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『邪神ちゃん』切り抜き動画投稿など容認、強かな狙い…製作委員会方式への誤解

  • 2022年12月5日
  • Business Journal

「邪神ちゃんドロップキック」(ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキック製作委員会)のサイトより

 テレビアニメ『邪神ちゃんドロップキック』で、動画制作者に向けた斬新な試みが始まっている。本作はユキヲ原作の同名漫画のアニメ化作品であり、オカルト好きの女の子・花園ゆりねに召喚された、下半身が蛇の姿をした美少女悪魔・邪神ちゃんが、人間界でドタバタ劇を繰り広げるコメディ作品となっている。

 原作コミックスの累計発行部数は100万部を突破し、2022年7月からはテレビアニメ第3期が放送された。また、人気バーチャルシンガー・初音ミクとのコラボやクラウドファンディングで出資したファンに対し、タイトル、サブタイトルの命名権を与えるなど斬新な製作体制が話題となっている。

 そんな本作は、第3期放送終了後の9月30日にさっそく第4期の制作に向けて新たな施策を開始。その発表時に公式が公開した二次創作ガイドラインによれば、切り抜き動画、解説動画、考察動画などの二次創作動画を、YouTube、ニコニコ動画で投稿してもいいというものだった。そして、動画で得られる収益の半分を動画投稿者に、もう半分をテレビアニメ制作費に充てる形式となっている。

 これは公式が収益の発生する二次創作動画の投稿を容認したことを意味し、一般的に違法アップロードに該当していたような動画が、『邪神ちゃん』に関しては違法でなくなるということだ。

 Twitter公式アカウントのツイートは、11月25日時点で4.1万「いいね」も獲得し、ネット上ではさまざまな声が寄せられていた。

<動画投稿者も制作側のどちらにも収益が入るWin-Winの関係>

<日本のアニメ業界の製作方式が変わるかも?>

『邪神ちゃん』が打ち出した大胆な方針によって、日本のアニメ産業の仕組みが大きく変わるのかは現時点では未知数ではあるが、珍しい取り組みだと言えるだろう。そこで今回は、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興研究に携わる河嶌太郎氏に、『邪神ちゃん』の取り組みについて話を聞いた。

二次創作合法化はプロモーション戦略の一環

 まず、今回の『邪神ちゃん』の二次創作合法化の狙いはどこにあるのだろうか。

「個人的には、4期製作の布石として話題作りのために行ったという印象です。『邪神ちゃん』はこれまでテレビアニメが第3期まで作られるほど屈指の人気作品。普通3期まで作られるアニメはなかなかないんですよ。

 この時点でかなりのファンを抱えていることが見込めるので、続編製作ができるだけの資金を集められる土壌があるわけです。これまで『邪神ちゃん』はクラウドファンディングやふるさと納税を用いて制作資金を得てきましたが、今回新たにプロモーションもかねて二次創作合法化という大胆な発表を行ったのではないでしょうか」(河嶌氏)

 ちなみに二次創作について公式側が積極的に言及、対応した事例は過去にもある。たとえば、出版、映像、ゲーム事業を行うKADOKAWAは、2008年に「作家の嫌がる二次創作動画は排除するが、作品に敬意があるものは認めていく」との態度を示している。

 また具体的な動きとしては、2016年に開設した同社と株式会社はてなとのタッグによる小説投稿サイト「カクヨム」内で、『涼宮ハルヒの憂鬱』『フルメタル・パニック!』などKADOKAWAのライトノベル9作品の二次創作が解禁。また二次創作動画に関しても、今年の8月には、YouTubeに投稿したアニメ『世界の終わりに柴犬と』の切り抜き動画、ライブ配信での同時視聴をYouTube上で公開することを許可したことも話題となった。

製作委員会方式でアニメカルチャーは発展した

『邪神ちゃんドロップキック』製作サイドの取り組みによって、一部ではアニメの作り方も変わってくるという声もあるが、これは事実なのだろうか。

「アニメは製作委員会方式で作られるのが主流なのですが、それが『邪神ちゃん』をきっかけに変わっていくかといえば、おそらく変わらないでしょう。製作委員会方式とはアニメ、映画、テレビ番組などの映像作品を製作する際、複数の企業に製作費を出資してもらう作り方です。出資企業というと単なるスポンサー的な見方をされがちですが、実質的にはコンテンツの権利を持ってビジネスをしたい企業のこと。つまりグッズ化、メディア展開などを行う代わりに、アニメ製作のためのお金を出資するという関係なんです。

 なぜこのような、場合によっては出資会社の意向が入りそうな体制でもの作りをしているかというと、アニメ製作にはそれだけお金がかかるからです。その費用は現在の相場だと1話作るのにおおよそ3000万円ほどで、1クール作るとしたら3億6000万円以上もかかる計算になります。これだけの金額を賄うとなると、ヒットが確実に見込めるよほどの有名作品でない限り、この巨額の製作資金は企業にとってリスクになります。ですから、多くの企業からお金を集めることでリスクを分散しているわけです。

 事実、製作委員会方式が主流となった90年代以降、アニメの本数はそれまでのテレビ局主導による少数社の製作体制に比べて飛躍的に増え、00年代以降は深夜アニメの数も激増しました。むしろ、製作委員会方式の台頭によって日本のアニメカルチャーは発展したといっても過言ではないんです。近年では動画配信ビジネスの隆盛で変化の兆しもあるにせよ、基本的にこの状況が続いているので、『邪神ちゃん』の取り組みで製作委員会方式が廃れるとは考えにくいですね」(同)

人気作品になればファンの出資金額も増える?

 実は製作委員会方式によって発展してきたというアニメ業界。『邪神ちゃん』の取り組みで業界のあり方が根本から覆る事態にはならなさそうだ。また、今回の『邪神ちゃん』の取り組みで、どれだけ製作費を見込めるのかも未知数だという。

「これまでも個人が作った非公式のMADムービー(無断で既存の映像、音声、画像を編集して、ひとつの動画として再構成した動画)を許可した事例はありますが、それを収益化するとなると、現時点では予測ができませんね。すべての投稿者と個別契約を結ぼうとするのは非現実的ですから、どのように包括的な対応をするのか。これは純粋に『邪神ちゃん』製作サイドの手腕に期待です」(同)

『邪神ちゃんドロップキック』の動画収入による収益モデルについては、実業家・ひろゆき氏が発端となり流行した「切り抜き動画」のビジネスモデルをイメージするとわかりやすいだろう。切り抜き動画は、もともとある人気コンテンツを短く編集、再構成した動画群のことであり、ビジネスの仕組みとしては発生した収益の半分をひろゆき氏といった本人に、もう半分を切り抜き動画の制作者に分配するという割合が一般的とされている。

 現在、切り抜き動画を容認するほとんどの制作者は「ガジェット通信クリエイターネットワーク事務局」に管理を委任しているとのこと。こうすれば、わざわざコンテンツの制作者と切り抜き動画制作者とで許可を得る必要がないので手間がかからないが、『邪神ちゃん』の場合、収益化までのプロセスが不明。仮に組織を通さず個人でやっていくとしたら、とてつもない労力がかかるのは自明だろう。一体、収益化までの仕組みをどのように想定しているのか気になるところだ。

「『邪神ちゃん』は第3期が終わったばかりなので、ブルーレイやグッズの売上など、製作資金を回収するのはこれからになります。これ以外にも製作資金を得る手段を一つでも多く確保しておきたいのは、企業として当然の心理だと思います」(同)

 また人気作品になればなるほどコアなファンも増えていくので、資金も集まるだろうと河嶌氏は語る。

「『邪神ちゃん』は第3期制作のためのクラウドファンディング目標金額である2000万円を、開始わずか33時間で達したコンテンツです。このスピードを見ると、それだけ熱狂的なファンがいる作品であるかがわかるでしょう。

 ファンにとっては、続編が決まることもそうですし、作品のその後に自分が関われることも嬉しい。作品のファンである自分が出資して続編が決まるという体験ができるので、ファンが作品自体に参加するという新しいエンタメ体験を味わうことができます。第4期製作においても動画収入とともにクラウドファンディングを募集しているので、このまま『邪神ちゃん』第4期の製作が発表される日はそう遠くはないでしょう」(同)

『邪神ちゃん』の二次創作動画合法化の取り組みは、一部のネット民が考えるアニメ業界の革新的な出来事にはなり得ないが、『邪神ちゃん』規模の人気作品であれば一定の宣伝効果は期待できそうだ。この試みが成功すれば、人気作品のサブ出資元のスタンダードになっていくということも、あり得るかもしれない。

(取材・文=文月/A4studio)

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