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「弱いつながり」のほうが有益な情報を提供してくれる…ネットワーク理論の研究で判明

  • 2018年10月18日
  • Business Journal

 アマチュアスポーツ界における組織上層部によるパワハラ問題や、独裁的な経営がされている組織における不祥事などが、ワイドショーや新聞紙上を賑わせています。

 しかし、こうした一連の騒動は氷山の一角にすぎず、日本社会全体に “組織の金属疲労”が起きているのではないかと思います。そうした日本の組織で起きている事象は、世界のトップスクールで教えられてきた経営学、社会学の理論を学ぶことでより深く理解できます。具体的には、社会学を中心として今や学際的な研究分野となっているネットワーク分析に関する理論(以下、ネットワーク理論)と、世界の時価総額上位を独占するグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなどGAFAと呼ばれる企業に共通するプラットフォーム戦略です(プラットフォーム戦略は株式会社ネットストラテジーの登録商標です)。

 まずはネットワーク理論について簡単にご紹介しましょう。

 ネットワーク理論とは、「現実世界に存在する巨大で複雑なネットワークの性質について研究する学問」と定義づけられます。社会学者を中心として、数学者、心理学者など、さまざまな分野の学者が日夜、研究を積み重ねている分野です。

 英語でネットワークとは、網や脈という意味です。私たちの周りには、数多くのネットワークがあります。本書のテーマである「人と人とのつながり=人脈」だけでなく、電力網、航空網、放送網、電話網などのインフラから、インターネット網、さらには人間の神経細胞、食物連鎖、生態系、伝染病の感染経路など、無数のネットワークが存在しているのです。

 それらのネットワークはとても複雑な構造をしていますが、実はよく見ると「何かと何かの関係性」についての「一定の共通の性質」を持っていることが、研究によって明らかにされてきました。

 簡単に歴史を遡ってみると、ネットワーク理論に関する研究は、18世紀が生んだ天才数学者といわれるレオンハルト・オイラーによる「グラフ理論」という有名な理論に行き着きます。このグラフ理論というときの「グラフ」は、私たちが日常的に使っている棒グラフや折れ線グラフとは、意味が異なります。

 たとえば、よく目にする鉄道網の図では、現実の方位や距離などは厳密に考慮されておらず、単純化・抽象化されています。それでもそうした図が役に立つのは、たとえば「東京駅と上野駅は山手線では何駅離れているか」「移動するのにどのくらい時間がかかるか」「地下鉄の丸ノ内線に乗り換えるためには東京駅で乗り換えればよい」というような情報がそこから読み取れるからです。駅の区間が実際には何キロメートルある、あるいは線路が厳密にどの方向に向かっているなどは、さしあたっては問題ではありません。

 つまり、その図において重要なのは、「点」で表されるもの(この場合は駅)がどのように他の点とつながっているか、ということだけなのです。こうした「点」とこれらを結ぶ「線」からできる図形のことを、オイラーは「グラフ」と呼びました。

 このとき「点」のことを頂点(ノード)、ノードとノードとを結ぶ線のことを辺(エッジ)と呼びます。そしてノードとエッジでつくられたつながりのことを「紐帯(ちゅうたい)」といいます。グラフ理論とは、このような頂点のつながりの関係を表現し、研究する分野のことです。

 古くは18世紀からネットワーク理論は存在したものの、それが急速に注目を浴びてきたのは1998年以降であり、かなり新しい研究分野ということができるでしょう。

 ネットワーク理論の特徴のひとつは、その人(ノード)のプロフィール自体には「関心をもたない」ということです。

 たとえば、皆さんがフェイスブックのようなSNSで知らない人から「友達申請」を受けたとしましょう。そのとき、どう行動するでしょうか。ある人は、知らない人はすべて無視するかもしれません。ある人は、とりあえず申請者のプロフィールを見て、どんな人だろうかと推測するかもしれません。ある人は、共通の友達がどのくらいいるのか、その人の友達にはどのような人がいるのかをチェックしたり、友達の数やフォロワー数を確認したりするかもしれません。それらの数が多い人は人気があって信頼できる人なのではないか、と考えて、実際には面識がなくても「友達申請」を承認することもあったりするでしょう。

 ここにこそ、ネットワーク理論の本質があります。繰り返しますがネットワーク理論とは、ある人の友人関係などその人と他人との関係性に着目して、その人自体を理解しようとする学問なのです。言い方を換えれば、「つながりを分析することで対象となる人やものを理解する」学問であるともいえるでしょう。

 そして、なぜネットワーク理論が、その人のプロフィール自体には関心を持たないかといえば、「性別や年齢など個人が生まれ持った先天的な要因や、その後の学歴や職歴や経験などの後天的な要因よりも、その人の持つ他人との関係性、すなわちネットワークが、その人の行動などに大きな影響を与える要因になる」と考えるからです。

●「弱い紐帯」がもたらしてくれる絶大な力

 1973年、アメリカの社会学者であるマーク・S・グラノヴェッターは、「弱い紐帯の強さ(“The strength of weak ties”)」という論文を世に出しました。この研究成果は、その後のネットワーク理論に多大な影響を与え、現在でもネットワーク研究の金字塔といわれています。この「弱い紐帯の強さ」とは、企業(雇用者)と社員(被雇用者)のマッチングメカニズムを明らかにするために行った実証研究から導かれた仮説です。

 わかりやすい事例で説明しましょう。たとえば、あなたが転職を考えているとき、どんな人に相談するでしょうか。おそらく身近な信頼できる友人や家族、あるいは仲のよい先輩などにかもしれません。

 しかし現実には、いつも身近にいて、常に情報交換をしている自分と同じような環境にいる人からは、意外に有用な情報を得にくいものです。むしろ、「いつもはそれほど密接につながっていない知人」のほうが、はるかに転職に有用な情報を提供してくれる、ということが、非常に簡単にいえば、グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」の研究成果でした。

 実際の調査は1970年、アメリカのボストン市郊外に住む282人のホワイトカラーの男性を対象に行われました。その結果、56%の人が人脈ネットワークを用いて職を見つけることに成功しましたが、「弱い人脈ネットワーク」から得た情報で転職した人のほうが、「強い人脈ネットワーク」から情報を得て転職した人よりも、転職後の満足度が高いことがわかったのです。

 この事実からグラノヴェッターは、「強い人脈ネットワーク内の情報は既知のものであることが多く、それに対して弱い人脈ネットワークから得られる情報は、未知で、かつ重要なものだからである」という仮説を構築しました。

 つまり、「価値ある情報の伝播には、家族、親友、同じ職場の仲間のような強い人脈ネットワーク(強い紐帯)よりも、多少知っているような人や、友達のその友達のような弱い人脈ネットワーク(弱い紐帯)のほうが重要である」ことを発見したのです。

 さらにグラノヴェッターは、弱い紐帯は強い人脈ネットワーク同士をつなげる「橋(ブリッジ)」としても機能するため、情報が伝播するうえで重要な役割を果たす、としました。これも例で説明しておきましょう。

 あなたはA社に勤めています。A社はどうしても戦略上、B社につながりをもちたいと思っています。しかし残念ながら、A社の社員でB社の社員を知っている人が見当たりません。ところがあなたは偶然にも、B社の社員があなたの兄弟と同級生だったので面識がありました。そうなると、A社がB社とつながりをもつためには、あなただけがブリッジとして機能できることになります。B社の社員とあなたとの関係は兄弟の同級生というとても弱いものですが、それにもかかわらず、A社とB社はつながることができた。これこそ、ブリッジの力です。

 これほどまでに「弱い紐帯」には強い力がありますが、その一方、「強い紐帯」による人脈ネットワークは同質性が高く、求心力は強いものの、逆にそのネットワーク内の人からは異論が出しにくくなり、外部の情報も入らずに孤立を強めていくことが、往々にして起こります。

 毎日同じ職場の人と一緒に仕事をして、夜も一緒に飲みに行き、住まいも同じ社宅であった場合を想像してみましょう。もちろんそれによって意思疎通が容易になり、結束力が生まれるなどのメリットが生じますが、外部の人との出会いや新しい情報を得ることは難しくなります。そうした環境のなかで自分だけ飲みに行かない、という選択肢をとることも、勇気がいるでしょう。

 その意味で、イノベーションが起こる組織とは、弱い紐帯が多数存在している組織である、ということもできると思います。

 グラノヴェッターは「弱い紐帯によって伝達される情報は価値が高い」とも述べています。考えてみれば当たり前で、弱い紐帯の関係性であるにもかかわらず、わざわざ連絡をとるわけですから、その情報は重要なものになるはずです。

 先の例でいえば、わざわざあなたが兄弟の同級生という弱い紐帯の関係にある人に連絡をとるのは、A社がどうしてもB社とコンタクトしたいという背景があるからです。そこでA社からの情報は当然、価値の高いものになるでしょう。またB社からしても、その情報は自社内にはないものになるわけで、同じく価値の高いものになることが多いといえるのではないでしょうか。

 このことが示唆することは、「自社においては同じ部署ではない他部署の人、さらには他社の人との交流を積極的に行うべき」ということでしょう。

●構造的空隙の理論

 さらに、シカゴ大学ビジネススクールのロナルド・S・バート教授は「一部のグループの人間により支配されている組織はパフォーマンスが悪くなる」「企業が競争優位を保つためには、『構造的空隙(くうげき)』が大切である」と提唱しました。

 あるネットワーク内で人と人とがどのくらい密接に関係し合っているかを測る指標のことを、ネットワーク密度といいますが、この密度が濃いネットワークとは、自分の好きな人や同じような考え方をしている人とだけつながっているような人脈ネットワークのことを意味します。それは密度が濃いがゆえに「空隙が小さい」といえます。

 皆さんもSNSなどを使う場合、自分と同じような考え方をしている人とのほうがつながりやすいことを実感されているのではないでしょうか。通常の人脈ネットワークでは自分の好きな人や同じ考えの人とだけつながっていく傾向があるため、自然に任せておくとどうしても高密度かつ同質的になっていきます。

 しかし、こうした「強い紐帯」のネットワーク内においては、自分たちと異なる意見をもつような人とのつながりが弱いことによって、外部からの情報収集力が弱くなります。それだけでなく、こうした高密度のネットワーク内にいると、情報は瞬時に共有化されてしまうために、もし自分が異なる意見をもったとしても、勝手な行動や発言がなかなかできなくなります。

 つまり、高密度なネットワークでは自由に動ける隙間、すなわち「空隙」がなくなってしまうのです。そして一部の人間が支配してほかの人が自由な行動を拘束(制限)されてしまった組織、いわゆるムラ社会になると、まわりの人と異なることをいうと「村八分」になるのです。そうした組織には新しい情報がほかから入らなくなることで組織全体が競争力を失っていくのです。組織が競争優位を確立するためには多様な情報を獲得できる組織にする必要があるのです。

 日本の企業を含めたあらゆる組織がイノベーションを生む輝く組織に変貌するためには、組織を運営する人は経営者を含めて、「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」がいかに大切かを、世界のトップスクールの学者たちから学ぶ必要があるのではないでしょうか。
(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)

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