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日揮のLNGプラント建設技術、世界で需要高まる…注目増す小型原子炉事業でも先行

  • 2022年5月23日
  • Business Journal

 4月に入り国内エンジニアリング大手、日揮ホールディングスが米国と台湾で液化天然ガス(LNG)関連施設の基本設計などを相次いで受注した。また、日揮は再生可能エネルギーや小型の原子炉(SMR)などの新しい取り組みも強化している。同社のビジネスチャンスが拡大し始めたように見える。

 その背景には複合的な要因がある。まず、世界全体でエネルギーの需給はひっ迫している。ウクライナ危機の発生によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。欧州各国がロシアからのエネルギー資源の輸入を減らし始めた。米国は欧州などに天然ガスの輸出を増やそうとしている。それは、西側諸国のエネルギー安全保障体制の安定に加えて、米国経済の成長にプラスに働くだろう。

 また、ウクライナやロシアからの穀物の供給も減少傾向となるだろう。中国では感染の再拡大が深刻だ。世界全体で供給の制約は鮮明化し、エネルギー資源、化成品、農産物などのモノの価格が上昇している。供給制約の解消のために、日米欧、およびアジア新興国などでLNGや化成品、再生可能エネルギー関連のプラント建設は増える可能性が高い。世界経済の構造変化を日揮がどのように成長の実現につなげるかが注目される。

高まるLNG関連事業の成長期待

 日揮にとって、LNG関連のプラント事業は成長を支える収益の柱のひとつに位置付けられる。ただ、2010年代半ばごろから同社の業績は伸び悩んだ。まず、徐々に中国経済の成長率が鈍化した。その状況下、共産党政権は国有企業の経営統合を進め、世界的な価格競争力を持つ企業を増やした。プラント業界では中国五砿集団と中国冶金科工集団の合併が行われ、日揮を取り巻く競争環境は激化したと考えられる。さらに米中の通商摩擦によって、世界のサプライチェーンが混乱した。その上にコロナショックが発生し、日揮の事業環境は不安定化した。

 しかし、ここにきて潮目が徐々に変わりつつあるようだ。ウクライナ危機の発生を一つのきっかけにして、世界各国が天然ガスをはじめとするエネルギー資源の確保を急ぎ始めた。日揮は世界の生産量の30%以上を占めるLNGプラントを設計、建設した実績を持つ。米国と、台湾でのLNG関連施設案件の受注は、同社のプラントや施設の設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)(3つの頭文字をとってEPCと呼ばれる)の力への需要が高まっていることを示唆する。

 当面、世界的にLNGの輸出入、運搬、貯蔵のための施設の建設は増えるだろう。特に、天然ガスの4割をロシアからのパイプライン輸入などに頼ってきたEUにとって、LNG受け入れ体制の強化は喫緊の課題だ。近年、世界的な脱炭素を背景に、米国ではシェールガス産業界のリグの増加ペースが鈍化してきたが、ダラス連銀の調査によると3月に入りテキサス州、ルイジアナ州北部、ニューメキシコ州南部で事業を展開するエネルギー企業の活動状況は急速に回復し始めた。

 そうした環境の変化が日揮の米キャメロンLNG拡張工事の基本設計などの受注につながったと考えられる。米国のLNG業界では現状の生産能力では世界からの需要増加に対応することが難しいとの見方が出始めたようだ。

 また、台湾で日揮がLNG受入基地の建設プロジェクトを受注した背景には、世界的な脱炭素を背景に燃焼時に二酸化炭素の排出量が相対的に少ない天然ガスを用いた火力発電の必要性が一段と高まっていることがある。LNGプラントの分野で日揮のビジネスチャンスは拡大する可能性が高まっている。

温室効果ガス排出量がより少ないエネルギー技術への需要拡大

 やや長めの目線で考えると、世界全体で温室効果ガスの排出量がより少ないエネルギーの利用が増加するだろう。基本的に、そうした環境の変化は日揮にとって追い風になると考えられる。ここでは2つの点から日揮のビジネスチャンス拡大を検討したい。

 まず、再生可能エネルギーの利用だ。欧州では脱炭素に加えてエネルギーの安全保障(市民生活と環境の持続性に配慮しながらエネルギーを安定的に供給する)体制を強化するために、洋上風力などを用いた発電が一段と増えるだろう。日本にとってもエネルギー安全保障体制の強化は急務だ。2018年に日揮は洋上風力発電に参入した。同社がLPGなどの分野で培ったEPCのノウハウを再生可能エネルギーの利技術用と結合することによって、より効率的、かつ持続的な洋上風力発電などの増加が期待される。

 2つ目に、世界的に小型モジュール炉(Small Modular Reactor、SMR)が注目を集めている。原子力の専門家によると、SMRは小型であるため従来の原子炉よりも冷却が容易であり、安全性が高いとの指摘がある。また、部品ごとに設計や生産を行う“モジュラー(組み合せ)型”の発想を用いることによってコストを引き下げ、原子力発電事業の収益実現の可能性を高めることもできるとの見方がある。

 他方で、原子力発電への安全性への不安など慎重論もあるが、世界的にSMRの実用を目指す取り組みは増えている。2021年に米国務省はSMRの支援策を発表した。日揮は原子力発電分野でのEPC能力の強化を目指して米国のSMR開発企業であるNuScale Power(ニュースケール)に出資している。日揮がSMR関連企業との提携を強化することは、脱炭素関連事業の選択肢の増加につながる可能性を秘める。

 このように考えると、化石燃料関連のプラント・ビジネスに加えて、再生可能エネルギーをはじめとする新しいプラントのEPC運営能力を迅速に発揮できるか否かが、中長期的な日揮の事業展開に大きく影響するだろう。

収益機会増加期待と徹底が求められるコスト削減

 別の見方をすれば、日揮の潜在的な事業範囲が一気に拡大し始めたと考えられる。LNG、脱炭素関連以外の分野でも、日揮の収益機会は増える可能性が高い。その一つとして、アンモニアなど基礎化学品の生産設備の建設増加期待がある。ウクライナ危機を一つのきっかけにして、世界全体で食料の価格高騰が鮮明だ。3月、国際連合食糧農業機関(FAO)が公表している食料物価指数は前月比で12.6%、前年同月比で33.6%と大きく上昇した。穀類、肉類、乳製品、植物油、砂糖のいずれもが上昇している。新型コロナウイルスの感染再拡大による中国の化成品プラントや港湾施設の稼働率低下なども世界全体の供給制約を深刻化させ、食料価格を上昇させただろう。

 食料価格の上昇は、各国の安心、安定した市民生活の維持に欠かせない。食料供給の安定のために農作物の増産に取り組む国や企業は増えるだろう。それによって、肥料需要が増える。肥料の生産に用いられるアンモニアなどの生産は増えるだろう。また、アンモニアなどから生産される尿素水はディーゼルエンジンの排気ガスの浄化に用いられる。水素キャリアとしてもアンモニアの利用が期待される。

 日揮は再生可能エネルギー由来のアンモニア製造技術の実用化にも取り組んでいる。世界経済がブロック化に向かう状況下、基礎資材の生産能力を地球環境の持続性に配慮しつつ引き上げることは、各国の経済と社会の安定に無視できないインパクトを与える。

 潜在的な成長機会を確実に手にするために、日揮経営陣は事業戦略を見直し、向かうべき分野を組織内外に明示すべき局面を迎えたと考えられる。そのうえで、国内外の企業との連携を強化し、脱炭素に対応したプラントの設計や、資材の調達体制を強化しなければならない。特に、世界的に物価の上昇圧力が急速に高まるなかでのコスト削減は急務だ。地政学リスクへの対応も含め、同社はプロジェクトのリスクをより厳正に評価して、正味現在価値がより高い案件の獲得に取り組むことも求められる。成長を支えたLNG関連事業で得られた資金を再配分し、経営陣がどのように新しい収益の柱となる事業を育成するかが注目される。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

●真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。

 

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