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航空機のパイロットやCA、がんを発症する人が多い? 多量の放射線を被曝

  • 2018年12月17日
  • Business Journal

 飛行中の航空機内では、地上にいるときよりもはるかに多量の宇宙線(放射線)を被曝する。被曝量はコックピットにいるパイロットも客室内の乗客も等しく受けている。

 その理由は、航空機の外壁には宇宙線を遮断する材質が使われていないためだ。技術的には鉛を使った材質にすればいいのだが、それでは機材が重くなり搭乗数にも影響が生じ、ひいては運賃にも跳ね返ってくるので、どのメーカーも対応していないのが実情だ。

●航空機内で浴びる宇宙線とは

 宇宙線とは宇宙空間を飛び交っている放射線のことで、一次宇宙線と二次宇宙線とに分けられる。

 一次宇宙線は宇宙空間に直接飛び交っている放射線で、太陽フレアや超新星の爆発によって引き起こされる。そして、二次宇宙線は一次宇宙線が地球に降り注ぎ大気を構成する元素の原子核と衝突して発生する放射線のことで、私たちがレントゲンをとるときに浴びるガンマ線や、東海村のウラン加工会社JCO臨界事故で作業員が浴びた中性子線といったものが含まれる。

 宇宙から飛来する一次宇宙線は、大気上層の窒素や酸素などの原子核と衝突することによって消滅し、直接地上に降り注ぐことはなく、民間航空機が飛行する高度1万2000メートル程度の上空にもほとんど存在しない。

 一方、大気上層で発生した二次宇宙線は、大気による吸収が少ない分、上空ほどその量は多く、地表に近づくにつれて減少するものの、一部は地表にまで到達する。つまり、二次宇宙線は私たちが暮らす地上にも存在し、そして、高度が上がれば上がるほどその量が増えていくことになる。

 また、宇宙から地球に降り注ぐ一次宇宙線が地磁気の影響で北極と南極に集中することから、二次宇宙線の量は、たとえば高度が同じ場合、緯度が高くなる(磁極に近づく)ほど多くなる。結局、私たちが飛行中に浴びる宇宙線とは、宇宙から飛来する一次宇宙線が大気と衝突することによって発生する二次宇宙線という放射線であり、その量は高度が高いほど、また、緯度が高いほど多いということになる。

●被曝量とがん発生との関係

 乗務員の被曝について、日本では過去、日本航空のニューヨーク便などで実際に測定したところ、往復(26時間)のフライトで被曝量は約92マイクロシーベルトであった。これらのデータを基に、文部科学省が事務局を務める放射線安全規制検討会は2004年6月23日、「飛行時間900時間で6ミリシーベルトの被曝」「同200時間で1ミリシーベルト」という発表を行った。

 これらを年間約800時間の搭乗業務を行う乗務員にあてはめると、最低でも年間で約4ミリシーベルトという値になる。ちなみに、原子力発電所で働く職員の年間平均被曝量は約1ミリシーベルトといわれているので、この約4倍といえる。さらに、地上で誰もが受ける自然放射線、バックグラウンド放射線の2.2ミリシーベルトが加わるので、原発職員で約3.2ミリシーベルト、飛行機の乗務員は約6.2ミリシーベルトという結果となる。

 現場の乗務員の間では、これらのデータや実際にがんを発症させる同業者の多さから、平均寿命は他の職業の方より短いと囁かれてきた。実際、私の周りや先輩乗務員を見ても、定年が近づくにつれてがんを発症する方が多く、とりわけ甲状腺など、上半身のがんで苦しんでいるケースが多いという印象を受ける。

 しかし、残念ながら乗務員の平均寿命や宇宙線によるがん発症率についての臨床データが少なく、国際的にも共通の知見が示されていないので有効な対策が打ち出されていないままだ。

 このようななかで、NASA(米航空宇宙局)のように分析と対策に努力している機関もある。NASAが発行する「NASAサイエンスニュース」によると、影響緩和策として、宇宙空間での「放射線現況図(NAIRAS)」の早期実用化と活用が浮上している。その問題を提起したNASAの上級科学者クリス・アルテンス氏が所属しているラングレー研究センターでは、「地上に比べ高度1万メートル以上を飛行するジェット旅客機のパイロットの放射線被曝量は、地上に比べ10倍以上に膨らむ」とされ、元凶は宇宙空間から常時降り注ぐ宇宙線と太陽が放つ太陽放射線であるとしている。

●乗客にとって最大の恐怖は太陽フレア

 これに対し、旅客は乗務員よりも搭乗頻度が低いから安心というわけではない。約11年周期で太陽から大量に降り注ぐ太陽フレアによって、1回のフライトで乗務員が浴びる1年分の量を被曝すると警告する専門家もいる。太陽フレアは、太陽黒点の周囲において、上空のコロナに蓄えられた太陽磁場のエネルギーが短時間のうちに解放されることによって起こる巨大な爆発現象とされており、大量の高エネルギー粒子が瞬時に惑星間空間に放出される。

 その一部は地球の磁気圏に侵入し、まれに大気圏内の宇宙線強度を大きく上昇させることがある。こうした事象は「Ground Level Event(GLE)」と呼ばれ、地磁気緯度の高い地域で中性子線量の顕著な上昇をもたらす。フランスの研究グループはパリ〜サンフランシスコ間の飛行で観測史上最大級のGLEに遭遇した場合、1フライトで4.5ミリシーベルトの被曝を受けると推定している。

 これら太陽フレアに関する所見を前提とすると、フレアの激しい期間に何回も出張などの仕事で航空機に搭乗すると、がんを発症させる確率も急激に上がることになるので注意が必要となる。

●航空会社が当面実施すべき対策

 世界の航空業界が取り組むべき課題は多い。

 まず中長期的には航空機の改良である。近年は軽量化のために胴体や翼に炭素繊維材を用いる設計が増えているが、宇宙線を遮断できる材質の研究も急がなければならないだろう。次に当面の対策としては、放医研・宇宙放射線防護プロジェクトの専門家が「被曝が一部の人に集中しないように、宇宙線の強い路線と弱い路線を組み合わせるローテーション勤務が有効」と話すように、まず乗務員に関する具体的な対策が求められている。

 そして乗務員のみならず一般旅客に関しては、太陽フレア期における対策が必要である。航空会社としては、まず太陽フレアが激しい時期には、その影響を受ける便の機長に事前に知らせるとともに、飛行計画では巡航高度について3万3000フィートを上限とするほうがよいだろう。一般的に、被曝量は高度が3万5000フィート以上で急激に増えることがわかっているからだ。

 特に日本から米国やヨーロッパに向かう便は、被曝量の多い高緯度を飛ぶので巡航高度で対応するしかない。ちなみに3万3000フィートという巡航高度は、米国東海岸やヨーロッパの各都市まで燃料的に十分届く、つまり燃費上は完全に問題のない高度である。必要となれば機長と協議して追加の燃料を搭載したり、貨物の量を減らすなどして運航を行えばよい。しかし、次に述べるスーパーフレアには現在のところ手の打ちようがない。

●スーパーフレア

 2012年5月、京都大学の研究チームが驚くべき発表を行った。超巨大な爆発現象「スーパーフレア」が太陽の表面で起こるかもしれないとの解析結果を、京大付属天文台グループがまとめ、16日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表したのだ。

 グループの柴田一成教授(太陽・宇宙プラズマ物理学)らは、NASAの惑星探査衛星「ケプラー」が09年4月〜12月に観測したデータを利用。地球から数百〜千光年離れた天の川銀河系にあり、大きさや表面温度が太陽と似た「太陽型星」約8万3000個を対象に、30分ごとの明るさの変化を解析した。

 その結果、148個の表面でスーパーフレアが365回起こっていた。太陽型星のスーパーフレアの原因は、星と惑星それぞれの磁場の相互作用とされ、発生にはホットジュピターと呼ばれる、恒星の近くを回る巨大惑星の存在が必須と考えられてきた。

 しかし今回、スーパーフレアが確認された太陽型星でホットジュピターは見つからず、太陽でもスーパーフレアが起こる可能性が出てきたとみているのである。

 太陽型星におけるスーパーフレアの規模は、最大級の太陽フレアの数百倍〜数千倍の超巨大なものだ。これまで9例しか見つかってこなかったので、詳しい統計的研究は不可能であったが、今回、初めて太陽型星におけるスーパーフレアの統計的研究が可能になったのだ。

 つまり、太陽にもっともよく似た銀河系の148個の星でスーパーフレア(爆発)が起こっており、太陽でもいつ起こってもおかしくないというのだ。その頻度は、1000倍のフレアは5000年に一度、100倍のフレアは800年に一度だという。

 もし、このようなスーパーフレアが太陽でも起こったらどうなるか。専門家はすでに次のような可能性を指摘している。

 たとえば、世界各地で停電や通信障害が起きる。爆発の熱で真冬を真夏に変えるほどの気候変動が起こる。オゾン層が消滅して、地球上の生物は数カ月のうちに絶滅する。もちろん航空機に乗っていると深刻な放射線被曝が発生するという指摘も含まれているのだ。

 スーパーフレアがいつ起こるかは誰にもわからない。しかし、太陽フレアは約11年周期で確実に繰り返されていて、今後、その周期が早くなったり規模が大きくなることは十分予想される。

 東京電力福島原発の事故を経験しても、なお経済とのバランスを口にする政治家や科学者もいるが、放射線というものに対し、今こそ真剣に向き合う必要があるのではないだろうか。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

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