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子どもがいる夫婦と他人が暮らすシェアハウス 100万円で家を買い週3日働く女性 

  • 2018年10月30日
  • Business Journal

●1.リノベーションをして住む

 当サイトでの連載も含めた各種レポートをまとめた拙著『100万円で家を買い、週3日働く』が10月16日に光文社から出版された。タイトルになっている「100万円で家を買い」は横須賀の丘の上に築60年以上の平屋の一戸建てを100万円で買った女性の話。主要な道路から坂道を歩き、最後に階段を140段も昇らないとたどり着かないところに建っているため、高齢者の増えた現代では買い手が付かず、安く売られていたのだ。それを、リノベーションが好きな彼女は2年ほどかけて自らの手で改修し、自分好みの家を造ってしまった。

 せっかく自分が気に入った家を造ったのだから、家で過ごす時間を増やしたいと、週5日働いていた会社を、社長に交渉して週3日だけ働く条件に変更。さらに今年は週1日しか働かなくなったという。
 
 もちろん彼女はこの家とは別に、浅草のほうにリノベーションしたシェアハウスを経営している。そこからの収入もあるからできる生活ではあるのだが、しかし、なんと彼女は横須賀の家を友人2人に貸し、今は沼津に移住してしまった。

 家を買う、所有するということに重きを置く価値観が彼女にはないのだ。

 房総に8700坪の土地を買った女性は、最初は生物好きな子どものために田舎暮らしを考えて、最後にたどり着いたのが房総の土地付き、山付き、墓地付き農家の古民家だった。そこで10年ほど子どもと夫で週末暮らしをし、動物、植物、農業とふれあい、川遊びをし、満天の星を眺める暮らしをした。

 子どもたちは成長し、生き物遊びはしなくなったが、彼女は房総をもっと多くの人に知ってほしいとNPOを立ち上げ、東京など都会の子どもたちの自然体験学習を企画するなど精力的に活動している。

●2.生活を見直す

 福岡県の糸島市に東京から移住した女性もいる。彼女は古民家を借りてシェアハウスを運営し、夫とシェアメイト数人と暮らしている。春夏はコメをつくり、梅やビワなどを収穫し、冬にはイノシシを狩猟して自分でさばいて食べるという暮らしをしている。

 シェアメイトは外国映画の字幕づくり、デザインなどの仕事をしている。パソコンさえあれば世界中とつながって仕事ができるから、田舎暮らしでも大丈夫なのだ。

 以上の3人の女性に共通しているのは、3.11の震災が自分の価値観を見直す大きな契機となっていることだ。自分たちの暮らしが自分たちの知らないうちに、見えないところで動かされている、ということへの恐怖と反省が彼女たちにはあるのだ。自分たちの使う電力が福島や新潟などの地方につくられたたくさんの原発に支えられていること、それらの土地が東京で消費をする食糧も供給していること、それをあまり意識せずに暮らしてきたことへの反省。

 さらにいえば自分が着る服や履く靴が世界のどこかで貧しい子どもたちがつくっていること。そういうふうに、自分が口に入れるもの、着るもの、生活の全体が自分たちの目が届かないところ、知らない世界によって支えられており、逆にいえば、自分たちには自分たちの生活を自分自身では何もつくることができないという一種の無力感が、彼女たちの行動の原動力になっている。

 つまり、自分たちの生活をどれだけ自分たちでつくれるのか、という生活実験をしてみたという気持ちが彼女たちに共通しているのである。

●3.生活実験

 生活実験という言葉は、本書をつくる過程での取材で何度か聞いた言葉である。「okatteにしおぎ」は、ある女性が、自宅を改装してコミュニティキッチンをつくり、赤の他人が会員となって、みんながひとりひとり料理をつくってみんなで一緒に食べるという活動とするコモンスペースである。今では料理だけではなく、映画上映とか各種のワークショップとか、いろいろな活動をしている。会員も100人を超えた。ある会員は、これは生活実験だねと言ったという。

 都心近くの墨田区で、古くは町工場や倉庫がたくさんあった地域で、「喫茶ランドリー」という場所をつくった事例も「実験だ」と主宰者の女性は言う。喫茶ランドリーとは、コインランドリーのまわりにカフェをつくり、さらにそこに来た人が何をしてもいいという場所である。パソコンで仕事してもいいし、子どもがうろうろしていてもいいし、パンをこねてもいいし、歌声喫茶にしてもいいし、ディスコにしてもいい。自分がつくった雑貨を売ってもいい。「ノールール」をコンセプトにして、まったく自由に場所を使ってもらったところ、近所の新しいマンションに住むママたちを中心に近隣の人々がその場所を使いこなしたのである。

 okatteにしおぎと喫茶ランドリーに共通しているのは、家事を家の中から解放するという点である。仕事だけしている男性には気づきにくいが、家事や育児は家の中という閉鎖空間の中で行われることが多いために、特にマンションに住んでいると、女性は鬱屈しストレスを感じる。食事をつくろうと、パンをこねようと、洗濯をしようと、ミシンをかけようと、パソコンで仕事をしようと、誰も見ておらず、誰もその仕事を評価しない。これがけっこう孤独感をもたらすらしいのだ。

 ところが喫茶ランドリーでは、家の中に隠されていた仕事がみんなの前で公然と行われる。ガラス越しに外からだって見える。それによって、家事が、八百屋や魚屋やクリーニング屋やカフェのように、外から見える仕事になる。そして仕事が外から見える街は、街として生き生きとする。

 そういう意味では、okatteにしおぎや喫茶ランドリーは、都市の実験でもある。

●4.小さな経済圏

 もうひとつ本書の事例で面白いのは、結婚したカップル2組とあと数名が一緒に住むシェアハウスだ。しかも1組はもうすぐ子どもができるが、子どもができてもシェアハウスに一緒に住むという。あと1組のカップルも子どもができたら、そのまま住むというのだ。結婚した夫婦とその子どもだけで構成される核家族とは対極の「家族」のかたちである。「親以外の複数の大人たちに囲まれて子どもが育つとどうなるのか、楽しみだ。子どもが2人になったら、血のつながっていない子ども2人の子ども部屋をつくりたい」とシェアハウスを運営する女性は言う。

 さらにこのシェアハウスでは、管理栄養士の女性も住んでいて、たいへんにおいしい料理をつくる。彼女がシェアメイトのために食事をつくったときは、その代金を家賃から差し引く。カメラマンもいるので、写真を撮ってもらう仕事を発注したときも、家賃から差し引く。雑貨をみんなでつくって売ることもある。シェアメイトの実家の農家から食べ物が送られてきて、それも家賃から差し引かれたり、その農家に別のシェアメイトが農作業を手伝いに行くこともある。

 つまり、このシェアハウスは、単に一緒に住む場所、家賃を払うという意味で消費する場所ではないのだ。むしろここは、生産・労働する場所でもあり、生産・労働が相互につながる場所でもあって、ひとつの小さな経済圏としてお金と人間関係が循環するような仕組みになっているのである。

 その他にも本書では、郊外のニュータウンでの新しい試み、都心の古いビルを活用した「現代の長屋」ともいうべき新しい試みなどを数多く紹介している。そのいずれもが、上記のような生活実験や小さな経済圏という特徴を持っている。消費社会が爛熟したバブル時代から30年、平成時代が生み出したものはまさに、単なる消費社会とは対極の、小さな経済圏をつくるための実験という現象だったのだ。

 グローバリゼーションによって世界中が均質になり、ますます自分の生活の背景が見えにくくなっている時代だからこそ、自分が実感を持って生きられる場所をつくり出すことが求められているともいえるだろう。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

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