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中島健人はなぜ、挑み続けるのか?夢の海外ドラマ『コンコルディア』を経た、エンターテイナーの現在地

  • 2024年12月1日

Text by 後藤美波
Text by 池野詩織
Text by 野中愛

中島健人が初めて海外ドラマに挑んだHuluオリジナル『コンコルディア/Concordia』が、11月8日からHuluで配信されている(毎週金曜新エピソード更新/全6話)。本作は、ドイツの公共放送局ZDF、中東のメディア企業MBC、フランス国営放送局グループFrance Televisions、日本のHulu Japanの国際的なパートナーシップによって製作された作品。自由で公正で人間らしい社会を保証するため、AIとカメラによって住民の行動が監視されている町を舞台にした意欲的なサスペンスドラマだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』のプロデューサーの一人、フランク・ドルジャーがショーランナーを務めている。


本作への出演が発表された2022年には、「いつか絶対海外ドラマに出るっていう夢があったので、その夢がひとつ叶ったことがすごく嬉しいです」と喜びを語っていた中島。あれから2年。今年3月にグループを卒業し、アイドル、ソロアーティスト、そして俳優として新たな表現を追求し続けている彼は何を思うのか。ドラマ撮影時の苦労や、海外進出にかける思い、そして「愛」を持って取り組む仕事への姿勢まで、中島健人の「いま」をたずねた。


17歳のときにSexy Zoneのメンバーとしてデビューした中島は、すでに10年以上のキャリアを持つ。数々のドラマや映画への主演、グループでの東京ドーム公演など、その経歴には華々しい実績が並んでいるが、初めての海外ドラマとなった本作『コンコルディア』では、メインキャストとして出演することを想像すらしていなかったという。


「本当にすごく良い役をいただけたなって思っていて、『自分でいいの?』と思うくらいでした。出られるとしても1話に2秒くらい登場する、『チェックシャツを着たジャパニーズボーイ』みたいなイメージかと思っていたので、最初に脚本を見たときは『めっちゃ出てるじゃん!』って。すごい役がきちゃったなって思いました」


本作への出演情報が解禁されたのが、イタリア・ローマでクラインクインしたばかりの2022年10月。「あれからもう2年かあ」と感慨深げな表情を浮かべる。


「この2年間で僕はたくさんいろんな出来事がありましたけど、やっぱり当時の経験は残っているし、2年前のセリフをいまだに言えるんですよ。それくらい精魂込めてつくった作品です。僕自身も新人の気持ちで、いままでにない熱量で現場にぶつかりにいったという記憶があります」



本作の舞台は、住民たちの安全や健康を守るために、AIとカメラが住民のすべての行動を監視する街・コンコルディア。20年前に生まれたこの町では、AIが犯罪を未然に防ぎ、病気を予防する。住民たちは監視されることに同意しており、このシステムは社会のなかで何の問題もなく稼働してきたはずだった。


しかし、このAI技術を使ったほかの都市への拡張計画が進むなか、町で初めての殺人事件とシステムのハッキングが発生。コンコルディアはプロジェクトの基盤そのものから危機に瀕する。

中島が演じるA・J・オオバは、コンコルディアのAIシステムをつくり上げた天才技術者。自信家で聡明だが、システムのハッキングによって面目を潰され、事件の解明にあたるなかで恐ろしい真実を知ってしまうという複雑な役どころだ。


役づくりにあたっては、事前にショーランナーのフランク・ドルジャーとリモートでミーティングを行ない、役に対しての認識を擦り合わせていった。


「傲慢で自分自身の意志が強いけれど、クリエイティブでクールでかっこいい。才能の塊だけど野心があって、その野心に飲み込まれそうになるというキャラクターです。ドラマが決まってから、脚本やA・Jのセリフを読んで思ったことをフランクに伝えさせてもらいました。そこでの僕の解釈がフランクの解釈とさほどずれていなかったので、準備としてはお互いに考えの相違なく整えることができたかなって思います」


はじめはクールで少し嫌味なキャラクターとして登場するA・Jだが、 何者かにシステムのセキュリティが破られたことが発覚し、事件が様相を変えていくにつれて、徐々に心の揺らぎを見せるようになる。Netflixシリーズ『バーバリアンズ −若き野望のさだめ−』なども手がけた本作の監督、バーバラ・イーダーが求めたのは、一面的でない彼の内面を表現することだった。


「バーバラからは、焦っているときはもっと人間味のある、自然な感じでやってほしいとか、完璧すぎないところも表現してほしいというふうに言われました。天才であるがゆえの弱みもちゃんと表現しないといけないという考えだったと思います。


(A・Jの心が揺らぐということは)大切にした部分ですね。それがA・Jの魅力というか。欲深さゆえに欲に飲み込まれてしまって、心に潜む悪の要素が出てきてしまうところなど、A・Jは人間の表裏を表すうえでぴったりの役だったと思っています」



天才エンジニアという役の性質上、セリフには専門的な言葉も多く、通常の英語セリフ以上に苦労を強いられた。Sexy Zoneのライブツアー中にも練習を行なっていたそうで、「すごい覚えてるんだよな、あの時期」と中島は当時を振り返る。


「何度もセリフを分解して、研究していましたね。ちょうど2年前の夏だから、Sexy Zoneのライブツアーと並行してめちゃくちゃ練習していました。仙台公演のときは、ホテルの目の前に映画館があって、そのライトに照らされた台本を見ていましたね」


ローマでの撮影が始まってからも、現場で変わるセリフに対応するなど、準備を重ねながら本番に挑む日々。発音について現場で厳しい指摘を受けることも一度ならずあった。


「すごかったですね、めちゃくちゃ厳しかったです。何かあったらすぐ飛んでくるんです。『健人、ここのセリフなんだけど、もう少しプロナウンス(発音)直せる? 難しかったら切ることも可能だけど』みたいな。結構痺れる戦いでしたね」


難しいシーンで助けになったのは共演者の存在だ。ドルジャーはプロダクションノートの中のインタビューで、俳優は監督や脚本家には気楽に話すが、ほかの俳優に頼るのは弱さの表れだと考える人もおり、共演者に演技のアドバイスを求めるのは稀だとしたうえで、「そんななか、健人は、一緒に現場にいる英語を話す俳優たちにアドバイスを求めることを躊躇しませんでした」と中島の様子を印象深げに振り返っている。


「新人の気持ち」で臨んだという中島にとって、良い作品をつくり上げることにおいて、そのようなプライドは不要だったのかもしれない。


「みんなでパソコンを囲むシーンで僕のセリフがうまくいかなくて、何度やっても全然OKが出ないことがあったんです。クリスティアーネ・パウルという『エミー賞』を受賞されている女優さんが今回出演されているんですが、そのときにその方が『リラックスして。こういうことはよくあるから』って話してくれたり、僕のライバル役のスティーヴン(シュテヴェン・ゾヴァー)も励ましてくれたりしました。短いけど大事なシーンで、難しくて。みんなに支えてもらってなんとか乗り越えられたと思います」


うまくいかず悔しい思いをした場面もポジティブに振り返る。


「一番悔しかったのは、なかなか本番を開始してもらえなかったときのこと。監督のバーバラが、僕のA・Jとしての役のテンションが整うまでカメラを回さないって言うんですけど、それが本気で(笑)。リハーサルを12回くらいやったかな。普段は優しい人ですが、そのときは何回やっても『No』って全然カメラを回してもらえなかった。ワンシーンだけですが、みんなが見ているなかで、『健人が整うまで待つ』って僕とバーバラのタイマンみたいになっていたことがありました。あれが一番ハードでしたね。怖かったです。


でも、そこまで僕に本気になってくれたことが嬉しかったんですよ。そうやってしごかれたときも、最終的には『気持ちいい〜』と思いました(笑)」


今作で海外ドラマ出演という一つの夢を叶えた中島だが、彼が海外へと視野を広げるようになったのには明確な転機があった。2020年にWOWOWの番組の出演者として、アメリカの『第92回アカデミー賞』の授賞式会場を訪れたことだ。


この年は、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が非英語作品として初めて作品賞を受賞し、4冠を獲得した年。アジア発のエンターテインメントにハリウッドが沸く様を現地で目の当たりにしたことは、俳優としてもアイドルとしても長年にわたって日本でエンターテインメントに携わってきた中島にとって、それまでの考えを揺るがされるような大きな出来事だった。そのときに感じた焦りや悔しさが、いまチャレンジを続ける原動力になっている。


「まず日本人として、しっかりと日本のエンタメ文化を外国に届けていきたいんです。それはやっぱり韓国の著しい成長がきっかけです。


『パラサイト』やポン・ジュノ監督が受賞して、韓国がアジアのエンタメの代表になったとき、日本人として悔しくないわけがない。4年前にオスカーの授賞式に行ってそれを目の当たりにして、自分はどうにかしていまの考えを変えないといけないって急に気づいてしまった。そういった志を一緒にする人々が集まってきたのが、少なくともここ最近の活動期間でした」


音楽面では、キタニタツヤと結成したユニット・GEMNで7月にテレビアニメ『推しの子』のオープニング主題歌“ファタール”を発表。同月には、主演ドラマ『しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜』から生まれたプロジェクト、HITOGOTOとして“ヒトゴト feat. Kento Nakajima”をリリースした。いずれも中島にとって初となるストリーミング配信がされており、8月には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』のキタニのステージにゲスト参加するかたちで、初のフェス出演も果たした。活動の幅を広げている。


「“ファタール”は、めちゃくちゃバズらせようぜ、届けようぜっていう承認欲求があるキタニタツヤがいたからできたものだと思います。HITOGOTOでも、いま社会のなかで多くの人が思っているSNSにおける嘘と本当に対する感情を曲にしてみたら、それって世界でも共通のテーマだなって思ったりもして。


そういったリアルなものを汲み取って作品にしていきたい。それは、『届けたい』という果てしない欲求から生まれていて、その原点はやっぱり日本のエンタメカルチャーを海外に巻き込んでいきたいということなんですよ」


『コンコルディア』の撮影でも困難をポジティブに乗り越え、成長の糧にしてきた中島。それが可能なのは、自分の中にこうした大きなビジョンがあるからなのだろう。


「本当にそうですね。だから、『あいつ、目標大きすぎるだろ』って言われても、笑われても別に構わなくて、ビジョンが大きくないと面白くない。僕は刺激を受け続けたい人間で、人生は山あり谷ありだけど、山を登っているときが一番楽しいし、出会いがいっぱいあると思うんです。いまは、これまで出会ってこなかった人たちと山頂の景色を見たいって思っているし、その過程のなかで『コンコルディア』という思いがけないチャンスがありました。


海外ドラマに出たい、海外の映画に出たいって散々言っていても普通に出れないでしょって思うなかで、僕が2020年にオスカーを見て焦り出して、英語の勉強をもっと頑張って、仕事で英語のインタビューをやったりして、それを見たフランクがA・Jに選んでくれた。だから全部つながってるなって。ただやっぱり自分で動かないといけないし、人生は1回しかないから、そのまま時間が過ぎていくのは僕のなかではありえないんですよね」



さまざまな出会いを引き寄せながら、前向きに突き進む中島の新たな道のりは始まったばかり。『コンコルディア』も『しょせん他人事ですから』もGEMNでの活動も、一つひとつ愛を持って言及する姿が印象的だ。


過去のインタビューや歌詞などでもたびたび登場している「愛」という言葉が、活動のなかでひとつのキーワードになっているのではないかと問いかけると、驚いた表情を見せてからニヤリと笑った。


「すごいところ突かれたなと思って(笑)。よくお気づきになられたというか、図星です。いま僕が制作している楽曲のサビの頭の歌詞が『愛』なんですよ。(取材は10月に実施)


おっしゃる通り、全部の仕事に対して愛情を持ってやっています。後悔なく、それぞれの現場でしっかりと自分が思い描いたことを形にしたい。それが僕の愛だと思っていて。キタニティ(キタニタツヤ)も『健人さんは未来の自分が充実した姿が見えている。やり切る人だ』って言ってくれたり、ほかの現場でも『愛情があるよね』とか言ってくれたりするんですけど、僕にとってはそれが当たり前なんですよ。


映画、ドラマ、音楽、どれも妥協できないし、適当なのが好きじゃないんです。ブログも毎日更新して8年目を迎えているし、楽曲や振付も自分のエッセンスが入っていないと納得できない。でもそれが自分の愛だと思うし、人のものをそのまま受け取ってやるというのも苦手で」


妥協できないからすべてを一人でやるのではなく、妥協できないからこそ多くの人からの助けを得ながらビジョンの実現を目指していくのが中島流の「愛」の持ちかたなのだろう。その愛は、仕事仲間にも注がれている。


「妥協する人生ができない分、マネージャーさんやチームだったり、周りの方に支えてもらっています。『コンコルディア』のときも共演者に支えてもらっていたし、みんながいるなかでの自分であるというのはすごく感じています。その恩返しに愛って必要ですよね。僕はそこに帰結する。愛を表現する理由はそういうことです」


自分について「周囲の評価は気になるし、承認欲求の塊」だとも語っていた中島。最後に今後に向けた決意を明かしてくれた。


「僕のいままでがフェーズ0だとすれば、次はフェーズ1なんです。自分がいま思っていること、自分から地続きで出てきた言葉やメロディー、表現を形にして世間に届けていく。それはフェーズ0の僕がやってこなかったことなので、フェーズ1ではまずそれを大きく爆発させます」


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