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日本の自動車メーカーが消える可能性はゼロではない理由

  • 2018年6月8日
  • Business Journal

 自動運転車の開発競争の過熱やEV(電気自動車)の台頭などにより、パラダイムシフトが起ころうとしている自動車業界。

 2017年の世界販売台数の実績を見ると、約1074万台を販売したドイツのフォルクスワーゲンが2年連続首位、16年に三菱自動車工業を傘下に加えたフランスのルノーと日産自動車の連合が約1060万台で前年3位から2位に躍進、12年から4年連続で首位だったトヨタ自動車は約1038万台で3位に後退している。とはいえ、まだまだ世界の自動車市場における日本メーカーの存在感の大きさは健在といえるだろう。

 ただ近年、自動運転車の技術開発が各国で進められ、本年3月にはアメリカのウーバーテクノロジーズの自動運転車が、歩行者を死亡させてしまうという交通事故を起こしてしまったが、世界的に見て自動運転車への期待値の高まりは衰えていない。

 日本でも3月27日、パナソニックが自動運転車の公道実験を初公開し注目を集めていた。パナソニックの自動運転車は、テレビ開発技術で培ってきた映像技術を周囲の景色や人間を識別するレーダーに活かしながら、開発を進めているという。

 また、4月8日には名古屋大学発のベンチャー企業ティアフォーが、電動ゴルフカートをベースに開発した自動運転車を公開。こちらはハンドルもアクセルもブレーキペダルもない近未来的なデザインの国産初・完全自動運転車として話題に。車体上部(屋根)に設置したレーザーセンサーがリアルタイムで周辺状況を認識し、交通標識などを忠実に再現した高精度3次元地図とセンサー情報などを複合しながら、運転制御するというシステムを採用しており、国内メディアがこぞって取り上げた。

●自動運転車ではアメリカ、EVでは中国がリード

 このように多くの日本企業が自動運転技術の開発に乗り出しているが、果たして世界的に競争が激化している現在、日本はどのような立ち位置なのだろうか? 『自動車会社が消える日』(文藝春秋)などの著者でジャーナリストの井上久男氏は、自動運転車やEVの進化を踏まえた自動車業界の動向について次のように分析する。

「まず、自動運転を制御するためのAI開発は、グーグルなどのアメリカのIT企業の技術が格段に進んでおり、牽引しています。一方、EVでは中国メーカーが造るEVのバッテリーの性能が高く、存在感が強いです」(井上氏)

 井上氏が語るように、自動運転車の開発に関してはシリコンバレーの米IT企業らが活発に行っており、例えば先述の名古屋大学のベンチャー企業・ティアフォーの自動運転車は、国内でこそテレビや新聞など数多くの媒体で報じられたが、世界的に見るとさほど話題となっていないのが現状だ。

 次にEVだが、日本ではまだ全体の1%のシェアにも満たないのだが、中国ではコンパクトセダンやコンパクトハッチバックなどのEVタクシーが当たり前になっているなど、EV化の普及が進んでいる。EVは“最先端の車”といったイメージを持つ方が多いだろうが、中国のようなEV普及先進国では旧モデルやリーズナブルなコンパクトカーをベースにし、ローコストで実現させたEVも登場している。

 また、日本で最も売れているEVである日産・リーフが80%まで急速充電するのに40分かかるなど、日本で普及が進んでいない理由のひとつとして充電の待ち時間の長さが挙げられる。だが、中国では充電ケーブルを使わず、電池を交換するだけのモデルも登場しており、電池交換時間(充電待ち)がわずか2分で完了することで人気を集めているのだ。

 そんなEV普及先進国である中国のEVが、日本国内の観光地で導入され始めていることはご存知だろうか。中国メーカーBYD(比亜迪自動車販売)が手掛ける電気バスが、2015年に京都府京都市の路線バスに5台、昨年12月に沖縄県那覇市のクルーズ船代理店に10台納入されているのだ。日本国内でも特に環境汚染問題への意識が高い観光地では、中国メーカーのEVの需要が高まっているということだろう。

●トヨタは全車種を電動専用車、電動グレード設定車へ

 しかし、日本メーカーもただ指をくわえて黙って見ているわけではない。

 特にトヨタは昨年12月、「2030年に電動車の販売550万台以上、EV・FCVは100万台以上を目指す −2025年頃までには、全車種を電動専用車もしくは電動グレード設定車に−」(トヨタ自動車公式サイトより)と掲げている。

 HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCV(燃料電池自動車)などの電動車シリーズの開発・展開により、2020年代での電動車普及を促進させる計画を発表したのである。2025年頃までに、HV・PHV・EV・FCV及びHV・PHV・EVなどの電動グレード設定車を拡大し、全車種を電動専用車、電動グレード設定車にすることで、エンジン車のみのモデルはなくす意向。プリウスなどHVで築き上げたノウハウを活かし、“EV時代もトヨタあり”ということをアピールしていこうという戦略に見える。

 また、前出の井上氏いわく、「EVは二極化する時代が到来するだろうと予想しています。エントリー車的に価格を抑えた“安かろう悪かろう”なモデルが続々登場しつつ、対して“車としての価値”をきちんと提示できるような高級EVも登場するでしょう」とのこと。

 低価格重視でコストを極力おさえたようなエントリーモデルであれば中国メーカーが強いかもしれないが、EVのハイエンドモデルであれば“ローマは一日にして成らず”とばかりに、長年、世界の自動車業界を牽引してきた日本メーカーに分がありそうだ。

●日本メーカーが“組み立て屋”に成り下がらないためには?

 今、大きなパラダイムシフトが進んでいると言われる自動車産業、どのような未来になっていくのだろうか。

 井上氏は、「自動車はもはや“鉄の塊”ではなく“ソフトウェアの塊”になっており、海外ではプラットフォームの座をめぐる争いが始まっています。自動運転車とEVの開発は既存の自動車メーカーだけでは成り立たず、続々参入しているIT企業や新興企業がリードしている面もあるわけです。また、バーチャル・エンジニアリングといって、ユーザーには見えない部分の開発や製造のプロセスもデジタル化で大きく変わってきています」と語る。

 バーチャル・エンジニアリングとは、たとえばパソコン上で路面、天候、スピード、運転者の力量といったさまざまな条件を設定することで動作シミュレーションなどができ、実際に現実の試作車をつくる必要なく開発を進められるというもの。このバーチャル・エンジニアリングを導入することで、試作車をつくらず商品企画段階で仕様をほぼ決定できるため、開発をスピーディーに進められ、開発コストも抑える効果もあるなど、メリットは多大なのだ。バーチャル・エンジニアリングは開発の効率化という枠におさまらず、自動車産業の開発思想を抜本的に変えつつあるのである。

 このバーチャル・エンジアリングにおける先進国はドイツ。実際、昨年9月にフォルクスワーゲングループが、「ITバーチャルエンジニアリングラボ」でバーチャルコンセプトカーを使用し、次期ゴルフを開発していることを発表し、注目を集めていた。試作車を作製することなく、複数のコンピュータに接続したVRゴーグルを装着しエンジニアが開発を進めるバーチャルコンセプトカーは、自動車開発のパラダイムシフトにおける代名詞とも言えそうだ。

 しかし、ドイツをはじめとした欧州ではバーチャル試験のデータが認証試験で認められるようになっているが、残念ながら日本はこういった制度の点でも遅れている。

「このままでは日本のトヨタ、日産、ホンダ、マツダなども徐々に存在感を失っていき、消えてなくなる会社が出てくる可能性もゼロではないでしょう。自動車の部品も海外勢に支配されてしまうかもしれず、日本メーカーは買ったものを組み立てるだけの“組み立て屋”になってしまう可能性も否定はできません」(井上氏)

 ルノー・日産連合が世界2位、トヨタは単独で世界3位など、単純に2017年の販売台数で見れば日本メーカーはまだまだ安泰のように思えるが、油断は禁物だろう。実際、これ以上、後手に回らないようにと手を打っている日本メーカーもあり、「トヨタは米国の半導体メーカーであるエヌビディアと提携するなど、新興勢力とも手を組み始めています。新興企業と日本メーカーが足りないところを補い合うかたちで、パラダイムシフト後の業界で生き残ろうとしているのです」(井上氏)とのこと。

 元日産COO(最高執行責任者)で現産業革新機構会長の志賀俊之氏は、2050年にはガソリンスタンド、運転免許証、信号機、自宅駐車場が消えている可能性もあるとしている。そういった大変革も予想される自動車業界の未来で、日本メーカーが変わらず強い存在感を示していることを期待したい。
(取材・文=A4studio)

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