佐山アカデミー〉を立ち上げた。

〈土佐山アカデミー〉は、学びの場である「ワークショップ」、移住して活動する人のための拠点として地元の人の家や空き家を借りてリノベーションを行い、シェアハウスとして提供する「ワークステイ」、地方で起業する人に特化した、自分で仕事をつくるスキルを身につけるための「エッジキャンプ」などの活動を中心に展開。コロカルでも取材(詳しくはこちらを)。

「自由大学の時は、家と会社の往復だけじゃない場所をつくりたいというのがあったけど、根本的に暮らしとか生き方を変えるところまでは至らなかったんです。

土佐山は、人口1000人の小さい村で、そういう日本の村社会にこそ、ヒントがあるんじゃないかと思った。中山間地域の自然のなかで、自然主義をうまく取り入れながら生きている人たちに学びながら仕事をつくっていく受け皿をつくるのが〈土佐山アカデミー〉の目的で、これまで延べ6000人くらいの人に来ていただいていて、約30組が移住しています。

土佐山にどっぷり2年半暮らして、ひとつの地方から社会全体に与える影響力が小さいと感じました。土佐山をはじめ、せっかく各地のプレイヤーがおもしろい活動をしているのに、それらが点になってしまっている。全国で連携できる仕組みが必要で、もっとたくさんの人に活動を知ってもらって、関心を持った人たちが実際に動ける社会インフラをつくりたいと思うようになりました」

思い立ったらすぐ動く、そのフットワークの軽さには驚かされる。土佐山アカデミーで始めた「点」の活動を「面」としてのネットワークにしていくため、東京に拠点を戻す。それが2013年のこと。そこから、現在の活動に至るNCLのコンセプトをまとめ始め、2015年に遠野へ移住した。

「遠野には、特に地縁や血縁があって移住したわけではないんです。その年に結婚して、『別に東京じゃなくてもいいよね』なんて話を夫婦でしていたんです。それで、それまでにお互いに関わりのあった遠野に拠点を移そうかという感じで住み始めました。結果的にここ数年考えてきたNCLのコンセプトを条件の合った移住先の遠野からスタートすることになりました」

続・遠野物語

遠野に拠点を移した林さんは、約10年にわたるコミュニティや地方経済づくりの経験に裏打ちされたNCL構想を実行に移す。前述した複数のプロジェクトテーマを設計。他地域でも採用できる汎用性のある仕組みを、行政やパートナー企業、地元のプレイヤーも巻き込み、ビジョンに共感し集まった起業家たちとNCL第一弾の活動をスタートさせた。

遠野に集まったメンバーのなかに、もともとその地域に深いつながりがあった人はほとんどいない。土地ではなく、その地域が持つ資源や可能性、NCLという取り組みに惹かれ、多くの人材が集まってきている。

「例えば、遠野にはすばらしい発酵料理の料理人がいます。でも、どうしてその人がおいしい『どぶろく』や『熟成肉』をつくれるのか、その発酵の過程で何が起きているのか、明らかにされていません。そんな未知の部分から応用可能な製造条件を導き出し、おいしさを決めている要素を明らかにする。

これまで経験に頼ってきた部分を解明できれば、遠野だけでなく、各地で発酵技術を高める基礎になりえる。発酵のように土地やつくり手による独自性の高い生産技術は、グローバル化された世界においても揺るがないし、さらに価値を持つ技術になっていくと思うんです」

「遠野では、発酵の達人として知られる〈とおの屋 要〉の料理人/醸造家・佐々木要太郎さん指導の下で、どぶろくづくりや発酵技術の習得と発酵文化の発信を目指すメンバーを採用しました。プロジェクト・パートナーには、佐々木さんのほかにも〈ロート製薬〉を迎えています」

超低コスト住宅の実現で、解決できること

「超低コスト住宅プロジェクトは、地方への移住のハードルになる住宅問題を解決する側面もあります。遠野もそうなのですが、市内に空き家があっても倉庫として使っていたり盆正月には家族が帰省したりと、なかなか借りることができないことが多い。

そこで、自動車の価格と同程度の180万円で住める低コスト住宅を開発しています。住居を見つけるハードルが下がれば、地方と都市、地方と地方の人の移動が活発になるはずです」

現在は、初号のモバイルハウスを完成に向けて製作中だ。低コスト住宅というキーワードは、NCLが隈健吾都市建築設計事務所をパートナーに南三陸町で進めているFSC認証材を使ったモジュールハウスを開発するプロジェクトともリンクしている。

そもそも、180万円というローコストで住める住宅をつくるには、家を手に入れる過程や必要な機能の絞り込み、使い方そのものを考え直す必要がある。

NCLの各プロジェクトをよく見てみると、地方の課題解決を目指すビジネスを通して、「ポスト資本主義社会」に向けた考え方や生き方やそのものを身近な問題として具体的につくり直していくためのインフラを開発しているのだということがわかってくる。そこに意義を見いだす人が増えてきていることは、遠野という場所での起業に83人もの応募があったことが証明しているのかもしれない。

※遠野におけるそのほかのプロジェクトの進展に関しては、こちらをご覧ください。https://note.mu/ncltono/n/n5ed61c4b69a5

日本の地方で生まれたシステムは、グローバルにつながっていく

「地方」の先に、ポスト資本主義社会の具現化に向けて構想を掲げる林さんは、今後どこへ向かっていくのだろうか。

「既に進めているプロジェクトすべてが順調に進んでいるとは言えませんが、3年後の2020年には全国で大小さまざまな100か所のNCL、1000人の起業家、10000人のコミュニティを目指して、着実に、スピード感を持って進めていきたいですね。

僕たちの目標は、多くの人が当たり前に使うインフラサービスを構築していくこと。例えばVISAカードのユーザーは、社長は誰かとか気にしないじゃないですか。 今はまだ、『林さんたちがやっていることは、地域創生だね』という感じですが、誰が考えたシステムなのかは関係なく、NCLのインフラが誰でも使えるようなものにしていきたいです。

それから、今、日本を舞台に取り組んでいることは、近い将来に海外でも必ず必要とされるようになるんじゃないかと思います。すでに台湾でプロジェクトを始めようと動き出しています」

オランダの建築家レム・コールハースが「世界の95%は田舎なのに、そこにひずみが生じている。(地方の問題を)考えないほうがおかしい」と以前どこかで言っていたが、日本で地方の課題に各自が未来志向をもってそれぞれ対応していくことが、より密接に世界の人と協力することにつながるこの時代。NCLの新しい社会システムを模索する実験は、参加してみる価値大だ。

※2017年8月10日現在、奥大和、加賀、南三陸、弘前、台湾などで、ラボメンバーや起業家を募集中。詳しくは、こちらでご確認ください。

profile

Atsushi Hayashi 林 篤志

1985年愛知県一宮市生まれ。豊田高専卒業後、システムエンジニアを経て独立。2009年に自由大学、2011年に土佐山アカデミーを共同設立。2016年にNext Commons Labを立ち上げる。国内外の地方を主なフィールドに、「ポスト資本主義社会の具現化」に向け邁進中。

http://nextcommonslab.jp

writer profile

Kei Sato

佐藤 啓(射的)

ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。https://m.facebook.com/InternatinalSkipFederation/   

credit

林さんポートレート:今津聡子 

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