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青森・弘前のコーヒー文化の立役者、コロナ禍&若者のコーヒー離れへの対策

  • 2022年8月29日
  • Business Journal

 秋の味覚として知られる「りんご」――。早い品種は8月上旬から収穫されるという。

 その生産量日本一は青森県で、2位の長野県に大差をつける。なかでも青森県弘前市(人口約17万人)は“りんごのまち”を掲げ、同市役所には「りんご課」という部署もある。

 コロナ前年の2019年9月から10月、筆者も当地で各方面に取材した。時節柄、同市内のカフェは、りんごを訴求したメニューも目立った。現在は、どんな状況なのだろうか。

 取材に応じてくれたのは「成田専蔵珈琲店」だ。創業は1975年で、今年で創業47年。コーヒー豆の自家焙煎を行い、喫茶業も営む個人系チェーン店だ。後述するが、「弘前のコーヒー文化復活」の立役者でもある。

 長引くコロナ禍とどう向き合い、運営しているのか。観光地・弘前の現状とともに紹介したい。

今年も翻弄された「さくらまつり」と「ねぷたまつり」

「いったんは収まりかけたコロナの新規感染者でしたが、3年ぶりに開催された『弘前ねぷたまつり』(8月1〜7日)の頃になると、一気に感染者が増えました。ただ、行動制限がなかったので、市内の喫茶店の観光客は増えましたが、地元客は伸び悩んでいます」

「成田専蔵珈琲店」創業者の成田専蔵社長は、こう話しながら続ける。

「当社も喫茶客が減る一方、店舗での豆販売が堅調で、何十年来のお客さまが定期的に買い求めてくださいます。また、ご家庭で飲用をされる新規顧客も増えています」

 弘前市の観光状況についても説明してもらった。

「弘前市には、さまざまなイベントがあります。なかでも弘前公園で開催される、春の『弘前さくらまつり』の入場者数がもっとも多く、それに次ぐのが夏の『弘前ねぷたまつり』です。2020年にコロナの影響で中止となったさくらまつりは、今年も開催されましたが、花見客は以前に比べて激減。その分、夏のねぷたまつりに期待が高まったのですが、出陣するねぷた(山車)も半分になったため、沿道の見物客も伸び悩みました」(成田氏)

 2019年、弘前さくらまつりの来場者数は約289万人、弘前ねぷたまつりは約168万人を数えた。だが、2022年のさくらまつりは約33万6000人にとどまり、コロナ前に比べて1割強の数字だ。ねぷたまつりの数字は公表前だが、往時と比べて激減しただろう。

「コーヒー豆の卸」「小売り」「喫茶店」「宅配&通販」が4本柱

 こうした一大イベントの来場者数が減るなか、企業業績はどうだったのか。

「当社の業績は、2019年度を100とすると、2020年度は82.1%、2021年度も81.7%でした。この2年は2割減の数字となり、厳しい舵取りを強いられましたが、2022年度上半期はようやく回復。前年同期比で118%まで上がってきました」

 ちなみに同社の業態と、全体に占める売り上げ比率(%)は次のとおりだ。

(1)コーヒー豆の挽き売り:25%
(2)コーヒーを中心にした軽食の提供(喫茶店)=3店舗(すべて直営):10%
(3)全国の喫茶店・業務店向けにコーヒー(焼豆)の卸売り:50%
(4)COOP宅配&オンライン販売:15%

 つまり、「コーヒー焙煎業」の卸と小売りが主力で、コーヒーを中心に軽食を提供する「喫茶業」も営む。COOP宅配とオンライン販売(通販)もコーヒー豆が中心だ。

「コロナ禍では(1)が約2割伸び、(2)が半減しました。(3)(4)はほとんど変わらないので、喫茶店の客数減が大きな影響を受けました」

 厳しい時期も業績が2割減で踏みとどまったのは、4本の柱で支え、リスクヘッジ(危険回避)をしていたからだろう。24歳で起業した成田氏は、こう述懐する。

「創業当時、喫茶店は人気業種でした。でも最初から軌道に乗ったわけではなく、コーヒーを探究しながら、自家焙煎、喫茶、豆の卸販売で、徐々に支持されるようになりました」

史実を基に再現した「藩士の珈琲」

 コロナ禍で売り上げは2割減となったが、岩盤層ともいえる顧客に支えられたという。

「そのありがたい客層の共通項を探ってみると、深いご縁で結ばれていたのです。これまでコーヒーの地域活動を通じて共鳴し合い、人間関係を深めてきた方たちです」

 長年、さまざまな種もまいてきた。十数年前に開発したのが「藩士のコーヒー」だ。

「1807(文化4)年、江戸幕府の命令で弘前藩の武士が北方警備のために蝦夷地(現在の北海道)に赴任しました。すると厳寒の土地とビタミン不足による浮腫病(ふしゅびょう/原因菌は大腸菌で、発症する皮膚の下に水が溜まる)で亡くなる藩士が多かった。その4年前には、蘭学医の著書の中で『浮腫病に珈琲が効く』とも書かれてありました」

 その後、1855(安政2)年の北方警備では、予防薬に珈琲が支給されたという。こうした史実から成田氏が当時の仕様書(レシピ)を基に味を再現。弘前市内の喫茶店に広めた。現在、「藩士のコーヒー」は市内10の喫茶店で提供されている。

 成田専蔵珈琲店 城東店では、「藩士の珈琲体験」(1100円/税込み)もできる。すり鉢でコーヒー豆を粉砕し、土瓶に入れて飲む。現在のコーヒーとは違うが、ネルドリップで抽出したコーヒーも出してくれ、味の違いが楽しめる。

コロナ禍でも、さまざまな集客イベントを仕掛けた

 成田氏は現在、娘の成田志穂氏(常務取締役)と二人三脚で経営を行う。志穂氏はかつてサザコーヒー(本社:茨城県ひたちなか市)で学び、現在は白神焙煎舎を立ち上げ、りんご炭で焙煎したコーヒー豆の販売や、コーヒーをテーマにした白神山地・観光コンテンツの磨き上げなどを行っている。

「地域のコーヒー文化」の視点から、コロナ禍でも、さまざまな仕掛けをしてきた。

「2021年1月9〜10日、2022年1月10〜11日、2年続けて『白神PEAKSフード&クラフトフェスティバル』として、コーヒーイベントを開催しました。場所は弘前市から車で約30分にある『道の駅 津軽白神/ビーチにしめや』(青森県西目屋村)です。

 当日の内容は、(1)コーヒーユニット『紅い果実』のコーヒーパフォーマンス、(2)炭焼き体験焙煎、(3)白神山地の水を使った水出し珈琲の提供、(4)雪室(ゆきむろ)から取り出した熟成珈琲豆の試飲と販売などです。この時期は年間で一番寒さが厳しい時期(−5〜−7度)でしたが、弘前からのシャトルバス運行など集客に努め、両年とも1100〜1200名のお客さまにお越しいただきました」(成田氏)

 自らプロデューサーとして各方面と調整し続ける成田氏は、こんな活動も行う。

「以前に設立した『弘前は珈琲の街です委員会』(会長・成田専蔵)では、市内のコーヒー店18店舗と力を合わせ、抽選で景品が当たるスタンプラリーや、割引券のついたパンフレットを発行して来店を促す企画を立案。第1弾を2021年1月から始めました。第2弾、第3弾と続け、現在は第5弾を11月末日まで開催中です」

都会に比べてパイが小さい分、意図が伝わる

 こうした地道な活動が線や面として広がり、同社の業績にも寄与しているという。

「弘前市の人口は17万人弱、青森県全体でも約120万人にすぎません。でも、イベントを仕掛けるには、こちらの意図が伝わりやすく優位なのです。コーヒーで楽しめることがわかると、お客さまから素直な反応をもらえます。コロナ禍において積極的に仕掛けた『コーヒー人口作り』が、今年になって効果を出し始めました」

 実は青森県は津軽地方を中心に、コーヒーを受け入れる土壌があるという。

「理由のひとつが寒さです。海外でも1人当たりのコーヒー支出量が多い国は、北欧のフィンランドやノルウェーが上位にきます。そして津軽弁で『えふりこぎ』と呼ぶ、見栄っ張り気質の土地柄でもある。弘前には病院や学校も多く、昭和の喫茶店ブームの時代も、医師や教師などのホワイトカラーに支えられた。その気風が残っています」

 一方で気になる傾向もある。喫茶店でコーヒーを飲む客の減少だ。

「昨年、オープンしたグループ店(当社の元社員)の店主は、『コーヒー専門店を目指したのに注文はスイーツばかり。それもインスタグラムで常に新しいものを告知しないとお客さまが途切れてしまう。実態は“インスタ用スイーツ専門店”です』と嘆いていました。また、当社のコーヒー豆を卸す、取引先の喫茶店の週間消費量も減っている状況です」

 筆者の別取材でも「若い世代を中心に、ドリップコーヒーを頼まない」という話は聞く。

「ストーリー性のある商品開発」で生き残る

 リモートワークが浸透して外食回数が減る一方、飲食のデリバリーやテイクアウトが増えるなど、環境が変われば消費者の行動も変わる。同社のコーヒー豆の売れ筋も変わった。

「一杯取りのドリップパックが好調で、この数年で3倍ぐらい伸びています。個食の時代や簡単便利さが支持されており、ギフト商品でも豆の詰め合わせを大きく上回っています。

 当社のドリップパックは3種類。委員会の活動から生まれた、(1)『珈琲の街ひろさき ドリップ珈琲』、前述した(2)『藩士の珈琲』に加えて、新たに(3)『弘大カフェ・Campus2022』も発売しました。弘前大学珈琲研究会と共同開発したもので味づくり、パッケージ、価格などを議論しあい、完成させたものです。8月8日に記者発表会も行いました」

 2019年、同社は焙煎工場である「北の珈琲工房」を弘前市内から西目屋村に移転した。前述の「道の駅 津軽白神/ビーチにしめや」施設内にあり、焙煎体験も受け付けている。

 少し離れた場所には「白神炭工房 炭蔵」と名付けた炭焼き小屋や保管庫もある。ここでは炭の素材にりんごの樹を使い、道の駅 津軽白神で「りんご炭」(3キロ〜 1500円より)として販売する。故事や地域資源に光を当て、ストーリー性のある商品に仕上げるのだ。

 店で出すコーヒーの杯数が減れば、コーヒー豆を強化し、新商品も開発する。新規事業として炭も販売する。弘前のコーヒー文化の立役者は、令和の現在も仕掛け続けている。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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