首都圏、なかでも東京23区のマンション・戸建て住宅価格が高騰するなか、小田原市(神奈川県)に移住するファミリー世帯が増えつつあるという。新幹線を使えば小田原駅から東京駅まで約30分という利便性の良さや住宅コストの低さ、自然の豊かさなどが魅力とされているが、果たして小田原への移住は「アリ」といえるのか。また注意すべき点などはあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
東京23区の住宅の上昇が続いている。2023年に販売された新築マンションの一戸あたりの平均価格は1億1483万円と初めて1億円超えとなった(不動産経済研究所の調査より)。中古マンション価格も平均希望売り出し価格が7551万円(70平方メートル当たり/24年7月/東京カンテイの調査より)となっており、高騰が続いている。
そんななか、特に子どもがいるファミリー世帯の間で、東京などから小田原に移住する人が増えているという。家賃相場をみてみると、賃貸物件検索サイト「ホームメイト」によれば、東京23区のなかで家賃が比較的低めの江戸川区の賃貸物件の平均家賃は、2LDKが12.88万円、3LDKが17.26万円。一方、小田原は2LDKが7.23万円、3LDKが8.68万円となっており、倍近くの差があるといえる(金額は8月22日時点)。
また、小田原駅は東海道新幹線の停車駅であり、東京駅まで33分で合計乗車料金(片道)は自由席が3280円、指定席は3810円(料金は時期によって異なる)。新幹線利用分の交通費が支給され、かつ勤務先が東京駅にアクセス容易なエリアにあれば通勤圏内となってくる。
数百坪の土地を購入して広い庭付きの戸建て子どもがいるファミリー世帯にとって、たとえば東京23区から小田原に移住するという選択肢は「アリ」といえるのか。姫屋不動産コンサルティング代表の姫野秀喜氏はいう。
「私が直接知る範囲でも複数の事例があるので、移住者はそこそこの数いるのではないでしょうか。東京23区の8000〜9000万円クラスのタワーマンションを売却して、小田原に数百坪の土地を購入して広い庭付きの戸建てを建てて移住したファミリーに聞くと、今の生活に満足しているようです。その方の家は小田原駅から車で10〜15分くらいの場所ですが、小田原に移住してマンションに住むという例はあまり聞きません。やはり、せっかく小田原に住むのなら、広い庭付きの戸建てで大きめの自動車を所有して、自然を満喫するというかたちのほうが、より小田原に住むメリットを享受できるかもしれません。今後、東京の企業に勤める高収入サラリーマン世帯にとって、理想的なライフスタイルの一つになっていくかもしれません」
小田原に移住するデメリットとして想定されることはあるか。
「新幹線が止まると出社や帰宅ができなくなるリスクがあるので、勤務先が在宅勤務に柔軟に対応してくれる会社であるかどうかは注意が必要でしょうし、天気予報に基づいて出社日の前日に東京のホテルに宿泊したり、帰宅できなくなって宿泊費の負担が発生する可能性もあります。また、出社の頻度にもよりますが、新幹線通勤の費用を会社が支給してくれるかどうかも確認が必要でしょう」(姫野氏)
柏・流山・柏の葉キャンパス小田原以外で、東京23区から離れていて住宅コストが安く、かつ都心に通勤可能なエリアというのはあるのか。
「まず東京からみて東のほうでいえば、千葉県の柏駅エリアは狙い目です。柏は十分に発展しているものの人口が減少傾向で駅前の百貨店がなくなるなど商業施設も縮小しているため、特に郊外の土地が安くなっており、広い家を建てやすいです。ただ、市街化調整区域が多いため、住宅を建てられる土地を探す必要はあります。JR常磐線快速で上野駅まで34分なので、混雑は避けられないものの都心へ通勤は可能でしょう。
常磐線でいえば、柏より先の茨城県土浦、龍ケ崎、牛久あたりも自然が豊かで住宅コストが低いという意味ではアリかもしれません。個人的には、土浦の霞ケ浦はサイクリングなどをするには最高の場所なのでお薦めです。
同じく東方面で近年、人口が増えているのが、つくばエクスプレス沿線の千葉・流山、柏の葉キャンパスです。特に子育て世帯が増えているため子育てがしやすい点などが魅力ですが、最近では注目されすぎたことも影響して、やや住宅価格が高くなっています。これまであまり開発が進んでいなかったエリアに、つくばエクスプレスの開通を契機として多くのディベロッパーがビジネスチャンスととらえて開発を行い、自分たちの利益を乗せて高めの価格で大量に売っているという面があるという点は留意したほうがよいでしょう。過去に同じようにディベロッパー主導で開発を進めて多くの子育て世帯を集め、現在では衰退してしまった多摩ニュータウンのようなエリアと、同じ歴史をたどってしまう可能性もゼロではありません。
もっとも、流山や柏の葉キャンパスの地域は江戸の時代から東京と結ばれた水運が盛んで発展してきたという歴史と実力を持っており、そうした地の利を考えると、長い目で見て大きく廃れるということはないとは思います。
そして、柏はかつての子育て世帯が子育てを終えて若い人々が流出してはいるものの、これまで街に蓄積されたインフラをはじめとするレガシーが残っており、しかも住宅が安く手に入る状況になっているので、ますますお買い得ぶりが際立ってきます」(姫野氏)
秦野、農業移住の希望者にとっても候補に一方、西のほうはどうか。
「たとえば小田急線が通る秦野などが挙げられます。秦野駅周辺にはコンパクトにさまざまな商業施設が集まっているので生活には困らず、駅近くのマンションから車を10〜15分くらい走らせると自然が豊かな地帯が広がっています。畑を借りられ、農作業のノウハウを教えてくれるところもあるので、農業移住の希望者にとっても候補となるでしょう。駅近くのマンションでも価格は東京の半分ほどですし、週に数日程度の出社でよければ横浜や新宿周辺への通勤も現実的といえます」(姫野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=姫野秀喜/姫屋不動産コンサルティング代表)